2012年5月5日 NHK神戸放送局
公開セミナー 大河ドラマ 『平清盛』
ゲスト: 磯智明氏(『平清盛』CP) 山本耕史さん(藤原頼長役)
司 会: 内藤雄介アナ
会 場: 神戸西区民センター 2階大ホール
***********
応募総数1100通超!
北は秋田から参戦!?
内藤アナ(以下N):本日はNHK公開セミナー『平清盛』にお越しいただきありがとうございます。本日の司会を務めますNHK神戸放送局の内藤雄介です。よろしくお願いいたします。
今日の会場の定員は480名。ご応募いただいたハガキ1枚で参加いただける方は最大2名様ですので、当選ハガキをお送りした数は240通になります。この240通のために、なんと全国から1100通を超えるご応募をいただきました!(会場内どよめき)まさに5倍を超える倍率です。
この中で県外からいらっしゃった方は…(前から5列がほとんど挙手)前方が多いですね、では前日泊られた方とか?(複数挙手)…(絶句)…一番遠方に当選ハガキをお送りさせていただいたのは秋田の方でした。(会場内再度どよめき)
今日ここにいらっしゃった皆様は、その競争率を勝ち抜いて、見事いらっしゃった方々です!本当におめでとうございます!(拍手)…ってなんだか結婚式の司会みたいですね(笑)。
それでは本日のゲストをご紹介したいと思います。
(ドラマより抜粋映像)
頼長シーンのオンパレード3分間に会場から悲鳴と歓声が沸きあがる。
映像終了、歓声と拍手とともに山本さん、磯CP登場。
N:山本さん、磯さんはこれまで神戸に来られたことはありますか?
山本耕史さん(以下Y):ありますよ、何度か!舞台で神戸の公演があったり、大阪公演があった時に少し足を伸ばして美味しいものを食べに来たり…
磯CP(以下I):妻の実家が宝塚です。今回『平清盛』をやって神戸の歴史の奥深さを知ることができました。
N:山本さんは、今回の大河では藤原頼長を演じていらっしゃいますが、大河で言うと『新撰組!』の土方役以来ですか?
Y:はい。2004年の作品ですが、2003年から撮り始めていたので8年…9年ぶりくらい?それまでもいくつかNHKの(時代劇)ドラマはさせていただいてますが、大河はあれ以来ですね。
山本耕史が見た
藤原頼長という人物
N:頼長役の話が来た時はどう思われました?
Y:癖のある人ですよね。伝わってるエピソードも多いし、それも濃い話(笑)。
テーマが多い人物なので、演じるアプローチで(視聴者に)それを見せることができる「得な」役だと思いました。
自分の中では頼長はまず「自分の感情よりも、まず国のために、行動も思想も一直線」な人で、実際に動いちゃうから、それが時に大胆な行動に現れる…シュクセイ!とか言ってますしね(笑)。
自分本位でそれがまた力強い役。演じるにあたって、頼長はこういうふうに、ああいうふうに見せよう、というイメージがすぐ自分の中でできました。
N:『陽炎の辻・居眠り磐音』でも侍を演じていらっしゃいましたが、公家の役と言うのは…それも今までの「まじめで、誠実な」役とは違うものですが、そのあたりはどう感じましたか?
あの「公家メイク」が
演技に与えた効果
Y:時代劇っていうのは、かつら、衣装、メイクがあって、その上で(自分が)「こう見える」というのは(ビジュアル)もちろん最初に確認するわけです。
でも今回初めてあの公家衣装とメイクをした時は…いや~、笑っちゃいましたよ。眉も一旦自分の眉をつぶして、置き眉…って描くんですけどね、ああいうふうにやって、最初は「口紅も塗っちゃおうか?」って話してて…今のよりももっと「別世界の」キャラみたいに仕上げようって案もありました。結局それは話し合いの中で止めになって、(唇は)ナチュラルになったんです。
(出来上がりを見て)これは内面が見えないな、と。例えば僕がどんなに(演技として)怖い顔や、スッとした顔をしていても、メイクのせいでその「心うち」が見えない。外見がインパクトありますからね。この公家メイクを利用しよう!と思いました。このメイク、今ではとってもイイ!と思ってます。最初は笑っちゃったけど…。
さっきもね、出てくる前にVTR流れてて、まだ(自分が舞台に)出てもいないのに、何故か笑い声が聞こえてくるじゃないですか。舞台袖で「失礼だなあ」って言ってたんですよ(笑)。でも僕のマネージャーも(見て)笑ってましたから!(会場笑)
N:それでは磯CPにお聞きします。キャスティングに当たって、山本さんに頼長役のオファーを考えたときのことをお聞かせください。
スーパーエリート
としての摂関家
I:藤原頼長と言うのは主人公の清盛にとって大きな壁となって立ちふさがる存在です。敵キャラで言うと「一番強い」、清盛たちにとって越えるべき大きな壁の象徴でもあります。そんな壁だから、大きければ大きいほどいいんです。
先ほどからもお話されていますが、山本さんはお芝居の実力はもちろん、「こういう人物だからこういうふうに見せる」「こういうイメージで」という分析力にも長けていて、とても頭の良い方なので…。
そして当時の摂関家というのは時代のスーパーエリートなんですよね。百年近く政治の中枢に関わってきた一族、それは単なる血筋だけではなく、ものすごい優れた才能を持った人たちの集まる一族でもあったんです。頼長にしてもそうです。当時のエリートであれば、中国語が堪能なのは当たり前、渡ってきたたくさんの書物も原文でサラッと読みこなしてしまう、そんな集団…そのトップが、頼長なんです。
山本さんの演技だけではなく、持っている気品とか…武士の時代に移りつつある過渡期、その前の「貴族の時代の良さ」を表してもらおうと。清盛が主役ですが武士だけを見るのではなく「平安の匂いを演じることができる」…平安時代は品がある良い時代だったと思いますから、それを体現していただくために鳥羽院役の三上博史さんや、璋子役の檀れいさんに出て頂けて、本当にラッキーだったと思っています。こういった俳優さんたちは本当に重要です。こうした方々がいてこそ、ファンが(ドラマに)「入り込む」ことができると思っています。
N:(山本さんに)キャスティングの理由をお聞きになってみて、いかがでしたか?
Y:とてもうれしいです。ありがとうございます。今回公家の役をいただいて、実は僕は歴史詳しくないんです(ええっ?と意外な反応)…だから「(役を)やってみてからわかる」っていうことは多いです。もちろん前もって文献を見たり、ある程度は調べたりしますので、頼長について知っていくにつれ「これはすごく良い役だったんだ!」と思いました。
I:(横からツッコミ)良い役ですよ!(会場笑)
頼長は
「巨大な壁」で「別次元」
Y:それでまず「(藤原頼長とは)何をどうした人だったのか?」というのを調べたんです。そしたら若死にしてて、それまでに本当にいろんなことをやっている。エピソードも多いし、キャラクターも強烈。そして清盛にとって最初の壁となる人物ですよね。「これはいいポジションもらったなー♪」とやりながら気づきました。
N:清盛のライバルとしての大きな存在…?
I:いや、ライバルは玉木くん演じる義朝でしょう?僕はそうじゃなくて、若い清盛のもう何段階も上に居る存在で、いわば別次元。8話から登場するなり、「粛正、粛正」って何回も言ってるし(笑)…なんか次元が違う人が出てきたな、って。こんな人、他に居るのか?!みたいな。
もちろん、摂関家の中にもいろいろありますけどね(笑)…でも、清盛にとっての巨大な壁で、あの8話で対面して、完全に打ちのめされた時の、清盛の台詞「何も言い返せなかった…」というの、ああいう台詞を言わせられるほどの役ですから、思い切り力をこめて演じられますね。理想高くトライできる役でもあります。
I:あの平安末期当時、平家に限らず武士は摂関家の人間から見たら犬、虫も同然で、見下しているんです。その見下す芝居というのが難しい、形通りにやったら「それなりの」ものになるんでしょうが、見下す側の中身が兼ね備わっていないと。お芝居を通じて人間性も感じられるような、何故そういった行動をするのかという動機をも(説明なしで)表現できる、山本さんの頼長にはそこまでのものがあって演じて頂いています。
白塗り・置き眉・お歯黒
これぞ「平安時代」!
N:ありがとうございます。さて、この印象的な公家メイクについて少しお聞きします。映像出ますか?
(スクリーン左:頼長の上半身右:山本さんプロフィール写真)はい、これですね。
Y:あー、こっち(左)が普段の僕なんですが…(ニヤリ)(場内爆笑!)この眉ですけど、これはまず自分の眉を何かロウのようなものを溶かして塗りつぶします。温めて使ってましたから、多分ロウみたいな感じなんでしょうね。眉剃りますか?って聞かれて、最初に自分としては剃っても良かったんです。でも他の仕事もあったなあ…と。役者ですからね、ホラ(笑)…そういえばあれもあったな、この予定も入っていたな、って。
N:剃っちゃったらしばらく人相の悪い役しかできませんねえ(笑)。
Y:(笑)それで、剃るんじゃなくてつぶすことにしました。眉をつぶし終わったら、次にいつもよりは白っぽいドーランというか、ファンデーションで塗っていきます。これも、普段時代劇で侍をやる時は、影をたくさん入れるんです。鼻筋とか、眼、頬…それが一切なし!つるんっとしたままです(笑)。
N:山本さんの顔立ちにはぴったりな気がします(笑)。
Y:で、置き眉ですね。眉をちょんちょんって置く…というか描くんです。
実は言いにくかった
「あのセリフ!」
Y:あとはお歯黒。最初は(黒い色素を)溶かして塗るものだったんですが、あれはしゃべってるうちに取れてしまうんです。実際うまくいったシーンでも(お歯黒が取れて)歯が白くってNGになったシーンがあったんです。それで、もっとちゃんとしたいい方法はないか、って相談して、2回目からはマウスピースに塗ったものを(口に)嵌めるようにしました。
これがまたしゃべりづらくって…いつもの自分の活舌ができない。舌が歯に触るのが1ミリだけ手前になる、たったこれだけのことで人間ってこんなにしゃべりづらいんだ!と思いました。特にサ行…シュクセイ!とか、ほんとに言いづらくって(笑)。
N:メイクや衣装の準備には何分ぐらいかかるんですか?
頼長の衣装は
貴族的「美の象徴」
Y:このメイクが出来上がるのが30~40分で、そこから衣装を着こみます。まずお腹にタオルみたいなのを巻いて、そこから襦袢を着て、さらに着流しみたいなのを着て、オレンジ色のを羽織ります。さらにその上にこの青いやつを羽織るんです。合計でだいたい40~45分でしょうか。
N:こんなにいっぱい着こんで、暑くないんですか?
