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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

超久々にコンサートを聴いて(江口 玲&川口成彦 ピアノリサイタル)

2020年06月22日 | pocknのコンサート感想録2020
6月19日(金)江口 玲 & 川口成彦(Pf)
紀尾井ホール

~オール・ショパン・プログラム~

《第1部:川口成彦 ~1843年製プレイエル~》 
♪レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ (夜想曲 嬰ハ短調 遺作)
♪ワルツ 第7番 嬰ハ短調 Op.64-2
♪幻想即興曲 嬰ハ短調 Op.66
♪ノクターン 第10番 変イ長調 Op.32-2
♪バラード 第1番 ト短調 Op.23
♪聖歌「神よ、ポーランドをお守り下さい」変ホ長調 (ショパンによるハーモニゼーション)
♪ラルゴ 変ロ長調 (チェロソナタ ト短調 op.65 第3楽章、コルトー編曲)
♪春 ト短調 Op.74-2 (リスト編曲)

《第2部:江口 玲 ~スタインウエイ(1887年製ローズウッド&1912年製CD75)~》
♪エチュード Op.10-5, Op.10-6
♪ノクターン第2番 変ホ長調 Op.9-2
♪マズルカ  Op.7-1, Op.7-3, Op.41-1
♪ノクターン第17番 ロ長調 Op.62-1
♪バラード 第4番 ヘ短調 Op.52
♪幻想ポロネーズ 変イ長調 Op.61

《江口 玲・川口成彦 連弾 ~プレイエル~》
♪4手のための変奏曲 ニ長調

【アンコール】
♪ 別れのワルツ(川口)
♪ 英雄ポロネーズ(江口)



左からローズウッド、プレイエル(奥)、CD75

ホントにホントに本当に久しぶりのコンサート。ライブでしか真面目に音楽を聴かず足しげくコンサートに通う身にとって、3月25日の上原彩子のリサイタル以来全くコンサートに行けなかった空白の喪失感は辛く、悔しかった。せめて仕方なく、盛んに行われているネット配信を観ようにも、うちのネット環境のせいで時々途切れるのがストレスで結局殆ど観なかった。そんななかで見つけたのがこのリサイタル。紀尾井ホールで6月に予定されていたなかで唯一「生き残って」いた。

ピアノ販売代理店のタカギクラヴィアの主催による同社所蔵のピアノを使ったオールショパンのリサイタルで、スタインウエイにゆかりのこの日にちなんで8年前から行われているという。偶然にも6月19日から演奏会開催の規制が緩和され、今夜のコンサートが奇跡的に実現した。練馬区立美術館で遅れて今月から始まったショパン展を観たばかりで、ショパンへの新たな親しみや興味が湧き、そこで川口さんがショパン国際ピリオド楽器コンクールで2位を獲得したことも知り、長くキャリアを積んでいる江口さんとのリサイタルに「たまたま見つけた」以上に興味を引かれた。

入口では検温と手指の消毒、座席は半分のみ使用可の自由席。この日を待ちわびた人々でそれでも400人で「満席」となったホールのステージに川口さんが登場し、「レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ」が始まった。プレイエルから柔らかく温かい高貴な音色を引き出し、哀しくも優しい歌でホールが満たされたその瞬間からジーンときてしまった。これには特別な感慨も加わっていたに違いない。

初めて聴く川口さんの演奏は無理のない自然体。ルバートも控え目で大きなアゴーギクを付けることなく、作品本来の持ち味を活かしたアプローチ。終始穏やかな表情で、ときに微笑みを浮かべて弾いている様子と、柔らかくチャーミングな演奏がマッチしている。プレイエルのデリケートさを生かし、楽器から匂やかな香りを立ち昇らせている感じ。最終稿を用い即興も交えた幻想即興曲は、聴き慣れたバージョンよりも細やかな語りと微妙な陰影が織り込まれているのが感じられた。

そんな繊細で穏やかな演奏の一方で、バラード第1番ではシビアな緊張感が支配し、緊迫した高貴な美しさで聴き手に迫ってきた。ガンガン響かせたり、ベースラインを強調したりするやり方ではなく、音楽の緊張と弛緩の対比を印象的に聴かせ、奥行きと変化を与えていた。締めの小品3曲はどれも包み込むような温かさがあったが、とりわけ原曲が歌曲の「春」の優しく切なく撫でるような歌が心に深く沁みた。

第2部では江口さんがホロヴィッツゆかりの2台のピアノを使用。最初はローズウッドでノクターンまでを演奏。江口さんの演奏はピアノの特性を生かして骨太でエモーショナル。ディナミークのコントラストを鮮やかに効かせ、刹那的なインスピレーションが次々にひらめき、瞬時に表情を変えて行く。少ない体や腕の動きから鮮烈な煌めきを放つ音はホロヴィッツ的?

