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あの社会人時代の、馬鹿なオレ。子守するほう、の。( 摸摸具和の4 )

雪が降ってきた。

準備でかいた汗が、冷え、

ドカジャンを通して、

骨まで、寒さが、じんじん、響いてくる。



旭川の夜を、実感できずに、甘くみていた。

作業時は、上着を脱ぎ、

汗を拭って、上着を着るべきだったんだ。

基本的なことを全く忘れてしまっていた。




劇的瞬間の決定的な責任の

カメラの1台のスイッチボタンは、

オレが握っている。

 

一点 の「うろ」を、凝視し続けると、

「うろ」が、「うろ」に見えなくなる。

デジャブ(既視感)の反対、ジャメビュ(未視感)、

精神の分裂、統合の失調が、馬鹿なオレを、襲う。

 

まばたきの、瞬間に、

エゾモモンガが、

素早く、もう、すでに、

飛び立ってしまったんじゃないのか。



自分のことが、自分の眼が、

他の作業員が、いるのか、いないのか、

照明に照らされた、無音の、明るい闇の中に、

ゆっくり降る、その白い雪が、

正気を、幻影のなかに、誘い込み、

すべてを、失うように、

まぶたが、眠気とともに、重くなる。



睡魔との闘いの次に、

追い討ちをかけるように、

尿意が、波のように、畳み掛けてくる。



夜行性の野生のエゾモモンガは、

この昼間のような異常な明るい照明を、

当然、警戒をしているのであろう。



さらに、普段にはない、ニンゲンの臭いがしている。

そこに、さらに、ショウベンの臭いの追加は、

致命的だろうと、

このプロジェクトを、

初日で、台無しにする訳にはいかない。



ちっぽけな、自分と、ちっぽけな、息子の、

ちっぽけな、親子の、大袈裟な葛藤だ。



押し寄せる、周期的な波。



いっそ、今晩だけは、お仕舞いにして、

スイッチから手を放し、

現場を離れ、丘をくだる選択を、

何度、繰り返す波の中に、抑え込んだことか。



プロデューサーが、

「今晩は、ここまでッ」といったのは、

午前3時近かった。

尿意も、睡魔も、気も遠くなり、

何もかも、自分すらも、失いそうになっていた。



雪が積もり、

カタチだけの笠地蔵になったオレは、

我にかえり、

失禁を禁じて、丘を下り、

勢いのよい放物線が、重力を抑え込み、

直線的に、白い雪の中に、解放された。

 

 

「フィルムチェンジ!」と、

次のロールに、撮影はつづきます。

 

 

初出 17/10/15 04:10 再掲載 一部改訂

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