労働法の散歩道

yahoo知恵袋で回答していて、繰り返し同じ投稿するロスを減らすために資料室としてもうけました。

一括有期工事の増額

2024-08-01 11:53:11 | 労働保険

労災保険に一括有期事業というくくりがあります。おもに一定規模未満の建設工事現場、林業伐採の事業を対象とします。一定規模以上の有期工事に対しては単独有期労災となります(下表参照)。これら有期事業に対して、事務所、工場を対象とする継続事業というくくりが別にあります。有期事業は継続事業とことなり、その都度保険関係が成立し事業完成すれば消滅します。だからといって僅少工事まで逐一保険関連手続きするのは面倒なので、元請事業者が同一事業主でなす一定規模未満工事複数を、ひとつの継続事業にみたてて保険関係処理しようというのが一括有期です。

(平成27年4月1日より)
建設工事 請負額(税別)
1億8千万円
未満 以上
概算保険料 160万円 以上    
単独有期
未満 一括有期  

さて閾値近くの一括有期で開始した工事が、期中変更契約で増額して閾値を超えた場合、単独有期として独立させるのか、という質問を見かけました。手引きのどこを見てもその扱いについて触れていません。施工中竣工までに単独有期に該当する規模になったとしても、完工まで一括有期労災で扱います。右表でも単に「保険料額」でなく、「概算保険料」と初期値で判断することがその表れでしょう。増額前の一括有期規模中に保険事故があった場合、その労災保険番号で給付しメリット率計算もからむので、一括規模で開始の有期事業は、単独規模に拡大しても一括有期にて決着させるのだと推測します。逆に単独有期でたてた保険関係は、契約変更で事業縮小したとしても単独のままで終了清算でしょう。

(2024年8月1日投稿)

関連資料

メリット制事務処理手引 80ページ

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メリット制の概観

2023-10-01 15:32:43 | 労働保険

ある一定規模以上の事業が払う労災保険料については、自動車任意保険に似た保険料率アップダウンする制度があります。メリット制と言いますが、自動車保険は事故に対し等級、割引率がさがり、無事故を続ければ年々回復していくしくみ(多少こみいった部分あり)ですが、労災保険は「保険給付にかかった費用」と「支払保険料」の比で直接割引率を設定する方式になります。

ここでは、主に継続事業(事務所、工場)の説明を中心にしています。

対象事業

  • 100人以上の労働者を使用する事業
  • 20人以上100人未満である一定料率以上の事業

対象期間

第1年度 第2年度 第3年度 第4年度 第5年度
         
← 収支算定期間 →   メリット率適用

第1年度からの3年間に納めた保険料額を分母、同期間の保険給付した額を分子にして収支率を算出。求めた収支率に応じた増減率(-40%~+40%)を、第5年度の保険料に乗じます。たとえば今年度に起こした業務上災害事故(上表では第3年度)による影響は、はやくて2年先(同第5年度)の保険料に現れ、以後3年間(同5~7年度)にわたり影響します。第6年度保険料は、第2年度からの3年間の収支率を元に算定します。

算定対象

メリット収支率 =  3年度の保険給付の額  × 100
3年度の納付保険料

分母の納付保険料には、業種に応じ調整率(林業0.51、建設港湾0.63、その他0.67)がかかり、分子の給付額には、特別支給金を含み、また障害遺族の補償年金は実際の支払い額でなく等級に応じた一時金に換算します。また分母分子には通勤災害にかかる保険料、給付は除外します。

増減率

求まった収支率を増減率に換算します。換算率は-40%から+40%の範囲で5%刻みです。収支率75%以下ならマイナスに、同85%超ならプラスに作用します。

メリット収支率 メリット増減率のイメージ
~10%    -40%
     
     
     
     
     
     
     
75%~85%   ±0%
     
     
     
     
     
     
     
 150%~   +40%

保険料率

換算した増減率を、第5年度の保険料に乗じますが、全体に乗じるのでなく、通勤災害等に対する料率(1000分の0.6)を省いた率に乗じたのち、省いた通勤災害料率等を足しこみます。

