徒然草庵 (別館)

人、木石にあらねば時にとりて物に感ずる事無きに非ず。
旅・舞台・ドラマ・映画・コンサート等の記録と感想がメインです。

七月大歌舞伎

2014年07月22日 | 舞台
オトナの夏休み(笑)で遊びまわっていた三連休の最終日は、いつもの友人と連れ立って歌舞伎座へ行きました。
今回は夜の部(16:30~21:00)で3作品です。


公式HP 演目と出演者一覧(敬称略)、各作品のあらすじ
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2014/07/post_77-ProgramAndCast.html
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2014/07/post_77-Highlight.html


一、猿翁十種の内 悪太郎
   
悪太郎     市川右近
修行者智蓮坊  猿弥
太郎冠者    弘太郎
伯父安木松之丞 亀鶴


二、修禅寺物語
   
夜叉王    中車
源頼家    月乃助
修禅寺の僧  寿猿
妹娘楓    春猿
姉娘桂    笑三郎
春彦     亀鶴


三、天守物語
   
天守夫人富姫 玉三郎
姫川図書之助 海老蔵
舌長姥    門之助
薄      吉弥
亀姫     尾上右近
朱の盤坊   猿弥
山隅九平   市川右近
小田原修理  中車
近江之丞桃六 我當





『修善寺物語』は岡本綺堂、『天守物語』は泉鏡花の戯曲をもとにした新歌舞伎と言われるジャンルのもので、古典とは全く異質の、むしろ現代で言う「時代劇」に近い感じです。今までとは違う目新しさやら、色々な意味での違和感があるやら…ただ、役者さんそれぞれの個性の引き立ち方も古典とは違っていて面白いな、と興味深く観ていました。両方とも原作は「青空文庫」で読めますので、観に行かれる方は一度目を通されるのもよいかもしれません。



一作目の『悪太郎』は狂言が元になっているせいか、コミカル。序盤がかなり冗長にも感じますが、後半悪太郎が伯父の安木松之丞とその従者太郎冠者に「こらしめ」の細工をされてからがものすごく面白い!踊り舞う姿も4名それぞれの色合いが際立っていて、鉦を叩きながら絶妙のリズム感で舞台狭しと踊るさまは、幕見席に目立った外国人の観客にも大受けでした。こういう時、芝居や歌舞は言葉を越えて伝わるものなんだなあ、としみじみ思います。



二作目は鎌倉初期に題材を取った『修善寺物語』。
岡本綺堂自身の序文を引用すると「伊豆の修禅寺に頼家の面(おもて)というあり。作人も知れず。由来もしれず。木彫の仮面(めん)にて、年を経たるまま面目分明ならねど、いわゆる古色蒼然たるもの、観来たって一種の詩趣をおぼゆ。当時を追懐してこの稿成る。」――数年前に修善寺温泉から天城峠付近を旅した時に見た頼家殉難の地や蒲冠者こと源範頼の墓など、歴史好きならではのリアリティーが迫るシナリオです。歌舞伎の持つ舞台設定と、衣装、メイク、台詞回し…どれも見事なまでに「嵌っていた」と思います。

ところでこの話、主役は市川中車(=香川照之)さん。「今回は120%澤瀉屋と中車さんのための演目と配役だねぇ」と友人とも話していましたが、やはり見ていると「古典ではちょっと厳しい所があるのだろうな…」と思わずにはいられませんでした。一方で、こうした現代に通じる新しい作品では、彼の持つ芝居力というか、俳優としての才能はやはり場所を変えてもガッツリ活きている!と感じるわけです。

月乃助さんの頼家の気性の激しい美しさと、妹娘を演じる春猿さんの可憐さ、姉娘役の笑三郎さんの誇り高い自意識…伝統的な歌舞伎テイストはこっちのほうで堪能するとして、面作師「伊豆の夜叉王」に関しては、あの衝撃的なラストシーンをスーパークライマックスとして「あ~、やっぱり香川さんの芝居だなあ…」というのが偽らざる感想でした。むしろ原作の戯曲をそのまま現代劇として演じさせたらもっと行きつくところまで行った芝居になってめちゃくちゃ面白かっただろう、とも思ったり…。歌舞伎界の彼のお芝居は一度観てみたかったので、その意味では満足しました!



三作目は江戸時代中期設定と思しき『天守物語』。人も通わぬ白鷺城(=姫路城)の天守閣最上層に住まう美しい妖魔の姫君と、一人の武士の恋物語。泉鏡花らしい浮世離れした耽美で幻想的な世界観。主役の富姫には玉三郎さま、相手役の姫川図書之助には海老蔵さん、とキラキラな配役ですが…私と友人の共通の感想は「これ、主役があのお二人じゃなかったらツッコミどころ満載でまともに観られないよね…?(苦笑)」

いやツッコミはさておいて(無粋でございましょうw)玉三郎&海老蔵コンビは昨年暮れの忠臣蔵で『道行』のおかると勘平以来です。その時は「……残念だけど、勘平がほぼ空気だよね」というくらい、玉三郎さまの存在感と美しさが際立っていましたが、今回の成田屋さんは素敵でした。三月の『曽我対面』の時よりも声は朗々と響いて張りがあり、もちろん二枚目っぷりも堪能。正面も良いですが横顔の綺麗さ、特に鼻筋がすっと通った涼しげな色男で、いや~富姫さまが一目惚れをするのも分かるわ、と納得の立ち姿でした。

富姫さまの美しさに関しては…折々に会場を埋め尽くした観客から大きな拍手が送られたほど、圧倒的でした!何という気品。何という人外の美しさ、優雅さ…文字通り、表現する言葉がありません。横に並んだ亀姫役の尾上右近さん、三月公演でその若々しく華やかな美貌にウットリ見惚れていましたが、並ばれると「今様な美しさ」であり、玉三郎さま演じる富姫様の醸し出す、あの「時を超越した美の極粋」とは趣を異にするものだなあ…と思いつつ、やはり牡丹と芍薬が並んだような艶やかさにウットリ溜息。

ちなみにお二人以外に私のお気に入りの役回りは、舌長姥(門之助さん)と朱の盤坊(猿弥さん)!特に猿弥さんは『悪太郎』での上品で穏やかな修行僧役とは打って変わって豪快で愛嬌のある役回り。このお二人に全部笑いどころを持ってかれた気がします。あっ、主役お二人が「大真面目なのに観客が笑ってしまう」場面は、この際「笑い」にはカウントしないことにします…というか、あれは笑ってよかったのだろうか???(冷汗)

歌舞伎には無いと思っていたのですが、この『天守物語』だけは普通の舞台のようにカーテンコールがあり、2度も海老蔵さん、玉三郎さま、近江之丞桃六(獅子頭の彫師)役の我當さんの3人が出てきて、わああああああ…と割れんばかりの観客の拍手に応えていました。それにしても、あの拍手の大きさや、大向こうの掛け声よりも「ブラヴォー!」の似合いそうな舞台の雰囲気…一瞬「ここはオペラ座?」と錯覚しそうでした。歌舞伎座での公演とは思えなかったです。





いわゆる「古典歌舞伎」を期待して観る方には物足りないかもしれませんが、私にとっては「時代ものの短編舞台を三作品オムニバスで見た感じ」で、十分楽しめました♪チケット取ってくれた友人に大感謝!