新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって「体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation, ECMO)」という超専門的な言葉が市民権を得たようで、コンビニ前にたむろしている高校生からECMOなんていう言葉が出ると、思い切り引いてしまいます(゜ロ゜;)。最近ではあまり話題にのぼりませんが、春先は重症患者が増えて日本のECMOが足りなくなるのでは、などというような話がワイドショーまで賑わせていたのは記憶に新しいところです。
実際に重症な患者さんでECMO装着が必要な方は一定数おられ、海外ではECMO装着患者の死亡率が90%、などという報告もあって皆戦々恐々としていた訳です(Henry et al. J Crit Care 2020; 58: 27–28など)。この論文はExtracorporeal Life Support Organization(ELSO)の国際レジストリーに登録されているECMO装着COVID-19患者の予後を検討したものです。Primary outcomeはECMO開始から90日の時点における院内死亡を解析したものです。
2020年1月16日から5月1日までにELSOレジストリーに登録されたECMO装着COVID-19患者のうち、データがそろっていない患者をのぞいた1035名について解析を行っています。年齢の中央値は49歳(IQR 41-57)、男性が764人(74%)で、70%に何らかの併存症がありました。患者のうち819人(79%)はARDSの状態、301人(29%)は急性腎障害、50人(5%)は急性心不全、22人(2%)は心筋炎を呈しました。合併感染387人(37%)に見られ、黄色ブドウ球菌が最も多いものでした。ECMO開始時(6時間以内)のPaO2:FiO2の中央値は72 mmHgでした。978人(94%)がvenousvenous(VV) ECMOでした。
結果ですが、588人(57%)は生存退院し、うち311人(30%)が自宅あるいはリハビリ施設に退院でした。死亡例は380人(39%)で、ECMO開始から90日の時点での累積在院死亡率は37.4%(95% CI 34·4-40·4)でした。このうちARDSと診断された患者の死亡率は38.0%(95% CI 34·6–41·5)でした。死亡率に有意な地域差はありませんでした(p=0.18)。層別解析では高齢者(16-39歳に対する70歳以上のhazard ratioは3.07)、急性腎障害(HR 1.38)、免疫不全状態(HR 2.04)、ECMO前の心停止(HR 1.92)などが有意なリスク因子でした。一方性別、BMI、人種などは死亡率と有意な相関を示しませんでした。
ということで以前報告があったよりは死亡率は低いようですε-(´∀`*)ホッ。興味があるのは非COVID-19のARDS、急性呼吸不全のECMO装着患者における死亡率と比較してどうか、なのですが、ECMO to Rescue Lung Injury in Severe ARDS(EOLIA)trialではECMOグループで60日死亡率が35%、非ECMO群で46%とのデータが報告されています(Combes et al., N Engl J Med 2018; 378: 1965–75)。このことから考えると、本国際レジストリーからは、COVID-19患者でECMO後の予後が特別に高いというわけではなさそうです。春先の異常に高い死亡率の報告は何だったのでしょうか。。
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