「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

小説「傾国のラヴァーズ」その24・肩すかしな彼

2022-12-23 23:01:00 | 傾国のラヴァーズその21~30
 月曜の朝、普通に出勤するといきなり緊急会議だった。

 彼の警備・警護の内容を変更して欲しいという依頼があったというのだ。

 この上得意の担当責任者である課長が、まず状況を説明してくれた。

 出馬を断り続けている彼だが、俺が彼のそばにいなかった三日間ほどの、矢野会長だけてなく祖父の成田元総理と敵対してきたいくつもの派閥や誰かが色々接触してきて、精神的に参ってしまったらしい。


 矢野会長とは関係なく、地元東京からの出馬を誘う者。

 上から目線で「成田氏との過去の確執は水に流してあげる」ので、成田の孫で新進気鋭のベンチャー企業家という肩書きでアピールして若者代表の議員になればいい、とか。そのための応援はさせてもらう、と。

 また別の他の派閥からは、党のマイナスイメージになるので、どこの党からでも出馬しないでほしいとか…

 どこで聞いたのか、出馬すれば日本の農業の邪魔になるとわからないのかと言われたり…


 その後に、矢野会長から電話がきて、まずは「出馬うんぬんはおいておいて、会社の農業部門は札幌で始めては」とのことだった。

 大規模農業の方が面白いでしょう、と。

 彼が、答えを濁していると、「それは別として」と、厳しい口調で「色々な人が接触してきていると聞こえてきますがどうですか?」
と尋ねてきたというのだ。

「やっぱり、地元札幌で後援会の人数でおまもりしたいんですよ」


 俺は水曜日の朝の件を思い出してショックを隠せなかった気がしたのだが、幸い誰にも気づかれなかったようだ。 


 あの痕をつけた人間は彼の敵だったのか、味方だったのか…
(ハニートラップにでも引っかかっているのか?)

「それで、できれば夜も室内で警備してもらうことはできないかと鈴崎社長の方から相談されたんだ。その後に、矢野会長からも同じように電話がきた」

「一枚岩になったわけではないんですねえ」

係長が困ったように言うと課長も、

「そうなんだよ。でも、さらに大口案件になるからから会社としては受けたいし、最後まで責任は持ちたいし…」

「となれば24時間警護、住み込みって形ですかね。これまでの通勤時間の警備プラス、それ以上の時間を警護…」

「最低でも1ヶ月は様子見してほしいってことで…」

 やってみたいと思ったが、何となく自分からは言い出せない。
 しかし…、

「海原どうだ? 独身者だから助かるんだけどな。年令が近いから、シェアハウスのルームメイトにも見えるし…」

 課長の言葉がありがたかった。
 俺は前向きな若手の顔で、

「そうですね。色んな業務を経験したいですし」

 先輩たち二人も、子供もいる人たちなのでおおいに賛成してくれた。そして、

「あれ? この時間、鈴崎社長は?」

「自宅で、俺たちが迎えに来るのを待ってる」

 それならばなおのこと早く決めなければ。

「じゃあこれから契約に行くから海原もついてこい…」

 と、そんな時、彼の会社の高橋さんから電話が来たのだ。

 自宅にいた彼は、これから急用で出かけて夜遅くなるかもしれないと電話が来たというのだ。

「一人で?」

みんなで声をあげてしまった。がっかりしてしまった。

ーいえ、お相手先が迎えに来てくれるので、一緒に行くってことで…

これから家具の搬入に、代わりに立ち会うんです…

社長が戻ったら連絡する、ということだった。

「何だかだなあ~。緊急じゃなくていいのかよ」

 みんな肩すかしをくらった感じだった。特に月曜担当の先輩ががっかりしていた。
 
 高橋さんからはなかなか連絡が来なかった。 
 その間、課長はメールはもらっていたらしいが…