とはずがたり

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老化とreprogramming

2020-03-13 17:36:31 | 発生・再生・老化・組織修復
いわゆる山中4因子(OCT4, KLF4, SOX2, MYC)によって線維芽細胞からiPS細胞が誘導される(reprogramming)ことはよく知られていますが、その効率に加齢ageingが及ぼす影響は明らかになっていません。この論文で著者らは平均としてのreprogramming効率はageingによって変化しないが、reprogramming効率の個体差が増えることを示しました。また①高齢マウスから得られた線維芽細胞ではactivated fibroblastの特徴を示すsecreted factors(cytokine signaling), extracellular matrix, contractility, inflammationおよびwound healingなどに関連した遺伝子発現がみられ、転写因子Ebf2の発現も上昇していた。②老化線維芽細胞にはTHY1+PDGFRα+細胞が豊富であり、この細胞はEbf2および炎症性サイトカインを発現していた。③THY1+PDGFRα+活性化線維芽細胞自体のreprogramming効率は低いが、reprogrammingを促進する因子を産生していた。産生因子の中でIL-6はreprogrammingを促進し、TNFやIL-1はこれを抑制した。④高齢マウスにおける皮膚の創傷治癒過程を解析したところ、創傷治癒速度に個体差(fast healing, slow healing)がみられた。局所に出現する線維芽細胞をsingle cell RNA-seqで解析したところ、A, B, C3つのsubpopulationに分類可能であり、subpopulation Aはfast healingマウス, slow healingマウス双方でみられたが、subpopulation Bはfast healingマウスでみられ、TNFの発現が高かった。一方subpopulation Cはslow healingマウスでみられ、Ebf2の発現が高かった。
以上の結果から著者らはageingに伴う線維芽細胞活性化およびサイトカイン産生のheterogeneityが線維芽細胞のreprogramming能および創傷治癒を制御する可能性があると結論付けていますが、Natureの論文にしては詰めが甘いように思います。Ageingによって線維芽細胞のheterogeneityが増すことは確かだと思いますが、これらの線維芽細胞が産生する因子が実際に創傷治癒過程に関与するかどうかは、中和抗体を用いた実験や線維芽細胞特異的なノックアウトマウスを用いた実験での検証が必要でしょう。また実際の患者でもTNF inhibitorやIL-6 inhibitorを使用している患者でそれほど創傷治癒が異なるとも思えないのですが。。 
Nature. 2019 Oct;574(7779):553-558. doi: 10.1038/s41586-019-1658-5. Epub 2019 Oct 23.
Heterogeneity in old fibroblasts is linked to variability in reprogramming and wound healing.


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