近年関節軟骨研究は大きく進歩しており、その変性のメカニズムなども詳細に明らかになってきています。しかしいざ関節軟骨を治療標的にする薬物を開発しようという段階になると、いかにして薬剤を(特異的に)関節軟骨にデリバリーするかという難しい問題が立ちはだかります。
CDP(cystine-dense peptide)はクモ、ヘビ、サソリなどの毒に含まれるとともに、植物やカビなどでも産生されるミニタンパクです。20-60アミノ酸からなり、3個以上のジスルフィド結合(シスチン)を有するのが特徴です(Correnti et al., Nat Struct Mol Biol. 2018 Mar;25(3):270-278)。この論文の著者らは、人工的に作成した42種類のCDPをスクリーニングし、CDP-11R, 09R, 45Rという3種類のCDPが静脈内投与によって関節軟骨や椎間板に集積することを発見しました。この中でCDP-11Rについて詳細に検討したところ、投与後90分をピークとして、少なくとも96時間までは軟骨に特異的に分布することがわかりました。またヒト関節軟骨を用いたex vivoの実験から、CDP-11Rはプロテオグリカンに集積することが示されました。軟骨特異的な分布には、CDP-11Rのpositive chargeに加えて3次元構造が重要でした。著者らはさらにCDP-11Rとステロイド(トリアムシノロン)をester linkerで結合させ、血中では安定しているが、関節内でステロイドがリリースされるような化合物を作成しました。この化合物をコラーゲン関節炎ラットに投与したところ、用量依存性に関節炎を抑制することが示されました。
この研究は関節軟骨に特異的にデリバリーされるcarrierを同定したという点で画期的であり、今後の軟骨疾患治療を大きく推進させるものだと思います。
Sci Transl Med. 2020 Mar 4;12(533). pii: eaay1041. doi: 10.1126/scitranslmed.aay1041.
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