Y:着てて暑いですよ!動きにくいし。袖も長くって、下ろすと指先よりも30センチくらい下までダランって下がるんです。この時代は手を袖から出してはいけないという決まりがあって、この袖で手を隠すんです。この写真(@スクリーン)も、扇子を持ってるけど手は見えてないでしょう?だからご飯食べるときとか大変で…あ、休憩の時です。大変なので一回脱いでしまいます。
この烏帽子もね、トイレに行ったりするときにもあちこちぶつかるんですよ。全部で2メートル以上になりますから。そういうのに慣れるのが大変でした(笑)。
I:リアリティにこだわると、公家の衣装はすべて「有職故実」という決まりごとによって、地位で着る色が決まっているんです。指定色みたいな。頼長も「頼長カラー」は決まっています。今回人物デザインを担当されている柘植さんは、決まりごとの通りだと画一的になっちゃうので、同じ衣装であっても質感や烏帽子の被り方、その崩し方、といったもので個性を出すようにされています。その中で頼長の着る衣装というのは貴族の美しさの基準、美の象徴という形で表わされています。
N:こういった時代背景や公家役を演じる上で、山本さんはどんなことを考えましたか?
芝居と仕草表現でみる
頼長の「人物イメージ」
Y:今までの時代劇でやってきたのは幕末や江戸時代で、そのあたりのことはだいたい分かっていましたが、今回の時代背景は平安時代から鎌倉時代へと時代が変わっていく過渡期です。だから座り方ひとつ取っても「これ」という決まりは確立していないとか。あと、手を出してはいけないという決まり…もちろん物を取ったりする時は良いんですが、それでも指先だけを少し出す。指の代わりに扇子で物を触ったり。
第8回の登場シーンで、杯の中の菊の花を手で取りのける、って台本にあったんです。でも現場で「手で触ってはいけないんじゃ」とか「頼長っぽく、彼の性格の潔癖さを表すように、指よりも扇子で取りのけるほうが良い」とか、監督とディスカッションをしていって、結局「扇子(の持ち手)で除ける」仕草に決まりました。
N:確かに神経質ですよね…頼長が酒杯を膳に戻した時も、一旦置いて、それが少しでもズレていると、再度直すシーンもありましたね。
Y:そういったところも細かく演じて、頼長という人物(イメージ)を押さえてもらっています。
N:それではここで、映像をご覧ください。
≪第8回『宋銭と左大臣』尋問シーン≫
N:ここは(お歯黒は)マウスピースで?
Y:はい、マウスピースですね。長いシーンで、10分くらいありましたかね。今回はそれを長撮りで(シーンを切らずに)撮っているので、全部最初から最後まで通して10分×4回くらい撮りました。
N:映画みたいですね。
Y:そうですね。
「イヤな奴」でいい、
それ以外要らないと思う
N:しかし…これを見ると本当に頼長って「ヤな奴」ですよね(笑)。
Y:あはは。実は先日、住んでいるマンションの管理人さんに会った時に「ヤなヤツ~」って言われちゃったんですよ(笑)それまでは割と仲良かったのに、この頼長の役があんなのだから(笑)。
N:そのせいで(笑)。
Y:とにかく頼長は外見も、やってることもインパクトがあるんで、全体の登場回数から見ても印象に残るように描かれていますよね。
N:頼長役を演じるにあたっての山本さんの役作りの話をもう少し伺えれば。
Y:今までにも取材などで何度か話していますが、この藤原頼長という人物を演じるにあたって、最初に台本を読んで思ったんです。これは「人間的な部分」は要らないって。
心の振り幅を止めて
演じきった
Y:「(頼長は)ああは言ったけど裏では…」とか「この人も人間なんだよな」とか、そんなキャラクターの振り幅を一切見せない。ただ真っ直ぐに一直線に、ロボットのように。
N:マシンのように?
Y:そう。こいつ人間か?みたいな、別次元の存在。その方が面白いなって。この頼長には同情も、バックグラウンドも、バックボーンも一切要らない。何もない、ただ突っ走る存在。
普通は役を演じる時はあるポイントがあって(同じ役の中に)そこから真逆のポイントがあって、その二つの間の振り幅が役に深みを与えるっていいますし、僕もそう思っていますが、この役に関しては片方のみ!です。
N:いっそ冷血な?
Y:そう。人間ではなくて(漫画などの)キャラクターを演じているというのに近いです。
心の震えや、動揺よりも…ああ、こういう場面もこれからの頼長には出てくるんですが…逆に「何を言われても動じない」という、聞こえてるの?一体何考えてるの?と見る側が答えを出せない存在として、頼長を演じました。振り幅を止めて、止め切ったまま演じ切った!という感じです。
N:平安時代というのは誰も見たことがないわけですし、いわばファンタジーの世界ですよね。
Y:そうですね。そのドラマの中でも清盛はすごく「人間らしい」んです。そういう意味でも、人間同士の対決ではなく、とても強大で「何か不思議な力が働いてるんじゃないか」と思う敵で、清盛たちがそんな相手に対して一致団結しないととても立ち向かえないほどの存在ですね。何かどっかの島のボスみたいな…普段行かないんだけど。そんな敵を倒さないといけない…あ、僕前にこういう役やったことありましたね?(場内笑 ※映画「彼岸島」で不死身の吸血鬼の総帥を演じた。)
怪演というか、人とは逆に演じています。
だから頼長は
最期まで優しく笑うことはない
Y:保元の乱が起こり、頼長は戦いに臨むんですが、その後に実はこんなことがあった、というエピソードが入ります…そこに至るまで、彼が優しく笑ったりすることはありません。亡くなった後に、初めてその人間性があらわになるんです。イヤな奴なのにこんな面があったんだ、って。
I:あのシーンは本当に感動的です!編集で上がってきてますけど、もう見てて「頼長でこんなに泣けるなんて!」って。
Y:泣けますよね!第22回でしたっけ、あれは。(磯Pとやたら盛りあがっている)
N:えっと…すっかり私たち置いてかれて、そっちで盛りあがっていらっしゃいますが(笑)22回っていうとあと5回もあるじゃないですか!待ちきれませんよ!(笑)
I:この時代の中で間違いなく頼長は「時代を象徴する」重要な人物の一人です。山本さんがキャラを演じることで、頼長に「こういう人だ!」という説得力がさらに備わりましたね。
先程の第8話のシーンでも、清盛が博多で見てきたことや、宋銭のことなんかも、頼長は全部分かってるんです。膨大な量の本を読んで、学才は非常に高い。清盛の言ってることなんか「何だコイツ」くらいにしか思っていないんです。でも、当時の貴族というのはこういうもの。「そういうものなんだ」っていう圧倒的な存在で、清盛が「何も言い返せなかった」と打ちのめされる…いわばこの国の頂点なわけで。ああいったシーンで山本さんなりにこの役のツボをよくつかんでいる、と思います。
松山ケンイチの
第一印象は・・・?
N:山本さんは松山ケンイチさんと共演されたことは?
Y:あります。NHKの「マチベン」というドラマで、僕は江角マキコさん演じる弁護士の傍にいる弁護士の役だったんですが、その1話で彼が犯人役だったんです。「何だか、のぺーっとでっかい男の子」それが「よろしく」って来た。あの頃彼は20か、21くらいだったのかな?ちょっととがった感じで、「オレに触れたらケガするぜ」(笑)みたいな。もう「この子怖ぁーいっ!」って!(会場爆笑)自分のテリトリーってものを持った若い子で、印象的でした。大きくなって会って、覚えてる?って話しかけたら「はい。昔ドラゴンボールの絵を描いてもらいました」って!そういうことしかないか?(笑)
N:鳥山明先生と勘違いしてますかね?(笑)
Y:(笑)それで「今いくつ?」って聞いたらまだ27だって。27というと僕が『新撰組!』をやっていたころ。まだほんとに若いのに、いろんな作品出て…。
将棋をしても
やっぱり頼長VS清盛
Y:ある時に撮影の待ち時間で将棋をやろうと思ったんです。それで周りにいる方に「将棋やりませんか?」って聞いて回ったんですが(忠実役の)國村さんも「やらないなあ」って…誰もできる人がいなかったんです。
そしたら松山くんが「僕少しやりますよ」っていうんで。ちょうどさっきの第8話の撮影の最中でした。撮影の合間に打ってて、最終的には僕が勝ったんですが、彼、思ったより上手くて。次で詰むなあ…って思う場面でも僕はわざと「あ…そこは…ねぇ?」とか言って長引かせて、結局松山くんが詰んだんです。
その時に、彼が「このシーン(尋問)と一緒だ!(分かってるなら)すぐ言えーって思うのに、周りから固めて、最後詰むって感じ」(笑)ドラマと一緒で「自分は何もできなかった、だから次はリベンジしたい」って言ってました。じゃあ今度また…と言いながら、結局次の機会はなかったんです。
それでも2人が将棋してると、面白いですね、人って攻められてる方に集まるんです。だから最終的には松山クンの後ろに8人くらい集まっちゃって、僕はまるで1対8で相手にしてるみたいで(笑)その中に上手い人がいるんですよ。その人がある手で「うん?」とか言いかけるから、僕が(相手を軽く睨んで首を振って)「ううーーん!」って(教えちゃダメ!と)言ったり(笑)。
N:ドラマの中でも外でも清盛に立ちふさがる存在なんですね(笑)。
≪第10回『義清散る』尋問シーン≫
≪第14回『祇園闘乱事件』朝議シーン≫
N:今のシーンからも、頼長たち旧勢力が武士と対決姿勢を鮮明にしていくのがうかがえますが、頼長自身の理想、思いとはどんなものだったのでしょう。
山本耕史の感じた
頼長の理想、思い
Y:そうですね。今でもひとつのことに対していろんな考え方があるじゃないですか、目的は一緒でも…。片方でゆとりや余裕を持って進めていこうとする人もいれば、完全に排除して、一本で行く!という人も。それが内乱に繋がっていく。
頼長は後者で、そういう気持ちが強いし、自分で行動をどんどん起こしていく、だから敵も増える…そこが頼長のすごさで、切ないところでもありますね。そこをもう少し引けば、もう少し何か他の手段を考えられたら、と思うことがありましたし、そういう意味ではかわいそうな感じはします。でも、そこを突き通すカリスマ性…カリスマというか、頼長って「いい人だった」とは言われない人ですよね?敵が多いから。それでも頼長の「国のために」という思い、それ故に人とぶつかって、それを乗り越えて、さらには挫折し、滅びに至るんですが…ひとつのきっかけとして戦も起こしていくんだと。彼はやり方はどうであれ、自分の理想を行動に移したんです。口先だけじゃない。
N:そう聞くと、頼長の印象が変わってきますね。イヤな奴というより、何か不器用な…。
Y:頼長は「独りで突き進む力」は強い人だけど、「人を巻き込んで、ついて来させる力」は弱かった、というか、そういうことができなかったんだと思います。家盛とかも、ホラ、結局押し倒しちゃうし…(場内大爆笑!)
