5月8日(木)アンヌ・ケフェレック(Pf)
王子ホール
【曲目】
♪ ショパン/夜想曲 第20番 遺作
♪ ショパン/幻想即興曲 Op.66
♪ ショパン/子守歌 Op.57
♪ ショパン/舟歌 Op.60
♪ リスト/悲しみのゴンドラⅡ
♪ リスト/「伝説」より 水の上を歩くパオラの聖フランチェスコ
♪ ♪ ♪
♪ サティ/グノシェンヌ 第1番
♪ ラヴェル/シャブリエ風に
♪ サティ/ジムノペディ 第1番
♪ プーランク/田園
♪ セヴラック/古いオルゴールが聞こえるとき
♪ ドビュッシー/夢
♪ サティ/グノシェンヌ 第3番
♪ フェルー/のんびりと
♪ アーン/冬
♪ アーン/長椅子の夢見る人
♪ ドビュッシー/月の光
♪ デュポン/日曜日の午後
♪ サティー/ジムノペディ 第3番
♪ ケクラン/漁夫の歌
♪ フローラン・シュミット/グラス
【アンコール】
♪ スカルラッティ/ソナタ
♪ ヘンデル/ケンプ編曲/メヌエット
30年来度々リサイタルを聴いてきたケフェレックだが、今回のようないわゆるアンコールピースをちりばめ、小品ばかりのプログラムというのは初めてではないだろうか。へたをすれば「私が長年大切にしてきた名品を集めました」的な、とりとめのない発表会になってしまいそうなプログラミングとも思えてしまうが、「曲間の拍手はしないでほしい」というケフェレックの意向が伝えられたことで、プログラミングに特別な意図があることは予想できた。そして、これはこれまでのケフェレックのリサイタルの中でも極めつけの充実した、そして一本筋の通った素敵なリサイタルとなった。
前半はショパンとリスト。特にショパンはポピュラーで親しみやすく、アンコールでもよく演奏される曲ばかりが選ばれていたが、ケフェレックは、この後のリストの作品もひとまとめにして、一つの大きなソナタのように捉えて演奏した。最初のノクターンが全体の序奏のように物悲しくも、センチメンタルになり過ぎず、淡々と始まりを告げると、その余韻も終わらぬうちに始まった幻想即興曲が第1楽章として情熱的に訴えてくる。その熱気を和らげるように優しく綴られた子守唄はソナタの第2楽章。そして、舟歌がソナタの要としてじっくりと語り始める。
深く息をして始まったリストの悲しみのゴンドラは第2の緩徐楽章だ。陰鬱な趣に支配された和声で、それまでの色合いにはなかった色が流し込まれ、濁りが生じる。そして最後の「水の上を歩くパオラの聖フランチェスコ」は、悲しみのゴンドラで生まれた空気だけでなく、最初のショパンから続いてきた音楽をすべて受け取って、音を構築して壮大に締めくくる、まさにソナタの最終楽章だ。息を呑む緊迫した熱気に、ケフェレックの気迫が伝わってきて、聴き終わったときの充実感も並々ならぬものがあった。
後半は、フランスの近年の小品を集めた。ドビュッシーの「夢」や「月の光」のような超有名曲も含まれている一方で知らない曲も多かったが、ケフェレックは後半ではソナタというよりも、もっと自由度の高い「組曲」のように綴って行った。それは、お母さんが子供に小さなお話をいろいろと読み聞かせる情景。一つお話を読み終えると、その場の雰囲気で一番ふさわしいお話が次に選ばれ、それが続いて行くうちに、子供は深くて大きな物語の森に入っていく。表情と色彩に溢れ、過度に興奮させることのない穏やかで細やかな語り口でお話が続く。上品な音の佇まいや柔らかな透明感はケフェレックならではの持ち味だ。
この後半の多彩な曲目の中で、常に全体の定旋律のように静かな存在感を示し、全体を穏やかに束ねていたのがサティの4つの作品。サティの音楽は、自らが「家具のように静かに存在するような音楽」と称しているが、ケフェレックはそれぞれの曲を、家具の色合いや質感、家具に施された模様や彫刻などを丁寧に表現するように、静かな情感を込めて表情豊かに演奏し、それまで無機質な印象を持っていたサティの音楽が、静かに語り始めたのを感じた。サティの音楽が、後半のプログラム全体の「顔」として全体を見つめていたことで、後半の「組曲」が前半の「ソナタ」と同様に、大きな存在感と充実感をもたらした。そして、リサイタル全体が大きな充実感で包まれた。
アンヌ・ケフェレック ピアノリサイタル 2012.12.4 王子ホール
