【くつ修理をはじめるまでの話】
私にはずっとやりたいことがあって、
でも生活のために働かなければならず不器用な私はそれだけでいつもいっぱいいっぱいになってしまいます。
夜勤の仕事をしていたのは、昼空いた時間でそのやりたいことができると思ったからですが、夜通し働けば昼間は眠く現実は何も進められないのでした。
昼働こうが夜働こうが、他にどんな不利な条件があろうがやる人は寝る間も惜しんで目標に向かうはずです。
何年経ってもそれができない私にはきっとこれから先もできないのです。
私の夢はたぶん叶わない。
30歳を目前にそう思いました。
しかしこのまま向いてないと思っている仕事を続けるのはつらい。子供の頃から手先だけは器用だからそういう自分の特性を活かせる一生続けられる仕事を見つけたいと思いました。そこから革製品の修理の仕事に行き着くわけです。
もう若くもないし、未知な仕事に飛び込むのは一大決心です(泳げない人が足のつかないプールに飛び込む感じです。比喩ではなくほんとうに私は泳げません)。いままでは向いてない仕事ばかりしてきたけど、今度こそ好きになれる仕事をと思ってドキドキしながら修理店の面接に行きました。
くつを直すことはとても楽しかったのですが、数年後私は自滅してしまい修理の仕事を辞めました。
またしても『いっぱいいっぱい』になってしまいました。
時間を忘れて没頭して楽しいと思える仕事に出会えて天職にしようと思って
人生最大打ち込んで一生懸命やったのにだめだった…私は大きな挫折感と共に、もう二度とくつを直すことはないだろうと思いました。
ところが辞める日が近づいてくるとなぜかボロボロ泣けてきて、涙が止まりませんでした。私は自分が思っていた以上にくつ修理が好きみたいでした。しかし私自身は心身ともにもう限界で私生活がむちゃくちゃになっていたので、あのまま辞めずに続けていたら病んでいたかもしれません。
くつのカカトだけじゃなく自分自身も削ってしまうようではだめなのです。
それで結局私は元いた職場の夜勤に出戻りました。夕方出勤し、夜通し働いて朝帰って寝る生活です。向いてないし肉体的にもきついから転職したのに、戻ったら夜勤のほうが人間らしく暮らせるという‥。
生活が落ち着いて数年経った頃、あんなに辛い思いをしたというのにやっぱりくつが直したくなりました。
私はくつ修理が好きなのです。
いろいろあって2012年の夏頃には
自分ひとりでくつを修理する場所を作ろうと決めて、自宅ガレージを片付けて修理に必要な機械や工具を買おうとしていました。
場所はわかりにくい上に車も入ってきにくい。おそらくこんなところがお店だと言っても、お客さんは来ないだろう。
けれど、お店を持つ資金はないから自分が可能な条件でやる。
誰も来なくても、自分のくつを直すためだけにでも自宅にその環境を作るのだと強く思いました。
夜は仕事なので昼間にずっとそのことを考えていました。夜になると寝ないでそのまま職場に行きました。
理想の作業場を作ることを考えるのは楽しかったです。寝なくても全然平気でした。そんな生活を数ヶ月ほどしていたら体調を崩してしまいしばらく通院する羽目になりました。人間寝ないと免疫が下がって病気になるのです。その後しばらくはちょっと無理をしたら病気がぶり返してしまって大変不自由でした。でも計画を諦めたりはしなかったです。
悔しい出来事が続いて意地になっていたいたこともありますが、
元々抱いていた夢では発動しない
異常なエネルギーが(くつ)修理にはあったようです。
というわけで準備をしつつ
名称も決まったので
ふくろうに関してで何かキャッチフレーズになるようなよい言葉はないだろうかといろいろ調べました。
『梟の宵だくみ』
ということわざを見つけました。
夜行性の梟が「明日から昼間に起きて巣を作ろう」と決心するが、そもそも夜型の梟は朝になったら寝てしまう=実行できない計画を立てること=なまけものの意
なのだそうです。
なんだか自分にぴったりです。
愚かな行動を例えたことわざかもしれませんが、「明日になったら」と思うことは、たとえそれが叶わなくても生きる理由にはなるはず。
「明日になったら巣を作ろう」
アトリエ・アウルのロゴには
英語でこの言葉をいれています。
それは私にとっての希望の言葉でした。