急いで読んだ文献です。
CTを読んでいると、ちょくちょく心筋内に脂肪と思われる低吸収が見られますが、一つの原因として陳旧性梗塞があります。陳旧性心筋梗塞と脂肪化(accumulationをどう訳すのか困ってますが…)についてまとめた初の論文だそうです。
いつも通り長いです。
AJR2009;192:532-537
CT Detection of Subendocardial Fat in Myocardial Infarction
Sung Soo Ahn et al.
○目的
心筋梗塞(MI)患者での心筋内への脂肪沈着(?)の特徴について、さまざまな臨床情報から全体的に解析する。
○背景
MDCTによりCTは心臓の新たな診断手法となった。左室壁の心内膜下に脂肪が見られるということが過去の報告[1,2]でも見られる。MI部位に、単純および造影CTで低吸収として脂肪が見られるのは一般的であるが、その本体は明らかではない。
虚血性心疾患を有する患者の摘出心では68%に左室心筋の瘢痕に脂肪沈着があり、MIの既往がある患者では84%であった[3,4]。脂肪抑制パルスを利用したMRIでも脂肪が検出されると報告されている[5-8]。
○方法
・症例:161例(男性129名、女性32名、平均年齢60.7歳)、過去にMIと診断され、冠動脈CTが施行された症例。期間は2003年2月~2005年4月。
・MDCT:
シーメンス社製16列MDCT。単純+冠動脈CTAを撮像。
・脂肪の解析方法:
断面は、軸位、短軸、vertical long-axisを作成。脂肪は、2名の放射線科医(7,4年の経験)が、単純CTで局所的な低吸収があると同意した場合に確定。病理学的な確診はない。脂肪を同定した後に、CT値、分布、壁の進展度を分析。
ROIの置き方は図1。単純CTでとったのと同様のROIを造影CTでもとる。脂肪の分布は、血管造影所見から左前下行枝LAD、右冠動脈RCA、左回旋枝LCXに対応する領域として決定。
壁内の進展度は、(心尖部は長軸を使用)短軸で最も低吸収の大きかった部位で、壁厚に対する厚みを計算。進展度はGrade1,2,3,4(0-25, 26-50, 51-75, 76-100%)で評価。
検討した臨床情報としては、CKMBやトロポニンTの最大値、ST上昇あるいはQ波の存在、責任病変の狭窄度とCAGでの狭窄病変の数。MI後の経過時間、心エコー所見(局所の壁運動異常5段階評価、EF)、Tc-99m SPECT所見も比較。
・統計解析
2群間での連続データの解析:independent two-sample Student’s t test。
カテゴリ変数は、chi-square test or Fisher’s exact testを使用。
MI後の脂肪沈着の独立した予測因子:Logistic regressionを使用。
P Valueは0.05未満を有意とする。
○結果
・心筋内の脂肪の特徴(図2,3)
MIの既往がある患者のうち40/161例、43の独立した冠動脈支配域で脂肪が同定された。
3名で2領域に脂肪があり、36名で脂肪沈着はMI後の部位に一致していた。4/7領域において、過去のMI部位と一致していなかったが、同部は50%以上の狭窄を呈する動脈に栄養されていた。残りの3領域(2領域はLCX、1領域はLAD)は、MIあるいは虚血の証拠がなかった。
心筋内脂肪の平均CT値は単純CTで-29.6HU、造影後で-11.2HU。正常な心筋では単純で41.6HU、造影後で10.7.5HUであった。増強効果は、脂肪で18.5HU、正常心筋で65.9HUであり、有意差があった。
領域での比較。27例でLAD領域(全LAD領域梗塞の30.3%)、9例でRCA領域(同様に10.5%)、LCX領域には脂肪が見られなかった。→統計学的に部位による有意差あり。
壁内進展度の比較。0-25%:13.9%, 26-50%:69.4%, 51-75%:16.7%, 76-100%:なし
・心筋内に脂肪を有する患者と、有さない患者の比較 表1
36例の脂肪沈着(+)群と、125例の正常群で比較。
MIからCTまでの期間に有意差あり(5.6±2.1 vs 2.4±3.6年)。梗塞後の時間が経つほど、脂肪を有する率が増加していた。
責任動脈の狭窄率は、脂肪含有患者でより軽度であった。また、罹患冠動脈数も少なかった。以前の治療については、ステント後よりCABGを行った患者で多かった。ただし、脂肪含有患者よりステント治療をされている患者の割合は多かった。
性別、年齢、リスクファクター(高血圧、糖尿病、高脂血症)、梗塞時の年齢といった人口統計学的要因に差はなく、ST変化やQ波の有無、心筋逸脱酵素の有無も関連がなかった。
