兎神伝
紅兎〜革命編其乃二〜
(23)磯味
幸せだな…
特に今日と言う一日は…
佳奈は寝床に潜り込むなり、しみじみ思った。
この世で一番好きな人と一緒に暮らして….
この世で一番好きな人の家事をして…
この世で一番好きな人と遊んで…
この世で一番好きな人と戯れて…
朝、一番にお父さんが来てくれた…
お父さん…
佳奈は、亀四郎の事をそう呼んでいる。
家事を教える事を承諾して貰えた時…
『ありがとうございます、亀四郎様…』
と、佳奈が頭を下げると…
『その、亀四郎様ってのは、何とか何ねえかな。あっしは、様と呼ばれるほど、偉かねえんでな。』
亀四郎は、軽く頭を掻きながら言ったのち…
『その…なんつうか…お父さんって、呼んでくんねえか?』
『お…父…さん?』
『そう、お父さんだよ。お父さんって、呼んでくんな。』
そう、照れたように笑って言ってきたのが始まりであった。
しかし、家事を教わる時こそ、鬼かと思われる程恐ろしかったが…
『おめえ、本当によく頑張ったな。偉かった、うん、偉かった。』
最後に、一番厳しく叩き込まれた料理に太鼓判を押された時…
『これはな、あっしからのご褒美だよ。』
亀四郎は、市場に連れて行った帰り、佳奈の頭に梅の飾りがついた簪を髪にさしてくれた。
『あの…そんな、あの…』
『お頭はな、おめえが可愛くなるのを一番お喜びになられるよ。だから、それをさして、お頭を驚してやると良い。本当、可愛いよ。』
『お父さん…』
思わず亀四郎の胸に飛び込み、抱きしめられた時…
親の顔を知らない佳奈は、これが父親の温もりなのかなと、思うようになった。
朝餉の膳を片付けにかかると、亀四郎は恒彦と何やら熱心に話し込み始めた。
こう言う時、決して側に近づき、話を聞くような事をしてはいけないとも叩き込まれたので、どんな話をしていたかは知らないが…
昼近くまで話し込んでいる様子を見て、昼餉は亀四郎とも一緒にできると思っていた。
『すっかり家族が板につきやしたね。』
『何処からどう見ても、年増男に幼妻だ。』
今朝も陽気に言っていたが…
お父さんにも食べて欲しい…
刑部(ぎょうぶ)様の為に拵えた手料理を…
佳奈は心躍らせながら支度をし、あと少しで昼餉の膳が整うとした時、亀四郎は門を出てゆこうとしていた。
『お父さん、お父さん。』
佳奈が急いで曲げわっぱに詰め込んだ昼餉を持って駆けつけると…
『おやおや、あっしに弁当を…』
目尻を下げて言う亀四郎に…
『今日は、昼餉をご一緒できると思ってましたのに。』
佳奈は、口を尖らせ俯いて言う。
『なーに、一人者にはな、今の佳奈ちゃんとお頭の熱い姿は目の毒なこって…』
『もう、お父さん!』
『お頭に、うんと可愛がって貰えよ。遠慮なく、思い切り甘えるこって。』
『はい。』
『それとな…ちゃんと抱いて貰え。戯れるだけでなくてな。』
『ちゃんと…抱かれる…』
『そう、ちゃんとな…でねえと、本当の夫婦(めおと)には、なれねえぞ。』
亀四郎が言うと、それまで恥ずかしそうに笑っていた佳奈の顔色が、急に変わった。
抱かれる…
佳奈は、その意味を嫌と言うほど、あの船の中で叩き込まれていたからだ。
亀四郎は、それと察して…
『なーに、お頭に抱かれるのは、あいつらにされていた事とは違う。戯れるのだって、違えだろう?』
そう言うと、佳奈は力無く頷く。
『まあ、抱かれるのが怖けりゃーな、せめてお頭の疼きを慰めてやるこって。佳奈ちゃんが、毎日して貰っている事を、お頭にもして差し上げれば良え。
