労働法の散歩道

yahoo知恵袋で回答していて、繰り返し同じ投稿するロスを減らすために資料室としてもうけました。

月をこえるフレックスタイム制

2024-04-15 11:28:04 | 労働時間

前回記事フレックスタイム制に関連した続きです。

2019年働き方改革法施行で、労基法に新設された労働時間の制度のひとつに、フレックスタイム制の拡張があります。

従前は、1か月以内単位だったのが、清算期間3か月以内に拡張されました。清算期間1か月を超える場合、締結した労使協定は労基署に届け出義務が付され、有効期間の定めを設けなければならなくなりました(過半数労働組合との労働協約である場合をのぞく)。労使協定は免罰効果の発生しかないので、労働者の権利義務を定める就業規則にフレックスの要件規定しなければならず、要件盛り込む就業規則の変更手続きもあわせて必要です。

ここから本題です。下記に述べるように、1カ月(以内)ものフレックスより3か月(以内)フレックスを導入する場合、慎重に検討する項目があります。

計算値は小数点第4位を四捨五入、分未満切り捨て
暦日数 月あたり週平均50時間
(計算値) 時間
28日 200.000 200 0
29日 207.143 207 8
30日 214.286 214 17
31日 221.429 221 25

それは時間外労働を含む労働時間管理です。

1つ目は、各月週平均50時間超える部分は、時間外労働として、その月の賃金計算期間にて時間外割増賃金支払いを要します。その月の実総労働時間が右表を超える時間を時間外労働とします。

月の暦日数×50時間÷7で求めます。最終月が月未満の端数期間である場合はその暦日数から求めることになります。

2つ目は、1つ目で超過に該当する時間を控除したうえで、3月以内の清算期間の実総労働時間が法定総枠時間超えした時間に対し、時間外労働として把握します。清算期間の暦日数×40時間÷7で求めます。これは原則最終月に発生しますので、36協定特別条項をもうけていないと、最終月の1と2あわせた時間が、協定時間のたとえば45時間に収めないといけません。

暦日数 法定総枠時間
(計算値) 時間
89日 508.571 508 34
90日 514.286 514 17
91日 520.000 520 00
92日 525.714 525 42

コンスタントに20時間の時間外労働をこなしている場合、月で見ればなんでもない月間20時間時間外労働ですが、フレックスの3カ月目最終月には累計ともいうべき60時間に達するわけで、その超過は月間60時間超5割増し賃金の対象になります。いうなれば36協定の月枠がどんなに大きく設けても複数月単位フレックスに対しては単月限度枠1/3にせばまるイメージに等しいでしょう。

このことから複数月フレックスを導入するのであれば、ある月の所定超え労働時間を清算期間内の別月の勤務時間縮小により労働者が解消させることのできる勤務形態でなければ、導入は見合わせたほうがいいでしょう。

(2024年4月15日投稿)

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フレックスに似て非なるもの

2024-04-01 11:25:19 | 労働時間

たまに見かける質問なのですが、何時に出社始業してもよいが8時間働かないと、帰ることがゆるされない、違法ではないですかという質問です。フレックスと称してなければ、こういう勤務形態もありです。フレックスではないので、労使協定も不要です。

フレックスでなければ何なのかといえば、ずらし勤務の一形態でしょう。始業時刻を事業者でなく労働者が自在に決められる一方、フレックスのもう一つの要件、退社時刻は自在にきめられませんので、フレックスではないのです。ないけれども、こういった勤務形態を就業規則等に定めておく必要があります。所定労働時間が日8時間週40時間という法定労働時間におさまるなら違法性はどこにもありません。この場合、休憩時間をのぞく8時間経過後からは、時間外労働として時間外割増賃金が必要です。もちろん36協定もです。

次にスーパーフレックスと称して、4時間なら4時間最低在社を義務づける会社を見かけます。コアタイムなしをスーパーと呼称してますが、退勤時間を制約するので、少なくともスーパーとはいえません。するのであれば、コアタイムは何も全社一律である必要はありませんので、出社から4時間はコアタイムとして協定しておく必要があります。

(2024年4月1日投稿)

