山辺皇女は緊張していたが、燭台の灯りに照らされた皇太子である大津皇子が目の前に現れた時噂通りだと一瞬我を忘れた。
ー 麗しい容姿文武に秀で、自由を好み、多くの人々が彼を慕い、身分など分け隔てなく接するおおらかな人柄 ー
しかしその大津皇子が「今宵、そなたと過ごすが私は指一本も触れぬ故、安心して眠るがよい。」と言うのだ。
「私は皇子さまの妃として…女として…不適格なのでしょうか。」山辺のきめ細かい白い肌に涙がすらりと流れて行った。
「そうではない。そなたと初対面であるのに無理だと言っているだけだ。そなたのことは大切にしていきたい。勘違いしないようにな。どうでもいい女であれば抱くことは簡単だ。これから顔を合わせる中でそなたのことを徐々に知りたい。そして時間に任せる。」大津は一生懸命に伝えた。
「でも時間が経っても私が大津さまにお気に召されないとしたら…」
「それはないであろうよ。さ、今日は疲れたであろう。横になりなさい。宮仕えの者たちも怪しむ。」
「大津さまは。」
大津は寝所に入り背中を見せ「我はこちらだけを見て眠る。窮屈かも知れぬがゆっくり眠ろう。遠く近江から来たのだから。」と言った瞬間山辺皇女は大津の背中の横で背中を向け泣いていた。
「許してくれ。我は融通が気利かぬ男とは思う。でもそれではそなたも我もしあわせではないのかと…」
と言った途端衣擦れの音がして山辺皇女が大津の背中を包んだ。
山辺皇女は「皇太子さまのお気持ち嬉しく存じます。」と言ったあとゆっくりと背を向け肩を震わせ泣いていた。
大津は、姉上のことを思うとおいそれと割り切れない自分の不器用さに少し苛立っていた。
しかし衝動には流されたくはなかった。
ー 麗しい容姿文武に秀で、自由を好み、多くの人々が彼を慕い、身分など分け隔てなく接するおおらかな人柄 ー
しかしその大津皇子が「今宵、そなたと過ごすが私は指一本も触れぬ故、安心して眠るがよい。」と言うのだ。
「私は皇子さまの妃として…女として…不適格なのでしょうか。」山辺のきめ細かい白い肌に涙がすらりと流れて行った。
「そうではない。そなたと初対面であるのに無理だと言っているだけだ。そなたのことは大切にしていきたい。勘違いしないようにな。どうでもいい女であれば抱くことは簡単だ。これから顔を合わせる中でそなたのことを徐々に知りたい。そして時間に任せる。」大津は一生懸命に伝えた。
「でも時間が経っても私が大津さまにお気に召されないとしたら…」
「それはないであろうよ。さ、今日は疲れたであろう。横になりなさい。宮仕えの者たちも怪しむ。」
「大津さまは。」
大津は寝所に入り背中を見せ「我はこちらだけを見て眠る。窮屈かも知れぬがゆっくり眠ろう。遠く近江から来たのだから。」と言った瞬間山辺皇女は大津の背中の横で背中を向け泣いていた。
「許してくれ。我は融通が気利かぬ男とは思う。でもそれではそなたも我もしあわせではないのかと…」
と言った途端衣擦れの音がして山辺皇女が大津の背中を包んだ。
山辺皇女は「皇太子さまのお気持ち嬉しく存じます。」と言ったあとゆっくりと背を向け肩を震わせ泣いていた。
大津は、姉上のことを思うとおいそれと割り切れない自分の不器用さに少し苛立っていた。
しかし衝動には流されたくはなかった。