N:押し倒してましたね~!(笑)あれは第14話でしたか。
≪第14話『家盛決起』頼長・家盛シーン≫
≪第15話『嵐の中の一門』美福門院邸廊下シーン≫
N:この一連のシーンに対してですが…(場内再度爆笑)
Y:一連のシーンですか!(笑)実は(この第15話は)僕のクランクインの日だったんです。
I:そうそう。
クランクインの日にいきなり忠盛と対決!
Y:初めて頼長になってスタジオに入った日にいきなり忠盛(中井貴一さん)とのシーンで。あの場面はもういろいろ起こった後のシーンでしょ?台本読んで「どうしよう!」と思いました。
N:ちなみに、この時は(マウスピースでなく)お歯黒ですか?
Y:そうです、お歯黒でした。自分で今のシーン見ても「何か頼長を掴みきれてないな」と思います。声の出し方とかね。もちろん初日だったんで、監督とディスカッションしながら「こういう感じ?」とすり合わせをしながら撮影していました。
N:そうすると、ある意味手さぐり的な?
「自分の中の頼長」を
絞って固めていく現場
Y:いやイメージは自分の中でちゃんとあったんです。でもそこは話し合って。ここは声のトーンが高いかな?2トーンくらい…最近は「ゆっくりしゃべる」のと、低めに声を出したり…(ここで急に声を変えて)「い え も り よ」とか。
N:あ!頼長がいるッ!!!(場内爆笑&拍手)
Y:(笑)ただ、このシーンは「あれ(家盛の死)からもう1年が経ったな」だから良かったんですよね。その間にいろいろ変わっていくだろうし…最初に登場した時は17~18歳の役、ここ第16話で30歳。そう思うと、ひとつの役を長いスパンで演じているんですよ。年齢を重ねて変わる部分はもちろんあるとして、でも続けて見ている視聴者は「あれ?」と思う部分もあるかもしれない。そこはあんまり変えても…ね。(自分の中の)頼長の最初のイメージをどんどん絞って固めていく、その作業の初日でした。しかもその初日からものすごいしゃべらされて…あ、しゃべらされるなんて言っちゃいけないですけど、頼長って出てくるとずーっとしゃべってるんですよ。あの場面でも、台本に6行・6行・3行・4行と来てまた6行…とか。その間の忠盛は「・・・てんてんてん(沈黙)」ばっかりで(笑)。
N:鼻をぴくぴくさせてるだけだったり(笑)。
Y:そう。震えている、とか(ト書きには)書いてあるんですけど。結構緊張しましたよ!
視聴者とともに、
その役も成長していく
N:山本さんは段階を踏んで役に入り込みをされるのでしょうか。今回の頼長役はどういった役作りをされましたか?また、その方法論はどんなものでしょう?
Y:頭から考えて、完成まで作り込んでいく…というのもありますが…。
ただ長く続いてる人気マンガ、いわゆる人気長寿漫画というのがありますよね?良い作品と言われてるもので、1巻と最終巻の絵柄が変わってない、という作品はありません。読者と一緒に(作品も)成長していくんです。
役作りも同じで「オレはこうだー!」をあまりやると「最初からやり過ぎ?」「いきなり凄いところから入ってきた?」ってなっちゃうこともあるので、そこは周囲とのバランスを見ながら(役を)作っていく…だから最初(のシーン)が違うんです。それでいいと思っています。役とともに、視聴者とともに成長していく、ということで。(自分の中の役の)イメージはあります。でも、表現や固め方は現場でどんどん変わっていく。その方がいいですね。
N:周りとの「呼吸」もありますね。
Y:だから、松山くん演じる清盛との絡みも、最初と後の方では違っている、違うように演じているつもりです。このあたり、どう伝わってるのかな?もしも(大河が終わって)打ち上げとかあるんだったら聞いてみたいですね、どうだった?って。あ…でもその前に僕が(打ち上げに)呼んでもらえたら、の話ですけど…(ちょっとさみしそうだったので、会場内爆笑!)。
「すごい人の中にいる」撮影の現場
N:中井貴一さんや國村隼さんと一緒に演じてみられて、いかがですか?何か影響は受けましたか?
Y:すごい人の中でしゃべってるんだな、と思います。中井さん、國村さんもそうですが、鳥羽院…三上博史さん、(忠通役の)堀部さん、(信西役の阿部)サダヲさん…。役として「ゆっくりしゃべる」というのを心がけているんですが(台詞の)間を取るのが申し訳なくなってくるんです。それで何となく早く自分の台詞を言い切ってしまうこともあって、そうすると今度は監督から「あー、今の所はもうちょっとゆっくりで」って言われたり(笑)長台詞は早く終わらせたい一心で…頼長はいつも「いっぱいしゃべって」ますから。
三上博史さんと國村隼さん
N:共演される方とのお芝居、リアクションはどうですか?
Y:リアクションがすごいのは三上さんですね!もう「ぐわぁーーーーっ!」と来る感じ(笑)。
N:台詞がなくても三上さんは目力がすごいですよね。血走ってたりして。
Y:そうなんです。僕が何か台詞を言うと、三上さんがぐわーっときて、そこへ國村さんがふわあ~って入ってきて。この3人で食事をした時は楽しかったですよ!
N:どんな話をされたんですか?
鳥羽院は全てが計算!
忠実パパには…驚愕!
Y:そこで言われたのが「(自分が)ほとんどNGを出さない」っていうことです。
長台詞で長撮りだったら(NGを)出すこともありますが、出してそこでNGではなくて、長いシーンの中でそれがバレないように立て直すんです。
すごい方の中でお芝居をしているプレッシャーというか、迷惑をかけたくないんです。だから「落ち着いてるね」って言われるんですが、心中は間逆で…(笑)。でも國村さんは「何にも考えてない」んです!(爆笑)それでふわ~っと。
逆に三上さんは全てが計算。自分が出てるシーンも出てないシーンも全部見ています。その上で、このシーンで自分がどう映ったらいいか、どんな芝居をしたらいいか、と考えて仕掛けてくる。
でも、國村さんはたぶん自分がどう映ってるかもわかってない!(場内大爆笑)
N:対照的なお二人ですね。
Y:(笑)だから、一人芝居は楽ですよ。自分だけで出来ますから。でも、いろんな人がいて、その人たちの時間を使って「間」もあるわけで…そうすると早くしゃべりたくなるんです。それで「もっとゆっくり」「スミマセン」…と。チキン野郎なんですよ(笑)周囲に気をつかっちゃう。でも、そういうヘビー級の人とお芝居をしている中で、自分もまた揉まれて強くなっていくんだろうな、とは思います。
誰もが目を奪われた、
山本頼長・初登場の日
I:山本さんのクランクインの日のことですが、NHKのスタジオで撮影をしていると、上のドラマ部のフロアでモニターを見ることができるんです。その日はモニターの前に人だかりができていたんです。皆、画面に見入っていました。「別次元」「何だかすごい人が出てきた」って。特にアップで映ったあの横顔の怖さ、皆が息を止めていましたね。取り憑かれたように…。
信西と頼長、
阿部サダヲと山本耕史
I:そういえば阿部サダヲさんが「山本さんと演るのが楽しい!」と言っていました。彼は「耕史くん」と呼んでるんですが(笑)そのあたり、山本さんからはどうですか?
Y:ええっ!そんなこと言われて「いや、僕は…」なんて言えないですよ!(笑)
NHKの大河の撮影は1週間で4日間撮影して、最初の1日は終日リハをやるんです。次の日から撮るシーンを全部。その時に僕は阿部さんとのシーンが多いんです。
阿部さんとはどこか、出発点というか…大切にしているところが似ているような気がします。そしてあの顔ぶれの中での芝居でしょう。二人で「これ端から見るとすごいことだよ…」「すごい中に混ざっちゃった…」と話しているんです。まさに「ノミの心臓」の二人(笑)。
人間性を感じさせない、
理解不能な二人
Y:(頼長と信西という)僕たちの役はどこか人間性を感じさせない、普通では理解不能な所が似ていますよね。自分で自分の台詞にちょっと笑ってしまうこともあります。
例えば第8話で頼長が漢詩を朗読していたら、信西が入ってきて、その後読もうと思っていたところをすらすらと言っちゃうシーンがありました。「富と貴きとは、是人の欲する所なり。其の道を以てこれを得ざれば、処らざるなり…」っていうやつです。この読み合わせる所がもう、めちゃくちゃ可笑しいんですよ!だって二人とも「言ってること分かんない!」(爆笑)もう「何言ってんの?」ですよ?稽古でも頼長と信西は物凄く頭が良い設定で、そういう台詞も多いんですけど、実は二人とも学がないから全然台詞の意味が分かんないんです。それが可笑しくて…(笑)。阿部さんはナチュラルにやってるように見えるけど、自分と(芝居が)似てますね。
Y:(二人のシーンで)僕が「こう行きます」といくと上手くはまりました。逆に「こうします」「じゃあ僕はこうで」ってこともあったり、リラックスして自分のやりたいことをできました。
空気感…というんでしょうか。(演技で)自分は相手に「譲るタイプ」なんですが、阿部さんはアプローチとか、芝居の受け方、こうしたい、ということが言い易いです。芝居で目指すシーンや掴みどころが似ているのかもしれません。同じ所をフィーチャーしていると言いますか。
頼長と信西 幻の名場面では…
Y:そういえば、信西が出家するシーンがあったんですけれど、放送ではカットされてました(笑)。このシーンの撮影は二人でスタジオに入って、その間他の出演者の方は待たせた状態だったんです。で、最初頼長は「出家するなど許さぬ」って言ってて、そのうち全然違う漢詩の話をして、最後は何か二人で泣いてるんです(笑)意味が分かんないんですよ、もう何か…「このシーン、要る?!話(の本筋)と関係ないし!」って監督にその場で聞いてしまって。そしたら「いや、こういう話がちゃんと史実に残ってるんです」と言われて…阿部さんが「もう号泣で行く?」僕も「もう力技で?」って話し合って、それなら力技で号泣するしかない!って芝居したのに、丸々カットされちゃって!(爆)何時間も撮ったのに!(会場爆笑)
N:何時間も・・・(笑)。
Y:でもカットされてて「ちくしょう」とは思わないです、それは作品全体が面白くなるためだから。ただ、阿部さんとは「やっぱりね」って言ってました(笑)。
N:こうなったらDVDではカットされてしまった場面も入れたディレクターズカット版が欲しいですね!(拍手)
I:(信西の出家を止めるシーンは)二人とも一生懸命で、すごく良いシーンになってたのに…
台詞が何ひとつわからなかったって…(笑)でも、脚本の藤本由紀さんがあのシーンをカットしたことにすごく怒ってました(笑)。普段はそんなこと全然おっしゃらない方なんですが。
≪第16回『さらば父上』朱器台盤強奪シーン≫
忠実「ハッハッハッ…これを…そなたに授けたかった…」
頼長「父上のご温情、しかと頂きましてございます」
Y:(画面を指さして)國村さん、何にも考えてないっすよ!(場内大爆笑)
≪第17回『平家の棟梁』歌会シーン≫
N:朱器台盤というのは何でしょうか?