メリット料率 = (労災保険料率-0.6) × 100+メリット増減率(%)  + 0.6
100

実業を行わないおおかたの事務所に適用される「94その他の各種事業」3/1000で計算例を示してみます。 3年間無災害の増減率(-40%)場合、

メリット料率 = ( 3 - 0.6) × 100-40  + 0.6 = 2.04
100

災害多発の増減率(+40%)場合、

メリット料率 = ( 3 - 0.6) × 100+40  + 0.6 = 3.96
100

無災害の場合、保険料率は約2/3に低減(3 ⇒ 2.04)される反面、災害多発事業所の場合、同4/3倍(3 ⇒ 3.96)となっており、さらに保険料率が高い事業ほど、増減率の効果が効いてきます。実際の納付時には、保険料確定申告書に「メリット」と表示されて、増減後の率にしたがって保険料額を納めることになります。

参考サイト

厚生労働省 労災保険のメリット制について(概要)

厚生労働省 労災保険のメリット制について(PDF)

(2023年10月1日投稿)

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労災勘違いあるある

2023-06-01 14:31:58 | 労働保険

使わせない理由

被災労働者に労災保険給付使わせない理由が、保険料に跳ね返るというものです。跳ね返るのはメリット制が適用されるそれなりの規模の事業所が対象です。メリット制の適用のない事業所は保険料に跳ね返りません。また労災保険の対象である通勤災害もメリット制の対象外ですので、こちらは事業規模の大小にかかわらず、保険料に跳ね返りません。

自ら補償

通勤災害の給付をのぞき、業務上災害で労災保険給付使わせず、事業者が自腹で補償する分は問題ありませんが、その場合でも、医療機関で健康保険をつかわせると、詐欺罪を構成するので注意が必要です。詐欺罪には罰金刑がありませんので、猶予のつかない実刑判決は収監を意味します。かならず自費で治療を受けさせ事業者がその治療代を全額もつことです。自由診療扱いとなると、医療機関の言い値(保険診療自己負担の10倍相当)ですので、すなおに労災保険給付しておくのがいいでしょう。

労災隠し

労災保険給付使わせないことをもって「労災隠し」呼ばわりするのも困ったものです。労災隠しは、労災保険使わせないことにではなく、休業日数に応じ、労基署に死傷病報告をなさないことをいいます(労働安全衛生法違反)。先に述べたように、労災保険つかわなくても事業者が労基法にさだめた補償をすればいいのです。この補償をしない場合は、労基法の罰則が待っています。もちろん事業者が補償したからと言って休業日数に応じた死傷病報告まぬがれませんので、報告しないとこちらが正真正銘の労災隠しになります。

通勤災害

業務上災害 通勤災害
療養補償給付 療養給付
休業補償給付 休業給付
傷病補償年金 傷病年金
障害補償給付 障害給付
遺族補償給付 遺族給付
葬祭料 葬祭給付
介護補償給付 介護給付

労災保険給付に通勤災害を対象としています。昔は通勤(帰宅)途上のケガは健康保険でカバーされていましたが、法改正で労災保険で受け持つこととなりました。この経緯をしらない識者が、通勤災害も雇用主の責任だと論説するのをたまに見聞きします。通勤災害は、あくまでも制度上労災保険でカバーするのであって、私傷病の範疇です。給付名も、「休業補償給付(業務上災害)」「休業給付(通勤災害)」と「補償」がつくつかないで使いわけていることからもわかります。通勤災害に、使用者の補償責任は生じません。ですので、後に記述する休業最初の3日の補償義務もなく、通勤被災労働者は休業給付でるまで年次有給休暇をあてるか欠勤無給になります。なお、帰宅途上でも事業者敷地内での被災は、労災保険上業務上災害として扱われます。業務上被災とみなすのでなく、施設管理者責任ということでしょう。

打切補償

打切補償といって労基法の補償で、労災保険給付にない補償があります。この打切補償をすれば、今後事業主の労災補償しなくともよい、というものです。治療継続して休業でも在籍している限り、社会保険料の会社負担が重くのしかかりますので、打切りたいのはわからなくもないです。ただ平均賃金の1200日分を一括で支払うことになります。3年経過時、労災保険の傷病補償年金を受給していれば、打切り補償したものとして、解雇可能となります。受給に至らないものの治療を受け続けている場合、解雇したければ高額の打切補償となります。これをどう解釈するのか、1200日は3年ちょっとなので、これまで払った休業補償3年分に置き換え、1円もはらわず打切りしてくるという、ぶったまげ事業者がいます。あくまでも追加の一括払いです。また被災労働者側から、該当するから支払えとする労働者の請求権、権利ではありません。あくまで義務を逃れることのできる、事業者側の選択権です。