うまくやれる自信がなけりゃー、慰め方なら教えてやっても良えぞ。抱かれ方は、無理だがな。』
亀四郎は、そう言うと、佳奈に渡された曲げわっぱを、愛しそうに抱いて、去って行った。
『どうした、朝と違って、元気ねえな。カメさんに、何か言われたのか?』
『いいえ、別に…』
『まあな…あいつは、何かと人を揶揄うのが好きな奴だ…特に、女と子供を揶揄っていつも喜んでる。あいつに何か言われても、気にすんな。』
『はい。』
昼餉の時、恒彦に言われて力無く頷く佳奈は、その後もずっと肩を落とし、俯き加減に過ごしていた。
『お頭に抱いて貰え…』
亀四郎の言葉が、ずっと頭から離れず…
同時に、渡瀬人(とせにん)達に初めて弄ばれた日の事を思い出し続けていたからだ。
しかし…
『なーに、お頭に抱かれるのは、あいつらにされていた事とは違う。戯れるのだって、違えだろう?』
更に亀四郎に言われた事を思い出すと…
確かに違う…
全然違う…
佳奈は、恒彦の愛撫を思い出しながら、心の中で呟く。
あの胸や股間を弄る指先の動きは細やかで優しく、全身を這う唇と舌先の温もりは、とても暖かい。
ならば…
刑部(ぎょうぶ)様に抱かれるのも…
『アッ…アッ…アッ…』
佳奈は、洗い物をしている最中…
不意に声を漏らすと、乳首の辺りと股間に手を伸ばした。
不意にまた、むずつき火照り出したからである。
それが始まり出したのは、恒彦と暮らし始めて一月程経った頃からの事。
彼に愛撫された時の温もりと感触を思い出すと、それが起こり出すのである。
ぎ…刑部(ぎょうぶ)様…刑部(ぎょうぶ)様…
むずつきと火照りは、恒彦の顔が浮かぶにつれて、更に増してゆき、どうにも落ち着かなかなってくる。
『アッ…アァッ…アァァッ…』
佳奈は、最早堪えきれぬと言うように、触れた手の指先で、弄り出した。
始めてそれが始まった頃…
自分で自分がどうなってしまったのか分からず、恐ろしい気持ちと恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。
何とかこの衝動を抑えようと必死にもなったが、身体(からだ)のむずつきと火照りはどうにもならず…
起きて仕舞えば、どうにも我慢出来ずに手が伸びてしまう。
ある時、丁度それが起き始め、堪えきれずに自分で慰め始めたところを、亀四郎に見つかった。
佳奈は余りの恥ずかしさに、後ろを向いて泣き出したのだが…
『恥ずかしがるこたあねえ、ごく普通のこったからな。』
亀四郎は、佳奈の肩に手を乗せて、優しく言った。
『普通の…事?』
『そう、要するに、佳奈ちゃんは女で、お頭は男。それだけのこったよ。
女なら好いた男を、男なら好いた女を、誰だってみんな、身体が求めて恋しがる。』
『みんな…って、刑部(ぎょうぶ)様も?』
『ああ、そうだ。だから、こうして一つ屋根の下で暮らしてるじゃないか。』
佳奈は、亀四郎に言われた事を思い出しながら、なおも身体(からだ)を弄り続けた。
『アッ…アッ…アッ…アッ…』
刑部(ぎょうぶ)様…
刑部(ぎょうぶ)様…
刑部(ぎょうぶ)様…
佳奈は、恒彦の名を口走りながら、そっと目を瞑る。
以前は、目を瞑るのは恐怖でしかなかった。
瞼には、あの船で絶え間なく弄んできた渡瀬人(とせにん)達の顔がすぐに浮かびあがり…
脳裏を掠めるのは、小さな身体(からだ)に十人がかりで群がり、よってたかって弄ばれた時の苦痛ばかりであったから…
