労働法の散歩道

yahoo知恵袋で回答していて、繰り返し同じ投稿するロスを減らすために資料室としてもうけました。

時季指定義務

2024-11-10 07:41:27 | 休暇
 

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いまだに年次有給休暇で休む労働者の義務という質問/回答をみかけます。働き方改革サイトにある年次有給休暇の解説パンフからアレンジした質問を作り、筆者なりに回答してみました。多分に拙者の見解です。

Q1 労働者は年次有給休暇で最低でも年5日休まなければならないのですか。
 

いいえ、労働者に年5日休む義務はありません。法が定めるのは年5日未達な労働者に、日付を指定して年次有給休暇で休めと声をかける使用者義務です。声かけしなかった使用者事業者が処罰されます。

Q2 使用者が勝手に日付を指定していいのでしょうか。
 

なるだけ労働者の意向を聞いて、希望する日付にあわせるのが望ましいです。

Q3 5日以上休んでいるのに、さらに指定してきます。
 

次の場合は、5日を超えて指定されることがあります。

  • 5日目の休みを取る前に、使用者の時季指定が先行した場合
  • 計画年休(日程を決めた労使協定があるか確認してください)
  • 付与されて1年経過前にさらに法定付与された場合(この場合の処理方法は会社により異なりますので、就業規則を確認ください)

そういったことに当てはまらないなら、違法の線が濃厚ですので、所属労働組合や労基署に相談してみましょう。

Q4 いつ休んだか、何日休んだか教えてくれません。
 

事業者には、付与してから1年間にいつ何日休んだか記録する義務が課せられています。年次有給休暇管理簿といい、作成してあるなら見せてもらいましょう。してないなら法令帳簿なので作るように言いましょう。作成して5年保管義務(当分3年)があります。

Q5 半日年次有給休暇で休みを指定できますか。
 

労働者に日程希望を聞いて、労働者が希望する分には半日年休指定できますが、希望がない場合は使用者からの時季指定は半日でなく1日単位でないとできません。

Q6 時間単位年休で休みを指定できますか。
 

労使協定がある時間単位年休を労働者が希望しても、使用者からの時季指定に使えません。労使協定に沿って労働者が指定して時間単位でお休みください。また取得した時間年休をたとえば8時間につき1日へと換算することはできません。時季指定義務の5日は、1日または半日(0.5日)取得の累計です。

Q7 出勤率8割満たさない労働者に、その出勤率に応じた減数付与をしていますが、減数しても10日以上付与するなら、時季指定義務の対象でしょうか。
 

付与しなくてもよい労働者への法を上回る付与ですので、その点を明確に就業規則に規定するか、別名の特別の有給休暇とすれば、対象としなくて差し支えないでしょう。

Q8 年をまたぐ休職/休業にはいる労働者には、時季指定しなくてもよろしいでしょうか。
 

法定の10日以上付与して休業(休職)するまでに5労働日以上あり、5休暇日取得していなければ、時季指定義務の対象です。

Q9 役員就任する労働者がいますが、時季指定しなくてもよろしいでしょうか。退職する労働者にも同様でしょうか。
 

労働者でなくなるなら、付与して就任(退職)するまでに5労働日ないといった特段の事情がない限り、5休暇日満ちるまで指定しなければなりません。

(2024年11月10日投稿)

参考記事

年休取得、新規付与数からの減数

年次有給休暇制度の改正経緯

年次有給休暇の取得率計算

年次有給休暇の付与数と保持数の変転

年次有給休暇の付与日数

年次有給休暇管理簿

年次有給休暇時季指定義務の事業主対応

年次有給休暇の時季指定義務(規定例)

計画年休 運用上の論考

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年休取得、新規付与数からの減数(図)

2024-10-12 11:10:06 | 休暇
 

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先の記事で説明した労働者有利な付与&消化のさせかたと、労働者不利との対比での推移を図表化してみました。まずは労働者有利の繰り越し分から消化させていくやりかたです。

勤続0.5年目
10日付与
                     
勤続1.5年目
6日取得4日繰越11日新規付与、残15日
                                           
勤続2.5年目 
5日取得10日繰越12日新規付与、残22日
                                                         
勤続3.5年目
6日取得4日時効消滅12日繰越14日新規付与、残26日
                                                                       

次に同じ取得パターンを、事業者有利、労働者不利な新規付与から先行消化させかての推移です。勤続2.5年目から差が出てきます。年次ごとの残数に差が出てきてることが見てとれます。

勤続0.5年目
10日付与
                     
勤続1.5年目
6日取得4日繰越11日新規付与、残15日
                                           
勤続2.5年目 
4日時効消滅5日取得6日繰越12日新規付与残18日
                                                         
勤続3.5年目
6日時効消滅6日取得6日繰越14日新規付与残20日
                                                               

 

(2024年10月12日前投稿記事から分割追加)

