とはずがたり

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Remdesivirに関する論文まとめ

2020-05-26 11:26:18 | 新型コロナウイルス(治療)
ようやく東京でも緊急事態宣言が解除され、これから少しずつ町も落ち着きを取り戻していくのかな、という感じですが、今後のことを考えれば、有効な治療薬やワクチンの開発、より感度・特異度の高い抗原・抗体検査の開発、感染者や濃厚接触者の早期検出ツールの開発など、喉元をすぎないうちに取り組まないといけないことはたくさん有ります。今のところ正式にCOVID-19治療薬として認められているのは欧米でも日本でもremdesivirのみで、認可の決め手になった臨床試験の結果が先日NEJMに掲載されました。その直前に中国から「Remdesivirの有効性示せず!」という衝撃的な論文が出たタイミングでしたので、臨床試験で有効性が示せたと言うプレスリリースに対しても少し懐疑的になってしまった面はあります。ということで今回の論文(preliminary report)も鵜の目鷹の目で読んでみましたが、結論としてはremdesivirの有効性を示すには十分な内容かと思います。自分の備忘録のためにこれまでの2つの臨床試験に対する私のFBコメントも後につけてあるので、超超長文になっており申し訳ありません。
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2020年5月26日
Beigel JH et al., "Remdesivir for the Treatment of Covid-19 — Preliminary Report." N Engl J Med. 2020 May 22. doi: 10.1056/NEJMoa2007764.


この臨床試験はAdaptive Covid-19 Treatment Trial (ACTT-1)と名付けられましたが、北米が中心で、ヨーロッパや日本も含むアジアからも症例が登録されています。
症例登録は2020年2月21日から4月19日まで行われ、remdesivir投与は初日200 mgのローディング、その後10日目、あるいは退院or死亡するまで100 mg/dayを点滴で投与されています。Primary outcomeは28日間の観察期間における回復までの期間です。回復というのは8つのcategory-ordinal scaleのうちcategory 1, 2, 3に達した段階と定義されています。Category1は退院して活動に制限なし、2は退院しているが活動に制限あり自宅酸素必要、3は入院しているが酸素は不要、というものです。ちなみにcategory 8が死亡です。もともとのprimary outcomeは15日目におけるordinal scaleの差異でしたが、経過が当初予想していたよりも長期化するという臨床報告が蓄積されてきたため、データを見ていない統計学者からの提案で途中から変更しています。その他のoutcomeとしては14日、28日における死亡、有害事象などです。
1063人をランダム化し、541人がremdesivir群(R群)、522人がプラセボ群(P群)に組み入れられました。R群のうち49人、P群の53人が有害事象や同意撤回などのために脱落しています。4月28日の段階ではR群391人、P群340人が試験完遂、回復、あるいは死亡しています。回復しなかったため29日目のfollow up visitができなかったのが、R群の132人、P群の162人です。今回のpreliminary reportではベースライン以降のデータが取れた1059人(R群538人、P群521人)を解析しました。
平均年齢は58.9歳で男性が64.3%です。79.8%が北米、15.3%がヨーロッパ、4.9%がアジアの症例で、53.2%がwhite, 20.6%がblack, 12.6%がAsian、で13.6%がその他あるいは報告なしでした。23.4%がHispanic or Latinoでした。多くの患者は併存症を有しており、高血圧(49.6%)、肥満(37.0%)、2型糖尿病(29.7%)などが主でした。発症からランダム化までの日数の中間値は9日(IQR 6―12日)です。943人(88.7%)はsevere diseaseで、補助換気が必要なcategory 7の患者も272人(25.6%)いました。
Primary outcomeとしてはR群の方が回復までの期間が短く、中間値11日(プラセボは15日)、 回復率比(rate ratio for recovery, RRR)は1.32(95% CI 1.12 to 1.55; p<0.002)でした。Baselineのcategoryとしては最も患者が多かったcategory 5(入院して酸素が必要)のRRR 1.47(95% CI, 1.17 to 1.84)と有意差がありました。Category 4, 6では患者数の関係でR群の方が短い傾向(RRR 1.38, 1.20)にありましたが、有意差なし。Category 7(272人)ではRRR 0.95 (95% CI, 0.64 to 1.42)でした。Baseline ordinal scoreを層別変数として調整してもRRR 1.31(95% CI, 1.12 to 1.54; 1017 patients)とR群が有意に優れていました。
死亡率はR群で低い傾向 (hazard ratio, 0.70; 95% CI, 0.47 to 1.04; 1059 patients)、Kaplan-Meierで計算した14日目の死亡率は7.1% vs 11.9%でした。Baseline ordinal scoreを調整するとHRは0.74(95% CI, 0.50 to 1.10)でした。
重篤な副作用remdesivir群114人(21.1%)、プラセボ群141人(27.0%)
重篤な呼吸器障害はremdesivir群の28人(5.2%)、プラセボ群の42人(8.0%)、Grade 3, 4の有害事象はremdesivirの156人(28.8%)、プラセボの172人(33.0%)に認められました。数が多い有害事象としては貧血、急性腎不全、sGFR or Cr↓、発熱、高血糖、肝酵素↑などでしたが、プラセボと大きな差はありませんでした。
ということで、primary outcomeが途中で変更になった、途中の段階でpreliminary resultsとして公表したというように異例な点もありますが、各地でlock downなどの行動制限があったり、research staffも他の仕事のため十分に確保できなかった、PPEも十分な補給がなかったなど様々な制限にもかかわらずしっかりとポジティブなデータを出して承認にこぎつけたというところは、企業の底力を感じるとともに、本当に素晴らしいなと思いました。
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2020年4月30日のFBより
Wang et al., ”Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial” Lancet. 2020 May 16;395(10236):1569-1578. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31022-9.


