新型コロナウイルス感染症に対して、ワクチンの有効性は間違いなさそうですが、1年以上が過ぎようとしているのに治療薬としてはステロイド、レムデシビル、トシリズマブくらいしか有効性が示されておらず、特に初期のウイルス血症後に生じる致死的な全身炎症に対しては中々有効な治療法が出てきません。血中IL-6濃度高値が予後不良因子であることから、抗IL-6受容体抗体であるアクテムラには重症化予防効果が期待されていますが、これまでの臨床試験の結果は劇的な効果とは言いがたいものです。この理由としては、IL-6 pathway以外のシグナル系も重症化に関与していることが考えられます。
この論文ではウイルス感染によって生じる 「感染誘発遺伝子プログラムinfection-induced gene program」に注目し、クロマチン構造の変化の解析から、感染誘発遺伝子発現のトランス活性化に重要な分子としてDNA一本鎖の一過的な切断と再結合を触媒するDNAトポイソメラーゼtopoisomerase 1 (TOP1)を同定しました。TOP1を抑制することでSARS-CoV-2感染に伴うIL-6, CXCL2, CXCL3, CXCL8, EGR1, TNFAIP3などの炎症性サイトカインやケモカインの誘導が抑制されました。またTOP1の阻害薬であるtopotecan (TPT)がin vitroのみならず、in vivoにおいてもウイルス感染によって生じる組織炎症を抑制し、死亡率を改善させることを明らかにしました。Topotecanや他のTOP阻害薬であるイリノテカンはFDAで承認された薬剤であることから、重症なCOVID-19患者への応用が期待されます。
Jessica Sook Yuin Ho et al., TOP1 inhibition therapy protects against SARS-CoV-2-induced lethal inflammation. CELL DOI:https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.03.051
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