2012年6月2日 NHK津放送局
公開セミナー 大河ドラマ 『平清盛』
ゲスト:磯智明氏(「平清盛」CP)豊原功補さん(平忠正役)
司 会:NHK津放送局 太田磨理キャスター
会 場:伊勢とぴあ 大ホール
■伊勢平氏故郷の地との縁
(ゲストお二人登壇、客席に挨拶されてから着席)
太田キャスター(以下O):伊勢市というと伊勢平氏の本拠地ですが、豊原さんは伊勢へいらっしゃったことはありますか?
豊原さん(以下T):いや・・・それがないんですよ。初めてです。(感想を求められて)いや・・・まだ来て間がなくて。今日は着いて直接セミナーの会場に来たものですから。せっかくの機会なので、この後少し見て回りたいと思っています。
磯CP(以下Ⅰ):名古屋や伊勢には以前よりご縁があります。NHKで仕事をして二十数年になりますが、初任地が名古屋放送局でした。その時には伊勢に取材しに来ることもありましたし…そのあと名古屋放送局でプロデューサーをしていたこともありました。
昨年大河のことで先ほどご挨拶いただいた鈴木(伊勢)市長とお話をさせていただいた日は、ちょうど台風が来ていて、市長さんもその対応に当たられているような状況で、市役所の玄関でヘルメットと長靴、という出で立ちのままお会いしたことを覚えています。今日は「平氏のふるさと」としての伊勢を訪れるのを楽しみにしていました。
O:今日はいろいろなお話をお聞きしていきたいと思います。さて、先ほどのVTRで流れた「保元の乱」のシーンですが、豊原さん、ご覧になって感想はいかがですか?
T:う~ん、なんだかしみじみしてしまいますね…去年の今頃、ちょうど馬に乗ったりする稽古を始めてて…撮影に入ったのは8月でしたか。一年があっという間ですね。
O:今までにも馬に乗る役はされたことは…?
T:ええ、ありますよ。でもずっとやっていないと身体が忘れますから、撮影に入る前の時期にもう一度身体を慣らして…撮影に入るとそんな時間ないですからね。だから、その前のタイミングで、(大河に出る他の)役者同士で時間を作って交代で乗りに行ってました。
I:実は豊原さん、こういったトークショーに出演されるのは初めてだそうなんです(会場どよめき)。そういう意味ではすごく貴重な機会なんですが、個人的にはちょっと安心しました。ちゃんと大丈夫だって(笑)馬に乗るよりも自分はそっち(トーク)のほうが心配でしたよ。(会場爆笑)
T:ははははは(笑)。
■大河ドラマに出演することの意味
O:豊原さんはこれまでNHKの大河ドラマに出演されたのが『徳川家康』(1983年)の井伊直政役と伺っています。それから29年ぶりに2作目のご出演となる「平清盛」ですね。久しぶりの出演のオファーを受けられた時はいかがでしたか?
T:いや~、うれしかったですよ!何故か大河には縁がなくて、ようやく…って。NHKのドラマで磯さんとはいくつかお仕事を一緒にさせていただいてて、この話をいただいたときに「役者続けててよかった!」と思いました。
O:たくさんのドラマに出演されていらっしゃいますが、大河と他のドラマとは何が違うのでしょうか?
T:まず出演者の皆さんが皆時代の一線で活躍されている、そうそうたる顔ぶれだということですね。キャストの数も多いし…しかも一年を通してやるドラマなんて、ほかにないですから。記憶にも、身体にも「残るもの」が違います。
O:では、今一番「残って」いらっしゃることは?
T:忠正の出演シーンはすでにクランクアップしていますから…あれは1、2か月前だったでしょうか。だから今のVTR見ていても本当にいろんなことが思い出されて…特に平氏一門の皆のこととか。だから、しみじみしちゃいました。(笑)
■脚本やストーリーと役作り
T:まず、どんな話(脚本)になるかが楽しみでしたね!平忠正という人物は、歴史の中ではあまりはっきりとは出てこない人物ですから、ドラマの脚色で「どんな人物か」がより深く描かれていくわけです。まず忠正の「立ち位置」としては「(棟梁)忠盛の弟」…そこから、親子、兄弟関係がこの役のキーになっていく…その中でも中井貴一さん演じる忠盛との「兄と弟のかかわり」という部分に相当重きをおいて、役を演じていきました。
O:演じる上でのこだわりはありましたか?
T:この忠正と忠盛の関係は、まだ父(中村敦夫さん演じる、平正盛)が生きていた若い頃から始まっています。
さっきのVTRにもあった、舞子をかくまう兄に苦言を呈したりするシーンとか。でも忠正という人間は本当に「家族が好き」平家一門を心から愛していて…それゆえの発言や行動がストレートに出てしまう人でもあるんです。感情やこだわりがストレートに見えてしまう、それでいながら兄の出世に涙を流して喜んだりする涙もろい面、酒好きで一門の宴で酒を飲んで酔っ払って踊っていたり、画面の奥で見えないこともあるかもしれませんが、結構人間くさい面を見せているんですよね(笑)。そんな彼の大事にしている「家族観」を伝えたいと思いました。
■何故、平安末期なのか?
O:ここで磯CPにお聞きします。この『平清盛』は大河ドラマの51作品目に当たりますが、なぜこの時代を描こうとしたのでしょうか?
Ⅰ:大河ドラマで扱う時代が「戦国」「幕末」に偏っているので、ここで違うジャンルを取り上げたいという理由がありました。「坂の上の雲」は明治期、朝ドラの「カーネーション」「梅ちゃん先生」は戦後…もっと扱う時代の幅を広げたいというチャレンジでした。
戦国時代から遡ると、時代のヤマとして「源平」があります。ただ、それでも今まで取り上げられてきたのは頼朝、義経の時代ですから、そこ以外…というと更に遡って清盛の時代になりました。それは大河では『新・平家物語』でテーマとして扱った40年前にまで遡るんですね。
貴族から武士の時代へと変化していく、その「時代」が出来上がった中での勝者が源氏だった、と考えると、その武士の時代のおおもとを切り開いたのが平家、清盛であったと考えました。大河ドラマとしてその時代を扱うことは「今までと違ったもの」「今までではわからなかったもの」を取り上げたいという意図もありました。
O:映像に関しては、放映開始から今までも「そこまでやらなくても…」という声がありましたが、そのあたりはどうお考えでしょうか?
Ⅰ:今年はテレビ放送がフルデジタル化されて初めての大河ドラマになります。つまり、次の時代の大河ドラマです。高性能カメラや映画的な撮影手法、色の編集などは『龍馬伝』のころから試行錯誤しつつ、既に取り組み始めていました。デジタル時代における(画面に映る)お芝居とは、美術は、セットは、衣装、メイクは…とNHKにとっても(大河は)技術開発の一環として取り組んでいます。
ご指摘のあった「ホコリっぽさ」ですが、これはドラマの中で「時代の変わり目を描きたい」という意図がありました。最初からキレイだったわけじゃない。武士は文字通り、忠盛・忠正やその父正盛の時代から治安維持という名の汚れ仕事をし、土と血にまみれていたはずで、その「汚さ」をどうくぐり抜けて『平家物語』に見るような栄華を誇るに至ったのか…今撮影が進んでいる時代は清盛が太政大臣になった辺りですが、今までの映像とはもうガラッと変わっていますね。これを見られたら、あの汚さからここまで…というのが伝わってくると思います。
一方で「この時代だからこうあるべきだ」という意見には違和感があります。先程もお話しましたが、『平家物語』の世界はいわば平氏が昇りつめた最高の世界であって、それまでに幾多の戦いを戦って、生き残ってきた者だけが、あの栄華に行きつくわけです。ここまで来るとまた世界観が変わってくると思います。是非、ストーリーのそのあたりまでたどり着いていただければ(=視聴を続けてくれれば)と思います。
O:豊原さんはキレイな世界になる前にクランクアップされてしまったんですね…(笑)。
T:ほんっと、残念!(会場爆笑) 撮影現場もほこりっぽくて苦労しました(笑)。台詞も大きな声で怒鳴ることが多くて、喉も枯れるし…(会場笑)。
でも大河ドラマってもともと1年かけてストーリーを追っていくものでしょう?最初だけ見て評価できるものではないし、まして今では各家庭での視聴環境も昔とは違ってきています。作ってる側から見ると、衣装も、セットも、メイクも、細部まで本当にこだわって作ってますから、画面をじっくりみたくなる、そんなドラマになっていくはず…と思います。実際、自分で放映を見ても面白いと思いますし。
Ⅰ:こういった(忠正のような)先人の苦労の上にあの栄華があるんですね(一同笑)。
■平忠正という役について
O:豊原さん自身がこの平安末期という時代について勉強されたことや、平忠正という歴史上の人物について勉強されたのは、どんなことでしょうか?
