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安部公房「箱男」新潮文庫

2024-08-30 20:05:29 | 
 先日映画を見た「箱男」の原作を読んでみた。覗くという行為を日常的に繰り返す男、しかし逆に、他人から覗かれる立場には慣れていない。自分が覗かれるという反対の立場に置かれた場合の精神的混乱が描かれる。とはいえトータルに何だかわかり辛い。軍医殿が出てくるころにはますますよくわからなくなってきた。すべてが曖昧な夢のような妄想のような妙な小説だ。

 女教師のトイレを覗こうとした少年Dのエピソードは独立していてわかりやすい。これは箱男と直接関係はなく、覗き覗かれることをテーマとしたらできあがったようなエピソードだ。こんな複雑な原作を読むと、映画がどれだけ理解し易く作られているかを実感できる。

 登場人物の「中の人」が「これは僕が書いた物語だから、君たちは登場人物にすぎない」とか「あんたたちはぼくの空想の産物だ」とか、「中の人」が著者の立場になるシーンがある。先日読んだ「百年の孤独」も、すべては登場人物メルキアデスの記述だというような表現がされている。堂々巡りみたいな夢落ちみたいな、何かこうカチッとした線が引けない感覚、私はこういう手法はどちらかというと好みではない。ただそれだけで興ざめというわけでもないが。

 虚構と現実の錯綜はいいけれど、その両方をもっと上位の「書いている人・読んでいる人」の目線で語られると、物語のリアルさが薄まる。物語の中の人は置かれた場所で咲きなさいって思う。ちょっと違うかもしれないが、いがみ合って鬼のような眼つきの敵と味方が突然華麗に踊りまくるミュージカルのような。敵が踊り出したら隙だらけだから撃つなら今だぞ!←そんなミュージカルは無い







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