I:朱器台盤というのは藤原摂関家嫡流に伝わる代々の重宝で、これを受け継ぐことで氏の長者として一族のトップに立てる、そういったものです。
Y:(國村さんは)ああいう感じですけど(笑)そのままですごい時代劇なんですよね。僕の場合は自分の中の何かひとつ
ふたつに色をつけて、それで芝居をするものですが、國村さんは「まんま」なんです。そのまましゃべって、あの平安という時代に溶け込んでる。力の抜き方がすごいんです。僕もいつかこのくらいになりたいな…と思います。凄くニュートラルに演ってると思います。
摂関家の行く末と
頼長の突き進む道
N:このシーンでも見えてきましたが、前回は頼長と兄忠通との仲が悪くなる一方で、清盛が一族の結束を示したエピソードでしたね。摂関家の今後はどうなっていくんでしょう?
Y:それを(頼長)本人が気づいているかどうか…今はまだそんなに出ていませんが、頼長は今後の第18話、19話で暴走していきます。父ともぶつかり、院とも…。
本人がそれすらもわかっているのかそうでないのか、気づかずに(暴走して)行ったのか…そこが面白いところです。
結果として頼長は政から外されます。その「排除された」状態で絶望するのか、それとも逆にメラメラと燃え上がってきているのか…(外から見ると)微妙に分からない、そんなふうに演じました。(放映を)見るのが楽しみです。
自分は役者だから
演技が自己確立になる
N:今の映像もそうですが、こうして客観的にTVを見てどう思われますか?ヤな奴だなって思いますか?
Y:(頼長を演じているのは)自分ですからねえ…かわいらしいですよ(笑)。でも「憎たらしい!」って思ってもらえるか、さっきの管理人さんじゃないけど、それが成功していたらよかったなと思います。役者は(演じている役によって)そう思われて何ぼじゃないですか。役によってイメージが変わる。そうでないといけないと思っています。
N:役によっていろいろ…だと、逆に素の自分というのは?
Y:自分の素とか、ニュートラルな所って何か。自分は俳優で、実はそれを離れた「プライベートの山本耕史はどうあるべきか」なんて興味がないんです。僕の場合は演じた役が「ホント」になる、それが「よかった!」と思って、そして自己確立になっていくわけですから。役と自分は同じですよ。
N:それではここで明日放送の第19回より、予告と予告には入っていなかった未公開映像を含めたシーンをご覧いただきます。(会場から歓声+拍手)
≪第19回『誕生、後白河帝』予告+頼長のシーンを追加≫
出番が少なくても
セリフは多い!長い!
Y:(頼長の)暴走が始まってますね…実はこの話、頼長はこの2つくらいしか台詞がなくて、ラクでした。
頼長って1話に多い時で4,5シーンくらい、たくさんは出てこないんです。さっきも言いましたが1週間で4日間撮影するうち、2~2.5話分くらいになるでしょうか。なるべく(役者が)出番を撮り終えられるようにスケジュールを詰めて入れてくれるんですね。
そのかわり頼長は1シーンごとにすっごくしゃべるから、台詞多くて…(苦笑)しかも長台詞ばっかり!撮影の合間に次の台本、例えば10話とか見て(自分の出るシーンと台詞に)「うわーっ」と思って「パタッ」と本を閉じる。そして今度は11話の台本見て、また「うっわーっ」って…(笑)いやいや逃げてる場合じゃない、さっきのシーン…とか(笑)大変でした。
N:現実逃避しちゃいますか。
Y:頭じゃなくて身体に入れちゃわないと、台詞が出てこないですよ!頭で覚えると、考えて台詞を口に出す間にどうにかなっちゃう。しかも頼長の台詞には確実に、全ての台詞に「意志」があるんです。それをきっちり伝える役でもあるので、目を瞑ってようが、言ってる最中に肩を誰かに叩かれようが、口から台詞が出る状態にしておかないといけない。
あ…家盛とのシーンは…(爆笑)意外にあの時は考えながら(台詞を)しゃべっていましたね。「どっちで言った方が打ちのめせるか」とか、ネチネチ、ゆっくりと…(笑)他は「糺していく」シーンが多かったので。どちらにしても時間がかかりました。
時代劇ならではのセリフの苦労
N:そういえば、忠通の台詞で「~おじゃる」っていうのがあって、僕はそれを聞いた時に「おお、公家はホントに『おじゃる』って言うんだ!」って思ったんですけど(笑)時代劇の台詞というのは独特ですよね。以前お話したことのある、明子役の加藤あいさんも「現代劇と違って台詞を自分なりにアレンジできないから大変」とおっしゃっていました。それを山本さんはNG出されないのですから、すごいですね。
Y:台詞を覚えるのは基本ですから。違いは、今回はアドリブが一切ないことでしょうか。何個か時代劇をやっていると、時代の差はあっても語尾が「~ござりまする」ならOKかな、とか分かってくるんですが。でも(経験の少ない)若い俳優さんには、アドリブで「ござりまする」なんて入れたら自分の方が動揺しちゃう(そして台詞がNGになる)こともあるかと。台詞の流れってありますよね、そこで違うものが入ると「あっ間違えたな!?」って一瞬ですが考えちゃうんです。シーンは一回で撮っていますから「しまった!」と思った時、それをそのままにしているとダメで、躓いたらすぐに(同じシーンの中で)立て直して持っていかないと。そういうのも今までやってきたこと(経験)なのか、ハートのものなのか…。「今のシーン、合ってたかな?」と思ったまま最後まで撮って、OK出されちゃうのが嫌なんです。「えっ、今ので良いんですか?もう一回お願いします!」って言いたくなりますから。でも、僕は監督からOKが出たら自分からはもう一回、とは言わないんです。そういう人もいますけど、僕は監督がOKならALL OKなんだって。他人が見てOKなんですからね。自分じゃない。でも、そこにいくまでの精神的なものなんです。不安定なままはいやだから(芝居を)磨いておきたいですね。
今後の見どころ
あの「名脇役」にも注目?
I:頼長と信西との芝居は間違いなく見どころです。
保元の乱は第21回から始まります。ドラマが大きく動きますし、頼長と信西の対立の構図も鮮明に描かれます。
頼長も信西もそれぞれの陣営で軍師としての役を務めるのですが、そのシーンがカットバックで入っていって、互いに「相手をどう攻めるか」のくだりや、乱が終わった後の(二人の)芝居の変わり方は見事です。
普通、戦いであれば勝った側の話に主軸が置かれますが、この場合は実力がありながら敗者になる者がいた…その頼長の芝居と、彼が亡くなった知らせを聞いた信西が「ある行動」をしているのですが、この場面ですね。
I:あの鸚鵡も大事な芝居をしていますよ!見どころのひとつです!(笑)
Y:そうそう、鸚鵡!(笑)
☆☆☆ 本編終了 ☆☆☆
質問を受けてのコメント
扱いづらい男色と三親等内の近親婚をキッチリ描いたことに関して。
Y:だって、それ抜きには語れない時代でしょう?幕末もそうだけど…。
ただ自分としては「そこまでは出さないだろう」と思っていたので、台本を貰って読んでみたら結構描かれてたんで(笑)「お、やるな」「すごいな!」と思ったのは確かです。「こういう時代だったんだ」という背景をちゃんと届けていますよね。陽と陰、二つの要素があるとしたら、陽だけを描くのではなく陰もちゃんと対比させているのが良いと思います。
山本さんに対する賛辞をぜひ、と求められて。
I:これまでも主演で何本も演じていらっしゃるし、一方で脇で光る演技をされることもある。センターの芝居も癖のある役もできる役者さんですよね。それが自然体で、お芝居にも振り幅がある。さっきからお話されているように、分析力というか、役をすごく考えていて勉強熱心だし、いつも「役をどう演じればいいか」というのを考えてらっしゃいますね。
NHKの夏のBS時代劇で『薄桜記』というドラマをやりますが、山本さんはその主役です。
先日クランクインしたんですよね?
Y:はい。片手の剣豪役で…丹下左膳じゃなくって、左手を斬られてしまった剣豪の丹下典膳という役です。
これが『清盛』がクランクアップして、もうすごく感動して「ありがとう!」って言いながら衣装部屋とかスタジオを出ていった次の日がクランクインで(笑)。昨日のアレは何だったんだって言うくらい普通に「おはようございまーす」って来てました。(会場笑)
共演した俳優さんの舞台は見に行くか?
Y:三上さんが初代で自分が二代目だった『ヘドウィグ』、今度森山未来くんがやりますよね。共演者の中には舞台で活躍されている人も多いので、お互いに「次こんなのやるんだよ」ってチラシを持ってきたり、日程が合うようなら見に行きたいな、と考えたりします。三上さんと言えば、お芝居の組み立て方がすごく緻密で、全て計算しつくして積み上げていくお芝居です。そんな三上さんと、ふわ~っとした國村さんが一緒にいたりして(笑)。僕はお芝居もそうですが、役を離れた役者さんたちが普段どんな出で立ちでいるのかな?ということにすごく興味があるんです。だから、そっちにアンテナを張っている時が多いですね。お芝居よりも、その反動で「この人はどんな服着るんだろう」とか、そういったことも含めて。
今後の見所をぜひご紹介ください。
Y:まず、自分は『平清盛』でまた大河の現場に戻ってきて、8年間の時の流れを感じることも多かったです。昔は若手だったスタッフが、今ではちょっとした責任ある地位についていたり、自分から動けるようになっていたり…そういった顔見知りのスタッフからも「おかえり!」と声をかけてもらったり。
頼長は物語の途中で舞台を去りますが、頼長のほかにも清盛や、他のたくさんの登場人物たちの生き様というものを1年間通して見る、というのはものすごいエネルギーを得られることだと思います。登場人物の持つ力…その力が今度は見返りというか、見る側の力になる。だから絶対に最後まで(ドラマを)追っていってください。
近いところでは保元の乱ですね。第21話から始まります。(井浦)新さん演じる崇徳上皇とのお芝居も、頼長とは真逆の存在としてのぶつかり合いです。新さんとはお芝居をしていて、やっぱり似た感じがするんです。でもアプローチが違う崇徳上皇と頼長ですから、お互いに「キッチリ(芝居をして)行きましょう!」と言っていました。
N:今日はありがとうございました。(拍手)
<全編終了>
公開セミナー 大河ドラマ 『平清盛』
ゲスト: 磯智明氏(『平清盛』CP) 山本耕史さん(藤原頼長役)
司 会: 内藤雄介アナ
会 場: 神戸西区民センター 2階大ホール
***********
応募総数1100通超!