でも、今は違う。
瞼を閉じれば、恒彦が優しく笑いかけ…
脳裏を過ぎるのは、恒彦に優しく舐め回された時の、ザラついた舌先の暖かな感触…
そう言えば…
佳奈はふと思う。
私の身体(からだ)って、どんな味がするのかしら…
甘いのかしら…
酸っぱいのかしら…
辛いのかしら…
更にまた…
刑部(ぎょうぶ)様の味は…
『ウグッ!』
佳奈は、突然、激しい吐気に襲われ、口を抑えた。
『さあ、しっかり咥えろよ。』
『噛むんじゃねえぞ、噛んだら…わかってるな。』
『オラオラッ!しっかり舌使って舐めろ!舌使ってよ!』
船の中で、渡瀬人(とせにん)達の穂柱を咥えさせられた時の事を思い出したからである。
鼻をつくような強烈な尿臭と…
口に広がる塩辛い味…
そして…
『さあ、しっかり飲み込めよ!一滴たりとも、吐き出すんじゃねえぞ。』
口腔内に放たれる生臭いもの…
イヤッ…
佳奈はまた、正気を失いかけてきた。
ヤメテ…
ヤメテ…
痛い…
痛い…
お願い、もう…
『イッ…イッ…イヤ…』
佳奈が、今にもまた、悪夢に魘された時の声を上げかけた時…
ポーン…
ポーン…
ポーン…
と、外から聞こえる鞠を弾く音…
同時に、下手くそな手毬歌が聞こえてきた。
あ…
刑部(ぎょうぶ)様…
佳奈は、我を取り戻すと、満面の笑みを浮かべて外に飛び出して行った。
すると、恒彦が無愛想な笑みを浮かべて、こちらに手を振っていた。
佳奈は、毎日、恒彦に愛撫され、今は彼の為に料理を拵え、洗濯や掃除をするようになってから…
彼の事は何でもわかる気してきた。
彼は、孤独を好み、いつも一人でいたがるように見えて、とても寂しがり屋…
ぶっきらぼうで、突き放すような態度ばかり示したがるが、甘えん坊のかまってちゃん…
わざと音を立てて鞠を突き、大声あげて手毬歌を歌うのは、一緒に遊んで欲しいのだ…
『刑部(ぎょうぶ)様!』
佳奈が、洗い物を放り出して外に駆け出すと、恒彦は返事の代わりに無愛想な笑みを浮かべて、鞠を蹴ってきた。
佳奈は、足で鞠を受け止めると…
ポーン…
ポーン…
ポーン…
暫し恒彦と同じ手毬歌を口ずさみながら、つま先で鞠を弾いて見せる。
そして…
ポーンと恒彦に蹴り返すと…
恒彦はまた歌い返しながら、鞠を受け止めようとするが…
鞠は、恒彦の足を遠く外して飛んでゆく。
佳奈がクスクス笑い出すと、照れ臭そうに頭を掻いていた恒彦が、両手を広げてきた。
佳奈は満面の笑みを浮かべて駆け出すと、恒彦の胸に飛び込んで行った。
『佳奈…佳奈…可愛い佳奈…』
恒彦は、柄にもなく加奈に頬擦りしながら同じ言葉を繰り返してきた。
やっぱり寂しかったんだ…
やっぱりかまって欲しかったんだ…
佳奈は、ざらつく恒彦の頬の感触からそう感じると、愛しさが込み上げてきた。
『佳奈や…』
暫し佳奈を頬擦りし続けた恒彦は、佳奈と目を合わせると、無言になった。
佳奈は、こう言う時の恒彦がどうして欲しいか知っている。
甘えて欲しいのだ。
『刑部(ぎょうぶ)様、痛い…痛い…痛いよう…』
『そうか、また、痛むのか。』
『痛い、痛い…』
『よしよし、可哀想に…刑部(ぎょうぶ)はここにいる。ここにいるぞ。』
恒彦は、不器用で…何処か寂しそうな笑みを浮かべると、佳奈を更に強く抱きしめながら、唇を重ねてきた。
佳奈は、互いの舌先を絡ませあいながら、恒彦の手を小さな股間に導いて行く。
『佳奈…』
『刑部(ぎょうぶ)様…』
