俺は彼の様子を見てぼーっとしていたようだ。
彼は俺が遠慮していると思ったらしく、
「食べて食べて、頂き物なんだけど、独り者にはいつも量が多くて」
と言ってくれた。
それで我に返った俺は、北海道の唐揚げ「ザンギ」に箸を伸ばした。
「頂き物って親戚からとかですか?」
不用意な質問だったと後悔した。しかし彼は自然な様子で、
「うーんまあ横浜の矢野さん、さっき話した、俺を育ててくれたおじさんとおばさんへの誕生日のお返し」
「そういうのいいですね」
「うん、でもおじさんは、会長の長男だから、札幌出身なんだけど、札幌に戻れなくて。会長の後援会活動手伝うの嫌だから、それで奥さんの故郷の横浜に家を建てちゃった」
でも故郷が懐かしくて、色々北海道ゆかりのものを送ってくれるんだよね。矢野会長もだけど。
「なんだか悪いこと聞いちゃいましたね」
「いや、そんなことないから気にしないで」
「北海道もね、もう一度行ってみたいんだけどな…僕は北海道は1回しか行ったことがないんだ」
札幌…北海道は僕の祖父の成田貞次の地元だったからね…大人になってからは、複雑な気持ちだよね…
行った時は小学5年生で、会長の親戚で、同じくらいの年齢の子と遊んで楽しかった。
名前は忘れたけど、札幌の街の中の森が深い広い公園で、こっちと植物が違うせいか、なんか、こっちに比べて、ワイルドっていうか外国っぽい、イギリスあたりの小説で読んで想像した感じの森があって、とても楽しかった。
そこまで嬉しそうに話すと、また彼の表情は曇っていた。