北は秋田から参戦!?
内藤アナ(以下N):本日はNHK公開セミナー『平清盛』にお越しいただきありがとうございます。本日の司会を務めますNHK神戸放送局の内藤雄介です。よろしくお願いいたします。
今日の会場の定員は480名。ご応募いただいたハガキ1枚で参加いただける方は最大2名様ですので、当選ハガキをお送りした数は240通になります。この240通のために、なんと全国から1100通を超えるご応募をいただきました!(会場内どよめき)まさに5倍を超える倍率です。
この中で県外からいらっしゃった方は…(前から5列がほとんど挙手)前方が多いですね、では前日泊られた方とか?(複数挙手)…(絶句)…一番遠方に当選ハガキをお送りさせていただいたのは秋田の方でした。(会場内再度どよめき)
今日ここにいらっしゃった皆様は、その競争率を勝ち抜いて、見事いらっしゃった方々です!本当におめでとうございます!(拍手)…ってなんだか結婚式の司会みたいですね(笑)。
それでは本日のゲストをご紹介したいと思います。
(ドラマより抜粋映像)
頼長シーンのオンパレード3分間に会場から悲鳴と歓声が沸きあがる。
映像終了、歓声と拍手とともに山本さん、磯CP登場。
N:山本さん、磯さんはこれまで神戸に来られたことはありますか?
山本耕史さん(以下Y):ありますよ、何度か!舞台で神戸の公演があったり、大阪公演があった時に少し足を伸ばして美味しいものを食べに来たり…
磯CP(以下I):妻の実家が宝塚です。今回『平清盛』をやって神戸の歴史の奥深さを知ることができました。
N:山本さんは、今回の大河では藤原頼長を演じていらっしゃいますが、大河で言うと『新撰組!』の土方役以来ですか?
Y:はい。2004年の作品ですが、2003年から撮り始めていたので8年…9年ぶりくらい?それまでもいくつかNHKの(時代劇)ドラマはさせていただいてますが、大河はあれ以来ですね。
山本耕史が見た
藤原頼長という人物
N:頼長役の話が来た時はどう思われました?
Y:癖のある人ですよね。伝わってるエピソードも多いし、それも濃い話(笑)。
テーマが多い人物なので、演じるアプローチで(視聴者に)それを見せることができる「得な」役だと思いました。
自分の中では頼長はまず「自分の感情よりも、まず国のために、行動も思想も一直線」な人で、実際に動いちゃうから、それが時に大胆な行動に現れる…シュクセイ!とか言ってますしね(笑)。
自分本位でそれがまた力強い役。演じるにあたって、頼長はこういうふうに、ああいうふうに見せよう、というイメージがすぐ自分の中でできました。
N:『陽炎の辻・居眠り磐音』でも侍を演じていらっしゃいましたが、公家の役と言うのは…それも今までの「まじめで、誠実な」役とは違うものですが、そのあたりはどう感じましたか?
あの「公家メイク」が
演技に与えた効果
Y:時代劇っていうのは、かつら、衣装、メイクがあって、その上で(自分が)「こう見える」というのは(ビジュアル)もちろん最初に確認するわけです。
でも今回初めてあの公家衣装とメイクをした時は…いや~、笑っちゃいましたよ。眉も一旦自分の眉をつぶして、置き眉…って描くんですけどね、ああいうふうにやって、最初は「口紅も塗っちゃおうか?」って話してて…今のよりももっと「別世界の」キャラみたいに仕上げようって案もありました。結局それは話し合いの中で止めになって、(唇は)ナチュラルになったんです。
(出来上がりを見て)これは内面が見えないな、と。例えば僕がどんなに(演技として)怖い顔や、スッとした顔をしていても、メイクのせいでその「心うち」が見えない。外見がインパクトありますからね。この公家メイクを利用しよう!と思いました。このメイク、今ではとってもイイ!と思ってます。最初は笑っちゃったけど…。
さっきもね、出てくる前にVTR流れてて、まだ(自分が舞台に)出てもいないのに、何故か笑い声が聞こえてくるじゃないですか。舞台袖で「失礼だなあ」って言ってたんですよ(笑)。でも僕のマネージャーも(見て)笑ってましたから!(会場笑)
N:それでは磯CPにお聞きします。キャスティングに当たって、山本さんに頼長役のオファーを考えたときのことをお聞かせください。
スーパーエリート
としての摂関家
I:藤原頼長と言うのは主人公の清盛にとって大きな壁となって立ちふさがる存在です。敵キャラで言うと「一番強い」、清盛たちにとって越えるべき大きな壁の象徴でもあります。そんな壁だから、大きければ大きいほどいいんです。
先ほどからもお話されていますが、山本さんはお芝居の実力はもちろん、「こういう人物だからこういうふうに見せる」「こういうイメージで」という分析力にも長けていて、とても頭の良い方なので…。
そして当時の摂関家というのは時代のスーパーエリートなんですよね。百年近く政治の中枢に関わってきた一族、それは単なる血筋だけではなく、ものすごい優れた才能を持った人たちの集まる一族でもあったんです。頼長にしてもそうです。当時のエリートであれば、中国語が堪能なのは当たり前、渡ってきたたくさんの書物も原文でサラッと読みこなしてしまう、そんな集団…そのトップが、頼長なんです。
山本さんの演技だけではなく、持っている気品とか…武士の時代に移りつつある過渡期、その前の「貴族の時代の良さ」を表してもらおうと。清盛が主役ですが武士だけを見るのではなく「平安の匂いを演じることができる」…平安時代は品がある良い時代だったと思いますから、それを体現していただくために鳥羽院役の三上博史さんや、璋子役の檀れいさんに出て頂けて、本当にラッキーだったと思っています。こういった俳優さんたちは本当に重要です。こうした方々がいてこそ、ファンが(ドラマに)「入り込む」ことができると思っています。
N:(山本さんに)キャスティングの理由をお聞きになってみて、いかがでしたか?
Y:とてもうれしいです。ありがとうございます。今回公家の役をいただいて、実は僕は歴史詳しくないんです(ええっ?と意外な反応)…だから「(役を)やってみてからわかる」っていうことは多いです。もちろん前もって文献を見たり、ある程度は調べたりしますので、頼長について知っていくにつれ「これはすごく良い役だったんだ!」と思いました。
I:(横からツッコミ)良い役ですよ!(会場笑)
頼長は
「巨大な壁」で「別次元」
Y:それでまず「(藤原頼長とは)何をどうした人だったのか?」というのを調べたんです。そしたら若死にしてて、それまでに本当にいろんなことをやっている。エピソードも多いし、キャラクターも強烈。そして清盛にとって最初の壁となる人物ですよね。「これはいいポジションもらったなー♪」とやりながら気づきました。
N:清盛のライバルとしての大きな存在…?
I:いや、ライバルは玉木くん演じる義朝でしょう?僕はそうじゃなくて、若い清盛のもう何段階も上に居る存在で、いわば別次元。8話から登場するなり、「粛正、粛正」って何回も言ってるし(笑)…なんか次元が違う人が出てきたな、って。こんな人、他に居るのか?!みたいな。
もちろん、摂関家の中にもいろいろありますけどね(笑)…でも、清盛にとっての巨大な壁で、あの8話で対面して、完全に打ちのめされた時の、清盛の台詞「何も言い返せなかった…」というの、ああいう台詞を言わせられるほどの役ですから、思い切り力をこめて演じられますね。理想高くトライできる役でもあります。
I:あの平安末期当時、平家に限らず武士は摂関家の人間から見たら犬、虫も同然で、見下しているんです。その見下す芝居というのが難しい、形通りにやったら「それなりの」ものになるんでしょうが、見下す側の中身が兼ね備わっていないと。お芝居を通じて人間性も感じられるような、何故そういった行動をするのかという動機をも(説明なしで)表現できる、山本さんの頼長にはそこまでのものがあって演じて頂いています。
白塗り・置き眉・お歯黒
これぞ「平安時代」!
N:ありがとうございます。さて、この印象的な公家メイクについて少しお聞きします。映像出ますか?
(スクリーン左:頼長の上半身右:山本さんプロフィール写真)はい、これですね。
Y:あー、こっち(左)が普段の僕なんですが…(ニヤリ)(場内爆笑!)この眉ですけど、これはまず自分の眉を何かロウのようなものを溶かして塗りつぶします。温めて使ってましたから、多分ロウみたいな感じなんでしょうね。眉剃りますか?って聞かれて、最初に自分としては剃っても良かったんです。でも他の仕事もあったなあ…と。役者ですからね、ホラ(笑)…そういえばあれもあったな、この予定も入っていたな、って。
N:剃っちゃったらしばらく人相の悪い役しかできませんねえ(笑)。
Y:(笑)それで、剃るんじゃなくてつぶすことにしました。眉をつぶし終わったら、次にいつもよりは白っぽいドーランというか、ファンデーションで塗っていきます。これも、普段時代劇で侍をやる時は、影をたくさん入れるんです。鼻筋とか、眼、頬…それが一切なし!つるんっとしたままです(笑)。
N:山本さんの顔立ちにはぴったりな気がします(笑)。
Y:で、置き眉ですね。眉をちょんちょんって置く…というか描くんです。
実は言いにくかった
「あのセリフ!」
Y:あとはお歯黒。最初は(黒い色素を)溶かして塗るものだったんですが、あれはしゃべってるうちに取れてしまうんです。実際うまくいったシーンでも(お歯黒が取れて)歯が白くってNGになったシーンがあったんです。それで、もっとちゃんとしたいい方法はないか、って相談して、2回目からはマウスピースに塗ったものを(口に)嵌めるようにしました。
これがまたしゃべりづらくって…いつもの自分の活舌ができない。舌が歯に触るのが1ミリだけ手前になる、たったこれだけのことで人間ってこんなにしゃべりづらいんだ!と思いました。特にサ行…シュクセイ!とか、ほんとに言いづらくって(笑)。
N:メイクや衣装の準備には何分ぐらいかかるんですか?
頼長の衣装は
貴族的「美の象徴」
Y:このメイクが出来上がるのが30~40分で、そこから衣装を着こみます。まずお腹にタオルみたいなのを巻いて、そこから襦袢を着て、さらに着流しみたいなのを着て、オレンジ色のを羽織ります。さらにその上にこの青いやつを羽織るんです。合計でだいたい40~45分でしょうか。
N:こんなにいっぱい着こんで、暑くないんですか?