参考記事

年次有給休暇の付与数と保持数の変転

年休取得、新規付与数からの減数

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年休取得、新規付与数からの減数

2023-09-15 15:27:58 | 休暇

ときどき、年次有給休暇繰越数があるのに新規付与分から減数させられるという苦情、質問をたまに見かけます。ところがこの方式は民法にて規定されており、こちらの方がむしろ法にかなっているのです。すなわち当事者間で取り決め(意思表示)がなければ、年次有給休暇の減数は、債務者ここでは会社側有利な方から減数して扱ってよいのが、民法の定めです(民法488条4項2号)。

(同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当)

第488条 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき(次条第1項に規定する場合を除く。)は、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。

2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。

3 前2項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。

4 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも第一項又は第二項の規定による指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。

一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。

二 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。

三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。

四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。

比較的ながい条文の引用ですが、構造は明確です。古い繰り越し分からでなく新規付与から減数する方が、債務者の会社は有利となります。どれだけ有利(労働者にとって不利)かは、こちらの繰越展開図をごらんください。

有利な扱いを就業規則に明確にしてもしなくても、民法に規定したとおり取り扱ってよいのです。そういった取り扱いをして労働者とのトラブルをさけていきたのでしたら、就業規則に明確にしておくことが望ましいです(同条1項、3項)。

ただし、これまでしてきた減数を「古い繰越分」から「新規付与」へ変更することは、就業規則にあらたに規定することも含め労働者に対し不利益変更ですので、変更するに合理的理由、労働者への説明等、労働契約法にそった手続きを経ないことには、簡単には有効とはなりません。また学説には、この民法の規定は、年次有給休暇にあてはまらない、とする立場もあります。

(2023年9月15日投稿)過去記事を分離再編集

参考記事

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年次有給休暇制度の改正経緯

2023-09-01 15:22:23 | 休暇

年次有給化の制度改正経緯を記録しておきます。改正時期は公布時で、施行時期ではありません。企業規模等で猶予期間が設けられたものもあります。

制定時 初回
勤続1年
8割出勤
6日付与 1年継続1日増  
昭62年改正 10日付与 短時間労働者比例付与 計画年休
不利益取り扱い禁止
平5年改正 初回
勤続6か月に短縮
平10年改正 勤続2年6か月超2日逓増 付与日数見直し
平20年改正 時間単位付与創設
平30年改正 年5日時季指定義務、管理簿創設

労基法制定当初は、勤続1年8割出勤を満たした労働者に6日付与、以後1年ごとに1日逓増でした。

昭和62年改正:初回6日から10日付与に引き上げ、パート短時間労働者への比例付与、計画年休制度(要労使協定)、不利益取り扱いの禁止条項の新設。

平成5年改正:初回勤続1年経過後付与が、6か月経過後に短縮。

平成10年改正:勤続3年6カ月以降から2日逓増、比例付与日数の見直し。

平成20年改正:年5日の範囲で時間単位での取得が可能に(要労使協定)。

平成30年改正:法定10日以上付与する労働者に対し年5日時季指定義務、年次有給休暇管理簿の創設。

(2023年9月1日投稿、2023年10月20日編集)

参考記事

時季指定義務

年次有給休暇の取得率計算

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年次有給休暇の取得率計算

2022-12-08 12:17:32 | 休暇

各種労働統計調査で年次有給休暇の平均取得数や取得率を問われる機会があります。定義があいまいだからでしょう、それにまつわる質問をちらほらみかけます。

労働者に付与してから、労働者が取得するわけですが、一斉付与ならともかく、法定通りの各自付与(入社日基準等)の付与日はばらばらで、さらに繰越数を計算に含めない、となるとどう計上したらいいかわからないというのです。

統計調査の記入要領が詳細に定義してあるなら、それに沿って回答ください。ここでは、ただ単に付与数、取得数、労働者数を記入せよと、詳しく説明のない調査への道案内とします。

一定期間(1月~12月、4月~翌年3月等)において、文字どおり付与した総数、付与した時期が期初、期中、期末かは問いません。そして取得数も同様に、付与時期を問わず、対象期間中に労働者が年次有給休暇で休んだ日数を計上します。

「新規付与日数とその付与日からの1年間の取得」との連携をなぜ断ち切るのか、「繰越数を無視しながら、当人新規付与前の取得は繰り越し数からの取得」なのになぜ取得数のほうを計上するのか。なかなか理解できないのはわかるのですが、ここでの分母とする付与日数(総和)は企業規模を表している、そして個々の労働者への付与と取得に関連付けはしない、と割り切られるといいです。

付与数 対象期間中に新規付与した総日数 繰越日数を含めない
取得数 同一期間中に取得消化した総日数
時間単位はその労働者の所定労働時間を基準に日に換算
労働者数 その期間中に取得可能な労働者総数
繰り越し数を保持する中途退職者を含める(期中、新規付与されるかは問わない)。
期中入社者で最初の付与日が、対象期間外であれば、労働者数に含めなくてよい。

平均取得日数=取得日数(総和)÷ 労働者数

取得率=取得日数(総和)÷ 付与数(総和)

出典

厚生労働省就労条件総合調査

(2022年12月8日投稿)

参考記事

年次有給休暇の付与数と保持数の変転

年次有給休暇の付与日数

年次有給休暇管理簿

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