facciamo la musica! & Studium in Deutschland

足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

東京芸術大学芸術祭  2006年9月8日(金)/9日(土)

2006年09月10日 | pocknのコンサート感想録2006
今年の藝祭では以下の演目を聴いた。

藝術祭3年オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」 ~新奏楽堂~
去年の「フィガロ」は抜粋だったが、今年はまた全曲上演が復活、演目もモーツァルト記念の年にふさわしい「コジ」が選ばれた。3名の女性役はダブルキャストで1幕ずつの出番。なかなか充実した上演で、学生達の努力が伝わってきた。

合計9名のソリスト達はそれぞれによく健闘していたが、中でもドン・アルフォンソ役の藤原直之君は堂に入った演技と味のある表情の効いた歌唱で、役柄をよく出していた。2幕でフィオルディリージを歌った栗林瑛利子さんの豊かな表現力と安定した落ち着きのある歌唱、やはり2幕でドラベッラを歌った渡邊智美さんの魅惑たっぷりの歌も印象深い。グリエルモ役の加来徹君はくっきりとした彫りのある歌で清々しい2枚目ぶりを聴かせた。
他のソリストも含めみんな声も表現もとても良いものを持っているが、隅々まで細やかな表現で淀みなく歌えるようになれば更に楽しみ。
鈴木恵里奈さん指揮の学生オケもなかなか柔軟な音と軽妙なタッチで、各登場人物の心情や様々な場面をよく描いていたと思う。更なる安定感、深いニュアンスや豊かな音色が望まれる。
プロを目指すまだ途上にある学生達の公演だからもちろん望むところもいろいろあるが、幕が進むうちにオペラに気持ちが没入して行き、最後に1幕で歌ったキャストも一緒に歌った終幕ではジーンと熱くなるものを感じた。それは一人一人が精一杯この公演に打ち込み、それぞれにとって最良のものを出したことが一つに合わさり、大きな力となった証だと思う。そして、どの登場人物にも愛情を注いで生きた人物像を描いたモーツァルトのすごさも改めて感ることとなった。


バロック音楽の夕べ ~旧奏楽堂~
バッハ/チェンバロ協奏曲二長調、バストン/リコーダーとヴァイオリンのための協奏曲ハ長調、クープラン/諸国の人々~スペイン人、バッハ/ブランデンブルク協奏曲第5番


重要文化財の旧奏楽堂でコンサートを聴けるというのは嬉しい。ここは過去1、2回しか入ったことがないが、木の響きがとても心地よいし雰囲気が良い。
演奏は古楽器科の学生が中心で、生気溢れる良い演奏を聴かせてくれた。中でもブランデンブルク協奏曲第5番は充実しており、陰影に富み、ウィットがあり、活き活きとした刺激があった。フルートパートはヴォイスフルートという比較的大きなリコーダーで演奏されたが、これを担当した青木明日香さんの柔らかく滑らかで表情のある音色がとても印象に残った。


バッハ・カンタータクラブ  ~新奏楽堂~
カンタータ第62番、昇天祭オラトリオ

いつもは藝祭の取りを務めるカンタータクラブだが、今回はホールの関係で2日目の出番。でも奏楽堂で聴けるのは良い。
カンタータの62番は女声の滑らかなアカペラでコラール旋律が歌われ、そしてオーケストラと合唱による演奏が始まるが、この冒頭部分から引きつけられてしまった。「やっぱりカンタータクラブはいいなぁ!」というのが率直な印象。他の演奏も藝祭での発表目指してみんな一生懸命取り組んで、「さすが芸大!」という演奏を聴かせてくれるのだが、やっぱりカンタータクラブの演奏はその次元の1つ上にある。オーケストラの演奏している姿や表情、合唱の一人一人の表情が本当に生き生きして、心から演奏することに幸せを感じているというのが伝わってくる。そして、出てくる音楽もまさに目で見た印象と一致した生き生きした表情に溢れ、喜び、慈しみ、愛情、恐れ… いろいろな人の気持ちがストレートに伝わってくる。
教会音楽を専ら演奏する彼らのうち、クリスチャンは恐らくごく少数派だとは思うが、みんながそれぞれの信仰心を(キリスト教では許されないのかも知れないが、どんな宗教であれ)演奏に託しているような姿がある。これが長年、メンバーや演奏スタイルが変わろうとも常に変わらず聴くものに温かな感動をもたらしてくれる原点ではないか。そんなことをつくづく感じる演奏だった。

ソリストもみんな素晴らしかったが、昇天オラトリオでアルトを歌った菊池有里子さんの深みのある人間味溢れる歌唱は、すぐにでもプロのステージに立てそう。歌詞の中の大切な言葉の子音がもう少しはっきりと聞こえれば申し分ない。同じ曲でソプラノソロを歌ったクリステン・ウイットマーさんは去年の藝祭でフォーレのレクィエムの清らかなソロで記憶に残っていたが、今回も彼女の持ち味が生きたアリアで健気なほどの敬虔な祈りを感じる美しいアリアを聴かせてくれた。

指揮は去年と同じ渡辺祐介君。本当にバッハの音楽に共感し、譜面を良く読み、そこからいろいろなものを汲み取って、感じ取って、それを的確に指揮で表現しているという指揮ぶりには頼もしささえ感じる。しばらく藝祭以外ではカンタータクラブを聴いていないが、今度の定期演奏会には是非行きたい。


声楽科1年による合唱  ~新奏楽堂~
高嶋みどり/白鳥、ヴィヴァルディ/グローリア ニ長調

今年の声楽科1年の合唱は現代日本のアカペラ合唱作品と器楽科の応援を得たヴィヴァルディという意欲的な演目。マドリガル風の高嶋みどりの曲ではハーモニーの美しさがとても印象的。滑らかな歌いまわしも良い。でもとてもニュアンスに富んだハーモニーが出てくるこの曲ではちょっとでも音程がズレると気になってしまい、難しいんだな、と感じるところもあった。ヴィヴァルディはカンタータクラブのすぐ後に聴いたせいか、消化不足を感じる。3人のソロはとても良かった。

藝祭でのホール事情!!
今年は工事のために第6ホールが使えないために、特例で新奏楽堂を大幅に開放したそうだが、それなのにやはり日曜日は使わせてもらえないらしく、日曜日の演目は非常に小規模な内容になってしまっていた。学生の貴重な発表の機会が大きく制限されてしまっている現状は大いに疑問。
去年も書いたが、
年に1度の盛大なお祭り。お客も大勢聴きに来る藝祭では日曜日も奏楽堂を全面開放すべき!大学は「芸大フレンズ」とか言う会員を募集して寄付を集めているようだが、藝祭にも日曜日だからと奏楽堂を使わせない官僚的な姿勢には全く感心しない。土曜日に開館して、お客も余裕をもって学生の発表を鑑賞できるし、音響だってとても良い、ということを改めて認識した今回を契機に、来年からは全面開放を切に希望する。そうした姿勢が寄付金の額にも影響すると思いますよ。

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