それでも彼は、
「ゆうべちょっと寝るのが遅くなっただけなんだけどな。あの後、調べものに夢中になっちゃって」
と、出かけようとする。
俺はそれよりも彼の首すじの、多分キスマークと思われる赤い痕の方が気になって、言葉を選んで尋ねた。
「首、どうしました? 虫刺されか何かですか?」
「えっ?」
俺の予想に反して、彼はものすごくうろたえた。
冗談めかして、「その辺は察してよ」くらいに言ってくれると思ったのに。
「そんなに目立つ? ええっ、どうしよう?」
「絆創膏か何かで隠せれば…」
俺にも動揺が移ってしまい、彼と一緒に玄関に上がって洗面所についていってしまった。
「ほんとだ」
鏡で確認すると彼はすぐに絆創膏を二枚貼って痕を隠した。
更にまとめていた髪もほどいてしまった。
「これで目立たないかな?」
目をそらしたまま、彼は訊いてくる。
俺は、
「後から皮膚科に行った方がいいんじゃないですか? 外来生物に刺されたとかかもしれませんよ」
「うん。そうする」
俺はなぜか複雑な気持ちだった。