Compassionate useで有効だったというNew England Journal of Medicineの論文などもあり、remdesivirにはCOVID-19治療薬としての期待が高まっています。日本でも「5月にも承認か٩(๑>◡<๑)۶ 」などの報道がなされています。
さてこのたびLancet誌に武漢の10施設で行われたCOVID-19に対するremdesivirの医師主導二重盲検RCTの結果が報告されましたが、結果は残念なものでした。
組み入れ基準はPCRでSARS-CoV-2感染が確定している18歳以上の男女で、画像上肺炎があり、room airでSaO2が94%以下、あるいはPaO2/FIO2 ratioが300 mm Hg以下で発症から14日以内の患者です。治療群:プラセボ群=2:1の比で割り付けられ、ランダム化が行われています。治療群ではremdesivir初日200 mg、2―10日目は100 mgをIVしました。Primary outcomeはランダム化後28日以内の臨床症状改善です。Secondary outcomeは7,14,28日後の改善度(著者らが作成したsix-point scale: 死亡が6点、症状寛解が1点など)、28日目の死亡率、補助換気が必要な割合、酸素投与期間、入院期間、院内感染患者の割合、そしてRT-PCRによるウイルス検出患者の割合です。
(結果)237人の患者が組み入れられました(remdesivir群158人、プラセボ群79人)。武漢のアウトブレークがコントロールされた、などの理由から試験は途中で打ち切られ、あらかじめ目標としていた患者数に達しなかったため、statistical powerは80%から58%に減じています。2群の背景にはやや不均衡がありそうですが、まあまあそろっています。受けた他の治療などにも差がありませんでした。
①Primary outcome:最終観察日である4月10日の段階で、両群の臨床的改善に有意な差はありませんでした(中央値 remdesivir群23.0日 [15.0-28.0] vs プラセボ群21.0日 [IQR 13.0-28.0] , HR 1.23 [95% CI 0.87-1.75])。
②臨床的改善までの日数にも両群で差なし(remdesivir群23.0日 vs プラセボ群21.0日, HR1.27)
③発症後10日以内にremdesivirを開始した患者では症状改善までの日数が18.0日(プラセボ群 23.0日)とやや短い(有意差なし)
④28日目までの死亡率にも差なし(remdesivir群22人[14%] vs プラセボ群 10人[13%])。10日以内にremdesivirを使用した患者ではプラセボよりやや死亡率は少ない(11% vs 15%)が、逆に使用が遅かった患者ではremdesivir群のほうが死亡率は高い(14% vs 10%)(いずれも有意差なし)という結果でした。
⑤補助換気が必要になった期間にも差なし(ややremdesivir群で短いが有意差なし)、その他の臨床評価項目にも差なし。
⑥RT-PCRから計算したviral loadの変化にも両群で差なし。28日後にウイルス陰転化した割合にも差なし。
⑦有害事象に両群で差なしでしたが、remdesivir群では有害事象のために治療中止した患者が多かったとしています(12% vs 5%)。
途中で中止になったため十分な症例が集まらなかった、少しremdesivir群で高血圧や心血管障害の患者が多かった、呼吸数が24/minを超える患者の割合が多かったなどの問題はあるとしても、とても「remdesivirイイネ!」というようなデータではありません。基本的にremdesivirは抗ウイルス薬ですから、重症化した際のサイトカインストームなどに効くわけではなく、初期段階での投与が想定されますので、この論文の結果はかなりdiscouragingなものです。
と思っていたら、アメリカからなんと「remdesivirに明確な効果(https://www.afpbb.com/articles/-/3280993)ヤッタネ!」などというプレスリリースが(このタイミングで)出されました。どう考えても上記のLancet論文が出ることにあせったGilead Sciences社(の大株主であるアメリカ)が、まだ解析が不十分な段階でプレスリリースをしたとしか思えません。日本のネットも「remdesivirイイネ!」という報道ばかりです。。案の定株価が上がったりしています。
私も期待していたので効果がないというLancet論文の結果は残念ではありますが、命にかかわることですので、あくまできちんとしたデータの客観的な評価をしなければいけないと考えています。アメリカの治験データが正式に公表された段階でまた紹介したいと思いますが、今回の報道には何か納得できないものを感じてしまいます。コレデイイノカ?
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2020年4月11日のFBより
Grein et al., ”Compassionate Use of Remdesivir for Patients with Severe Covid-19." N Engl J Med. 2020 Apr 10:NEJMoa2007016. doi: 10.1056/NEJMoa2007016.


