とはずがたり

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新型コロナウイルスワクチン投与によるアナフィラキシー反応

2021-01-01 23:01:31 | 新型コロナウイルス(治療)
ワクチンによって天然痘が根絶されたという歴史的な成功例を考えれば、ワクチンは集団レベルでは疾患予防において切り札ともなりうる存在であり、有効なワクチンがあるのにそれを拒否する人々に対して、医療従事者としては「科学リテラシーに欠ける」と批判したい気持ちはよくわかります。しかし最近日本語訳が出版された「ワクチンレース(Meredith Wadman著 羊土社)」を読むと、かつての狂犬病ワクチンのように、かなりな高頻度で致死的な副作用が出た例や、逆にワクチンに疾患予防効果が見られないケースがしばしばあったことも記されています。有効なワクチンであっても100%の有効性を示すことはありませんし、少ないとはいえ重篤な有害事象が出現した本人にとってみれば「ワクチンを投与していなければ」と悔やむのはやむを得ないでしょう。少なくとも無条件に「ワクチン=善」とも言えないことも真実かと思います。もちろんこのような失敗を繰り返さないために、現在ではワクチンの臨床応用に際してはしっかりした臨床試験が義務づけられているわけですが、承認されたワクチンであっても投与後に医学的に説明できないような症状を示すこともあり、日本で子宮頚癌ワクチンの普及を妨げる原因ともなっています。
前置きが長くなりましたが、現在英国や米国でemergency use authorization(EUA)が認められているCOVID-19に対するワクチンは、臨床試験で極めて高い有効性が認められ、また重篤な有害事象が無かったとされています。しかし実際に多数の人々に投与してみると、アナフィラキシー(様)反応が通常のワクチンの10倍程度に見られたことが問題になっています(とはいえ10万人に1人くらいですが)。現在使用されているPfizer-BioNTecおよびModernaのワクチンはいずれもmRNAワクチンですが、mRNAの安定性を増すためにlipid-based nanoparticle carrierおよびポリエチレングリコール(PEG)が使用されており、これら(特に高分子PEG)に対するアレルギー反応がアナフィラキシー反応の原因ではないかと考えられています。幸いいずれの例もエピネフリン投与で回復しているようですが、アナフィラキシー反応を呈した人の多くが過去に食べ物や薬剤に対するアレルギー症状を呈し、エピネフリンの自己注射を行っていたという事実から、何らかのワクチン添加物に対してアナフィラキシー反応の既往を有する人はこれらのワクチン投与を避けるようにとの指示がCDCなどから出されています。またどちらかのワクチン投与によってアナフィラキシー反応を呈した場合はもう一方のワクチン投与も避けるべきとされています。
感染力が高い今回のウイルスに対しては、人口のうちある程度以上の割合(60%以上ともいわれていますが)が免疫を有することがパンデミック終息に必要であるとされています。今後ワクチンの有効性を最大限に引き出すためには、安全性に関する情報を十分に収集、公表に努め、適切な投与を推奨していくことが必要でしょう。これには政策決定者のかじ取りが極めて重要になってきます。海外データですが、2020年11月30日から12月8日までに調査した成人1676人のデータによると、COVID-19ワクチンが承認され、広く利用できるようになった場合、34%はできるだけ早く接種する、39%は待つ、9%は仕事や学校で必要な場合のみ接種する、15%は絶対に接種しない、という結果だったそうです(JAMA. 2020 Dec 29. doi: 10.1001/jama.2020.26553参照)。一方感染症や入院のリスクが高い黒人では、ワクチンの接種意向が低く、すぐに接種するが20%、待つが52%で、このあたりは人種差があるようです(ちなみに上記JAMAのreviewに対して国立病院機構京都医療センターの林先生がコメントを出しておられますが、日本人のCOVID-19ワクチン接種希望は60%だったそうです)。成人へのワクチン義務化は難しいと思いますが、実際は日本でも医療機関によってはインフルエンザワクチンが事実上義務になっているようなところも多いですし、COVID-19ワクチンについてもいずれそのような形になるかもしれません。ワクチン義務化には倫理的な問題もあるので政策立案者の判断が重要ですが、日本では子宮頚癌ワクチンの例をみてもわかるように、義務化はおろか積極的推奨さえもできず、腰砕けになる可能性が高いように思います。
Castells MC, Phillips EJ.  Maintaining Safety with SARS-CoV-2 Vaccines. N Engl J Med. 2020 Dec 30. doi: 10.1056/NEJMra2035343. 


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