CTから30日以内に超音波が行われた症例は脂肪(+)群17例、脂肪(-)群64例であった。脂肪(+)患者においてakinesisが有意に多かった。EFや、左室拡張末期径には有意差なし。不整脈については、有意差は明らかにされなかった。
SPECTが行われたのは、34例。脂肪(+)は8例で4例が集積欠損であった。脂肪沈着(-)は26例で、30.8%に同様の所見あり。統計学的有意差はなし。
141例のLogistic regression analysisでは、唯一、責任動脈の狭窄度のみが独立した因子であった。
○考察
心筋内の脂肪がどのように沈着(蓄積?)するのかは明らかではないが、動物実験では心筋細胞の脂肪酸代謝障害によるものであるという報告がある[10]。実際、遊離脂肪酸の代謝障害による蓄積は梗塞心筋の周囲で起こっており、過去の報告でも相対的な虚血による脂肪蓄積が指摘されている[11,12]。今回の検討では、責任動脈の狭窄度のみが独立した因子であったが、軽度の冠動脈狭窄からの血流供給は、側副路と同様に梗塞心筋への脂肪沈着に対して働いているかもしれない。
心筋の局所的な壁運動異常は、脂肪(+)患者でより多くみられた。ST上昇も同様に多かったが(78.3% vs 56.2%)、有意差はなかった(p=0.0502で、統計学的な問題?)。
Jacobiら[13]、Zaferら[14]による脂肪沈着(+)の頻度の差は、診断基準の差と、CTプロトコールの差(大部分が心電図非同期CTで、単純あるいは造影のみ施行されているものも含まれる)があるかもしれない。
・Limitation
組織学的な検討がされていない
レトロスペクティブ研究であり、カルテ記載をもとに臨床情報を収集している
治療法がさまざまな患者群である
多くがCABGを受けており、脂肪沈着と治療との関係がわかりにくい
○結論
MIの既往がある症例のうち、22.4%に脂肪沈着がみられた。これらでは心筋梗塞後の経過時間が長く、軽度の冠動脈狭窄、罹患血管数は少数であるという関連があり、重度の壁運動異常を伴っていた。
MI後の予後および、リモデリングの予測因子として、更にMI患者における心筋内の脂肪の臨床的な重要性を検討していくことが必要である。
CTを読んでいると、ちょくちょく心筋内に脂肪と思われる低吸収が見られますが、一つの原因として陳旧性梗塞があります。陳旧性心筋梗塞と脂肪化(accumulationをどう訳すのか困ってますが…)についてまとめた初の論文だそうです。
いつも通り長いです。
AJR2009;192:532-537
CT Detection of Subendocardial Fat in Myocardial Infarction
Sung Soo Ahn et al.
○目的
心筋梗塞(MI)患者での心筋内への脂肪沈着(?)の特徴について、さまざまな臨床情報から全体的に解析する。
○背景
MDCTによりCTは心臓の新たな診断手法となった。左室壁の心内膜下に脂肪が見られるということが過去の報告[1,2]でも見られる。MI部位に、単純および造影CTで低吸収として脂肪が見られるのは一般的であるが、その本体は明らかではない。
虚血性心疾患を有する患者の摘出心では68%に左室心筋の瘢痕に脂肪沈着があり、MIの既往がある患者では84%であった[3,4]。脂肪抑制パルスを利用したMRIでも脂肪が検出されると報告されている[5-8]。
○方法
・症例:161例(男性129名、女性32名、平均年齢60.7歳)、過去にMIと診断され、冠動脈CTが施行された症例。期間は2003年2月~2005年4月。
・MDCT:
シーメンス社製16列MDCT。単純+冠動脈CTAを撮像。
・脂肪の解析方法:
断面は、軸位、短軸、vertical long-axisを作成。脂肪は、2名の放射線科医(7,4年の経験)が、単純CTで局所的な低吸収があると同意した場合に確定。病理学的な確診はない。脂肪を同定した後に、CT値、分布、壁の進展度を分析。
ROIの置き方は図1。単純CTでとったのと同様のROIを造影CTでもとる。脂肪の分布は、血管造影所見から左前下行枝LAD、右冠動脈RCA、左回旋枝LCXに対応する領域として決定。
壁内の進展度は、(心尖部は長軸を使用)短軸で最も低吸収の大きかった部位で、壁厚に対する厚みを計算。進展度はGrade1,2,3,4(0-25, 26-50, 51-75, 76-100%)で評価。
検討した臨床情報としては、CKMBやトロポニンTの最大値、ST上昇あるいはQ波の存在、責任病変の狭窄度とCAGでの狭窄病変の数。MI後の経過時間、心エコー所見(局所の壁運動異常5段階評価、EF)、Tc-99m SPECT所見も比較。