新型コロナウイルス感染症では肺炎の重症化が生命予後を左右し、人工呼吸器やECMOが必要になった患者では生命予後が悪いということも報告されています。このNEJM論文はCOVID-19の重症肺炎患者に対する抗ウイルス薬(エボラウイルス治療薬)であるremdesivirの有効性を検討したものです。対象となった61例のうち30例(57%)は人工呼吸器を、4例(8%)はECMOを使用していました。28日間のフォローアップで改善が見られたのは84%(95% confidence interval [CI] 70 to 99)で、人工呼吸器装着(hazard ratio [HR] 0.33, 95% CI 0.16 to 0.68)、70歳以上(50歳未満と比較したHR 0.29; 95% CI 0.11 to 0.74)患者では改善が見られにくかったとのことです。また性別、居住地、併存症、remdesivir治療までの罹病期間については有意な差がありませんでした。死亡例は7例(13%)でうち6例が補助換気を受けていました。死亡リスクが高かったのは70歳以上(70歳未満と比較したHR 11.34; 95% CI, 1.36 to 94.17)、ベースラインのクレアチニン高値(HR/mg/dL 1.91; 95% CI, 1.22 to 2.99)でした。有害事象は32例(60%)、重篤な有害事象は12例(23%)に見られ、多臓器障害、敗血症ショック、急性腎障害、低血圧などの重篤な有害事象は補助喚起を受けている患者に多かった。途中で投与を中止した4例(8%)の理由としては腎不全の悪化1例、多臓器障害1例、肝酵素上昇2例で、斑点状丘疹が見られた例もありました。もちろんone armの試験ですし、今後の症例蓄積が必要ですが、この結果はわが国の「ECMOの生存離脱率67%、人工呼吸器の生存離脱率44%(https://gemmed.ghc-j.com/?p=33302)」というデータと比較しても良好なように見えます。

以上



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