「私が妃をですか。」大津は急なことで驚いた。
「草壁も妃を迎えてそちにもおかしくないであろう。皇太子として政治的にも、そういうことも必要なわけだ。近江朝廷の臣下たちがいつ不満をとなえ先帝の天智天皇の誰ぞをこの飛鳥浄御原の朝廷に担ぎだしてくるかも知れん。先帝を父に持ち、蘇我赤兄の娘にあたる。言いたいことはわかるな。」と父、天武は大津を試すようにも言った。
「この朝廷は、決して近江朝廷を仇するものでなく統合し、先の朝廷であったものも能力次第で迎える。重臣であれ、血統であれ、律令国家の基礎を築くため天皇家は分け隔てなく重用する。その象徴がこの結婚でございますか。」大津はやや空虚な表情で答えた。
天皇はにんまり笑い「その通りじゃ。」と嬉しそうに言った。
大津の虚ろな表情に「大伯も喜んでくれるといいですね。」と皇后が言った。
「あぁ、そういえば姉から義母上に言伝を。紙がありますので渡します。」と大津は虚ろな表情を隠せないまま渡した。
「朕にはないのか。」と少し拗ねたように天武は大津に聞いた。大津は「天皇、皇后栄え長くしあわせであるように、この国の民のしあわせを伊勢で祈り申し上げますと。天皇が伊勢に参らせ奉られることを楽しみに待っておられます。と申しておられました。」と大津は先日までのしあわせな時間を思い出しながら淡々と答えた。
皇后は「大伯はしっかりお役目を果たしているのですね。」と大津を気遣うように言った。
「そうです。義母上。あのような寂しい場所で、凍るような冷たい川で禊をされたり、この国の安泰を静かに祈っておられます。並みの女人に出来ることではありませぬ。…それなのにこの世の女人のしあわせを放棄された姉上をおいて私が妃を迎えるなどおかしくありませぬか。」と大津は天皇に問うた。
「稀有な姉弟がこの国の安寧を作る。立派なことだとは思わぬか。」と天武が威厳ある声で大津に言った。
姉上の二人の役目を果たして参りましょう、大津のしあわせが我のしあわせとの声が大津の胸に刺さった。
「御意にございます。」大津は伏して答えた。己に心を殺すのだ。姉と離れていても我は二人で役目を授かったと思いと何度も心で唱えていた。
翌朝、高官、重臣らを前に大津の立太子と山辺皇女の入内が宣言された。
夕となり山辺皇女が白絹を纏い寝所にいた。
美しいが大津には抱けなかった。姉上のことを思うと抱けなかった。
「草壁も妃を迎えてそちにもおかしくないであろう。皇太子として政治的にも、そういうことも必要なわけだ。近江朝廷の臣下たちがいつ不満をとなえ先帝の天智天皇の誰ぞをこの飛鳥浄御原の朝廷に担ぎだしてくるかも知れん。先帝を父に持ち、蘇我赤兄の娘にあたる。言いたいことはわかるな。」と父、天武は大津を試すようにも言った。
「この朝廷は、決して近江朝廷を仇するものでなく統合し、先の朝廷であったものも能力次第で迎える。重臣であれ、血統であれ、律令国家の基礎を築くため天皇家は分け隔てなく重用する。その象徴がこの結婚でございますか。」大津はやや空虚な表情で答えた。
天皇はにんまり笑い「その通りじゃ。」と嬉しそうに言った。
大津の虚ろな表情に「大伯も喜んでくれるといいですね。」と皇后が言った。
「あぁ、そういえば姉から義母上に言伝を。紙がありますので渡します。」と大津は虚ろな表情を隠せないまま渡した。
「朕にはないのか。」と少し拗ねたように天武は大津に聞いた。大津は「天皇、皇后栄え長くしあわせであるように、この国の民のしあわせを伊勢で祈り申し上げますと。天皇が伊勢に参らせ奉られることを楽しみに待っておられます。と申しておられました。」と大津は先日までのしあわせな時間を思い出しながら淡々と答えた。
皇后は「大伯はしっかりお役目を果たしているのですね。」と大津を気遣うように言った。
「そうです。義母上。あのような寂しい場所で、凍るような冷たい川で禊をされたり、この国の安泰を静かに祈っておられます。並みの女人に出来ることではありませぬ。…それなのにこの世の女人のしあわせを放棄された姉上をおいて私が妃を迎えるなどおかしくありませぬか。」と大津は天皇に問うた。
「稀有な姉弟がこの国の安寧を作る。立派なことだとは思わぬか。」と天武が威厳ある声で大津に言った。
姉上の二人の役目を果たして参りましょう、大津のしあわせが我のしあわせとの声が大津の胸に刺さった。
「御意にございます。」大津は伏して答えた。己に心を殺すのだ。姉と離れていても我は二人で役目を授かったと思いと何度も心で唱えていた。
翌朝、高官、重臣らを前に大津の立太子と山辺皇女の入内が宣言された。
夕となり山辺皇女が白絹を纏い寝所にいた。
美しいが大津には抱けなかった。姉上のことを思うと抱けなかった。