自分でもお節介なことを言っていると俺は思うのに、彼は無言ではあったが不愉快そうな様子も見せず…でも困っている様子ではあった。
車が動き出すと、助手席の彼はうつむいて、
「…ゆうべ、海原くんが帰った後のこと…海原くんだけの秘密にしてもらうことはできない?」
「えっ?」
信号待ちの時で良かった。
俺は確かにモヤモヤしていたけれど、仕事上、内容による。
まあ俺ひとりにでも打ち明けようとしているだけでもましなのかもしれない。
そして俺は、個人的にも知りたいと思っている。
何かに失望しながら…そしてそれに驚きながら…
「わかりました。教えて下さい」
「ゆうべは…あの後、本当は先輩に呼び出されて飲みに行ったんだ。ちょっと遅くまで引き留められた」
「それで…先輩というのはどういう関係の方ですか?」
「農業関係の偉い人としか言えない」
「そうですか」
とは言っても、秘密というからには何かあるのだろう。
「高橋さんはその人のことやお付き合いのことは知ってるんですか?」
「いや、一切話してない」
そこで俺は嫌なことに考えが至った。
まさか…
俺は言葉を選んで訊いた。
「あの、パワハラで暴力を受けてるとか、ですか?」
本当は、彼が逆らえない立場なのをいいことに、セクハラとか…それ以上のことをされているのでは…俺は真っ青になった。