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代休の効果とは

2023-06-12 14:55:46 | 労働時間

このブログの随所に書いた代休についてのまとめ記事です。休日出勤させても、あとで代休させれば、休日労働、時間外労働とは相殺できる、なかったことにできる、と勘違いされている経営者多数いらっしゃいます。

そこでネット記事を検索してみたのですが、休日出勤と割増賃金の相殺、すなわち「時間」と「賃金」の相殺について書かれた記事が大半で、時間は時間と賃金は賃金とを書きわけた記事がほとんどみあたらなかったのです。ここでは「時間」と「時間」の相殺について書き留めておきます。

たとえば今月の残業が、45時間越えそうだ、超えてしまったので、急遽代休させる、あるいはいつかわからないけれど代休させるので、36協定時間に計上しなくともよい、という誤った考えがはびこっています。労働者からの質問で、代休とれずに、あるいは公休消化できずに退職するけど、どうしたらいいかという質問を結構みかけます。その裏事情には、休日出勤の賃金が一銭もはらわれていないことがうかがえます。

一度、法定労働時間を超えてしまえば、超えたという事実は、あとから何かをして帳消しにすることはできません。法定労働時間とは日8時間、週40時間のことで、この時間をこえた労働は時間外労働として扱われ、36協定無しには労働させることができません。

どういう理屈をこねてだか、代休させることで時間外労働をさせた事実を消し去ろうとします。ある日10時間働かせ、2時間時間外労働が発生しました。翌日所定8時間のところ、2時間早帰りさせたとして、見かけ上相殺されるのは、給与明細上の支払賃金です。

時給1500円で説明します。ある日10時間働かせたので、

1500円×8時間+1500円×1.25倍×2時間
=12000円+3750円
=15750円

翌日8時間分12000円でなく、2時間早帰りの3000円マイナスすることで、割増賃金2時間分払わなくともよい、とはなりません。0.25倍部分の750円の支払がのこります。1日休日出勤の1日代休でもおなじことです。0.25もしくは0.35部分が残ります。一方で36協定の月間累計時間といったものはいっさい減りません。

以上は「時間」と「賃金」の相殺となっており、民法の相殺にあたりません。払うべき「賃金」と引き去る「賃金」との給与明細上の見かけの相殺です。時間外させた「時間」と代休や早帰りさせた「時間」同士の相殺はできません。

極端な話、ある日休日労働させ、その翌日以降その月末まで代休や有給で全休してもらったとしても、その休日労働させた事実は消えません。相殺できるのは、金銭の「債権」と「債務」の間で給与明細上払うものは払い、引けるものは引かせてもらう見かけ上の相殺できるのであって、「時間」と「賃金」の相殺はなしえないのです。また当月45時間超えた時間外労働時間を減数する効果は、代休にはありません。代休させたことで時間の唯一の効果は、代休させた週の40時間枠にゆとりができるというものです。その週の時間外労働のうち、週枠にカウントする時間で、40時間枠に空きが増えるということでしょう。その意味で法定外休日に休日出勤させた週に代休させれば、その週の40時間枠超の発生を抑える効果はありましょう。なんでもかんでも休日出勤を、法定休日労働や時間外労働に組み込んでおられるなら、そこは見直しされるといいでしょう。

(2023年6月12日投稿)

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変形労働時間制とシフト制

2023-05-01 14:20:01 | 労働時間

変形労働時間制はシフト制である、という思い込みが抜けないのでしょうか、そんな質問、回答を見かけます。シフト制でない変形労働時間制変形労働時間制でないシフト制もあることを図表で説明してみました。

  シフト制
なし あり
変形労働時間制 なし 法定労働時間(日8時間週40時間)内の勤務(全員同一時間帯に勤務) 各人、法定労働時間内にして複数勤務時間帯を入れ替わり勤務
あり 週平均40時間内の勤務
(全員同一時間帯に勤務)
週平均40時間内にして複数勤務時間帯を入れ替わり勤務
備考 早勤、夜勤といった複数時間帯設定あるもそれぞれ専属(入れ替わりなし)、あるいは全員同じ時間帯で働くも日によって働く時間帯や所定労働時間が異なる勤務体系を含む 複数人で異なる労働日・休日を定期、不定期に設定する形態を含む(単一・複数時間帯いずれでも有り)