Y:着てて暑いですよ!動きにくいし。袖も長くって、下ろすと指先よりも30センチくらい下までダランって下がるんです。この時代は手を袖から出してはいけないという決まりがあって、この袖で手を隠すんです。この写真(@スクリーン)も、扇子を持ってるけど手は見えてないでしょう?だからご飯食べるときとか大変で…あ、休憩の時です。大変なので一回脱いでしまいます。
この烏帽子もね、トイレに行ったりするときにもあちこちぶつかるんですよ。全部で2メートル以上になりますから。そういうのに慣れるのが大変でした(笑)。
I:リアリティにこだわると、公家の衣装はすべて「有職故実」という決まりごとによって、地位で着る色が決まっているんです。指定色みたいな。頼長も「頼長カラー」は決まっています。今回人物デザインを担当されている柘植さんは、決まりごとの通りだと画一的になっちゃうので、同じ衣装であっても質感や烏帽子の被り方、その崩し方、といったもので個性を出すようにされています。その中で頼長の着る衣装というのは貴族の美しさの基準、美の象徴という形で表わされています。
N:こういった時代背景や公家役を演じる上で、山本さんはどんなことを考えましたか?
芝居と仕草表現でみる
頼長の「人物イメージ」
Y:今までの時代劇でやってきたのは幕末や江戸時代で、そのあたりのことはだいたい分かっていましたが、今回の時代背景は平安時代から鎌倉時代へと時代が変わっていく過渡期です。だから座り方ひとつ取っても「これ」という決まりは確立していないとか。あと、手を出してはいけないという決まり…もちろん物を取ったりする時は良いんですが、それでも指先だけを少し出す。指の代わりに扇子で物を触ったり。
第8回の登場シーンで、杯の中の菊の花を手で取りのける、って台本にあったんです。でも現場で「手で触ってはいけないんじゃ」とか「頼長っぽく、彼の性格の潔癖さを表すように、指よりも扇子で取りのけるほうが良い」とか、監督とディスカッションをしていって、結局「扇子(の持ち手)で除ける」仕草に決まりました。
N:確かに神経質ですよね…頼長が酒杯を膳に戻した時も、一旦置いて、それが少しでもズレていると、再度直すシーンもありましたね。
Y:そういったところも細かく演じて、頼長という人物(イメージ)を押さえてもらっています。
N:それではここで、映像をご覧ください。
≪第8回『宋銭と左大臣』尋問シーン≫
N:ここは(お歯黒は)マウスピースで?
Y:はい、マウスピースですね。長いシーンで、10分くらいありましたかね。今回はそれを長撮りで(シーンを切らずに)撮っているので、全部最初から最後まで通して10分×4回くらい撮りました。
N:映画みたいですね。
Y:そうですね。
「イヤな奴」でいい、
それ以外要らないと思う
N:しかし…これを見ると本当に頼長って「ヤな奴」ですよね(笑)。
Y:あはは。実は先日、住んでいるマンションの管理人さんに会った時に「ヤなヤツ~」って言われちゃったんですよ(笑)それまでは割と仲良かったのに、この頼長の役があんなのだから(笑)。
N:そのせいで(笑)。
Y:とにかく頼長は外見も、やってることもインパクトがあるんで、全体の登場回数から見ても印象に残るように描かれていますよね。
N:頼長役を演じるにあたっての山本さんの役作りの話をもう少し伺えれば。
Y:今までにも取材などで何度か話していますが、この藤原頼長という人物を演じるにあたって、最初に台本を読んで思ったんです。これは「人間的な部分」は要らないって。
心の振り幅を止めて
演じきった
Y:「(頼長は)ああは言ったけど裏では…」とか「この人も人間なんだよな」とか、そんなキャラクターの振り幅を一切見せない。ただ真っ直ぐに一直線に、ロボットのように。
N:マシンのように?
Y:そう。こいつ人間か?みたいな、別次元の存在。その方が面白いなって。この頼長には同情も、バックグラウンドも、バックボーンも一切要らない。何もない、ただ突っ走る存在。
普通は役を演じる時はあるポイントがあって(同じ役の中に)そこから真逆のポイントがあって、その二つの間の振り幅が役に深みを与えるっていいますし、僕もそう思っていますが、この役に関しては片方のみ!です。
N:いっそ冷血な?
Y:そう。人間ではなくて(漫画などの)キャラクターを演じているというのに近いです。
心の震えや、動揺よりも…ああ、こういう場面もこれからの頼長には出てくるんですが…逆に「何を言われても動じない」という、聞こえてるの?一体何考えてるの?と見る側が答えを出せない存在として、頼長を演じました。振り幅を止めて、止め切ったまま演じ切った!という感じです。
N:平安時代というのは誰も見たことがないわけですし、いわばファンタジーの世界ですよね。
Y:そうですね。そのドラマの中でも清盛はすごく「人間らしい」んです。そういう意味でも、人間同士の対決ではなく、とても強大で「何か不思議な力が働いてるんじゃないか」と思う敵で、清盛たちがそんな相手に対して一致団結しないととても立ち向かえないほどの存在ですね。何かどっかの島のボスみたいな…普段行かないんだけど。そんな敵を倒さないといけない…あ、僕前にこういう役やったことありましたね?(場内笑 ※映画「彼岸島」で不死身の吸血鬼の総帥を演じた。)
怪演というか、人とは逆に演じています。
だから頼長は
最期まで優しく笑うことはない
Y:保元の乱が起こり、頼長は戦いに臨むんですが、その後に実はこんなことがあった、というエピソードが入ります…そこに至るまで、彼が優しく笑ったりすることはありません。亡くなった後に、初めてその人間性があらわになるんです。イヤな奴なのにこんな面があったんだ、って。
I:あのシーンは本当に感動的です!編集で上がってきてますけど、もう見てて「頼長でこんなに泣けるなんて!」って。
Y:泣けますよね!第22回でしたっけ、あれは。(磯Pとやたら盛りあがっている)
N:えっと…すっかり私たち置いてかれて、そっちで盛りあがっていらっしゃいますが(笑)22回っていうとあと5回もあるじゃないですか!待ちきれませんよ!(笑)
I:この時代の中で間違いなく頼長は「時代を象徴する」重要な人物の一人です。山本さんがキャラを演じることで、頼長に「こういう人だ!」という説得力がさらに備わりましたね。
先程の第8話のシーンでも、清盛が博多で見てきたことや、宋銭のことなんかも、頼長は全部分かってるんです。膨大な量の本を読んで、学才は非常に高い。清盛の言ってることなんか「何だコイツ」くらいにしか思っていないんです。でも、当時の貴族というのはこういうもの。「そういうものなんだ」っていう圧倒的な存在で、清盛が「何も言い返せなかった」と打ちのめされる…いわばこの国の頂点なわけで。ああいったシーンで山本さんなりにこの役のツボをよくつかんでいる、と思います。
松山ケンイチの
第一印象は・・・?
N:山本さんは松山ケンイチさんと共演されたことは?
Y:あります。NHKの「マチベン」というドラマで、僕は江角マキコさん演じる弁護士の傍にいる弁護士の役だったんですが、その1話で彼が犯人役だったんです。「何だか、のぺーっとでっかい男の子」それが「よろしく」って来た。あの頃彼は20か、21くらいだったのかな?ちょっととがった感じで、「オレに触れたらケガするぜ」(笑)みたいな。もう「この子怖ぁーいっ!」って!(会場爆笑)自分のテリトリーってものを持った若い子で、印象的でした。大きくなって会って、覚えてる?って話しかけたら「はい。昔ドラゴンボールの絵を描いてもらいました」って!そういうことしかないか?(笑)
N:鳥山明先生と勘違いしてますかね?(笑)
Y:(笑)それで「今いくつ?」って聞いたらまだ27だって。27というと僕が『新撰組!』をやっていたころ。まだほんとに若いのに、いろんな作品出て…。
将棋をしても
やっぱり頼長VS清盛
Y:ある時に撮影の待ち時間で将棋をやろうと思ったんです。それで周りにいる方に「将棋やりませんか?」って聞いて回ったんですが(忠実役の)國村さんも「やらないなあ」って…誰もできる人がいなかったんです。
そしたら松山くんが「僕少しやりますよ」っていうんで。ちょうどさっきの第8話の撮影の最中でした。撮影の合間に打ってて、最終的には僕が勝ったんですが、彼、思ったより上手くて。次で詰むなあ…って思う場面でも僕はわざと「あ…そこは…ねぇ?」とか言って長引かせて、結局松山くんが詰んだんです。
その時に、彼が「このシーン(尋問)と一緒だ!(分かってるなら)すぐ言えーって思うのに、周りから固めて、最後詰むって感じ」(笑)ドラマと一緒で「自分は何もできなかった、だから次はリベンジしたい」って言ってました。じゃあ今度また…と言いながら、結局次の機会はなかったんです。
それでも2人が将棋してると、面白いですね、人って攻められてる方に集まるんです。だから最終的には松山クンの後ろに8人くらい集まっちゃって、僕はまるで1対8で相手にしてるみたいで(笑)その中に上手い人がいるんですよ。その人がある手で「うん?」とか言いかけるから、僕が(相手を軽く睨んで首を振って)「ううーーん!」って(教えちゃダメ!と)言ったり(笑)。
N:ドラマの中でも外でも清盛に立ちふさがる存在なんですね(笑)。
≪第10回『義清散る』尋問シーン≫
≪第14回『祇園闘乱事件』朝議シーン≫
N:今のシーンからも、頼長たち旧勢力が武士と対決姿勢を鮮明にしていくのがうかがえますが、頼長自身の理想、思いとはどんなものだったのでしょう。
山本耕史の感じた
頼長の理想、思い
Y:そうですね。今でもひとつのことに対していろんな考え方があるじゃないですか、目的は一緒でも…。片方でゆとりや余裕を持って進めていこうとする人もいれば、完全に排除して、一本で行く!という人も。それが内乱に繋がっていく。
頼長は後者で、そういう気持ちが強いし、自分で行動をどんどん起こしていく、だから敵も増える…そこが頼長のすごさで、切ないところでもありますね。そこをもう少し引けば、もう少し何か他の手段を考えられたら、と思うことがありましたし、そういう意味ではかわいそうな感じはします。でも、そこを突き通すカリスマ性…カリスマというか、頼長って「いい人だった」とは言われない人ですよね?敵が多いから。それでも頼長の「国のために」という思い、それ故に人とぶつかって、それを乗り越えて、さらには挫折し、滅びに至るんですが…ひとつのきっかけとして戦も起こしていくんだと。彼はやり方はどうであれ、自分の理想を行動に移したんです。口先だけじゃない。
N:そう聞くと、頼長の印象が変わってきますね。イヤな奴というより、何か不器用な…。
Y:頼長は「独りで突き進む力」は強い人だけど、「人を巻き込んで、ついて来させる力」は弱かった、というか、そういうことができなかったんだと思います。家盛とかも、ホラ、結局押し倒しちゃうし…(場内大爆笑!)