作品9の2のノクターンはプログラムノートに「ショパンがしばしば即興を交えて演奏した」と書かれていたが、江口さんは随所に「即興」を取り入れ、キラキラした美しい高音のアドリブパッセージが駆け巡り、サロンのオシャレな雰囲気を出したと思えば、マズルカでは土着的で体の底から沸き上がるようなアグレッシブなエネルギーに心を奪われ、そのあとのノクターンでは切なくも充実した歌を聴かせるなど、それぞれの音楽の特徴を的確に捉え、パッションに溢れた能動的な演奏で聴き手を魅了した。

最後の2曲はCD75を使用。こちらの楽器は更にダイナミックな表現が可能で、演奏も更に劇的になった。楽器の特性を生かす意図もあったのだろうが、僕にとって特に幻想ポロネーズは気合いが入り過ぎ。ローズウッドで弾いてくれたらもっと深く思索的な表現が聴けたかも知れない。

演奏会の締めくくりはプレイエルの前に2人が「密着」しての連弾。遊び心も交えたプリモの川口さんの旋律と、ウキウキしながらもしっかりとしたリズムで支える江口さんとの和気あいあいのデュオ。アンサンブルっていいなと思わせる楽しく和やかなシーン。

この後2人からの挨拶があった。お客さんの前でピアノが弾けないことがどんなに辛く虚しいことかという切実な思いと、演奏会を開催できたことへの主催者、ホール、聴衆への感謝が伝えられた。

アンコールでは川口さんが香り立つ切ない調べを聴かせたあと、江口さんは「初期の哀しいノクターンを予定していましたが、力強く華やかな曲に変更します。」とCD75で英雄ポロネーズをエネルギッシュに演奏して圧倒し、万雷の拍手に禁じ手のブラボーも入った。終演は9時半近く。ぼちぼち再開される演奏会の多くが様子見のハーフサイズなのに対し、いきなり2時間半の充実した内容。コンサートに行けた幸せをひたすら噛みしめ、帰途に着いた。リサイタルを実現してくれた全ての方々に心から感謝したい。

♪ ♪ ♪

これを皮切りに演奏会が順調に再開となれば嬉しいのだが、状況は決してそんな甘いものではない。各ホールでは7月はおろか8月の予定も中止や延期が殆ど。これには感染拡大の不安だけでなく、厳しい入場制限(会場のキャパの半分までと1000人以下の両方を満たす)での採算の問題もあるはず。

コロナで多くのコンサートが中止になる中で3月に行けたオペラシティでの2つのコンサートは、考えうる万全の対策を施して実施されたが、客席でのソーシャルディスタンスの確保は問題にされておらず、シフのリサイタルでは客席は満員だった。検温や手指の消毒義務もなく、けた違いに利用者も多い電車やバス、それどころか病院の待合室だってギッシリ座席が埋まることがある一方、他の対策は徹底しているし聴衆は大人しく座って聴いているだけのクラシックコンサートでどうしてここまで厳しい条件が課せられるのだろうか。コンサートに行くことが、電車に乗ったり、病院に行ったりすることと同様に日常に欠かせないことと感じているのは僕だけではないはず。厳しい条件を早く緩和して欲しいと切に願う。

アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル 2020.3.15 東京オペラシティコンサートホール
新型コロナウイルスによるコンサート中止に思う 2020.3.21
上原彩子 ピアノリサイタル 2020.3.25 東京オペラシティコンサートホール
♪ブログ管理人の作曲♪
第1行進曲「ジャンダルム」
森田利明指揮 ヤマハ吹奏楽団


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