徒然草庵 (別館)

人、木石にあらねば時にとりて物に感ずる事無きに非ず。
旅・舞台・ドラマ・映画・コンサート等の記録と感想がメインです。

『アスファルト・キス』と訃報

2018年02月24日 | 舞台
1月20日(土)。
東京ドームの『ふるさと祭り』を楽しんだ後、東池袋のあうるすぽっとで『アスファルト・キス』を観てきました。
2018年2本目の観劇です。

公式HP
http://www.onetwo-works.jp/special/asphalt-kiss/





≪イントロダクション≫ 公式HPより引用
1950年代のブラジル。
リオデジャネイロ通りで男がバスに轢かれ、死にかけている。
通行人の一人が駆け寄ってきてその男を腕に抱き、それから唇にキスする。
キスした男の名は「アランディール」。
彼の行為を目撃していた新聞記者は、一連の出来事をゴシップ新聞の一面トップに掲載する。
たちまち記事は大反響、憶測が憶測を呼び、アランディールとその家族は次第にバラバラに引き裂かれていく……。
情報社会の恐怖と混沌を描く、ネルソン・ロドリゲスの傑作。日本初演。


『アスファルト・キス』は、「権力」「妄想」「裏切り」の物語。
そして「平等に生きる権利」を求める闘いの物語だと私は思っている。
受け身であり続ければ、攻撃もいじめも黙認されてしまうこの世界。
自分の価値観に正直であるためには、人は闘わなくてはならない。
私たちは本当の意味で「他者との違い」を受け入れることができるのだろうか?
人は「思いやり」「寛容さ」を、訓練によって獲得できるのだろうか?
この作品を通して、私はそのことを皆さんに問いたい。

          StoneCrabs芸術監督 フランコ・フィギュレド
(引用終わり)

 ★

テネシー・ウィリアムズを思わせる濃密なストーリー。
どうしてそうなる?!と叫びたくなる不条理と、取り巻く人々の闇、それでもなお信じる強さを失わない主人公アランディール=畑中智行さんの痛々しいまでの真っ直ぐな輝きが印象的な1幕100分。
メディアリンチ、ヘイト、偏見と興味本意の風聞、暴力、衝撃的なラスト。今の時代だからこそ分かる理不尽。21世紀も18年経ったところで何にも変わってはいないんだと。そして人を信じることの難しさ、愛と言う感情の尊さ、そして怖さ。

 ★

主人公アランディールの義父を演じた青年座・大家仁志さんが2月19日に亡くなられたという知らせが、21日になって私の元に届きました。キャラメルボックスの『あなたがここにいればよかったのに』で、知的で温かい父親役を演じていらして「日高教授についてなら一晩でも語れる!」と盛り上がったのが、つい先日のことのよう。そして、同じ「父親役」なのに、今回の物語における芝居は、月並みな言葉でしかないけれど「衝撃的」でした。ラスト、義理の息子の名を呼ぶ声が、今も耳の底から響くようで。

この作品、DVDにして残しておくことは(著作権利関係などで)出来ないのかもしれませんが、各キャストの渾身のお芝居は、観た人全ての心に深い闇色で刻みこまれたのではないでしょうか。

演劇の怖さと魅力を改めて味わった、マチソワでした。
ホントに心が折れそうで、キツかった…(^^;