・統計解析
2群間での連続データの解析:independent two-sample Student’s t test。
カテゴリ変数は、chi-square test or Fisher’s exact testを使用。
MI後の脂肪沈着の独立した予測因子:Logistic regressionを使用。
P Valueは0.05未満を有意とする。
○結果
・心筋内の脂肪の特徴(図2,3)
MIの既往がある患者のうち40/161例、43の独立した冠動脈支配域で脂肪が同定された。
3名で2領域に脂肪があり、36名で脂肪沈着はMI後の部位に一致していた。4/7領域において、過去のMI部位と一致していなかったが、同部は50%以上の狭窄を呈する動脈に栄養されていた。残りの3領域(2領域はLCX、1領域はLAD)は、MIあるいは虚血の証拠がなかった。
心筋内脂肪の平均CT値は単純CTで-29.6HU、造影後で-11.2HU。正常な心筋では単純で41.6HU、造影後で10.7.5HUであった。増強効果は、脂肪で18.5HU、正常心筋で65.9HUであり、有意差があった。
領域での比較。27例でLAD領域(全LAD領域梗塞の30.3%)、9例でRCA領域(同様に10.5%)、LCX領域には脂肪が見られなかった。→統計学的に部位による有意差あり。
壁内進展度の比較。0-25%:13.9%, 26-50%:69.4%, 51-75%:16.7%, 76-100%:なし
・心筋内に脂肪を有する患者と、有さない患者の比較 表1
36例の脂肪沈着(+)群と、125例の正常群で比較。
MIからCTまでの期間に有意差あり(5.6±2.1 vs 2.4±3.6年)。梗塞後の時間が経つほど、脂肪を有する率が増加していた。
責任動脈の狭窄率は、脂肪含有患者でより軽度であった。また、罹患冠動脈数も少なかった。以前の治療については、ステント後よりCABGを行った患者で多かった。ただし、脂肪含有患者よりステント治療をされている患者の割合は多かった。
性別、年齢、リスクファクター(高血圧、糖尿病、高脂血症)、梗塞時の年齢といった人口統計学的要因に差はなく、ST変化やQ波の有無、心筋逸脱酵素の有無も関連がなかった。
CTから30日以内に超音波が行われた症例は脂肪(+)群17例、脂肪(-)群64例であった。脂肪(+)患者においてakinesisが有意に多かった。EFや、左室拡張末期径には有意差なし。不整脈については、有意差は明らかにされなかった。
SPECTが行われたのは、34例。脂肪(+)は8例で4例が集積欠損であった。脂肪沈着(-)は26例で、30.8%に同様の所見あり。統計学的有意差はなし。
141例のLogistic regression analysisでは、唯一、責任動脈の狭窄度のみが独立した因子であった。
○考察
心筋内の脂肪がどのように沈着(蓄積?)するのかは明らかではないが、動物実験では心筋細胞の脂肪酸代謝障害によるものであるという報告がある[10]。実際、遊離脂肪酸の代謝障害による蓄積は梗塞心筋の周囲で起こっており、過去の報告でも相対的な虚血による脂肪蓄積が指摘されている[11,12]。今回の検討では、責任動脈の狭窄度のみが独立した因子であったが、軽度の冠動脈狭窄からの血流供給は、側副路と同様に梗塞心筋への脂肪沈着に対して働いているかもしれない。
心筋の局所的な壁運動異常は、脂肪(+)患者でより多くみられた。ST上昇も同様に多かったが(78.3% vs 56.2%)、有意差はなかった(p=0.0502で、統計学的な問題?)。
Jacobiら[13]、Zaferら[14]による脂肪沈着(+)の頻度の差は、診断基準の差と、CTプロトコールの差(大部分が心電図非同期CTで、単純あるいは造影のみ施行されているものも含まれる)があるかもしれない。
・Limitation
組織学的な検討がされていない
レトロスペクティブ研究であり、カルテ記載をもとに臨床情報を収集している
治療法がさまざまな患者群である
多くがCABGを受けており、脂肪沈着と治療との関係がわかりにくい
○結論
MIの既往がある症例のうち、22.4%に脂肪沈着がみられた。これらでは心筋梗塞後の経過時間が長く、軽度の冠動脈狭窄、罹患血管数は少数であるという関連があり、重度の壁運動異常を伴っていた。
MI後の予後および、リモデリングの予測因子として、更にMI患者における心筋内の脂肪の臨床的な重要性を検討していくことが必要である。
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