T:勉強というか、まずは脚本を読み込むこと…平忠正という人物像を台詞やストーリーを追いながら自分の中に描いていくことでしょうか。このドラマでは主人公(清盛)の出現によって、兄(忠盛)の心の中に軸が定まって、そして平氏のサクセスストーリーになっていく、という流れですが、この清盛の出現こそが忠正の心を揺らすんです。一門のシーンでのやり取りや、兄忠盛、甥清盛との間で交わされるシーンの口うるささ…忠正というキャラクターはそこがキーになっています。まあ、現実に(身近に)いたら口うるさくってイヤだな、とは思いますけど(笑)。
自分の中では、今というより少し前の時代の、おじさんとかおじいちゃん像…しきたりにうるさくって、しつけにも厳しい、そういうのを周囲にいちいち言う人、というイメージで演じていました。たぶん忠正は「古いタイプの人間」なのかも。昔はそんな人、いっぱいいたと思いますが…それが「現代」で映される(テレビの)ドラマの中にいる、そういう姿をイメージしていました。
(ここで第1話から序盤の忠正の印象的な台詞を集めた再現VTRが流れる)
・第1話、舞子を匿う忠盛に反論するシーン
・安芸海賊討伐前夜の清盛に向けた台詞
・海上ロケシーン
T:(見終わって)ね、口うるさいでしょ?(会場爆笑)怒鳴ってばっかりで。もう、いつも喉枯らしてました。こうやって見ると照れくさいけど懐かしいシーンが多いですね。最初の撮影は江刺のロケで、その次が呉の海賊討伐シーンの海上ロケ。あの重い甲冑を着けて、真夏ですからね、暑いんですよ。しかも船のシーンでは本当に海に船を浮かべているんですが、ちゃんと都合よく止まっててくれなくて(笑)。あの大きな船のシーンのロケが終わって、そのあとで平氏のメンバー皆でお好み焼きを食べに行きましたよ!(中井)貴一さん、松山くん、そして梅雀さんと。
O:平氏の皆さんはそこでどんな話をされたんですか?
T:うふふっ(笑ってごまかすように)…まあ、いろいろとプライベートの話とかもね。お芝居もそうだし、そういったオフでもそうだけど、そういう機会を通じて(共演する相手)それぞれの息(=呼吸)を掴むというか。貴一さんは本当に平氏の棟梁みたいで…みんなに気を使って、良い雰囲気を作ってくれていました。だいたい平氏は撮影がみんな一緒で、朝から晩までずーっと一緒に(撮影で)いるので、そこに新しいキャストが増えるとね、一緒にご飯食べようか、とか。家盛役の大東くんが来た時も「よく来たね、よろしく!」って皆で「出前でも取ろうか!」と。
O:お食事に行かれたんですか?
T:いえいえ、撮影の合間の食事で、スタジオまで出前を取るんですよ。
O:ちなみに、豊原さんの好物は…?
T:…チキンライスです(照笑)。 → 会場爆笑!
■キャスティングについて
O:今回のドラマのキャスティングと、その理由についてお聞かせください。
Ⅰ:平忠正というのは難しい役どころでした。まず、主役の松山ケンイチさんがいて、ライバルとなる存在の一方である義朝に玉木宏さん、後白河天皇役に松田翔太さん…このあたりまでは図式としても「わかりやすい」んです。源氏系はキツイ顔の人集めたり…小日向さん以外は(笑)。でも、忠正の役どころの分かりにくさは、主役の敵側に回る存在で、ストーリーの中で憎まれ役をしなければならないということでした。それでも、よくありがちな「最初から仲が悪くて、やっぱり当たり前の展開で敵側に回って戦うことになる」というストーリーにはしたくない、平家一門という家族の話を描きたいという脚本の藤本さんの思いがまずありました。
忠正の存在というのは単純に清盛の敵役とは言い難いものです。さりとて、家族内のベタベタした情でもない。叔父として血の繋がらない清盛に対して特に厳しい態度を示してきた序盤は、特に「見た目、言っている台詞のイメージだけでは分からない」役どころでもあるわけで…私が持っている豊原さんのイメージは、「コメディからシリアスまでこなせる役者さん」ですから、豊原さんの演じる忠正という役に発展の可能性を見たんです。豊原さんを信頼して、脚本や演出がどうなって言っても忠正役を演じ切ってもらえる、という思いがありました。
T:そう言って頂けて光栄です!自分では役者として「もっとこうすれば、ああすれば」ということもありました。それでもこの忠正という役柄は面白くて、厳しいことも言いますが、兄の昇進に涙を流して喜んだり、酒宴で酔っぱらって踊っていたり、そういうちょこちょことしたシーンを…画面には映ってないことも多いんですが(笑)見せていたり、一面的ではない人ですよね。非常に面白い人物像だと思います。歴史上の「平忠正」という人が演じることで人間的にふくらめばいいな、と思ってやっていました。
O:ちょうど同じ時期に様々な役を演じることもあると思いますが、豊原さんの中での「演じ分け」というようなものはありますか?
T:う~ん…なんですかね~…(少し考え込む)。その人(役)に近づく…というか…一体化するんです、その人になる…というか、その人の感情でしゃべる…なりきる、というか。ただ一時期出てる番組で一日に3つ放映してる時があって、あの時は「NHKさん大丈夫でしょうか…」とは思いましたね(笑)。
Ⅰ:収録が並行してた時ですね。『ビターシュガー』と『清盛』がかぶってた時は大変でしたか…?(笑)。
T:『ビターシュガー』の時に、和久井さんとりょうさんが台本を読み合わせる時に笑ってるんですよ!役が…あまりに違ったので(笑)。確かに一人では切り替えられない時もありますが、共演者の方が作ってくださる空気にのっかるところもありました。
■平家一門の雰囲気と忠正
O:教科書にでてくる(歴史上の)人、というよりはドラマでの存在感が大きいと思いますが、忠正、つまり平氏のナンバー2として役のインパクトをどう作られましたか?
T:忠正は歴史で残っている話ではもっと早くに清盛と袂を分かっていたとも言われています。でも、藤本さんの脚本はそうでなくて、清盛の若いころから描いていますから、男の策略や戦いだけではなくて、ホッとする場面や、ボケツッコミもあったりします。歴史をそのままなぞるだけではドラマは面白くなりませんからね。自分の演じた役がアクセントになって、ドラマの結末に向けて、より面白い結末を目指していく…そんな感じです。
O:脚本の面白さということをおっしゃっていますが、役者さんご自身でそこにエッセンスを加えられることはありますか?
T:そういうのは好きですよ!アドリブでやるの。でも止めてくださらないと(笑)…止められたら止まります。
今までやったところでは、滋子ちゃんが初めて登場したシーンで、浮かれる一門の後ろで忠正がちょこちょこ反応しているところとか(笑)あれは独断です。もちろん全体の雰囲気を壊さないように、なので演出を担当していた渡辺一貴Dに「大丈夫だった?」と聞いたら「大丈夫」と言われたのでほっとしたり…それであのシーンはユーモアのあるものになったかな?と。
Ⅰ:あのエピソードは保元の乱の前でシビアな雰囲気が続くなか、ホッとするシーンでした。平家一門のコメディとしてももちろん面白いのですが、この先に起こることを考えるとしんみりしてしまいます。この場の雰囲気が本当の平家の姿ではありますね。
源氏も、平家も、厳しいシーンやホッとするシーン、それぞれの振れ幅を見せる場面がうまく出来ていると思います。家族のムードを醸し出しているあの話は私も好きな場面です。
■緻密な脚本に描かれた登場人物
Ⅰ:藤本さんの脚本についてですが、まず「群像劇を描きたい」という藤本さんのこだわり…主役以外にもドラマがある、単純なストーリーではないので深みがあり、出演する役者さんたちは非常に満足感があるとおっしゃってくださっています。主役引き立てのために周囲のキャラがいたり、台詞があったりするのではなく、ストーリーの中に一人一人のキャラがあって、それぞれの持つ人生観がぶつかり合うドラマです。
普通、単純な作りのドラマであれば一人のキャラはいつも同じような行動をして同じような台詞を言って、主役だけがその中心で持ち上げられている、そんなこともあります。でも見るたびに感心するんです。主役でない、ある人の出てくるシーンをつなぎあわせたらちゃんとその人の人生が分かるような書き方をされている。そこにはちゃんとドラマがあるんです。
例えば信西役の阿部サダヲさん、頼長役の山本耕史さんもそうでしたが、どんな修羅場になっても皆満足してお芝居をされていました。台詞でも、台本を書くためにどのくらいの時間がかかるか…という意味では、一定のスピードで書いているわけではなくて、そのキャラクターのその台詞を作り出すために一日かけた、というようなこともあったと聞いています。また、「本当にこれだけでいいの?(もっと言葉を足さなくてもいい?)」という時があっても逆に「今のシーンではこのキャラにはこれだけの台詞(所作)でいいんです」ということもあったりしました。本当にその一言、一言に愛情を注いで書いていらっしゃると思います。ドラマ自体も登場人物が多くてアレですが(苦笑)皆さん本当に前向きに、スタジオに来て芝居をしています。それは台本の持つ力、このドラマを、このキャラをこうしたい、という力、想いがあればこそ…だと思います。
T:そうですね。でも役者としては、藤本さんの脚本は「楽しめる人」もいるけど「悩む人」もいるかもしれないですね。例えばひとつのシーン、一つの台詞でも、それは「面白い感じ」なのか「大真面目なシーン」なのか、どちらにもとれるような場面もあるんです。そしてそのシーンが必ず後に響いてくるように緻密に書かれているのが分かってるから、演じる側も…芝居を楽しめる人ならOKなんでしょうが、一度躓くと、そこで止まってしまう人もいるかもしれません。
自分個人では18~19話(「誕生、後白河帝」「鳥羽院の遺言」)のあたりで、伏線がだんだん…毎回の一言一言が、全て「そこ」に繋がっている!と確信した時に「面白い!」と思ったんです。
物語は中盤ですから、これからどう清盛が「転がって」(笑)いくのか、楽しみでもありますね。
■「家族愛」というキーワード
(忠正の平氏一門、家族にまつわるシーンを集めたVTRが流れる)
・「平五郎のことを見てどう思う…?」(第6回「海賊討伐」)
・竹馬を作ってやりながら清太に諭し聞かせるシーン(第13回「祇園闘乱事件」)
・「わざと神輿を射るバカがどこにおる!」(第13回「祇園闘乱事件」)
O:優しいシーンが多いですね。先程までと対照的な(笑)。
T:照れくさいですね(笑)…いつも怖そうで、怒ってばっかりのキャラですから。でも忠正は家族が本当に好きなんですよ。このシーンでは特にそれが出てますね。
Ⅰ:忠正イコール平家一門への家族愛の人、というのは強く打ち出していて、それゆえのこだわりが彼の言動に表れてしまうシーンも多くありました。清盛に対する態度も、好き嫌いとかそういう感情ではなく、一門を想うゆえのものだと一つ芯が通っているのが分かると思います。そうそう、松山ケンイチさんは豊原さんと一緒にお芝居をするのを楽しみにされていたんですよ。
T:えっ?…どこが?(笑)
Ⅰ:松山くんは同じものを感じるって言ってました。
T:ふふふ、実際彼とお芝居をするのは楽しかったですよ。ああいう年代と演るのは楽しいですね!お芝居をしていて新しいものがどんどん出てくる。リハーサルをやって、本番やって…でも「予定調和」を嫌うんだよね。出来上がっちゃったものを壊したい!という気持ちが強く出てくる年代でもあるだろうし…そういう人と演るのは楽しいです。
お芝居をしていて、人が見たことないようなものを作りたい、新しい空気にしたい…そんな想いが彼からはすごく伝わってきましたから。だから松山くんとのお芝居は楽しかったです。
役者さんでもいろんな方がいて…テレビドラマっぽい芝居があって、それがダサいと思う人もいれば、そういうのをやってる人もいる。そうじゃないものを、役者として「新しいところ」に行きたいと思う気持ちがあるんじゃないかな?
Ⅰ:お芝居って「台本+台詞」じゃないんですよね。役者が人間の感情に落とし込んで、それで相手と芝居をする…さらに演じる人によってインスパイアされてできていく。
松山くんはリハと本番のお芝居を変えてくる人です。普通は変えません。彼がニュアンスや芝居をその都度変えてくると、お芝居を受ける側も何故彼は変えたんだろう?と考えますよね。そして自分の返しも考える…そういう空気がありました。単純に見えるシーンの裏に何があるのか、人のたくらみ、感情といったものをのせていく、それは一人で作るのではなく、お互いが芝居をする中で作っていく。
T:役者は役柄の中に入り込んでいきますが、人間(自分)が演じるとどうしても「中の人」(役者自身)の人生が出てくるんです。松山くんと、僕の演る何かからどんなお芝居になるか、それはこの仕事の一番の楽しみでした。予想もしない何かが入ってくることもあって、それが怖くもあり、面白いんです。
Ⅰ:(保元の乱のシーン撮影で)毎回立ち回りをしているんですが、それを役として演じているのを見て、大河のレベルだと台本を読んで(想像した)だけでは実際見てみると違うものだ、ということも多かったですね。
O:ちなみに、豊原さん自身はリアルで、家族の中で自分が忠正的な立ち位置になってしまったらどうされますか?(笑)
T:う~ん…なったことないので答えるのも難しいですけど(苦笑)。でもさっき会ったような子どもの罪のない質問に対して、「そりゃ実子が可愛いよな」とは言えないでしょう(笑)…支えてあげたいな、と思いますよ。
■保元の乱
◆VTR
第21話「保元の乱」第22話「勝利の代償」
・一門重鎮の評議シーン
・池禅尼と忠正の会話シーン
Ⅰ:何故、忠正が(一門の決定を)裏切ったか…これはほぼ台本通りです。その理由なんですが、(編集を終えた)試写でプロデューサーや演出担当が3人集まって見ていて、3人ともみんな言うことが違うんですよ(笑)。「頼盛の身代わりとして」「平家一門存続のため」「そもそも清盛と不仲だったから歴史的な運命で」…どうとでも取れる脚本ではあるんです。それで藤本さんに「これ以上シーンや台詞を足すことはないんですか」と聞いたら「これ以上は書けない」とおっしゃっていました。この3つ全てが一緒になっているんです、とも。でも役者は役やシーンを理解して演じる上でそれでは困るでしょう、何か一つ理由がないと。
T:そんなことがあったのか!(笑)僕は台本から読み取れることはその3つだと思いますが、池禅尼の一言、あれが理由にありました。同じ平氏として、後白河方について、それで自分はこの先一門でどうしていくのか。もともと清盛を棟梁として認めたくない気持ちはあって、それを抱えたままで一門としていけるのか。そこに加えて頼盛のことがあって、平家根絶やしという事態を防ぐ必要もあった…そして、忠正的にはやはり「後白河方について、勝ったとして、その後味はどんなものか?」というわだかまりがあったのだと思います。忠正の中では自分をこの戦いで清盛とは「反対側」において、心の「澱」をなくしたい、そんな思いがあった。平家を本気で潰せるか、とかその血を信じ切れない、とか一騎打ちの中ですら言ってるくらいだから。尊敬する兄であり棟梁であった忠盛が清盛を後継者として認めているのに、まだわだかまっている自分をもう終わらせたい…そんな思いもあったかもしれません。平氏一門を何よりも大事に思う忠正だから、その平氏が世代交代して、清盛が頭領でも成立する存在になったのだったら、それを受け入れられない自分はなくなってしまった方が良い、自分が好きな平氏一門で、そこに属する自分自身が好きであったのに、今ではそんな自分が嫌いになっている…そんな感情で。
O:そこの葛藤は…。
T:もう忠正も年齢的にそれなりに重ねてきていて、この戦で命を落とす覚悟ができているか?という…でも最後自分の「エゴ」が勝ってしまった、彼自身が(自分の中に)植え付けたもの(感情)に引きずられてしまった…ような。
Ⅰ:だったら自分の解釈が正しかったかな(笑)。清盛と忠正との関係は、お互いがそれぞれ「自分はこうあるべき」を演じているような二人ですから。保元の乱でも二人が直接戦うシーンがありました。あのシーンはどんな感じだったんでしょうか?
T:長い殺陣でね、ずっと朝まで決着がつかないんですよ(苦笑)。忠正としては自分の抱えてるモヤモヤのもと(=清盛)が目の前に居るわけで、でも清盛の存在よりも自分の抱えてしまっている、ある意味子どもっぽい…幼稚な感情をそのままぶつけに行っているような気がしました。
松山くんともチラッと話しました。この22話の決着が朝までかかって、二人ともクタクタになってるのにケリがつかないっておかしいだろう、って。これは二人とも本当に(相手を)斬れないからだろう、って。殺陣の最中に「功を焦ったな!」とか「もののけの血が!」って言っているのも、混乱した自分(忠正)の中の一つの台詞にすぎないのではないか…と思います。あの22話の収録現場では松山くんとはあまり話しませんでしたね。うん…そんなには。だって、やりづらくなりますから。「保元の乱」前後の頃は一人の時間が多くなって、平氏一門の撮影現場の中ではわいわいできるんですが、ちょっと寂しい感じが。
■食べ物の話で盛り上がる一門(笑)
Ⅰ:平氏一門のキャストの皆さんは仲が良いんですよ。源氏も待ち時間の間は為義役の小日向さんと通清役の金田さんがずーっとバカ話してるし(笑)。大河の撮影方法って、セットを組み上げて、一週間同じグループ(平氏、源氏など)で撮り続けることが多いので、チームごとの結束は強まるみたいです。
T:そうですね!リハで源氏の方とお会いすると新鮮な気分でしたから(笑)。共演のみなさんとは食べ物の話をすることが多かったかな…貴一さんはああ見えてジャンクフードが好きで…ハンバーガーとか。そのくせ、人の味覚を疑うんですよ!(笑)梅雀さんはグルメでしたね。
Ⅰ:長い撮影時間の中の楽しみというと食べ物くらいしか(笑)…だいたい撮影は朝8時に始まって、深夜の1、2時頃まで続くことがあります。それでまた翌朝8時~(会場どよめき)…それを週4日収録する繰り返しです。それでも一日に放映時間にすると10分くらいしか撮れないので、一週間でようやく一話分くらいになる感じです。
合戦シーンともなると、20~30キロある大鎧を着て朝から夜中まで立ち回りですから。そんな恰好で外に食事に行けませんので(笑)NHKの5階にある食堂でみなさん食べてらっしゃると、「たまには外で食べたいよねえ…」という話になるんです(笑)。
O:苛酷な撮影のスケジュールをお聞きしてしまいましたが、豊原さんが今回大河ドラマの撮影中に一番つらかったことというのは何でしたか?
T:ああ!それは…自分が突然盲腸になってしまったことです!(会場どよめき)…ちょうどあの、池禅尼との会話シーンを撮っていた時で…急性虫垂炎でスタジオから救急車で病院直行!なんてことがありました。あ、今はもう大丈夫です!(笑)
(ここで第23話「叔父を斬る」予告VTRが流れる)
■今後の見どころ
T:忠正は戦に敗れて賊将となり、捕らわれるわけなんですが…それでも、自分たちがまさか斬首になるとまでは考えていなかった。おそらく遠島に流刑…それが当時の最高刑でもあったわけで。死刑という考えはなかった。それで、清盛と1対1で対話するシーンですが…「叔父上はなくてはならぬ人」「私は平清盛です」という台詞を言った時の松山くんのお芝居…本番で彼は実に不思議なお芝居をして、不思議な清盛の顔…僕は思わず彼の顔に視線を惹きつけられました。忠正は自分自身のわだかまりを清盛に説得されている…自分自身の立場を確立させないといけないのに、それができない。そして避けられない死へと向かう前の、複雑な感情が交錯する回になっています。
Ⅰ:松山くんの最後のシーンが楽しみですね、明日の放映。22話までで清盛にとっては大切な叔父であった忠正と戦い、助けようとする、逃がそうともするのですが、忠正自身は頑なで…その先の23話はさらにもう一つ大きなドラマがあります。松山くんも憔悴した清盛を演じるために減量して、自分を追い込んでお芝居に臨んでいました。
(「叔父を斬る」の回は)それがあるから次へ進める、身内のぐちゃぐちゃが戦で出た後の、後始末というか…過去を切り捨てて次へ向かうための、その最後を忠正が引き受けてくれたということでしょうか。そこに大きなドラマがあったからこそ、乗り越えて新しい世を作るために向かう。「それ」があるから「次」がある。そんなターニングポイントとなる回です。
時代が先へ進むにあたっての旧世代の苦労、努力や葛藤…それがあったからこそ次へと進みます。平氏では忠正と清盛、源氏では為義と義朝、このドラマをぜひ楽しんでほしいと思います。
≪会場からの質問≫
Q:忠正と忠盛の間の信頼関係はドラマでも描かれることが多く、また先程のお話にも出てきていましたが、忠正が義理の姉である宗子(池禅尼)に向ける言葉や振る舞いも、いつも優しさにあふれていて、言葉にしないまでも深い感情を垣間見せるシーンが多いように思いました。忠正の宗子に向けた心情をお芝居にする上で、豊原さんはどのようなことを考えていらっしゃいましたか?
T:忠正の中で「認めたくない」存在である清盛…実子でないながらも嫡男として彼を育てている宗子の姿は、忠正には「忠盛以上に」見えているんです。忠盛が亡くなって、彼女が尼になってからの方が、二人の間で共通する想いというのがより明確になっていったように思います。宗子がむしろ忠正の立ち位置を変えていった面もあると思います。二人の共通するものは「平氏一門の中で血の繋がった子がやはり可愛い」というシンパシーのようなものがあったのではないでしょうか。
Q:第22話の決別のシーンで「清盛…俺とおまえとの間には、絆など、はなっから無いわ!」というシーンで弓を持って笑う忠正のシーンが印象的でした。あの笑いは、忠正自身の頭の中にある反発と、一方で惹かれる気持ちと言ったようなものが混じった笑いだったのでしょうか?
T:複雑なシーンですね。ここで笑顔が見える、というのは藤本さんの脚本に書いてあったことなんですが。嫡男としての清盛の存在があって、それと反対側に自分が立ったことによって、何と言うかー……覚悟の上の…自分を笑い飛ばすような…(考えながら言葉を選んでいる)説明がすごく難しいです。譬えて言うなら、「バンジージャンプをする前の笑い」みたいな(会場爆笑)。いやぼくは絶対やらないけど!(笑)
O:最後に今後の見どころをお願いします。
T:身内の間の争い、源氏親子、鎌田親子、それぞれの芝居は間違いなく見どころです。分かれていく道はより濃くなっていくというか、ここからが清盛の人生の始まりだと思います。狡猾さも出てくる、そんな成長した姿を見るのが楽しみです。
Ⅰ:何を背負っていくのか、どこに行くのか、清盛自身の体験した保元の乱、叔父を斬ったという痛み、そこを超えて次の世をどうするかが彼自身に見えてくると思います。
この先の清盛は、権力に取り憑かれただけではない、世の中を変えていきたいという思い、彼の前の世代がどんなふうに生きて、死んだか…それを視聴される皆様もベースに見て、理解して見ていただければと思います。
O:ありがとうございました。
≪全編終了≫
公開セミナー 大河ドラマ 『平清盛』
ゲスト:磯智明氏(「平清盛」CP)豊原功補さん(平忠正役)
司 会:NHK津放送局 太田磨理キャスター
会 場:伊勢とぴあ 大ホール
■伊勢平氏故郷の地との縁
(ゲストお二人登壇、客席に挨拶されてから着席)
太田キャスター(以下O):伊勢市というと伊勢平氏の本拠地ですが、豊原さんは伊勢へいらっしゃったことはありますか?
豊原さん(以下T):いや・・・それがないんですよ。初めてです。(感想を求められて)いや・・・まだ来て間がなくて。今日は着いて直接セミナーの会場に来たものですから。せっかくの機会なので、この後少し見て回りたいと思っています。
磯CP(以下Ⅰ):名古屋や伊勢には以前よりご縁があります。NHKで仕事をして二十数年になりますが、初任地が名古屋放送局でした。その時には伊勢に取材しに来ることもありましたし…そのあと名古屋放送局でプロデューサーをしていたこともありました。
昨年大河のことで先ほどご挨拶いただいた鈴木(伊勢)市長とお話をさせていただいた日は、ちょうど台風が来ていて、市長さんもその対応に当たられているような状況で、市役所の玄関でヘルメットと長靴、という出で立ちのままお会いしたことを覚えています。今日は「平氏のふるさと」としての伊勢を訪れるのを楽しみにしていました。
O:今日はいろいろなお話をお聞きしていきたいと思います。さて、先ほどのVTRで流れた「保元の乱」のシーンですが、豊原さん、ご覧になって感想はいかがですか?
T:う~ん、なんだかしみじみしてしまいますね…去年の今頃、ちょうど馬に乗ったりする稽古を始めてて…撮影に入ったのは8月でしたか。一年があっという間ですね。
O:今までにも馬に乗る役はされたことは…?
T:ええ、ありますよ。でもずっとやっていないと身体が忘れますから、撮影に入る前の時期にもう一度身体を慣らして…撮影に入るとそんな時間ないですからね。だから、その前のタイミングで、(大河に出る他の)役者同士で時間を作って交代で乗りに行ってました。
I:実は豊原さん、こういったトークショーに出演されるのは初めてだそうなんです(会場どよめき)。そういう意味ではすごく貴重な機会なんですが、個人的にはちょっと安心しました。ちゃんと大丈夫だって(笑)馬に乗るよりも自分はそっち(トーク)のほうが心配でしたよ。(会場爆笑)
T:ははははは(笑)。
■大河ドラマに出演することの意味
O:豊原さんはこれまでNHKの大河ドラマに出演されたのが『徳川家康』(1983年)の井伊直政役と伺っています。それから29年ぶりに2作目のご出演となる「平清盛」ですね。久しぶりの出演のオファーを受けられた時はいかがでしたか?
T:いや~、うれしかったですよ!何故か大河には縁がなくて、ようやく…って。NHKのドラマで磯さんとはいくつかお仕事を一緒にさせていただいてて、この話をいただいたときに「役者続けててよかった!」と思いました。
O:たくさんのドラマに出演されていらっしゃいますが、大河と他のドラマとは何が違うのでしょうか?
T:まず出演者の皆さんが皆時代の一線で活躍されている、そうそうたる顔ぶれだということですね。キャストの数も多いし…しかも一年を通してやるドラマなんて、ほかにないですから。記憶にも、身体にも「残るもの」が違います。
O:では、今一番「残って」いらっしゃることは?
T:忠正の出演シーンはすでにクランクアップしていますから…あれは1、2か月前だったでしょうか。だから今のVTR見ていても本当にいろんなことが思い出されて…特に平氏一門の皆のこととか。だから、しみじみしちゃいました。(笑)
■脚本やストーリーと役作り
T:まず、どんな話(脚本)になるかが楽しみでしたね!平忠正という人物は、歴史の中ではあまりはっきりとは出てこない人物ですから、ドラマの脚色で「どんな人物か」がより深く描かれていくわけです。まず忠正の「立ち位置」としては「(棟梁)忠盛の弟」…そこから、親子、兄弟関係がこの役のキーになっていく…その中でも中井貴一さん演じる忠盛との「兄と弟のかかわり」という部分に相当重きをおいて、役を演じていきました。
O:演じる上でのこだわりはありましたか?
T:この忠正と忠盛の関係は、まだ父(中村敦夫さん演じる、平正盛)が生きていた若い頃から始まっています。
さっきのVTRにもあった、舞子をかくまう兄に苦言を呈したりするシーンとか。でも忠正という人間は本当に「家族が好き」平家一門を心から愛していて…それゆえの発言や行動がストレートに出てしまう人でもあるんです。感情やこだわりがストレートに見えてしまう、それでいながら兄の出世に涙を流して喜んだりする涙もろい面、酒好きで一門の宴で酒を飲んで酔っ払って踊っていたり、画面の奥で見えないこともあるかもしれませんが、結構人間くさい面を見せているんですよね(笑)。そんな彼の大事にしている「家族観」を伝えたいと思いました。
■何故、平安末期なのか?
O:ここで磯CPにお聞きします。この『平清盛』は大河ドラマの51作品目に当たりますが、なぜこの時代を描こうとしたのでしょうか?
Ⅰ:大河ドラマで扱う時代が「戦国」「幕末」に偏っているので、ここで違うジャンルを取り上げたいという理由がありました。「坂の上の雲」は明治期、朝ドラの「カーネーション」「梅ちゃん先生」は戦後…もっと扱う時代の幅を広げたいというチャレンジでした。
戦国時代から遡ると、時代のヤマとして「源平」があります。ただ、それでも今まで取り上げられてきたのは頼朝、義経の時代ですから、そこ以外…というと更に遡って清盛の時代になりました。それは大河では『新・平家物語』でテーマとして扱った40年前にまで遡るんですね。
貴族から武士の時代へと変化していく、その「時代」が出来上がった中での勝者が源氏だった、と考えると、その武士の時代のおおもとを切り開いたのが平家、清盛であったと考えました。大河ドラマとしてその時代を扱うことは「今までと違ったもの」「今までではわからなかったもの」を取り上げたいという意図もありました。
O:映像に関しては、放映開始から今までも「そこまでやらなくても…」という声がありましたが、そのあたりはどうお考えでしょうか?
Ⅰ:今年はテレビ放送がフルデジタル化されて初めての大河ドラマになります。つまり、次の時代の大河ドラマです。高性能カメラや映画的な撮影手法、色の編集などは『龍馬伝』のころから試行錯誤しつつ、既に取り組み始めていました。デジタル時代における(画面に映る)お芝居とは、美術は、セットは、衣装、メイクは…とNHKにとっても(大河は)技術開発の一環として取り組んでいます。
ご指摘のあった「ホコリっぽさ」ですが、これはドラマの中で「時代の変わり目を描きたい」という意図がありました。最初からキレイだったわけじゃない。武士は文字通り、忠盛・忠正やその父正盛の時代から治安維持という名の汚れ仕事をし、土と血にまみれていたはずで、その「汚さ」をどうくぐり抜けて『平家物語』に見るような栄華を誇るに至ったのか…今撮影が進んでいる時代は清盛が太政大臣になった辺りですが、今までの映像とはもうガラッと変わっていますね。これを見られたら、あの汚さからここまで…というのが伝わってくると思います。
一方で「この時代だからこうあるべきだ」という意見には違和感があります。先程もお話しましたが、『平家物語』の世界はいわば平氏が昇りつめた最高の世界であって、それまでに幾多の戦いを戦って、生き残ってきた者だけが、あの栄華に行きつくわけです。ここまで来るとまた世界観が変わってくると思います。是非、ストーリーのそのあたりまでたどり着いていただければ(=視聴を続けてくれれば)と思います。
O:豊原さんはキレイな世界になる前にクランクアップされてしまったんですね…(笑)。
T:ほんっと、残念!(会場爆笑) 撮影現場もほこりっぽくて苦労しました(笑)。台詞も大きな声で怒鳴ることが多くて、喉も枯れるし…(会場笑)。
でも大河ドラマってもともと1年かけてストーリーを追っていくものでしょう?最初だけ見て評価できるものではないし、まして今では各家庭での視聴環境も昔とは違ってきています。作ってる側から見ると、衣装も、セットも、メイクも、細部まで本当にこだわって作ってますから、画面をじっくりみたくなる、そんなドラマになっていくはず…と思います。実際、自分で放映を見ても面白いと思いますし。
Ⅰ:こういった(忠正のような)先人の苦労の上にあの栄華があるんですね(一同笑)。
■平忠正という役について
O:豊原さん自身がこの平安末期という時代について勉強されたことや、平忠正という歴史上の人物について勉強されたのは、どんなことでしょうか?
T:勉強というか、まずは脚本を読み込むこと…平忠正という人物像を台詞やストーリーを追いながら自分の中に描いていくことでしょうか。このドラマでは主人公(清盛)の出現によって、兄(忠盛)の心の中に軸が定まって、そして平氏のサクセスストーリーになっていく、という流れですが、この清盛の出現こそが忠正の心を揺らすんです。一門のシーンでのやり取りや、兄忠盛、甥清盛との間で交わされるシーンの口うるささ…忠正というキャラクターはそこがキーになっています。まあ、現実に(身近に)いたら口うるさくってイヤだな、とは思いますけど(笑)。
自分の中では、今というより少し前の時代の、おじさんとかおじいちゃん像…しきたりにうるさくって、しつけにも厳しい、そういうのを周囲にいちいち言う人、というイメージで演じていました。たぶん忠正は「古いタイプの人間」なのかも。昔はそんな人、いっぱいいたと思いますが…それが「現代」で映される(テレビの)ドラマの中にいる、そういう姿をイメージしていました。
(ここで第1話から序盤の忠正の印象的な台詞を集めた再現VTRが流れる)
・第1話、舞子を匿う忠盛に反論するシーン
・安芸海賊討伐前夜の清盛に向けた台詞
・海上ロケシーン
T:(見終わって)ね、口うるさいでしょ?(会場爆笑)怒鳴ってばっかりで。もう、いつも喉枯らしてました。こうやって見ると照れくさいけど懐かしいシーンが多いですね。最初の撮影は江刺のロケで、その次が呉の海賊討伐シーンの海上ロケ。あの重い甲冑を着けて、真夏ですからね、暑いんですよ。しかも船のシーンでは本当に海に船を浮かべているんですが、ちゃんと都合よく止まっててくれなくて(笑)。あの大きな船のシーンのロケが終わって、そのあとで平氏のメンバー皆でお好み焼きを食べに行きましたよ!(中井)貴一さん、松山くん、そして梅雀さんと。
O:平氏の皆さんはそこでどんな話をされたんですか?
T:うふふっ(笑ってごまかすように)…まあ、いろいろとプライベートの話とかもね。お芝居もそうだし、そういったオフでもそうだけど、そういう機会を通じて(共演する相手)それぞれの息(=呼吸)を掴むというか。貴一さんは本当に平氏の棟梁みたいで…みんなに気を使って、良い雰囲気を作ってくれていました。だいたい平氏は撮影がみんな一緒で、朝から晩までずーっと一緒に(撮影で)いるので、そこに新しいキャストが増えるとね、一緒にご飯食べようか、とか。家盛役の大東くんが来た時も「よく来たね、よろしく!」って皆で「出前でも取ろうか!」と。
O:お食事に行かれたんですか?
T:いえいえ、撮影の合間の食事で、スタジオまで出前を取るんですよ。
O:ちなみに、豊原さんの好物は…?
T:…チキンライスです(照笑)。 → 会場爆笑!
■キャスティングについて
O:今回のドラマのキャスティングと、その理由についてお聞かせください。
Ⅰ:平忠正というのは難しい役どころでした。まず、主役の松山ケンイチさんがいて、ライバルとなる存在の一方である義朝に玉木宏さん、後白河天皇役に松田翔太さん…このあたりまでは図式としても「わかりやすい」んです。源氏系はキツイ顔の人集めたり…小日向さん以外は(笑)。でも、忠正の役どころの分かりにくさは、主役の敵側に回る存在で、ストーリーの中で憎まれ役をしなければならないということでした。それでも、よくありがちな「最初から仲が悪くて、やっぱり当たり前の展開で敵側に回って戦うことになる」というストーリーにはしたくない、平家一門という家族の話を描きたいという脚本の藤本さんの思いがまずありました。
忠正の存在というのは単純に清盛の敵役とは言い難いものです。さりとて、家族内のベタベタした情でもない。叔父として血の繋がらない清盛に対して特に厳しい態度を示してきた序盤は、特に「見た目、言っている台詞のイメージだけでは分からない」役どころでもあるわけで…私が持っている豊原さんのイメージは、「コメディからシリアスまでこなせる役者さん」ですから、豊原さんの演じる忠正という役に発展の可能性を見たんです。豊原さんを信頼して、脚本や演出がどうなって言っても忠正役を演じ切ってもらえる、という思いがありました。
T:そう言って頂けて光栄です!自分では役者として「もっとこうすれば、ああすれば」ということもありました。それでもこの忠正という役柄は面白くて、厳しいことも言いますが、兄の昇進に涙を流して喜んだり、酒宴で酔っぱらって踊っていたり、そういうちょこちょことしたシーンを…画面には映ってないことも多いんですが(笑)見せていたり、一面的ではない人ですよね。非常に面白い人物像だと思います。歴史上の「平忠正」という人が演じることで人間的にふくらめばいいな、と思ってやっていました。
O:ちょうど同じ時期に様々な役を演じることもあると思いますが、豊原さんの中での「演じ分け」というようなものはありますか?
T:う~ん…なんですかね~…(少し考え込む)。その人(役)に近づく…というか…一体化するんです、その人になる…というか、その人の感情でしゃべる…なりきる、というか。ただ一時期出てる番組で一日に3つ放映してる時があって、あの時は「NHKさん大丈夫でしょうか…」とは思いましたね(笑)。
Ⅰ:収録が並行してた時ですね。『ビターシュガー』と『清盛』がかぶってた時は大変でしたか…?(笑)。
T:『ビターシュガー』の時に、和久井さんとりょうさんが台本を読み合わせる時に笑ってるんですよ!役が…あまりに違ったので(笑)。確かに一人では切り替えられない時もありますが、共演者の方が作ってくださる空気にのっかるところもありました。
■平家一門の雰囲気と忠正
O:教科書にでてくる(歴史上の)人、というよりはドラマでの存在感が大きいと思いますが、忠正、つまり平氏のナンバー2として役のインパクトをどう作られましたか?
T:忠正は歴史で残っている話ではもっと早くに清盛と袂を分かっていたとも言われています。でも、藤本さんの脚本はそうでなくて、清盛の若いころから描いていますから、男の策略や戦いだけではなくて、ホッとする場面や、ボケツッコミもあったりします。歴史をそのままなぞるだけではドラマは面白くなりませんからね。自分の演じた役がアクセントになって、ドラマの結末に向けて、より面白い結末を目指していく…そんな感じです。
O:脚本の面白さということをおっしゃっていますが、役者さんご自身でそこにエッセンスを加えられることはありますか?
T:そういうのは好きですよ!アドリブでやるの。でも止めてくださらないと(笑)…止められたら止まります。
今までやったところでは、滋子ちゃんが初めて登場したシーンで、浮かれる一門の後ろで忠正がちょこちょこ反応しているところとか(笑)あれは独断です。もちろん全体の雰囲気を壊さないように、なので演出を担当していた渡辺一貴Dに「大丈夫だった?」と聞いたら「大丈夫」と言われたのでほっとしたり…それであのシーンはユーモアのあるものになったかな?と。
Ⅰ:あのエピソードは保元の乱の前でシビアな雰囲気が続くなか、ホッとするシーンでした。平家一門のコメディとしてももちろん面白いのですが、この先に起こることを考えるとしんみりしてしまいます。この場の雰囲気が本当の平家の姿ではありますね。
源氏も、平家も、厳しいシーンやホッとするシーン、それぞれの振れ幅を見せる場面がうまく出来ていると思います。家族のムードを醸し出しているあの話は私も好きな場面です。
■緻密な脚本に描かれた登場人物
Ⅰ:藤本さんの脚本についてですが、まず「群像劇を描きたい」という藤本さんのこだわり…主役以外にもドラマがある、単純なストーリーではないので深みがあり、出演する役者さんたちは非常に満足感があるとおっしゃってくださっています。主役引き立てのために周囲のキャラがいたり、台詞があったりするのではなく、ストーリーの中に一人一人のキャラがあって、それぞれの持つ人生観がぶつかり合うドラマです。
普通、単純な作りのドラマであれば一人のキャラはいつも同じような行動をして同じような台詞を言って、主役だけがその中心で持ち上げられている、そんなこともあります。でも見るたびに感心するんです。主役でない、ある人の出てくるシーンをつなぎあわせたらちゃんとその人の人生が分かるような書き方をされている。そこにはちゃんとドラマがあるんです。
例えば信西役の阿部サダヲさん、頼長役の山本耕史さんもそうでしたが、どんな修羅場になっても皆満足してお芝居をされていました。台詞でも、台本を書くためにどのくらいの時間がかかるか…という意味では、一定のスピードで書いているわけではなくて、そのキャラクターのその台詞を作り出すために一日かけた、というようなこともあったと聞いています。また、「本当にこれだけでいいの?(もっと言葉を足さなくてもいい?)」という時があっても逆に「今のシーンではこのキャラにはこれだけの台詞(所作)でいいんです」ということもあったりしました。本当にその一言、一言に愛情を注いで書いていらっしゃると思います。ドラマ自体も登場人物が多くてアレですが(苦笑)皆さん本当に前向きに、スタジオに来て芝居をしています。それは台本の持つ力、このドラマを、このキャラをこうしたい、という力、想いがあればこそ…だと思います。
T:そうですね。でも役者としては、藤本さんの脚本は「楽しめる人」もいるけど「悩む人」もいるかもしれないですね。例えばひとつのシーン、一つの台詞でも、それは「面白い感じ」なのか「大真面目なシーン」なのか、どちらにもとれるような場面もあるんです。そしてそのシーンが必ず後に響いてくるように緻密に書かれているのが分かってるから、演じる側も…芝居を楽しめる人ならOKなんでしょうが、一度躓くと、そこで止まってしまう人もいるかもしれません。
自分個人では18~19話(「誕生、後白河帝」「鳥羽院の遺言」)のあたりで、伏線がだんだん…毎回の一言一言が、全て「そこ」に繋がっている!と確信した時に「面白い!」と思ったんです。
物語は中盤ですから、これからどう清盛が「転がって」(笑)いくのか、楽しみでもありますね。
■「家族愛」というキーワード
(忠正の平氏一門、家族にまつわるシーンを集めたVTRが流れる)
・「平五郎のことを見てどう思う…?」(第6回「海賊討伐」)
・竹馬を作ってやりながら清太に諭し聞かせるシーン(第13回「祇園闘乱事件」)
・「わざと神輿を射るバカがどこにおる!」(第13回「祇園闘乱事件」)
O:優しいシーンが多いですね。先程までと対照的な(笑)。
T:照れくさいですね(笑)…いつも怖そうで、怒ってばっかりのキャラですから。でも忠正は家族が本当に好きなんですよ。このシーンでは特にそれが出てますね。
Ⅰ:忠正イコール平家一門への家族愛の人、というのは強く打ち出していて、それゆえのこだわりが彼の言動に表れてしまうシーンも多くありました。清盛に対する態度も、好き嫌いとかそういう感情ではなく、一門を想うゆえのものだと一つ芯が通っているのが分かると思います。そうそう、松山ケンイチさんは豊原さんと一緒にお芝居をするのを楽しみにされていたんですよ。
T:えっ?…どこが?(笑)
Ⅰ:松山くんは同じものを感じるって言ってました。
T:ふふふ、実際彼とお芝居をするのは楽しかったですよ。ああいう年代と演るのは楽しいですね!お芝居をしていて新しいものがどんどん出てくる。リハーサルをやって、本番やって…でも「予定調和」を嫌うんだよね。出来上がっちゃったものを壊したい!という気持ちが強く出てくる年代でもあるだろうし…そういう人と演るのは楽しいです。
お芝居をしていて、人が見たことないようなものを作りたい、新しい空気にしたい…そんな想いが彼からはすごく伝わってきましたから。だから松山くんとのお芝居は楽しかったです。
役者さんでもいろんな方がいて…テレビドラマっぽい芝居があって、それがダサいと思う人もいれば、そういうのをやってる人もいる。そうじゃないものを、役者として「新しいところ」に行きたいと思う気持ちがあるんじゃないかな?
Ⅰ:お芝居って「台本+台詞」じゃないんですよね。役者が人間の感情に落とし込んで、それで相手と芝居をする…さらに演じる人によってインスパイアされてできていく。
松山くんはリハと本番のお芝居を変えてくる人です。普通は変えません。彼がニュアンスや芝居をその都度変えてくると、お芝居を受ける側も何故彼は変えたんだろう?と考えますよね。そして自分の返しも考える…そういう空気がありました。単純に見えるシーンの裏に何があるのか、人のたくらみ、感情といったものをのせていく、それは一人で作るのではなく、お互いが芝居をする中で作っていく。
T:役者は役柄の中に入り込んでいきますが、人間(自分)が演じるとどうしても「中の人」(役者自身)の人生が出てくるんです。松山くんと、僕の演る何かからどんなお芝居になるか、それはこの仕事の一番の楽しみでした。予想もしない何かが入ってくることもあって、それが怖くもあり、面白いんです。
Ⅰ:(保元の乱のシーン撮影で)毎回立ち回りをしているんですが、それを役として演じているのを見て、大河のレベルだと台本を読んで(想像した)だけでは実際見てみると違うものだ、ということも多かったですね。
O:ちなみに、豊原さん自身はリアルで、家族の中で自分が忠正的な立ち位置になってしまったらどうされますか?(笑)
T:う~ん…なったことないので答えるのも難しいですけど(苦笑)。でもさっき会ったような子どもの罪のない質問に対して、「そりゃ実子が可愛いよな」とは言えないでしょう(笑)…支えてあげたいな、と思いますよ。
■保元の乱
◆VTR
第21話「保元の乱」第22話「勝利の代償」
・一門重鎮の評議シーン
・池禅尼と忠正の会話シーン
Ⅰ:何故、忠正が(一門の決定を)裏切ったか…これはほぼ台本通りです。その理由なんですが、(編集を終えた)試写でプロデューサーや演出担当が3人集まって見ていて、3人ともみんな言うことが違うんですよ(笑)。「頼盛の身代わりとして」「平家一門存続のため」「そもそも清盛と不仲だったから歴史的な運命で」…どうとでも取れる脚本ではあるんです。それで藤本さんに「これ以上シーンや台詞を足すことはないんですか」と聞いたら「これ以上は書けない」とおっしゃっていました。この3つ全てが一緒になっているんです、とも。でも役者は役やシーンを理解して演じる上でそれでは困るでしょう、何か一つ理由がないと。
T:そんなことがあったのか!(笑)僕は台本から読み取れることはその3つだと思いますが、池禅尼の一言、あれが理由にありました。同じ平氏として、後白河方について、それで自分はこの先一門でどうしていくのか。もともと清盛を棟梁として認めたくない気持ちはあって、それを抱えたままで一門としていけるのか。そこに加えて頼盛のことがあって、平家根絶やしという事態を防ぐ必要もあった…そして、忠正的にはやはり「後白河方について、勝ったとして、その後味はどんなものか?」というわだかまりがあったのだと思います。忠正の中では自分をこの戦いで清盛とは「反対側」において、心の「澱」をなくしたい、そんな思いがあった。平家を本気で潰せるか、とかその血を信じ切れない、とか一騎打ちの中ですら言ってるくらいだから。尊敬する兄であり棟梁であった忠盛が清盛を後継者として認めているのに、まだわだかまっている自分をもう終わらせたい…そんな思いもあったかもしれません。平氏一門を何よりも大事に思う忠正だから、その平氏が世代交代して、清盛が頭領でも成立する存在になったのだったら、それを受け入れられない自分はなくなってしまった方が良い、自分が好きな平氏一門で、そこに属する自分自身が好きであったのに、今ではそんな自分が嫌いになっている…そんな感情で。
O:そこの葛藤は…。
T:もう忠正も年齢的にそれなりに重ねてきていて、この戦で命を落とす覚悟ができているか?という…でも最後自分の「エゴ」が勝ってしまった、彼自身が(自分の中に)植え付けたもの(感情)に引きずられてしまった…ような。
Ⅰ:だったら自分の解釈が正しかったかな(笑)。清盛と忠正との関係は、お互いがそれぞれ「自分はこうあるべき」を演じているような二人ですから。保元の乱でも二人が直接戦うシーンがありました。あのシーンはどんな感じだったんでしょうか?
T:長い殺陣でね、ずっと朝まで決着がつかないんですよ(苦笑)。忠正としては自分の抱えてるモヤモヤのもと(=清盛)が目の前に居るわけで、でも清盛の存在よりも自分の抱えてしまっている、ある意味子どもっぽい…幼稚な感情をそのままぶつけに行っているような気がしました。
松山くんともチラッと話しました。この22話の決着が朝までかかって、二人ともクタクタになってるのにケリがつかないっておかしいだろう、って。これは二人とも本当に(相手を)斬れないからだろう、って。殺陣の最中に「功を焦ったな!」とか「もののけの血が!」って言っているのも、混乱した自分(忠正)の中の一つの台詞にすぎないのではないか…と思います。あの22話の収録現場では松山くんとはあまり話しませんでしたね。うん…そんなには。だって、やりづらくなりますから。「保元の乱」前後の頃は一人の時間が多くなって、平氏一門の撮影現場の中ではわいわいできるんですが、ちょっと寂しい感じが。
■食べ物の話で盛り上がる一門(笑)
Ⅰ:平氏一門のキャストの皆さんは仲が良いんですよ。源氏も待ち時間の間は為義役の小日向さんと通清役の金田さんがずーっとバカ話してるし(笑)。大河の撮影方法って、セットを組み上げて、一週間同じグループ(平氏、源氏など)で撮り続けることが多いので、チームごとの結束は強まるみたいです。
T:そうですね!リハで源氏の方とお会いすると新鮮な気分でしたから(笑)。共演のみなさんとは食べ物の話をすることが多かったかな…貴一さんはああ見えてジャンクフードが好きで…ハンバーガーとか。そのくせ、人の味覚を疑うんですよ!(笑)梅雀さんはグルメでしたね。
Ⅰ:長い撮影時間の中の楽しみというと食べ物くらいしか(笑)…だいたい撮影は朝8時に始まって、深夜の1、2時頃まで続くことがあります。それでまた翌朝8時~(会場どよめき)…それを週4日収録する繰り返しです。それでも一日に放映時間にすると10分くらいしか撮れないので、一週間でようやく一話分くらいになる感じです。
合戦シーンともなると、20~30キロある大鎧を着て朝から夜中まで立ち回りですから。そんな恰好で外に食事に行けませんので(笑)NHKの5階にある食堂でみなさん食べてらっしゃると、「たまには外で食べたいよねえ…」という話になるんです(笑)。
O:苛酷な撮影のスケジュールをお聞きしてしまいましたが、豊原さんが今回大河ドラマの撮影中に一番つらかったことというのは何でしたか?
T:ああ!それは…自分が突然盲腸になってしまったことです!(会場どよめき)…ちょうどあの、池禅尼との会話シーンを撮っていた時で…急性虫垂炎でスタジオから救急車で病院直行!なんてことがありました。あ、今はもう大丈夫です!(笑)
(ここで第23話「叔父を斬る」予告VTRが流れる)
■今後の見どころ
T:忠正は戦に敗れて賊将となり、捕らわれるわけなんですが…それでも、自分たちがまさか斬首になるとまでは考えていなかった。おそらく遠島に流刑…それが当時の最高刑でもあったわけで。死刑という考えはなかった。それで、清盛と1対1で対話するシーンですが…「叔父上はなくてはならぬ人」「私は平清盛です」という台詞を言った時の松山くんのお芝居…本番で彼は実に不思議なお芝居をして、不思議な清盛の顔…僕は思わず彼の顔に視線を惹きつけられました。忠正は自分自身のわだかまりを清盛に説得されている…自分自身の立場を確立させないといけないのに、それができない。そして避けられない死へと向かう前の、複雑な感情が交錯する回になっています。
Ⅰ:松山くんの最後のシーンが楽しみですね、明日の放映。22話までで清盛にとっては大切な叔父であった忠正と戦い、助けようとする、逃がそうともするのですが、忠正自身は頑なで…その先の23話はさらにもう一つ大きなドラマがあります。松山くんも憔悴した清盛を演じるために減量して、自分を追い込んでお芝居に臨んでいました。
(「叔父を斬る」の回は)それがあるから次へ進める、身内のぐちゃぐちゃが戦で出た後の、後始末というか…過去を切り捨てて次へ向かうための、その最後を忠正が引き受けてくれたということでしょうか。そこに大きなドラマがあったからこそ、乗り越えて新しい世を作るために向かう。「それ」があるから「次」がある。そんなターニングポイントとなる回です。
時代が先へ進むにあたっての旧世代の苦労、努力や葛藤…それがあったからこそ次へと進みます。平氏では忠正と清盛、源氏では為義と義朝、このドラマをぜひ楽しんでほしいと思います。
≪会場からの質問≫
Q:忠正と忠盛の間の信頼関係はドラマでも描かれることが多く、また先程のお話にも出てきていましたが、忠正が義理の姉である宗子(池禅尼)に向ける言葉や振る舞いも、いつも優しさにあふれていて、言葉にしないまでも深い感情を垣間見せるシーンが多いように思いました。忠正の宗子に向けた心情をお芝居にする上で、豊原さんはどのようなことを考えていらっしゃいましたか?
T:忠正の中で「認めたくない」存在である清盛…実子でないながらも嫡男として彼を育てている宗子の姿は、忠正には「忠盛以上に」見えているんです。忠盛が亡くなって、彼女が尼になってからの方が、二人の間で共通する想いというのがより明確になっていったように思います。宗子がむしろ忠正の立ち位置を変えていった面もあると思います。二人の共通するものは「平氏一門の中で血の繋がった子がやはり可愛い」というシンパシーのようなものがあったのではないでしょうか。
Q:第22話の決別のシーンで「清盛…俺とおまえとの間には、絆など、はなっから無いわ!」というシーンで弓を持って笑う忠正のシーンが印象的でした。あの笑いは、忠正自身の頭の中にある反発と、一方で惹かれる気持ちと言ったようなものが混じった笑いだったのでしょうか?
T:複雑なシーンですね。ここで笑顔が見える、というのは藤本さんの脚本に書いてあったことなんですが。嫡男としての清盛の存在があって、それと反対側に自分が立ったことによって、何と言うかー……覚悟の上の…自分を笑い飛ばすような…(考えながら言葉を選んでいる)説明がすごく難しいです。譬えて言うなら、「バンジージャンプをする前の笑い」みたいな(会場爆笑)。いやぼくは絶対やらないけど!(笑)
O:最後に今後の見どころをお願いします。
T:身内の間の争い、源氏親子、鎌田親子、それぞれの芝居は間違いなく見どころです。分かれていく道はより濃くなっていくというか、ここからが清盛の人生の始まりだと思います。狡猾さも出てくる、そんな成長した姿を見るのが楽しみです。
Ⅰ:何を背負っていくのか、どこに行くのか、清盛自身の体験した保元の乱、叔父を斬ったという痛み、そこを超えて次の世をどうするかが彼自身に見えてくると思います。
この先の清盛は、権力に取り憑かれただけではない、世の中を変えていきたいという思い、彼の前の世代がどんなふうに生きて、死んだか…それを視聴される皆様もベースに見て、理解して見ていただければと思います。
O:ありがとうございました。
≪全編終了≫