「サイトカインストーム」という言葉を初めて耳にしたのは、関節リウマチ患者に対する治療薬として開発された抗CD28抗体TGN1412の第1相臨床試験において、抗体を投与された健常被験者が投与直後から全身の痛みや呼吸困難を訴え、1時間後には多臓器不全のためICUに入院し、全員が人工呼吸器をつけられ、一部はその後も重篤な状態が続いたという衝撃的な治験副作用の話を聞いたときだったかもしれません。これはTGN1412がsuper-agonistとして作用し、単独でT細胞を活性化したことによって、T細胞からの無秩序なサイトカイン放出が誘導されたためとされており、この現象はサイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome, CRS)あるいはサイトカインストームと呼ばれました(http://www.immunotox.org/immunotoxletter/non-category/J.21h.02.html)。
最近ではCOVID-19に関連してサイトカインストームが有名になりましたが、一口にサイトカインストームと言ってもその原因も様々であり、上昇するサイトカインの種類をはじめ病態も随分異なります。このreview articleで、著者であるPennsylvania大学のFajgenbaumとJuneは、サイトカインストームを下記の3つの所見を呈する病態と定義しました。
①血中のサイトカインレベルの上昇
②急性の全身炎症症状
③(病原体が存在する場合)病原体に対する正常な生体反応を超えた炎症によって生じる二次的な臓器不全(主として腎、肝、肺)、または(病原体が存在しない場合)サイトカインによって生じる臓器不全
このような定義のもとに、サイトカインストームに関与する細胞、サイトカインについて解説し、サイトカインストームを惹起する病態として医原性のもの(CAR T細胞療法によって生じるものなど)、病原体によって生じるもの、遺伝的要因(家族亭地中海熱や特発性多中心性Castleman病など)あるいは自己免疫疾患にともなって生じるものについて紹介し、その共通点や相違点を述べています。またCOVID-19に伴って生じるサイトカインストームについては、他の原因によるものとの違いについて詳細に説明しています。例えばCOVID-19に伴うサイトカインストームを他の原因のものと比較すると、他で有効な治療法(抗サイトカイン療法など)が通用しないこと、しばしば主たるウイルス感染巣がサイトカインストームの原因にならず、したがってウイルス除去による治療効果が乏しいこと、他の原因によるサイトカインストームではあまり見られないリンパ球減少が見られ、重症化と関連すること、そしてIL-6やフェリチンなどは上昇するものの、他と比較して上昇が軽度であることなどを特徴として挙げています(このためCOVID-19が惹起するのはサイトカインストームではないと言っている人もいます)。
大変わかりやすい内容で、かつサイトカインストームに関する最新の知見を網羅しており、何となくもやもやしていたサイトカインストームについての知識が整理できた気がします。
Fajgenbaum DC and June CH. Cytokine Storm. N Engl J Med. 2020 Dec 3;383(23):2255-2273. doi: 10.1056/NEJMra2026131.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2026131
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2026131
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます