とはずがたり

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骨代謝の中枢神経制御におけるPGE2の関与

2020-06-05 10:14:42 | 骨代謝・骨粗鬆症
Johns Hopkins UniversityのXu Caoは現在最もactiveに研究成果を報告している骨代謝研究者の一人ですが、今回は中枢神経による骨代謝制御についての詳細な研究成果をJournal of Clinical Investigationに報告しました。彼らはこれまでに感覚神経(sensory nerve)が骨芽細胞の「シグナル」を感知して交感神経系シグナル(sympathetic tone)による骨形成抑制作用をブロックすることで骨恒常性を維持することを報告していますが(Chen H et al., Nat Commun. 2019;10(1):181)、今回の論文ではこの骨芽細胞「シグナル」がprostaglandin E2(PGE2)である可能性を示しました。
感覚神経で神経性成長因子の受容体TrkAを欠損させたマウス(Advillin-Cre; TrkAfl/fl)は生後3カ月くらいで海綿骨の低下が見られますが、このとき骨芽細胞の減少と脂肪細胞の増加が見られます。このような変化は間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell, MSC)から骨形成細胞への分化抑制、脂肪細胞への分化亢進が原因でした。同様の現象は感覚神経でPGE2受容体EP4を欠損させたマウスでも見られました。COX2遺伝子の骨芽細胞特異的KOマウスにおいて同様のphenotypeが見られることからPGE2のソースは骨芽細胞であると考えられました。このような変化はβブロッカーであるpropranololやβ2 adrenoceptor antagonistであるICI118551によって回復したことから、sympathetic toneの亢進が原因であると考えられました。次に彼らはcapsaicinによるsensory denervationモデルを用いてleptin受容体(LepR)陽性のMSCがこれらの変化に関与していることを示しました。一方EP4をLepR陽性細胞や骨芽細胞で欠損させても骨組織に変化は見られなかったことから、PGE2の標的はMSCや骨芽細胞ではなく、感覚神経であることが分かりました。最後に骨折モデルを用いて、感覚神経特異的EP4欠損マウスでは骨折後の骨形成が抑制されており、これは15-PGDHを抑制して間接的にPGE2の蓄積を誘導するSW033291で回復することが示されました。
以上から骨芽細胞の産生するPGE2→感覚神経のEP4を活性化→中枢神経を介して交感神経を抑制→LepR陽性MSCから骨芽細胞分化↑脂肪細胞分化↓というpathwayによって神経による骨恒常性維持機構が働いていることが示されました。神経系によって骨代謝が制御されていることは、例えば複合性局所疼痛症候群(CRPS)で骨萎縮が生じることからも明らかであり、この研究はそのメカニズムを示したという点で重要なものです。
Hu B et al., J Clin Invest. 2020 May 26;131554. doi: 10.1172/JCI131554. Sensory Nerves Regulate Mesenchymal Stromal Cell Lineage Commitment by Tuning Sympathetic Tones 


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