佐賀大学病院放射線科アンオフィシャルブログ ~さがの読影室から~

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2010.12.19

2010年12月19日 22時37分37秒 | 抄読会
このところ遊んでる記事ばかりだったので、ちょっと反省。
じつは以前、オンセットから5日ほど経っていると思われる偽腔閉鎖型大動脈解離(あるいはaortic intramural hematoma)症例のCT診断に迷ったことがあり、単純CTでどのくらいの時間が経てば等吸収となるのかが疑問でした。そのうち調べてみよう、と思っていたのですが、2009年のRadiographicsにレビューがあったのでご紹介を。
偽腔閉鎖型の大動脈解離と壁内血腫の議論を十分に理解できているわけではありませんが…
例によって、長いです。

Christine P et al.
Natural History and CT Appearance of Aortic Intramural Hematoma
Radiographics 2009
◎Pathophysiology and Clinical Manifestations
○intramural hematomaはvasa vasorumの破綻により動脈中膜へ出血した状態である。それにより動脈壁の脆弱化が引き起こされる。古典的な解離と区別する点は、内膜の破綻がない点である。
○急性大動脈解離の徴候を呈していた患者の5-20%であり、死亡率は21%(5,7)
 143例のメタアナリシスでは
 Stanford type Aが43%、type Bが57%(7)
 94%が非外傷性で、外傷性の75%は交通外傷である
 男性が61%で年齢の中央値は68歳
◎Advantage of CT for Diagnostic Evaluation
○MDCTの感度と陰性的中率は100%近い。
 単純CTを撮像しないとわずかな壁内血腫がわかりづらくなる(12)
○CT所見
・単純CT:crescentic, eccentric, hyperattenuating region of the aortic wall
・造影CT
・読影のポイント
 大動脈の最大径(*最大短径??)、血腫の最大の厚みおよび、そのレベルにおける内腔の長径、短径
 →壁内血腫の予後予測因子となる(4,6,16,17)
 フラップやintimal tear, PAU所見がないことは壁内血腫の必要条件である
○Features of Subacute and Chronic Intramural Hematomas
●症状発現から1週間で、単純CTにおいて血腫は動脈内の血液と等吸収になる(14)
 血腫の縮小は数カ月で、消失には1年ほどかかるとされる(4,5,14,17)
・しかし、さまざまな合併症が問題となるために、厳重な経過観察が必要である
例)ULPの形成から解離の惹起、嚢状動脈瘤、紡錘状拡張の形成、破裂(6,18)
○Hyperattenuating Crescent in AAA
・巨大なAAAの周囲に見られる高吸収の三日月状リムはimpending ruptureの特異的な徴候である(19,20)病理学的にintramural hematomaと異なるが、既存のAAAに合併して起こることもある。いずれにせよ、この所見が見られる場合は緊急手術の適応となる状態と考えられる。
◎Other Useful Imaging Modalities
・MRI, 経胸壁あるいは経食道超音波、血管造影検査
・MRIにおける経時的な壁内血腫の信号強度の変化(2,3)
 GRE法(white-blood とあるが詳細不明)
 7日未満:T2 signal hyperintensity
 7日以上:intermediate T2 signal intensity
 T1WI SE法(black-blood)
 急性期:等信号…オキシヘモグロビン
 その後高信号化…メトヘモグロビン
*典型的な信号変化を来さない場合は、出血が持続し予後不良の可能性あり(3)

◎Differential Diagnosis
・通常は急性の症状でCTが撮像されるので、無症候性に偶然見つかる大動脈腔の異常とは鑑別可能である。しかし、無症候性のPt.で壁内血腫の所見(大動脈壁の肥厚)が見つかった場合には急性の症状を来さない大動脈疾患が鑑別となる。
・大動脈炎:壁肥厚の分布、増強効果の有無が有用 後腹膜の線維化所見、傍大動脈リンパ節腫大
・粥腫:壁内血腫と比較して、内腔面が不整である 動脈硬化性変化は複数部位に起こる 石灰化の位置
・大動脈解離、PAUは胸背部痛を来すことがあり鑑別が重要!偽腔開存型は造影CTで容易に鑑別可能 偽腔閉鎖型では濃度が上昇していくmultilayered patternが見られる(5)
長軸方向にらせんを描くのは解離 Penetrating ulcerの多くは腹部大動脈あるいは胸部中部~遠位1/3にある。
◎Natural History and Management
○Stabilization, Regression, and Resolution
・壁内血腫は経時的な所見の変化がない場合もあるし、大動脈径の減少を伴う壁肥厚の改善が見られることもある(14,16))
・早ければ1カ月で完全に消退する場合もあると思われるが、さまざまな経過を取る点や検討が小数例であること、フォロー用のプロトコールが確立されていないことから、安定化、退行、消失する割合がどの程度かを判断するのは難しい。
 血腫の厚みが減少するにもかかわらず、合併症が起こる場合もある。壁内血腫があるために壁が脆弱化し、瘤あるいは古典的な解離へと進展すると考えられている。
 フォロー期間、方法のガイドラインはない。
○Development of Ulcerlike Projection
・初診時に見られないULPが出現した場合には新たに内膜の破綻が起こったことを示唆する。
・PAUとULPの差異を認識することが重要
・ULPは上行~弓部に起こりやすく(greater hydraulic stress)、Sueyoshiらの検討(18)では約1/3の症例で3カ月以内に新たなULPを形成するとされる。この部位の壁内血腫は頻回のフォローが必要と思われる。文献32,33では比較的合併症が少なく、保存的治療で良いとされる…
○Progression to Classic Aortic Dissection
・Type A, B血腫のいずれも顕性の解離へ進行しうるが、解離・破裂はType Aにより多い(4,16)。Type Bは保存的治療がスタンダードだが(5,6,17)Type Aは確立されていない。
●Type A増大の最も強い予後予測因子は
最大径(短径か不明…)で50mm以上だとPPV 83%、NPV 100%と報告されている(4,17)
 心嚢液、胸水、大動脈弁逆流、縦隔血腫は中等度で、相反する結果が報告されている(4,8,16)
・どちらの型の壁内血腫であってもsurveillance imagingが必要。
○Development of Aortic Aneurysms
・壁内血腫の部位には血腫が縮小、消失したとしても紡錘状あるいは嚢状動脈瘤を形成することがある。
・嚢状動脈瘤:仮性瘤であり、ULPから発生する。遠位弓部に発生する場合が大部分で、紡錘状動脈瘤よりも早期から出現する(1W-7M vs 1-26M)
平均1.2cm/年で増大し、破裂の危険性が高い。
・紡錘状動脈瘤:真性瘤であり下行大動脈に多くみられる。ULPは見られない。

オリジナルの論文を読んでいないので、どういった検討をされているのかわかりませんが、最近話題のバイオマーカーと併せて調べ直してみると面白いかもしれませんね。

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