「病院で聞いてた通り男が生まれちゃって、別の名前を考えるのが面倒で、字だけは男っぽく聖名に変えたそうなんだ。二人目の父親のだから今の苗字も嫌いだし…名前は全部変えたい」
どうせ今の名前はビジネスネームとして残せるし…
彼の横顔は本当に寂しそうだった。
午後からは社長室で、専務の高橋さんと3人でデスクワークだった。高橋さんは社長より15歳も上だが、二人は会社設立前からの同志なので、本当に仲が良いようだった。
自分は、昨日警備会社の先輩が残したセキュリティの資料を検証したり、自分も資料を作った。
退社時間が来て、俺は当然、彼を車で自宅まで送った。
マンションまでの帰り道、助手席の彼は笑顔で、
「初日、疲れたでしょ?」
「ええまあ、緊張しますね」
「明日、営業で外出するんだけど、やっぱりついてきてもらった方がいいよね」
「そうですね」
「高橋さんは新人秘書の体で打ち合わせの部屋にまで入ってもらうべきだっていうんだけど、入ってくれる?」
「はい。大丈夫ですけど…怪しまれませんかね」
「それは大丈夫だから」
本当にいったい彼は誰に狙われているのだろう。ボディーガードの俺は悩む。