労基法の災害規定

労災保険法として立派な制度があるのに、なぜ労基法におなじような労災補償の規定がいまだに死文かのように取り残されているのかという点について触れておきたいと思います。労災保険法は手続法としての役割があり、対して労基法は、使用者に無過失責任として補償義務を負わす実体法です。被災者が労災保険給付を受けた範囲で使用者は労基法上の補償義務を免れるという立ち位置になります。労基法の補償規定は、無意味化して削除されないまま放置されているのではありません。

休業補償

勘違いというほどではありませんが、休業最初の3日間は労災保険給付からはありませんのでこちらは雇用主が直接補償せねばなりません。休業4日目から労災保険の給付が始まりますので、4日目以降労基法の補償義務から免れます。給付のない最初の3日は労基法の義務となります。休業する場合、被災日が第1日となりますが、所定労働時間後の被災は、翌日起算となります。事業主の補償は平均賃金の6割でいいのですが、賃金出る場合、平均賃金6割下回る差額でなく、平均賃金ともらい受けた賃金の差額の6割となります(労基法施行規則38条)。

(2023年6月1日投稿、2024年6月13日編集)

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労災保険給付手続きは誰がするのか

2023-05-20 14:27:30 | 労働保険

勤務中にけがしたのに、いつまで待っても会社が労災保険給付の手続き進めてくれない、進めてもらうにはどうしたらいいかという質問を見かけます。

業務上被災にかかわらず通勤災害もそうですが、給付手続きする義務は勤務先にありません。被災者本人(あるいは遺族)にあります(労災保険法12条の7)。それでもしてくれる会社があるのは、従業員福利の一環、給付さえ受けてもらえれば、労基法上の会社に課せられた補償義務から免れるという理由もあるでしょう。

本来は、被災者本人が立ち回って、労基署に様式を取り寄せ(※)、必要事項を記入し、勤務先や病院に証明をもらい、労基署(療養給付は医療機関薬局)に提出となります。

では勤務先はまったく義務はないかというと、そうではなく先に述べたように、労基法上直接補償する義務があります。そこを被災労働者(あるいは遺族)が労災保険給付を受けることで、事業者は補償義務から免れます。労災保険法上、被災労働者からからまわってきた申請書に、すみやかに会社記入欄に記入証明し、また被災労働者が入院して動けないなら、申請までこぎつけられるよう助力義務があるのです(労災保険法施行規則23条)。

※しっかりした印刷機能環境をもちあわせているなら厚労省サイトにて様式集が掲載されてあり、印刷出力して利用できます。

(2023年5月20日投稿、2024年5月11日編集)

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労災保険未加入に罰則がない

2023-05-11 08:44:17 | 労働保険

任意でない強制適用の事業所が、雇用保険、健康保険、厚生年金保険に未加入(正しくは被保険者手続き懈怠)の場合、次のような罰則がまっています。

  • 健康保険法 48条違反(208条 懲役6月、罰金50万円)
  • 厚生年金保険法 27条違反(102条 懲役6月、罰金50万円)
  • 雇用保険法 7条違反(83条 懲役6月、罰金30万円)

ところが労災保険にはこの手の罰則がありません。なぜでしょう。まず労働者であればだれでもカバーするので、労災保険に被保険者手続きというものがありません。そして事業主が手続きしていない労災保険未加入でも、次の条件みたしていれば被災労働者(遺族)の申請請求で労災保険給付されるからです。すなわち被災者が事業者に雇われた労働者であること、事故が業務上(通勤)災害であること。

そもそも業務上災害については、一義的に労働基準法(第8章 災害補償)が無過失責任にて補償義務を事業者に課しています。その事業者が補償しないと刑事罰が待っています。ただ被災労働者が労災保険から給付をうければ、その範囲で雇用主は補償義務を免れます(労働基準法84条)。

その代わり、未加入、保険料滞納中の保険事故への給付に要した費用を政府は怠慢事業主に求償します(労災保険法31条(徴収法4条の2第1項の規定による届出、同法10条2項1号の一般保険料を納付しない期間))。以上のことから、労災保険未加入そのものに罰則はなく、補償しない事業主に労基法の刑事処罰を科すか、被災労働者が労災保険給付受けられれば労基法の責任を逃れられる代わりに、その給付費用を懈怠事業主に求償する関係にあります。

(2023年5月11日投稿、2025年1月3日編集)

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