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新作歌曲の会 第21回演奏会

2021年07月28日 |  pocknのコンサート感想録2021
7月24日(土)新作歌曲の会 第21回演奏会
東京文化会館小ホール


【曲目】
1.清水 篤/ソプラノとピアノのための四季抄(詩:立原道造)
 夏の弔ひ/やがて秋・・・/初冬/春が来たなら
S:増田のり子/Pf:清水 篤
2.大畑 眞/「殺しうた」「言葉の死」― 長田弘《言葉殺人事件》の詩による—
Bar:鎌田直純/Pf:畑 めぐみ
3.布施美子/ちいさな灯に ~新美南吉の詩による歌曲~
 1.母さんの歌 2.灯がともる 3.明日
MS:紙谷弘子/Pf:藤原亜美
4. 野澤啓子/「わけのわからないものとの闘い」(詩:田中庸介)
Bar:石崎秀和/Pf:野澤啓子

♪ ♪ ♪

5.高嶋みどり/小督~歌絵巻
MS:小泉詠子/T:下村将太/Pf:藤原亜美
6.高島 豊/「人生は森のなかの一日」(詩:長田弘)
S:森 朱美/Pf:畑 めぐみ
7.西田直嗣/滝口雅子の詩による「六つの愛の歌」~
Ⅱ.炎 Ⅲ.レディ・キアラ Ⅵ.問いかけの一序詩(詩:滝口雅子)
S:佐藤貴子/Pf:小田直弥
8.和泉耕二/『賢治のうた2』1.おい けとばすな 2.風がおもてで呼んでゐる 3.雲の信号(詩:宮澤賢治)
T:横山和彦/Pf:和泉真弓

作曲家と声楽家が協働で新しい歌を世に紹介している「新作歌曲の会」が、一年の延期の後、無事に第21回演奏会を開催することができ、様々な個性をもつ8つの新しい歌が、座席制限はあったもののほぼ満席のホールに響き渡った。演奏順に感想を述べたい(拙作の感想は最後)。

清水篤さんの作品は、詩と音楽が無理なくリンクして、それぞれの情景と心象を自然に描き出していた。「夏の弔ひ」からは、瑞々しく弾ける感情が迸り、「やがて秋」からはしっとりした抒情と香り立つ色彩が醸し出された。静寂に包まれた「初冬」は、詩の寂寥感を募らせ、最後の「春が来たなら」では、温かく和やかな調べが心をやさしく解きほぐしてくれた。増田さんの歌は言葉がくっきりと映え、詩の核心を鋭く深く突き、柔軟な表現で極めて完成度が高い。清水さんのピアノは明晰で躍動感があり、豊かな詩情を伝えていた。

大畑眞さんは、長田弘のちょっとドキッとするタイトルの詩を選んだ。この詩は、言葉を生んだ人間が言葉を殺してしまう不条理を詠ったのだろうか。完全に理解することは出来ないが、不気味さも具わる詩が、「コンピュータによる解析とアルゴリズムにより再構成した」という音楽によって、ひたひたと近づく言葉の死を静かに表現した。畑さんの淡々と音を置いていくピアノからは、じっと佇み物言わぬ暗闇を感じた。歌も抑揚を抑えて叙事的だが、鎌田さんの歌には人間味とハートがあり、それが詩人の「言葉」への思いをより色濃く浮かび上がらせていた。

布施美子さんの歌曲からは、新美南吉の詩に描かれた心温まる世界が、ふるさとを懐かしく回想するような切なさを伴って、音の風景として喚起された。藤原さんのピアノが、その情景を繊細なタッチで、時に冴えた感覚で生き生きと描写して、紙谷さんの歌は、長い息で伸びやかでまっすぐに、言葉を見据えて優しく全体を包みつつ、心から湧き上がってくるものを大きく深く表現していた。温もりが残る歌と演奏だった。

野澤さんの昨今の新作歌曲に登場が続いている田中庸介さんの今回の詩は、絵画とか写真の公募展で出会うような象徴的で不思議な作品を眺めるよう。それが野澤さんの作曲によって静かに命を宿し、やがて大きな流れとなって迫って来る感覚。「ああ外に出て全世界の人たちと・・・」のくだりの切望とドラマがとりわけグッと胸に迫ってきた。ピアノパートに現れた古い記憶を呼び覚ますような旋律にもハッとした。石崎さんの歌は全体を俯瞰するように言葉と音楽を大きく捉え、朗々と、そして泰然と歌い進み、最後は達観の境地へ至ったようにも感じられた。