恒彦は、佳奈がニッコリ笑って大きく頷くのを見ると、佳奈の着物の裾に導かれた手を忍ばせて、小さな丘とスベスベとしたワレメを弄り出した。
『アン…アン…アン…』
やがて、佳奈が甘えるような声を漏らすと、恒彦は唇を首筋から胸へと這わせてゆき…
もう片方の手で、そっと佳奈の胸襟を開かせ、剥き出した粒のような乳首を吸い始める。
『アッ…アッ…アッ…アーン…アーン…アーン…』
佳奈は、更に甘えるような声を上げながら…
違う…
全く違う…
あの人達と刑部(ぎょうぶ)様とは…
暖かい…
暖かい…
だったら…
だったら…
それに…
私って、どんな味がするのかしら…
刑部(ぎょうぶ)様って、どんな味がするのかしら…
心の中で呟き…
『刑部(ぎょうぶ)様、私…』
言いかけるより早く…
『アァァァァーーーーーーンッ!!!』
無意識の声を張り上げながら、意識が遠のいていった。
我に帰れば、恒彦は着物をはだけさせたまま寝転ぶ佳奈の側に座り、いじけたように羽子板で羽根を跳ね上げていた。
佳奈は、恒彦に気づかぬよう、薄目を開けて暫し見つめた後…
『それっ!』
不意に、恒彦に飛びつき、その手から羽子板と羽根を取り上げると、駆け出して行った。
『あっ!コラッ!佳奈っ!』
驚いたように振り向き声を上げる恒彦に…
『刑部(ぎょうぶ)様!』
佳奈は、ニコッと笑って見せると、取り上げた羽子板で、羽根を撥ねつけた。
『そらっ!』
恒彦は負けじと、急ぎ手に持つもう一枚の羽子板で撥ね返す。
『それーっ!』
佳奈の弾けるような声と同時に…
コーン…
コーン…
コーン…
と、羽子板が羽根を突く音が、軽やかに鳴り響いて行った。
今日はどれほど遊んだだろう…
佳奈の笑顔をどれだけ見た事だろう…
恒彦は、一人浴室に篭り、同じ事を思っていた。
亀四郎は、子供ではないと言う…
亀四郎は、女だと言う…
だが…
俺の周りを、囀りながら駆け回る佳奈は、十歳の子供そのものではないか…
今日は一日、あのあどけなさにどれだけ救われた事か…
佳奈と遊んでいる間、恒彦は亀四郎から聞かされた事も、それによる心の疼きも忘れかけていた。
しかし、こうしてまた、一人になってみると…鷹爪衆船頭の末娘は、結局、赤兎にされてしまったと言う…
彼も彼の配下の者達も、皆、家族は河原者に落とされたと言う。
そればかりか…
あの時、救い出したはずの娘達も…
結局は皆…
『あんたは、あいつと違う。全然違うわ。』
『やっぱり、私はあんたが好き。あいつなんかより、ずっと、ずっとね。』
また、あの妖艶な笑みと眼差しをむけて、囁きかける声が聞こえて来る。
何が違えってんだ…
結局、何もできやしねぇ…
結局、ただの弱虫なのは一つも変わらねぇ…
不意にまた、佳奈が恋しくなってきた。
柔らかな感触と温もりと…
花のような芳しい香り…
何にも増して…
果実のような甘い味…
焚き場から、新たな薪木を焚べる音と火を吹く音が聞こえてくる。
『刑部(ぎょうぶ)様、湯加減、いかがですか?』
『うん。良い具合だ。』
恒彦は、焚き場の火を見る佳奈に答えながら、あの小さな身体(からだ)が、脳裏を掠めてきた。
今や、目を瞑らなくても、佳奈の身体(からだ)の隅々まで脳裏に浮かび上がってくる。
そして、細長い手が恒彦の首の後ろにまわされ、うっとりさせた笑みと眼差しが、唇を求めてくる。
佳奈、一緒に入らぬか…
喉元まででかかった時…
恒彦は、ハッとなって口を噤む。
股間が疼き腫っている。
同時に、また、毎夜見る夢を思い出してきた、
