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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

ブーレーズ指揮 アンサンブル・アンテルコンタンポラン1(ピエール・ブーレーズ・フェスティバル 1995)

2016年01月12日 | pocknのコンサート感想録(アーカイブ)
pocknのコンサート感想録アーカイブス ~ブログ開設以前の心に残った公演~

1995年5月23日(火)
ピエール・ブーレーズ指揮 アンサンブル・アンテルコンタンポラン
~ピエール・ブーレーズ・フェスティバル 1995~
東京ベイN.K.ホール

1.ブーレーズ/二重の影の対話 ☆
2.ブーレーズ/レポン

 コンピューターと電子音響を駆使したブーレーズの作品が演奏されたN.K.ホールは、本来ポップス系のライブハウス。座席を撤去できる広い1階平土間の中央にステージが設けられ、それを取り囲むかたちで客席が並び、更にその客席の外周にピアノ、ハープ、ティンバロン等々の打(鍵)楽器とスピーカーが配置されるという異色のセッティング。今夜の作品はこうした配置を念頭に作曲された。
 「二重の影の対話」は独奏クラリネットとテープから流される録音されたクラリネット演奏との対話。生のクラリネットも時に増幅されたり加工されたりして、電気的な処理が施される。客席のまわりに配置されたスピーカーからはウェーブの効果をはじめ様々な距離感や位置感が生まれる。それがこの「対話」にドラマチックで不思議な効果をもたらす。クラリネットのパッセージはブーレーズらしい繊細で精緻なニュアンスに富んでおり、コンタンポランのクラリネットのソリストは流麗で美しく説得力のある演奏で魅了した。
 続く「レポン」は、コンピューターを駆使した話題作ということで、どんな未知の音が鳴り響くのか大いに期待したのだが、変わった音というよりは加工された音が精密にコントロールされていた。それでも新鮮な音響を体験できたし、何よりもブーレーズの完成度の高い内容の濃い音楽に大いに共感した。



今回の会場での「レポン」演奏のための配置図(ブーレーズ・フェスティバルの総合プログラムより)

 作曲家ブーレーズと言えば、当時の前衛音楽を先導する作品を生み出していたことでも注目されていた。そのブーレーズが組織したIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)では、当時の最先端のテクノロジーを駆使した音楽・音響作りが開発され、これがブーレーズの作品に新たな可能性を開いていった。この日演奏された二つの作品も、そのIRCAMでの成果によるもの。楽器編成だけでなく会場まで特殊な仕様が求められ、ライブを体験すること自体が非常に貴重な機会だった。
 それだけに普段とは異なる期待も抱いて出かけたコンサートで、感想を読み返すと「二重の影の対話」の方はその時の新鮮な驚きを味わった体験を思い出すことができるのだが、より大規模な作品の「レポン」の方はさっぱり思い出せない。
 とりわけその後のコンピューターは驚異的な発展を遂げている。恐らく当時行われていた技術は、今日では取るに足らないものになってしまっているのかも知れない。前衛音楽が生まれる瞬間に立ち合う醍醐味という意味では意義は大きいが、これが人の心に残り、後の世まで演奏され続けるかは、また別次元の話のように思う。こう考えると、この翌日に同じアンサンブル・アンテルコンタンポランのコンサートで聴いた「マルトー・サン・メートル」の普遍的な価値が浮かび上がってくる。
(2016.1.11)

ブーレーズの訃報に接して

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