腱板損傷(rotator cuff disease, RCD)は高齢者に多い疾患で、保存療法が奏功しない場合には、しばしば外科的治療が行われます。この論文では実臨床に即した方法で保存療法と外科療法を比較するRCTを行っています。
著者らは3カ月以上の保存療法に抵抗性であったRCD患者に対して腱板の損傷程度を明らかにするために造影MRI (MRI arthrography, MRA)を撮像した後、保存療法群と外科療法群にランダムに振り分けて治療による差を検討しました。
Primary outcomeはランダム化2年後のVAS scoreで調べた疼痛の変化、Constant score(CS)で調べた肩関節機能の変化です。Secondary outcomeとしてはRAND 36-Item Health Surveyで測定した健康関連QOLを調べました。
ランダム化されたのは187人190肩で、95肩が手術群(全層RCD50肩、うち44肩は棘上筋腱単独損傷)、95群が非手術群(全層RCD48肩、うち44肩は棘上筋腱単独損傷)に振り分けられました。保存療法が失敗した(強い痛み、機能不全あり)患者に対しては手術療法が勧められ、12肩(13%)で手術が行われました。また手術群のうち36肩(38%)は手術前に疼痛が改善したため手術をうけませんでした。結果として75%がプロトコール通りの治療をうけました。
(結果)2年後のVAS scoreは非手術群で31(95% CI 26 to 35)、手術群で34(95% CI 30 to 39)減少し、両群に差はありませんでした。Constant scoreは非手術群で17.0、手術群で20.4改善し、これも有意差はありませんでした。部分RCDのsubgroupで検討した場合も疼痛、CSの改善に有意差はありませんでしたが、全層RCD患者ではVAS score改善が非手術群24、手術群37と手術群における改善が有意に良好でした(mean difference: 13, 95% CI 5 to 22; p=0.002)。CSの改善も13.0 vs 20.0と手術群が良好でした(mean difference: 7.0, 95% CI 1.8 to 12.2; p=0.008)。全層RCD subgroupにおいて、RAND-36で調べたQOL scoreは非手術群、手術群で有意差はありませんでしたが、疼痛スコアは手術群で有意に良好でした。
全層のRCDに対する保存療法、外科療法を比較した過去のRCTの結果は必ずしも一定しておらず、両治療法に差がないとするものもいくつかあります。本研究とそれらとの違いは、外傷性の損傷を17%含んでいること、十分な保存療法後に部分損傷、全層損傷両者を対象にしてランダム化したことなどが挙げられていますが、このような点にも手術を対象にしたRCTの難しさがあるように思います。
外科療法の有効性を検証したRCTにおいて、しばしば手術が無効であるという結果が報告されています。実際に無駄な手術をしている場合もひょっとしたらあるのかもしれませんが、外科医としては何らかの効果を実感しているから手術をしてきたはずです。おそらくこのようなケースの多くは、手術が無駄という訳ではなく、「手術が有効なsubgroupを同定できていない」ことが原因ではないかと思います。
もちろん全症例を解析しても有意差がでるような素晴らしい手術も少なくないのかもしれませんが、何らかのsubgroupでは成績に差が見られるが、全体で解析すると有意差がなくなってしまう、というような場合も多いのではないでしょうか。今回の研究では部分損傷か、全層損傷かという比較的わかりやすいところで差が出たわけですが、例えば腱板損傷の部位や関節拘縮の程度などによっても差があるかもしれません。将来的に外科療法が生き残るためには、手術が本当に有効なsubgroupをしっかりと同定すること、すなわち適応となる症例の選別をしっかり行うことが重要になってくるのではないかと思います。
Cederqvist et al., Non-surgical and surgical treatments for rotator cuff disease: a pragmatic randomised clinical trial with 2-year follow-up after initial rehabilitation. Ann Rheum Dis doi: 10.1136/annrheumdis-2020-219099.
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