オコジョ、チャート・レビュー

洋楽チャートの感想や予想を長々と述べます。速報性はありません。

人口が多いほどチャートは硬直的になるのか?を調査

2023-09-17 | チャート解析

 

そろそろ日本の曲も全米チャートに入ってきていい頃だと思う。

というのも、アメリカのチャートはどんどん色彩豊かになっていっていて、

国もジャンルもいろんなものがヒットするようになっている。

言語の壁とはいうものの、最近は100%ラテン語・韓国語の曲もチャートインしてるし、

日本はグローバル・チャートでの戦績から全然「アニソン」で勝負できると思う。...期待してる。

 


 

人口の多さはチャートの柔軟性・硬直性と関係があるのか?という問いを、けっこう前から考えていました。

ただ、調査するとしたら、人口の異なるいくつかの国のチャートを見て、その「変動量」を計らなければいけません。

この「変動量」の測定がかなり難しく思えて、1年くらい調査を保留していました。

...が、最近、突然簡単な測定方法を思いつきました。

というわけで、今回はちょっと久しぶりに解析系の記事になります。

 

~目次~

1.概要・留意事項(読み飛ばし可)

2.調査結果

3.考察・まとめ

 

1.概要・留意事項

 経験的に、私は人口とチャートの関係に関して「人口が少ないほどチャートは動きやすく、多いほど動きにくい」というイメージを持っています。それは実際どうなのかということが気になったため、2022年の各国のチャートを使って調べてみることにしました。選んだ国はアメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・ペルー・アルゼンチン・オランダ・メキシコ・アイルランド・ドイツ・ニュージーランド・チリの12か国です。もっとやってもよかったのですが、そこまでエネルギーがありませんでした。

 国については、ビルボードがチャートを集計しているという条件のもと、地域・人口の分散に考慮しています。特定の地域に偏っていたり、全部人口が多い・少ない国にはなっていない感じですね。なお、できる限り他の国とヒットの共通性が高い国を選んでいます。その方が条件をそろえやすいからです。また、人口は、PopulationPyramid の2022年の資料を参考にしました。

 

  人口 順位
アメリカ 338,289,857 世界3位
メキシコ 127,504,126 10位
ドイツ 83,369,843 18位
イギリス 67,508,936 20位
アルゼンチン 45,510,318 32位
カナダ 38,454,327 38位
ペルー 34,049,589 43位
オーストラリア 26,177,414 54位
チリ 19,603,733 63位
オランダ 17,564,014 69位
ニュージーランド 5,185,289 121位
アイルランド 5,023,109 123位

オランダからニュージーランドまでの差がすごいが...

 

 変動量の測定方法ですが、「1か月後のTop10の変化数」を1年間で積み上げていくかたちです。ある時点のチャートのTop10と、1か月後のチャートのTop10を比べて変わった数(新しくTop10入りした数 or Top10から消えた数)を数えることで、なんとなく変動量を調べることができ、それを1年間(11回)重ねることで飛び値や季節要因等をならすことができます。ただ、1月はチャートの集計が始まっていない国も多く、2月からの国が一定数あったのと、12月は国によってはクリスマス・フィーバーが起きてやたら変動が多くなってしまうことがあるのとで、今回は10回にしたうえ、なるべく大規模チャート・アクションの週を避けたいとの思いで調査週を調整した結果、最初の1回は2月の第3週から3月の第1週とめちゃくちゃ期間が短くなりました。ただ、条件をそろえることは徹底しており、それ以降は1か月ごとの調査になっているのでご安心ください。

 なお、大規模チャート・アクションに関しては、この年がその回数がひどく多かった年だったこともあり、完全には避けられませんでした。ケンドリック・ラマーのアルバム『ミスター・モラル & ザ・ビッグ・ステッパーズ』がリリースされ、その収録曲がたくさん上位に登場している週が、調査週に入っています。...ただ、ケンドリック・ラマーが世界的なアーティストであるおかげで、この現象は6か国で共通していました。さらに、この現象が起こらなかった国のうち、ラテン圏の4か国ではラマーではなくバッド・バニーのそれが起きており、代替的に条件揃えが成功しています(前述6か国では当週はラマーのみでした)。残り2か国については不公平ですが、目を瞑って補正なしにしました、ご容赦ください。しかしながら、10-11月分でテイラー・スウィフトの『ミッドナイツ』が起こしたアクションによる変動については、大きな影響を受けた国が4か国で限られているので、これは補正します。イギリスのチャートのルールを模倣して、同じアーティストの新曲は、上位3つまで変動を数えることにしました。ちなみに4か国は米、加、豪、新(ニュージーランド)。大規模チャート・アクションの週ではなく、その翌週を選んだのですが、翌週でも全然影響が残っているもので、参りました...。