N:押し倒してましたね~!(笑)あれは第14話でしたか。
≪第14話『家盛決起』頼長・家盛シーン≫
≪第15話『嵐の中の一門』美福門院邸廊下シーン≫
N:この一連のシーンに対してですが…(場内再度爆笑)
Y:一連のシーンですか!(笑)実は(この第15話は)僕のクランクインの日だったんです。
I:そうそう。
クランクインの日にいきなり忠盛と対決!
Y:初めて頼長になってスタジオに入った日にいきなり忠盛(中井貴一さん)とのシーンで。あの場面はもういろいろ起こった後のシーンでしょ?台本読んで「どうしよう!」と思いました。
N:ちなみに、この時は(マウスピースでなく)お歯黒ですか?
Y:そうです、お歯黒でした。自分で今のシーン見ても「何か頼長を掴みきれてないな」と思います。声の出し方とかね。もちろん初日だったんで、監督とディスカッションしながら「こういう感じ?」とすり合わせをしながら撮影していました。
N:そうすると、ある意味手さぐり的な?
「自分の中の頼長」を
絞って固めていく現場
Y:いやイメージは自分の中でちゃんとあったんです。でもそこは話し合って。ここは声のトーンが高いかな?2トーンくらい…最近は「ゆっくりしゃべる」のと、低めに声を出したり…(ここで急に声を変えて)「い え も り よ」とか。
N:あ!頼長がいるッ!!!(場内爆笑&拍手)
Y:(笑)ただ、このシーンは「あれ(家盛の死)からもう1年が経ったな」だから良かったんですよね。その間にいろいろ変わっていくだろうし…最初に登場した時は17~18歳の役、ここ第16話で30歳。そう思うと、ひとつの役を長いスパンで演じているんですよ。年齢を重ねて変わる部分はもちろんあるとして、でも続けて見ている視聴者は「あれ?」と思う部分もあるかもしれない。そこはあんまり変えても…ね。(自分の中の)頼長の最初のイメージをどんどん絞って固めていく、その作業の初日でした。しかもその初日からものすごいしゃべらされて…あ、しゃべらされるなんて言っちゃいけないですけど、頼長って出てくるとずーっとしゃべってるんですよ。あの場面でも、台本に6行・6行・3行・4行と来てまた6行…とか。その間の忠盛は「・・・てんてんてん(沈黙)」ばっかりで(笑)。
N:鼻をぴくぴくさせてるだけだったり(笑)。
Y:そう。震えている、とか(ト書きには)書いてあるんですけど。結構緊張しましたよ!
視聴者とともに、
その役も成長していく
N:山本さんは段階を踏んで役に入り込みをされるのでしょうか。今回の頼長役はどういった役作りをされましたか?また、その方法論はどんなものでしょう?
Y:頭から考えて、完成まで作り込んでいく…というのもありますが…。
ただ長く続いてる人気マンガ、いわゆる人気長寿漫画というのがありますよね?良い作品と言われてるもので、1巻と最終巻の絵柄が変わってない、という作品はありません。読者と一緒に(作品も)成長していくんです。
役作りも同じで「オレはこうだー!」をあまりやると「最初からやり過ぎ?」「いきなり凄いところから入ってきた?」ってなっちゃうこともあるので、そこは周囲とのバランスを見ながら(役を)作っていく…だから最初(のシーン)が違うんです。それでいいと思っています。役とともに、視聴者とともに成長していく、ということで。(自分の中の役の)イメージはあります。でも、表現や固め方は現場でどんどん変わっていく。その方がいいですね。
N:周りとの「呼吸」もありますね。
Y:だから、松山くん演じる清盛との絡みも、最初と後の方では違っている、違うように演じているつもりです。このあたり、どう伝わってるのかな?もしも(大河が終わって)打ち上げとかあるんだったら聞いてみたいですね、どうだった?って。あ…でもその前に僕が(打ち上げに)呼んでもらえたら、の話ですけど…(ちょっとさみしそうだったので、会場内爆笑!)。
「すごい人の中にいる」撮影の現場
N:中井貴一さんや國村隼さんと一緒に演じてみられて、いかがですか?何か影響は受けましたか?
Y:すごい人の中でしゃべってるんだな、と思います。中井さん、國村さんもそうですが、鳥羽院…三上博史さん、(忠通役の)堀部さん、(信西役の阿部)サダヲさん…。役として「ゆっくりしゃべる」というのを心がけているんですが(台詞の)間を取るのが申し訳なくなってくるんです。それで何となく早く自分の台詞を言い切ってしまうこともあって、そうすると今度は監督から「あー、今の所はもうちょっとゆっくりで」って言われたり(笑)長台詞は早く終わらせたい一心で…頼長はいつも「いっぱいしゃべって」ますから。
三上博史さんと國村隼さん
N:共演される方とのお芝居、リアクションはどうですか?
Y:リアクションがすごいのは三上さんですね!もう「ぐわぁーーーーっ!」と来る感じ(笑)。
N:台詞がなくても三上さんは目力がすごいですよね。血走ってたりして。
Y:そうなんです。僕が何か台詞を言うと、三上さんがぐわーっときて、そこへ國村さんがふわあ~って入ってきて。この3人で食事をした時は楽しかったですよ!
N:どんな話をされたんですか?
鳥羽院は全てが計算!
忠実パパには…驚愕!
Y:そこで言われたのが「(自分が)ほとんどNGを出さない」っていうことです。
長台詞で長撮りだったら(NGを)出すこともありますが、出してそこでNGではなくて、長いシーンの中でそれがバレないように立て直すんです。
すごい方の中でお芝居をしているプレッシャーというか、迷惑をかけたくないんです。だから「落ち着いてるね」って言われるんですが、心中は間逆で…(笑)。でも國村さんは「何にも考えてない」んです!(爆笑)それでふわ~っと。
逆に三上さんは全てが計算。自分が出てるシーンも出てないシーンも全部見ています。その上で、このシーンで自分がどう映ったらいいか、どんな芝居をしたらいいか、と考えて仕掛けてくる。
でも、國村さんはたぶん自分がどう映ってるかもわかってない!(場内大爆笑)
N:対照的なお二人ですね。
Y:(笑)だから、一人芝居は楽ですよ。自分だけで出来ますから。でも、いろんな人がいて、その人たちの時間を使って「間」もあるわけで…そうすると早くしゃべりたくなるんです。それで「もっとゆっくり」「スミマセン」…と。チキン野郎なんですよ(笑)周囲に気をつかっちゃう。でも、そういうヘビー級の人とお芝居をしている中で、自分もまた揉まれて強くなっていくんだろうな、とは思います。
誰もが目を奪われた、
山本頼長・初登場の日
I:山本さんのクランクインの日のことですが、NHKのスタジオで撮影をしていると、上のドラマ部のフロアでモニターを見ることができるんです。その日はモニターの前に人だかりができていたんです。皆、画面に見入っていました。「別次元」「何だかすごい人が出てきた」って。特にアップで映ったあの横顔の怖さ、皆が息を止めていましたね。取り憑かれたように…。
信西と頼長、
阿部サダヲと山本耕史
I:そういえば阿部サダヲさんが「山本さんと演るのが楽しい!」と言っていました。彼は「耕史くん」と呼んでるんですが(笑)そのあたり、山本さんからはどうですか?
Y:ええっ!そんなこと言われて「いや、僕は…」なんて言えないですよ!(笑)
NHKの大河の撮影は1週間で4日間撮影して、最初の1日は終日リハをやるんです。次の日から撮るシーンを全部。その時に僕は阿部さんとのシーンが多いんです。
阿部さんとはどこか、出発点というか…大切にしているところが似ているような気がします。そしてあの顔ぶれの中での芝居でしょう。二人で「これ端から見るとすごいことだよ…」「すごい中に混ざっちゃった…」と話しているんです。まさに「ノミの心臓」の二人(笑)。
人間性を感じさせない、
理解不能な二人
Y:(頼長と信西という)僕たちの役はどこか人間性を感じさせない、普通では理解不能な所が似ていますよね。自分で自分の台詞にちょっと笑ってしまうこともあります。
例えば第8話で頼長が漢詩を朗読していたら、信西が入ってきて、その後読もうと思っていたところをすらすらと言っちゃうシーンがありました。「富と貴きとは、是人の欲する所なり。其の道を以てこれを得ざれば、処らざるなり…」っていうやつです。この読み合わせる所がもう、めちゃくちゃ可笑しいんですよ!だって二人とも「言ってること分かんない!」(爆笑)もう「何言ってんの?」ですよ?稽古でも頼長と信西は物凄く頭が良い設定で、そういう台詞も多いんですけど、実は二人とも学がないから全然台詞の意味が分かんないんです。それが可笑しくて…(笑)。阿部さんはナチュラルにやってるように見えるけど、自分と(芝居が)似てますね。
Y:(二人のシーンで)僕が「こう行きます」といくと上手くはまりました。逆に「こうします」「じゃあ僕はこうで」ってこともあったり、リラックスして自分のやりたいことをできました。
空気感…というんでしょうか。(演技で)自分は相手に「譲るタイプ」なんですが、阿部さんはアプローチとか、芝居の受け方、こうしたい、ということが言い易いです。芝居で目指すシーンや掴みどころが似ているのかもしれません。同じ所をフィーチャーしていると言いますか。
頼長と信西 幻の名場面では…
Y:そういえば、信西が出家するシーンがあったんですけれど、放送ではカットされてました(笑)。このシーンの撮影は二人でスタジオに入って、その間他の出演者の方は待たせた状態だったんです。で、最初頼長は「出家するなど許さぬ」って言ってて、そのうち全然違う漢詩の話をして、最後は何か二人で泣いてるんです(笑)意味が分かんないんですよ、もう何か…「このシーン、要る?!話(の本筋)と関係ないし!」って監督にその場で聞いてしまって。そしたら「いや、こういう話がちゃんと史実に残ってるんです」と言われて…阿部さんが「もう号泣で行く?」僕も「もう力技で?」って話し合って、それなら力技で号泣するしかない!って芝居したのに、丸々カットされちゃって!(爆)何時間も撮ったのに!(会場爆笑)
N:何時間も・・・(笑)。
Y:でもカットされてて「ちくしょう」とは思わないです、それは作品全体が面白くなるためだから。ただ、阿部さんとは「やっぱりね」って言ってました(笑)。
N:こうなったらDVDではカットされてしまった場面も入れたディレクターズカット版が欲しいですね!(拍手)
I:(信西の出家を止めるシーンは)二人とも一生懸命で、すごく良いシーンになってたのに…
台詞が何ひとつわからなかったって…(笑)でも、脚本の藤本由紀さんがあのシーンをカットしたことにすごく怒ってました(笑)。普段はそんなこと全然おっしゃらない方なんですが。
≪第16回『さらば父上』朱器台盤強奪シーン≫
忠実「ハッハッハッ…これを…そなたに授けたかった…」
頼長「父上のご温情、しかと頂きましてございます」
Y:(画面を指さして)國村さん、何にも考えてないっすよ!(場内大爆笑)
≪第17回『平家の棟梁』歌会シーン≫
N:朱器台盤というのは何でしょうか?