厚生労働サイトでは、「いわゆる「シフト制」について」と題し、注意喚起を行っています。ここでいうシフト制とは、就業規則等で各班定期的に規則正しく入れ替わるタイプ(これもシフト制)でなく、事業者による恣意的に運用されやすい不規則タイプに注意を呼びかけています。

(2023年5月1日投稿)

関連項目

・wikipedia 日本語版「シフト勤務」

変形労働時間制とは

変形労働時間制の時間外労働の把握

変形労働における時間外労働の把握2

変形労働時間制と休日の関係

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月間時間外集計

2023-02-10 08:44:24 | 労働時間

時間外労働の計算するにも、どうもいりくんでいて一筋縄には行かないのでしょう。そこで練習問題を作ってみました。マス目の左肩は日付、右下は実労働時間(簡便にするため分単位はなし)を記載してあります。2重線で囲んだ範囲が月内となります。(※試作品のため集計間違い等修正することがあります。)

 
Ⅰ 週     1 2 3 4 5
Ⅱ 週 6 7 8 9 10 11 12
10
Ⅲ 週 13 14 15 16 17 18 19
Ⅳ 週 20 21 22 23 24 25 26
11
Ⅴ 週 27 28 29 30 31    
11

毎週休める休日をいれてますので、法定休日労働を考慮することはありません。実労働時間の日8時間超えをピックアップ、そして日で時間外としなかった時間を週集計して40時間超えを捕捉してみてください。週は日曜始まり、変形労働時間制を取っていないものとします。

 
Ⅰ 週     1 2 3 4 5

第1週、毎日定時で帰って日々の時間外はありませんが、土曜日がこの週の6勤務目ですので、この日の8時間が週40時間超えの時間外労働となります。

 
Ⅱ 週 6 7 8 9 10 11 12
10

第2週、週全体でみると40時間に収まっていますが、火曜日にした2時間時間外労働を、木曜に早帰りさせたとしても帳消しにはなりません。火曜の最後の2時間を時間外労働とカウントします。

 
Ⅲ 週 13 14 15 16 17 18 19

第3週、毎日7時間労働で、日において時間外はありませんが、週累計で42時間となり土曜の7時間の内最後の2時間が時間外労働。週の時間外労働2時間となります。

 
Ⅳ 週 20 21 22 23 24 25 26
11

第4週はどうでしょうか。日においては、
24日11-8=3
25日 9-8=1
計4時間時間外労働しています。次に週の累計するとき、24日、25日の両日、時間外とカウントした時間を除外して週集計します。ですので
8+7+7+(11-3)+(9-1)+8=
8+7+7+   8  +  8  +8=46
週40時間超えは6時間となり、土曜8時間の最後の6時間が時間外労働となります。あわせて10時間時間外労働です。

単純にこの週足し合わせて50時間になるのですから、40時間超え10時間とすればいいように思えます。それではいけないことを、次の週で説明してみます。(おなじく第2週で日を度外視した週累計では40時間ちょうどですので、時間外労働がないことになってしまいます。)

 
Ⅴ 週 27 28 29 30 31    
11

第5週も前週と同じように時間外労働したとします。しかしこの週の途中に月を跨ぎます。日のカウント、週のカウントは前週同様ですが、日のカウントのうち当月内は31日のみの3時間、それ以降の日、週超えのカウントは翌月に持ち越しとなります。

それでは時間外の週別集計表を作ってみました。この月の時間外労働は計25時間となります。

  前月計上 当月計上 翌月計上
 
Ⅰ 週     1 2 3 4 5  
Ⅱ 週 6 7 8 9 10 11 12  
10
Ⅲ 週 13 14 15 16 17 18 19
Ⅳ 週 20 21 22 23 24 25 26
11
Ⅴ 週 27 28 29 30 31    
11

2023年4月中小企業の月間60時間超5割増賃金支払適用開始されるところ、月の集計に関する解説記事がネット上に見当たらないのが気になるところです。 調べてみたら月間時間外時間集計は、平成22年改正労働基準法のあらまし7ページ以下のほうが詳しいです。 時間単位の説明でしたが、分単位も交えた説明は下記の「時間外労働のカウント」をご覧ください。

(2023年2月10日投稿、2023年3月2日編集)

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