 

2.調査結果

 上記の方法で各国の変動量の総和を導出し、人口との相関関係を調べるため散布図化しました。以下の通りです。なお、人口は500万から3億とばらつきがありすぎるので、グラフを見やすくするために自然対数をとりました。

 

 

 う~ん...、微妙!!!なんとなく微妙な感じになるんだろうなとは予想していたけど、やっぱり微妙!!私の仮説は人口が多いほどチャートは硬直的になるというものだったので、散布図では点が全体的に右肩下がりになっていればすっきりするのですが、例えば人口が少ないのに変動も少ない国(ニュージーランド:一番左で下の方の点)があったり、逆に人口が多いのに変動が多い国(イギリス:「18」の線に接している、上の方の点)があったりして、その結果微妙な感じになりました。ただ、うっすらと右肩下がりの関係は見てとれます。最小2乗直線(12個の点から最も離れていない直線)を引くと、

 

 

 こんな感じになりました。直線の傾きが急なほど強い相関を意味するので、人口と変動量の相関は割と弱い(相関係数は -0.185 )ですが、負の相関を持っていることは導き出せています。個人的には、ここが一番安心でしたね、思っていた仮説と真逆の結果が出たら、自分の感覚はおかしかったのか...?と少なからずショックを受けるので。ちなみに、地域別に見るとヨーロッパはイギリスだけが飛んでいます。右肩下がりの法則(?)から大いに外れていますね。そして南アフリカの3か国は、もはや法則が成り立っていませんでした。う~ん...難しい!

 

3.考察・まとめ

 以上をふまえて、考察をします。...が、ここまできて、そもそもなぜ私が「人口が多いほどチャートは硬直的」と思ったのかを書いていないことに気づきました。直感でもあるのですが、人口が多いと、いかに情報化社会とはいえ新曲のヒットの情報が比較的大多数に渡りにくいと考えた感じです。各国、チャートを動かす人口が総人口の8割と固定したときに、その8割に新しいヒット曲の情報が伝わるスピードは(先進技術の普及が前提になっていますが)人口の少ない国の方が速い気がします。大衆が最新のヒットを認知するスピードが速いと、やはりチャートはどんどん動いていくということになるでしょう。

 結局、仮説はほんの少し証明されたに過ぎないかたちで終わりましたが、本当は「音楽を好んで聴く国民の割合」という視点が必要かもしれません。人口が多くても音楽を聴く国民の割合が低ければ(今回の調査では)実質人口が少ないということになりますし、そうなれば少ない嗜好者の間で音楽市場が形成されることになってチャートはどんどん動きます。逆も然りです。

 さらに、込み入った話かもしれませんが国民性も一要因としてあるでしょう。新しいものをどんどん受け入れる国民性が強い国はチャートが動きやすく、一方で新たなものに対して保守的な国民性が強い国はチャートが動きにくいと思われます。また、若干触れましたが情報技術の状況も影響するでしょう。このように、チャートの変動量に影響を与える因子は人口だけではないため、今回のような微妙な結果になったのだと思われます。

 まとめると、人口が多いほどチャートは硬直的になるという考えは回帰分析でほんの少し立証されましたが、人口とチャートの変動量に強い相関は見られませんでした。それは、「音楽を好んで聴く国民の割合」が高いか低いかなど、他にも変動量に影響を与える要因があり、それが説明変数(人口)の中にまざっていたからだと思われます。...ただ、個人的にはそれらの影響を除いたものより、(加工していないという意味で)純度100%の除いていないもので調査をしたかったので、すでに満足しました!今回はメインのチャート・レビューとは程遠い内容の記事でしたが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。読んでくださった方、ありがとうございました!

 

参考文献:2022の人口別国 (populationpyramid.net)

 



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