王子ホール
【曲目】
♪ ショパン/夜想曲 第20番 遺作
♪ ショパン/幻想即興曲 Op.66
♪ ショパン/子守歌 Op.57
♪ ショパン/舟歌 Op.60
♪ リスト/悲しみのゴンドラⅡ
♪ リスト/「伝説」より 水の上を歩くパオラの聖フランチェスコ
♪ サティ/グノシェンヌ 第1番
♪ ラヴェル/シャブリエ風に
♪ サティ/ジムノペディ 第1番
♪ プーランク/田園
♪ セヴラック/古いオルゴールが聞こえるとき
♪ ドビュッシー/夢
♪ サティ/グノシェンヌ 第3番
♪ フェルー/のんびりと
♪ アーン/冬
♪ アーン/長椅子の夢見る人
♪ ドビュッシー/月の光
♪ デュポン/日曜日の午後
♪ サティー/ジムノペディ 第3番
♪ ケクラン/漁夫の歌
♪ フローラン・シュミット/グラス
【アンコール】
♪ スカルラッティ/ソナタ
♪ ヘンデル/ケンプ編曲/メヌエット
30年来度々リサイタルを聴いてきたケフェレックだが、今回のようないわゆるアンコールピースをちりばめ、小品ばかりのプログラムというのは初めてではないだろうか。へたをすれば「私が長年大切にしてきた名品を集めました」的な、とりとめのない発表会になってしまいそうなプログラミングとも思えてしまうが、「曲間の拍手はしないでほしい」というケフェレックの意向が伝えられたことで、プログラミングに特別な意図があることは予想できた。そして、これはこれまでのケフェレックのリサイタルの中でも極めつけの充実した、そして一本筋の通った素敵なリサイタルとなった。
前半はショパンとリスト。特にショパンはポピュラーで親しみやすく、アンコールでもよく演奏される曲ばかりが選ばれていたが、ケフェレックは、この後のリストの作品もひとまとめにして、一つの大きなソナタのように捉えて演奏した。最初のノクターンが全体の序奏のように物悲しくも、センチメンタルになり過ぎず、淡々と始まりを告げると、その余韻も終わらぬうちに始まった幻想即興曲が第1楽章として情熱的に訴えてくる。その熱気を和らげるように優しく綴られた子守唄はソナタの第2楽章。そして、舟歌がソナタの要としてじっくりと語り始める。
深く息をして始まったリストの悲しみのゴンドラは第2の緩徐楽章だ。陰鬱な趣に支配された和声で、それまでの色合いにはなかった色が流し込まれ、濁りが生じる。そして最後の「水の上を歩くパオラの聖フランチェスコ」は、悲しみのゴンドラで生まれた空気だけでなく、最初のショパンから続いてきた音楽をすべて受け取って、音を構築して壮大に締めくくる、まさにソナタの最終楽章だ。息を呑む緊迫した熱気に、ケフェレックの気迫が伝わってきて、聴き終わったときの充実感も並々ならぬものがあった。
後半は、フランスの近年の小品を集めた。ドビュッシーの「夢」や「月の光」のような超有名曲も含まれている一方で知らない曲も多かったが、ケフェレックは後半ではソナタというよりも、もっと自由度の高い「組曲」のように綴って行った。それは、お母さんが子供に小さなお話をいろいろと読み聞かせる情景。一つお話を読み終えると、その場の雰囲気で一番ふさわしいお話が次に選ばれ、それが続いて行くうちに、子供は深くて大きな物語の森に入っていく。表情と色彩に溢れ、過度に興奮させることのない穏やかで細やかな語り口でお話が続く。上品な音の佇まいや柔らかな透明感はケフェレックならではの持ち味だ。
この後半の多彩な曲目の中で、常に全体の定旋律のように静かな存在感を示し、全体を穏やかに束ねていたのがサティの4つの作品。サティの音楽は、自らが「家具のように静かに存在するような音楽」と称しているが、ケフェレックはそれぞれの曲を、家具の色合いや質感、家具に施された模様や彫刻などを丁寧に表現するように、静かな情感を込めて表情豊かに演奏し、それまで無機質な印象を持っていたサティの音楽が、静かに語り始めたのを感じた。サティの音楽が、後半のプログラム全体の「顔」として全体を見つめていたことで、後半の「組曲」が前半の「ソナタ」と同様に、大きな存在感と充実感をもたらした。そして、リサイタル全体が大きな充実感で包まれた。
アンヌ・ケフェレック ピアノリサイタル 2012.12.4 王子ホール