I:朱器台盤というのは藤原摂関家嫡流に伝わる代々の重宝で、これを受け継ぐことで氏の長者として一族のトップに立てる、そういったものです。
Y:(國村さんは)ああいう感じですけど(笑)そのままですごい時代劇なんですよね。僕の場合は自分の中の何かひとつ
ふたつに色をつけて、それで芝居をするものですが、國村さんは「まんま」なんです。そのまましゃべって、あの平安という時代に溶け込んでる。力の抜き方がすごいんです。僕もいつかこのくらいになりたいな…と思います。凄くニュートラルに演ってると思います。
摂関家の行く末と
頼長の突き進む道
N:このシーンでも見えてきましたが、前回は頼長と兄忠通との仲が悪くなる一方で、清盛が一族の結束を示したエピソードでしたね。摂関家の今後はどうなっていくんでしょう?
Y:それを(頼長)本人が気づいているかどうか…今はまだそんなに出ていませんが、頼長は今後の第18話、19話で暴走していきます。父ともぶつかり、院とも…。
本人がそれすらもわかっているのかそうでないのか、気づかずに(暴走して)行ったのか…そこが面白いところです。
結果として頼長は政から外されます。その「排除された」状態で絶望するのか、それとも逆にメラメラと燃え上がってきているのか…(外から見ると)微妙に分からない、そんなふうに演じました。(放映を)見るのが楽しみです。
自分は役者だから
演技が自己確立になる
N:今の映像もそうですが、こうして客観的にTVを見てどう思われますか?ヤな奴だなって思いますか?
Y:(頼長を演じているのは)自分ですからねえ…かわいらしいですよ(笑)。でも「憎たらしい!」って思ってもらえるか、さっきの管理人さんじゃないけど、それが成功していたらよかったなと思います。役者は(演じている役によって)そう思われて何ぼじゃないですか。役によってイメージが変わる。そうでないといけないと思っています。
N:役によっていろいろ…だと、逆に素の自分というのは?
Y:自分の素とか、ニュートラルな所って何か。自分は俳優で、実はそれを離れた「プライベートの山本耕史はどうあるべきか」なんて興味がないんです。僕の場合は演じた役が「ホント」になる、それが「よかった!」と思って、そして自己確立になっていくわけですから。役と自分は同じですよ。
N:それではここで明日放送の第19回より、予告と予告には入っていなかった未公開映像を含めたシーンをご覧いただきます。(会場から歓声+拍手)
≪第19回『誕生、後白河帝』予告+頼長のシーンを追加≫
出番が少なくても
セリフは多い!長い!
Y:(頼長の)暴走が始まってますね…実はこの話、頼長はこの2つくらいしか台詞がなくて、ラクでした。
頼長って1話に多い時で4,5シーンくらい、たくさんは出てこないんです。さっきも言いましたが1週間で4日間撮影するうち、2~2.5話分くらいになるでしょうか。なるべく(役者が)出番を撮り終えられるようにスケジュールを詰めて入れてくれるんですね。
そのかわり頼長は1シーンごとにすっごくしゃべるから、台詞多くて…(苦笑)しかも長台詞ばっかり!撮影の合間に次の台本、例えば10話とか見て(自分の出るシーンと台詞に)「うわーっ」と思って「パタッ」と本を閉じる。そして今度は11話の台本見て、また「うっわーっ」って…(笑)いやいや逃げてる場合じゃない、さっきのシーン…とか(笑)大変でした。
N:現実逃避しちゃいますか。
Y:頭じゃなくて身体に入れちゃわないと、台詞が出てこないですよ!頭で覚えると、考えて台詞を口に出す間にどうにかなっちゃう。しかも頼長の台詞には確実に、全ての台詞に「意志」があるんです。それをきっちり伝える役でもあるので、目を瞑ってようが、言ってる最中に肩を誰かに叩かれようが、口から台詞が出る状態にしておかないといけない。
あ…家盛とのシーンは…(爆笑)意外にあの時は考えながら(台詞を)しゃべっていましたね。「どっちで言った方が打ちのめせるか」とか、ネチネチ、ゆっくりと…(笑)他は「糺していく」シーンが多かったので。どちらにしても時間がかかりました。
時代劇ならではのセリフの苦労
N:そういえば、忠通の台詞で「~おじゃる」っていうのがあって、僕はそれを聞いた時に「おお、公家はホントに『おじゃる』って言うんだ!」って思ったんですけど(笑)時代劇の台詞というのは独特ですよね。以前お話したことのある、明子役の加藤あいさんも「現代劇と違って台詞を自分なりにアレンジできないから大変」とおっしゃっていました。それを山本さんはNG出されないのですから、すごいですね。
Y:台詞を覚えるのは基本ですから。違いは、今回はアドリブが一切ないことでしょうか。何個か時代劇をやっていると、時代の差はあっても語尾が「~ござりまする」ならOKかな、とか分かってくるんですが。でも(経験の少ない)若い俳優さんには、アドリブで「ござりまする」なんて入れたら自分の方が動揺しちゃう(そして台詞がNGになる)こともあるかと。台詞の流れってありますよね、そこで違うものが入ると「あっ間違えたな!?」って一瞬ですが考えちゃうんです。シーンは一回で撮っていますから「しまった!」と思った時、それをそのままにしているとダメで、躓いたらすぐに(同じシーンの中で)立て直して持っていかないと。そういうのも今までやってきたこと(経験)なのか、ハートのものなのか…。「今のシーン、合ってたかな?」と思ったまま最後まで撮って、OK出されちゃうのが嫌なんです。「えっ、今ので良いんですか?もう一回お願いします!」って言いたくなりますから。でも、僕は監督からOKが出たら自分からはもう一回、とは言わないんです。そういう人もいますけど、僕は監督がOKならALL OKなんだって。他人が見てOKなんですからね。自分じゃない。でも、そこにいくまでの精神的なものなんです。不安定なままはいやだから(芝居を)磨いておきたいですね。
今後の見どころ
あの「名脇役」にも注目?
I:頼長と信西との芝居は間違いなく見どころです。
保元の乱は第21回から始まります。ドラマが大きく動きますし、頼長と信西の対立の構図も鮮明に描かれます。
頼長も信西もそれぞれの陣営で軍師としての役を務めるのですが、そのシーンがカットバックで入っていって、互いに「相手をどう攻めるか」のくだりや、乱が終わった後の(二人の)芝居の変わり方は見事です。
普通、戦いであれば勝った側の話に主軸が置かれますが、この場合は実力がありながら敗者になる者がいた…その頼長の芝居と、彼が亡くなった知らせを聞いた信西が「ある行動」をしているのですが、この場面ですね。
I:あの鸚鵡も大事な芝居をしていますよ!見どころのひとつです!(笑)
Y:そうそう、鸚鵡!(笑)
☆☆☆ 本編終了 ☆☆☆
質問を受けてのコメント
扱いづらい男色と三親等内の近親婚をキッチリ描いたことに関して。
Y:だって、それ抜きには語れない時代でしょう?幕末もそうだけど…。
ただ自分としては「そこまでは出さないだろう」と思っていたので、台本を貰って読んでみたら結構描かれてたんで(笑)「お、やるな」「すごいな!」と思ったのは確かです。「こういう時代だったんだ」という背景をちゃんと届けていますよね。陽と陰、二つの要素があるとしたら、陽だけを描くのではなく陰もちゃんと対比させているのが良いと思います。
山本さんに対する賛辞をぜひ、と求められて。
I:これまでも主演で何本も演じていらっしゃるし、一方で脇で光る演技をされることもある。センターの芝居も癖のある役もできる役者さんですよね。それが自然体で、お芝居にも振り幅がある。さっきからお話されているように、分析力というか、役をすごく考えていて勉強熱心だし、いつも「役をどう演じればいいか」というのを考えてらっしゃいますね。
NHKの夏のBS時代劇で『薄桜記』というドラマをやりますが、山本さんはその主役です。
先日クランクインしたんですよね?
Y:はい。片手の剣豪役で…丹下左膳じゃなくって、左手を斬られてしまった剣豪の丹下典膳という役です。
これが『清盛』がクランクアップして、もうすごく感動して「ありがとう!」って言いながら衣装部屋とかスタジオを出ていった次の日がクランクインで(笑)。昨日のアレは何だったんだって言うくらい普通に「おはようございまーす」って来てました。(会場笑)
共演した俳優さんの舞台は見に行くか?
Y:三上さんが初代で自分が二代目だった『ヘドウィグ』、今度森山未来くんがやりますよね。共演者の中には舞台で活躍されている人も多いので、お互いに「次こんなのやるんだよ」ってチラシを持ってきたり、日程が合うようなら見に行きたいな、と考えたりします。三上さんと言えば、お芝居の組み立て方がすごく緻密で、全て計算しつくして積み上げていくお芝居です。そんな三上さんと、ふわ~っとした國村さんが一緒にいたりして(笑)。僕はお芝居もそうですが、役を離れた役者さんたちが普段どんな出で立ちでいるのかな?ということにすごく興味があるんです。だから、そっちにアンテナを張っている時が多いですね。お芝居よりも、その反動で「この人はどんな服着るんだろう」とか、そういったことも含めて。
今後の見所をぜひご紹介ください。
Y:まず、自分は『平清盛』でまた大河の現場に戻ってきて、8年間の時の流れを感じることも多かったです。昔は若手だったスタッフが、今ではちょっとした責任ある地位についていたり、自分から動けるようになっていたり…そういった顔見知りのスタッフからも「おかえり!」と声をかけてもらったり。
頼長は物語の途中で舞台を去りますが、頼長のほかにも清盛や、他のたくさんの登場人物たちの生き様というものを1年間通して見る、というのはものすごいエネルギーを得られることだと思います。登場人物の持つ力…その力が今度は見返りというか、見る側の力になる。だから絶対に最後まで(ドラマを)追っていってください。
近いところでは保元の乱ですね。第21話から始まります。(井浦)新さん演じる崇徳上皇とのお芝居も、頼長とは真逆の存在としてのぶつかり合いです。新さんとはお芝居をしていて、やっぱり似た感じがするんです。でもアプローチが違う崇徳上皇と頼長ですから、お互いに「キッチリ(芝居をして)行きましょう!」と言っていました。
N:今日はありがとうございました。(拍手)
<全編終了>