ずいぶん昔の書庫を探したら、残っておりました。
こっそり上げておきます。
☆
ミュージカル『tick, tick, … Boom!』
2012年9月19日 夜公演 アフタートーク
山本耕史(以下Y):9月13日から始まったこの「tick, tick… Boom!」(以下ttB)公演もこれで8回目が終了しました。初日から毎日、来て下さるお客さんにエネルギーをもらって、そこからまた自分たちが受け取ったものを舞台に乗せて表現していく、毎回がそんな感じで続いていますが、いかがでしたでしょうか。(会場から大きな拍手)ありがとうございます。
まず最初に僕のほうからこの作品と作者について説明します。作者のジョナサン・ラーソンという作曲家は35歳で亡くなりました。ほかに「RENT」という作品も書いていて、その公演初日の上演を控えた時に突然亡くなってしまい、自分の作品の成功を知ることなく逝ってしまった人です。
この「tick, tick… Boom!」は、ラーソンが30歳の時、1990年に自分のことをモデルにして書いた脚本です。売れない時代のラーソンはバイトをしながらピアノのあるカフェなんかで、この3人の役を全部一人で演じて歌っていたらしいです。今では3人で演じるこういう形になってますけど…僕がブロードウェイで見たときは、この(あうるすぽっとの)1/4くらいの大きさの会場で、舞台セットも照明も衣装も最低限に抑えた感じの、演者さんたちが本当に自分たちの力だけで作り上げているステージになっていました。
僕自身は過去に二回「ttB」を演じたことがあり、もちろん「RENT」を演ったこともありますし、とにかく思い入れの深い作品です。ラーソン自身は亡くなっていますが、ラーソンのお父さんやお母さんにもお会いして、どんな人柄だったのか、どういうエピソードがあったのか、ということもお聞きしたりして…それで(この舞台を)今回のマイケル役のジェロくん、スーザン役のすみれさんの力を借りて、作り上げました。
そういえばジェロくんはミュージカルは二度目なんだっけ?
ジェロ(以下J):そうですね。大尊敬する先輩の山本さんが今回僕みたいなペーペーに声をかけてくれたなんて、そんな…(皆が爆笑)いろいろ丁寧に教えてくださるので、毎日がすごく勉強になってます。楽しいですね。
Y:この「ttB」の音楽はポップロックだけど、ジェロくん自身はポップロックの人…じゃないよね?(笑)
J:じゃない、ないないない!(笑)それにミュージカルは二回目だけど、昨年のは「ブルース・イン・ザ・ナイト」って言ってブルースの曲のミュージカルだったから、これも違う…。今回はロックだからね!ジャンルとしてわからないですよ。全然違うもん(笑)…それで、歌稽古に入って、全曲聴いて、その全部の曲の良さがすっごく分かって…歌ってて楽しいね!
Y:マイケルだけじゃなくて、ジョンのお父さん役も楽しんでるでしょ!(笑)
J:そうそう(笑)楽しくって仕方ないね、お父さんは!
Y:ジェロくんは僕がああして、こうしてって(演出を)言うよりもずっと「お父さん」のキャラをつかんでるもん。自分で全部作っちゃってるから、すごいよね。バイトの(店員の)役とかも…(笑)。
J:あはははは(笑)
Y:じゃあ(振り返って)すみれちゃん、すみれちゃんも日本でミュージカルやるのは初めてなんだよね?
すみれ(以下S):はい…あっでもミュージカルはアメリカでも高校の時の発表会でやったくらいで、全然…だから最初は緊張感でいっぱいで。だんだん稽古をしていって、慣れてきたかなあ…って。この「ttB」の世界に入って、ポップロックをすっごく楽しんでる感じ。なんて言ったらいいのかな、「It takes me away!」っていう感じ…ねえ、「takes me away」って(日本語で)何ていうの?(…と、ジェロさんのほうを向く)
J:(即答)知らない。(会場爆笑)
Y:(笑)え~~~っと、歌と自分が共鳴、共感する…って感じなのかな?グルーヴ感…みたいなの?
S:そうそう!!!(手を叩いて)それ!grooveっていうのが今の自分と音楽の気分!
Y:共鳴と共感で、グルーヴ感なんだね?それであってる?よかったぁ~。(笑)
J:僕も歌を歌うけど、今回は(お芝居の部分で)役があるじゃないですか。もちろん歌自体に物語があって、その主人公になりきって歌うのが演歌なんだけど、3~4分(の歌)と、2時間(のミュージカルのお芝居)は違うよね。ここで勉強したものを本業(笑)に生かしたいなあって思ってる。
Y:ジェロくんは本当にストイックなんだよね!毎日公演があって、その前に毎日2回は(全曲)通して聴いて歌ってるでしょ?!(会場どよめき)
J:うん(笑)だって、そうしないと気が済まないから…毎日全曲2回歌ってる。自分がね、そうじゃないと気が済まないの。だから。
Y:あれさあ、公演前にそんなに歌ったら喉潰しちゃうよ、って心配になっちゃうんだよね!(笑)ジェロくんが歌ってるの、すみれちゃんも聴いた?