♪ ♪ ♪

高嶋みどりさんの「小督」は、平安時代末期に高倉帝の寵愛を受けるも、密かに嵯峨に身を隠す小督と、高倉帝の勅を受けて連れ戻そうとする仲国との対話を、衣装、小道具、照明、演技も交えて描いたセミオペラ形式の作品。帝の思いを一途に伝える仲国役の下村さんの歌は、帝が乗り移ったようにひたむきでリアル。小督役の小泉さんは、能面の下で狂おしいほどに沸き立つ哀惜の情を気高く妖艶な歌で表現し、孤高の美しさを放った。2人の雅な歌い交わしを、藤原さんの清澄なピアノが月明りのように照らし、薪能の舞台に立ち合っているような幽玄の世界を味わった。

西田直嗣さんの「六つの愛の歌」からの3曲は、どれも豊かな色彩や香りが漂うおしゃれなテイストの曲で、「レディ・キアラ」などミュージカルを思わせるドラマや華やかさも感じた。佐藤さんは澄んだ美しい声で、細やかな表情から大胆な表現まで、淀みなく柔軟に詩の情景をくっきりと描いて行った。小田さんのピアノは繊細な感性で歌にピッタリと寄り添い、一緒に呼吸して一緒に歌い、その余韻が穏やかにたなびく。2人がこの作品を大切にしている様子がうかがえたことにも好感を覚えた。

演奏会の取りは和泉耕二さんの『賢治のうた2』。賢治の生まれ育った地方の方言のイントネーションを歌に採り入れたという作品は、「おい、けとばすな」という呼びかけで始まる。横山さんによる呼びかけ、それに続く歌唱が実に自然で、聴き手の心をウキウキさせた。横山さんの日本語は自然で美しく、方言の親密さやおかしみを無理なく伝える。旋律がそれを生かすように書かれているのだろうが、そんな音楽的な面白さと演奏者の自然な息遣いが共鳴して、楽しくて時におどけた世界が現出した。
和泉真弓さんのピアノは、あちこち吹きまわる風を見事に描写した「疾中」をはじめ、音楽に命を吹き込んた。「雲の信号」での、遠くを見つめる純粋な詩情が余韻を残した。今回の作品は、よりシンプルに音楽が純度を増して浄化している印象を受けた。ひとつひとつのフレーズが心にジーンと残る素敵な出会いとなった。

最後は拙作について…
今回テキストとして選んだのは、森を人生に例えた長田弘の詩。幼い頃から森に特別な親しみを感じている僕は、森と命が詠われたこの詩に共感し、詩が持つやさしさ、悲しみの先にある強さや人の温もりを大切にして作曲した。演奏してくださった森さんと畑さんは、本当に真摯に、そして時間をかけて拙作に取り組んでくださり、その成果が本番で開花した。
森さんが歌うことを思い浮かべて作曲を進めたが、暖かく潤いのある声で、この詩のもつ様々な感情を深く穏やかに、ときに熱く表現し、作曲のイメージが見事に体現された。そこには常にやさしさがあり、詩への深い共感がある。ピアノの畑さんは、歌の呼吸や発音と、ピアノとのタイミング、両者のバランスに細かく気を配って歌を照らした。畑さんのピアノには潤いと光があって、森全体がしなやかで柔軟に、大きく呼吸しているように感じた。
毎回、演奏者には無理なお願いもしてしまいながら、それらを完全に自分のものにして本番で最高のパフォーマンスを実現してくださるプロ精神には感謝にたえず、頭が下がるばかり。3人でひとつの音楽を作り上げ、大勢のお客さんの前で披露できる喜びと幸せを噛みしめた。

ご来場くださった皆さまに心から感謝申し上げます。


新作歌曲の会 第20回演奏会 2019.7.25 東京文化会館小ホール

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MS:小泉詠子/Vc:山口徳花/Pf:奥村志緒美

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