1月13日(金)ラドミル・エリシュカ指揮 NHK交響楽団
《2012年1月Cプロ》 NHKホール
【曲目】
1. スメタナ/交響詩「ワレンシュタインの陣営」Op.14
2. ヤナーチェク/シンフォニエッタ
3. ドヴォルザーク/交響曲 第6番 ニ長調 Op.60
エリシュカという指揮者は、実を言えば2009年にN響に客演するまで知らなかった。そのときの「わが祖国」をテレビでちょっと観て、東欧の名匠然とした風貌と味のある演奏に、電波を介していながらも「何やらスゴイ」と思ったことと、そのときの演奏会が、2009年の「心に残ったN響コンサート」のベストに選ばれたことで、C定期にしか登場しないエリシュカを、一回券を買って聴きに行った。プログラムにはエリシュカならでは!と言えるボヘミア系の曲目が並び、期待が高まる。
NHKホールでやるN響定期を一回券で聴くときは、いつも3階右側の前寄りに座るのだが、ここではオケの編成の大小に関わらず、音が前の方だけで鳴っていてちっともこちらに聞こえてこないときと、3階までビンビン聞こえてくるときがあるが、今夜のエリシュカの指揮で聴くN響の音は、1曲目の最初の音から、音が無理なく3階席まで立ち上ってきて、耳元で語りかけてくるほどに親密に、それにクリアに聞こえてきた。どうして演奏によってこうも聴こえ方が違うのか本当に不思議なのだが、最初にこういう音がすれば、それは演奏会の最後まで変わることはまずない。
その一曲目の「ワレンシュタインの陣営」は、温かな音色で、響きの密度はとても濃く、味わい深い語り口で、能動的に訴えてきた。終盤の行進曲での、絶対に外せない場面でのトランペットもきっちり決め、心踊るワクワクした気分で曲を閉じ、客席はすでにあちこちからブラボーがかかって盛り上がった。
続く「シンフォニエッタ」もとてもいい音が届いてきたが、無難にはこなしていたファンファーレ隊には、エリシュカのアプローチはガンガン攻め立てるものではないにしても、もう一歩の踏み込みと、冴えが欲しかった。
そして迎えた後半のドヴォルザークが、何と言っても今回のエリシュカとN響の共演での白眉となった。柔らかく揺れる低弦の調べに乗って醸し出される弦のメロディの、なんて優しく温かく懐かしい歌!こっちへおいで、と優しく手招きしているような、おおらかで親密な誘いは、春の息吹に満ちていた。この導入部の印象は、シンフォニー全体の演奏の印象へと繋がっていった。
明るい光が降り注ぎ、花が咲き誇り、山が笑い、森のなかでは芳香が立ち込める。そこで生き生きと生活する人々。農作業に勤しみ、仕事を終えるとうまい酒を飲んで陽気な歌と踊りに興じる。風光明媚なボヘミアの風景とそこで暮らす人々の情景はきっとこんな感じなんだろうな、という思いに満たされた。それほど、この演奏は歌に溢れ、快活で陽気な気分に満ち、素朴だけれど光輝いていた。そして、そこには人の魂が熱く宿っていた。気負うことなく、伸びやかに自然に歌う調べが、この曲にはとてもよく合うんだな、と感じ、リズムに合わせて体が自然と揺れていた。名匠エリシュカとN響が、期待通りの名演でとても満たされた幸せな時間をプレゼントしてくれた。
《2012年1月Cプロ》 NHKホール
【曲目】
1. スメタナ/交響詩「ワレンシュタインの陣営」Op.14
2. ヤナーチェク/シンフォニエッタ
3. ドヴォルザーク/交響曲 第6番 ニ長調 Op.60
エリシュカという指揮者は、実を言えば2009年にN響に客演するまで知らなかった。そのときの「わが祖国」をテレビでちょっと観て、東欧の名匠然とした風貌と味のある演奏に、電波を介していながらも「何やらスゴイ」と思ったことと、そのときの演奏会が、2009年の「心に残ったN響コンサート」のベストに選ばれたことで、C定期にしか登場しないエリシュカを、一回券を買って聴きに行った。プログラムにはエリシュカならでは!と言えるボヘミア系の曲目が並び、期待が高まる。
NHKホールでやるN響定期を一回券で聴くときは、いつも3階右側の前寄りに座るのだが、ここではオケの編成の大小に関わらず、音が前の方だけで鳴っていてちっともこちらに聞こえてこないときと、3階までビンビン聞こえてくるときがあるが、今夜のエリシュカの指揮で聴くN響の音は、1曲目の最初の音から、音が無理なく3階席まで立ち上ってきて、耳元で語りかけてくるほどに親密に、それにクリアに聞こえてきた。どうして演奏によってこうも聴こえ方が違うのか本当に不思議なのだが、最初にこういう音がすれば、それは演奏会の最後まで変わることはまずない。
その一曲目の「ワレンシュタインの陣営」は、温かな音色で、響きの密度はとても濃く、味わい深い語り口で、能動的に訴えてきた。終盤の行進曲での、絶対に外せない場面でのトランペットもきっちり決め、心踊るワクワクした気分で曲を閉じ、客席はすでにあちこちからブラボーがかかって盛り上がった。
続く「シンフォニエッタ」もとてもいい音が届いてきたが、無難にはこなしていたファンファーレ隊には、エリシュカのアプローチはガンガン攻め立てるものではないにしても、もう一歩の踏み込みと、冴えが欲しかった。
そして迎えた後半のドヴォルザークが、何と言っても今回のエリシュカとN響の共演での白眉となった。柔らかく揺れる低弦の調べに乗って醸し出される弦のメロディの、なんて優しく温かく懐かしい歌!こっちへおいで、と優しく手招きしているような、おおらかで親密な誘いは、春の息吹に満ちていた。この導入部の印象は、シンフォニー全体の演奏の印象へと繋がっていった。
明るい光が降り注ぎ、花が咲き誇り、山が笑い、森のなかでは芳香が立ち込める。そこで生き生きと生活する人々。農作業に勤しみ、仕事を終えるとうまい酒を飲んで陽気な歌と踊りに興じる。風光明媚なボヘミアの風景とそこで暮らす人々の情景はきっとこんな感じなんだろうな、という思いに満たされた。それほど、この演奏は歌に溢れ、快活で陽気な気分に満ち、素朴だけれど光輝いていた。そして、そこには人の魂が熱く宿っていた。気負うことなく、伸びやかに自然に歌う調べが、この曲にはとてもよく合うんだな、と感じ、リズムに合わせて体が自然と揺れていた。名匠エリシュカとN響が、期待通りの名演でとても満たされた幸せな時間をプレゼントしてくれた。