S:私も聴いてますよ!毎朝劇場に来るの、私はヘアメイクや衣装合わせがあって早く来てるのに、ジェロくんは(そういうのがないのに)もう出てきて歌ってるのが聞こえてくるから…歌もそうだけど私は日本語のセリフを噛んじゃうんじゃないか、とか間違えるんじゃないか、って怖くって。毎日必ず見て覚えて、それでもこわいし…日本語難しいから。
Y:すみれちゃんの日本語は(ハワイに移住した)7歳の時で止まっちゃってるもんね(笑)。でもメイクにそんなにかかるの?!どこも直すところなんか無さそうなのに!(笑)
最初に会った時なんか、うわあ!って思ったもん。こんなに…すごい(美人だ)…って、ねえ?(ジェロさんのほうを向いて二人で笑う)もう出てきただけで、思わず(彼女に)目が行っちゃうんだもん。
S:そんな!直すところだらけですよ~!(照れ笑い)
Y:ところでお父さん(=石田純一さん)怪我してるみたいだけど大丈夫?(会場爆笑)
S:え??えええっ?あ、大丈夫みたいだけど…メールしたけど返事来なくって…(山本さんに「心配だよね…」と聞かれて)う~ん、たぶん大丈夫だけど、ってその話はいいから!!!(再度爆笑)
Y:え?いいの?(笑)
ところでこの「ttB」は、たぶん見る人の誰もが思ったことや、経験したことがいっぱい詰まってる作品です。大きな成功もなく、大きな失敗もなく、ただ淡々と日常が流れて行って、その中の小さなエピソード…誰でもぶち当たる壁、自分との葛藤があって、誰もがそれに共感できるような…大きな拒絶反応とか反発を生むことはなくって、僕たちを作り上げている細胞の一片に響くのでは…と思います。
お客さんにも感想や質問とか聞いてみたいよね…って、言っても、じゃあ「ハイ!」って手を挙げられても困るんで(爆笑)すみれちゃんやジェロくんから質問ないか聞いてみましょうか。どう?(と、二人に話を振る)
S:じゃあ、ハイ!私から質問なんですけど、最後のシーンでどうしてジョンは(それまでずっとかけ続けていた)眼鏡を取るの?あれは何かの意味があってやっていると思うけど、まだ私はそれをはっきり聞いてなかったなって思ったので、ここで。
あれはやっぱり「眼鏡=自分をカバーするもの」で、それを最後に取り払って「自分を見せよう」とか、「もうカバーはいらない」っていうジョンの決意の表れのようなものなの?
Y:この作品全体で「聞こえる」とか「触れる」という言葉がすごく多く使われているんだよね。そんな中でジョンは最初からずっと眼鏡をかけたままで(照明が反射して)よく見えなかったり…眼鏡の奥でどういう表情が動いているのか、お客さんのほうは想像するしかない。
ジョンのほうは「(眼鏡という)フィルターをかけることで逃げてる」部分があって、劇中でも「眼鏡を拭けよ」という台詞が何度か出てくるけど、それも象徴してるような。
最後にジョンが眼鏡を外すことで、(直視することから逃げていた)世界をはっきり見よう、という決意を見せたかったというか…僕自身は、あの眼鏡を外すという行為は「僕の中の、この作品」から「次の作品」へと向かう、一つの締めくくりとして象徴的にやってます。
S:やっぱり!そうだったんだ!(笑)そういえば、眼鏡っていうとあのジェロくんのサングラス…
J:そうそう。「Sugar」っていう曲で僕がバイトの店員役をしてる時にかけてる黒い眼鏡ね!あれ、ホントに見えなくって…横とか真っ黒だし、全然見えないの。だから歌いながら(お菓子の)トウィンキーを放り投げてキャッチするシーンはいつも「落としちゃうよ!」って思いながら毎回やってた。ついに昨日初めて落としちゃったけど!(笑)
Y:えええええっ!?
S:そうそう!それ聞いてたから「ジェロくんどうしてちゃんとキャッチできるの?!凄い!」って毎回思ってた(笑)。
J:そうなんだよね。だから山本さんが芝居の動きで「こう歩いてきて」って言われても、僕には横が全然見えないから(笑)「僕はまっすぐ歩くんで、そっちで避けてください」ってお願いしたりね!あれは大変だった!(笑)
じゃあ僕からも山本さんに質問していいですか?(Y:「どうぞ」)ジョナサン・ラーソンはもう死んでしまったけれど、彼がもし今生きていたら、この作品について聞けるとしたら、どんなことを聞きたいですか?
Y:う~ん、そうきたか…!(少し考えて)ラーソンはどんな思いでこの作品を作ったか…ね。
この「ttB」は世の中への反発、反骨精神、皮肉やコンプレックスのかたまりがいっぱい詰まってる作品で、それは紛れもなく当時のラーソン自身の思いでもあったんだけど、それから自分の作品が成功するでしょう?こんなふうにブロードウェイだけじゃなくて世界中で上演されるようになって、今聞いてみてどんなふうに自分に響きますか?って聞いてみたいかな。
でも、僕はきっとラーソンがこんな風に答えるんじゃないかなって言うのも想像してて…(J:「どんなふうに?」)
うん、たぶんラーソンはこういうと思うんだよね。(既に成功を収めてしまった)今の自分では考えられない作品だ…って。この「ttB」の成功(1990年)があって「RENT」(1995年)が生まれたわけで、そういう意味では自分(ラーソン)にとっては非常に重要な作品なんだけど、今とこれからを考えた時に、この「tick, tick,…Boom!」という作品は「封印したい」って思ってる…そう思ってるんじゃないかなって、僕は思ってるけど。
J:封印…かあ…。(感慨深げに頷く)
Y:そろそろ時間もおしまいに近づいてきましたが、公演は30日までやっています!今日からまたどんどん僕たちも進化していくので、ぜひ、また「お金に余裕があって」(笑)「お時間にも余裕があったら」(笑)ぜひ!見に来ていただけたらなあと思います。
今日は本当にありがとうございました!(拍手)
~ 全編終了 ~