『アーンッ…アンッ…アンッ…アーン…』
赤子のような声で喘ぐ佳奈の身体(からだ)を、憑かれたように愛撫している夢…
首筋を舐め、乳首を吸い、背中を撫で回し…
手足の指を、一本一本丹念にしゃぶり回してゆく。
そうして、股間に顔を埋め、白桃色した真っさらな神門(みと)の盛り上がりと、真ん中を走るワレメを目にした時…
いつもなら、果実の汁を吸うように、夢中になってむしゃぶり、舐め回すのだが…
夢の中では、急に動きが止まり、鼓動が高鳴り出す。
ワレメを開けば、まだはみでる気配すら無い、小さな内神門(うちみと)のヒダが、早く愛撫して欲しいとヒクヒクさせている。
恒彦も、早く次の行動に出たいと気は急くが、金縛りにあったように、目がそこに釘付けとなり…
鼓動の高鳴りばかりが激しさを増してくる。
同時に疼き出す股間の膨張…
『刑部(ぎょうぶ)…様…刑部(ぎょうぶ)…様…』
佳奈が、悩ましい声で呼び掛けると、遂に恒彦の理性の糸が切れ、飛び上がるように顔を上げるや、小さな脚を乱暴に広げさせる。
そして…
『刑部(ぎょうぶ)様!』
何が起きたのか理解できぬ佳奈の驚愕した眼差しをよそに、恒彦は極度まで膨張した穂柱を、佳奈の神門(みと)に押し付ける。
『イヤッ…ヤメテ…ヤメテ…イヤッ…イヤッ…』
漸く、何が始まるのか察した佳奈は、涙目で嫌々をし…
『痛いっ!痛いっ!痛いっ!キャーーーーーーーーッ!!!!!!』
凄まじい絶叫を耳にするのを最後に、恒彦はもう、自分が何をしてるかわからなくなっている。
ただ…
気づいた時には、疼きのおさまった穂柱の先端から糸を垂らし、佳奈の血まみれになった神門(みと)のワレメからは、大量の白穂が溢れ出しているのである。
『佳奈…すまんっ!すまんっ!』
恒彦は、漸く取り返しの付かぬ事をした事に気づき、必死に謝るが…
佳奈は、意外にも満面の笑みを浮かべていて…
『刑部(ぎょうぶ)様が、私の中に入って来られました。これで、私達、本当の夫婦(めおと)ですね。』
と、囁くように言う。
その笑顔は、嬉しいと言うよりは、何処か勝ち誇り、何かに達したようにも思われた。
恒彦は、夢の細部まで思い出すと、また、あの妖艶な笑みと眼差しの囁きが聞こえ出してくる。
『佳奈ちゃんの抱き方、知りたくて?』
『佳奈ちゃんの抱き方、教えてあげようか。』
『佳奈ちゃんの抱き方、教えてあげる。』
『いらっしゃい、私の懐に…佳奈ちゃんの全部、教えてあげてよ。』
恒彦は、延々と耳の奥底に響く声に向かい…
『余計なお世話だ!消えろ!』
叫びかけた時…
『刑部(ぎょうぶ)様、お背中お流ししましょうか。』
湯殿の引戸越しに、佳奈の声が聞こえて来た。
佳奈、来てくれたのか…
恒彦は、ホッと救われたように気持ちを落ち着けた。
『うん、頼む。』
『では、失礼します。』
声と同時に引戸が開き、三角巻きに手拭いを巻き、襷掛けした佳奈が入って来た。
『佳奈…』
恒彦が、何処か寂しげに笑いかけると、佳奈は満面の笑みで返して、早速背中を流し始めた。
佳奈は、例によって、そうするのが何よりも幸せであるかのように、恒彦の背中を丹念に洗い流して行く。
心地よい…
何て心地よいのだろう…
恒彦は、佳奈に手拭いで背中を擦られ、湯をかけられながら、染み染み思った。
まるで、垢と一緒に、心の痛みも傷も、全て洗い流されるような気がする。
と…
不意に、佳奈の手が止まった。
『佳奈、どうした?』
『刑部(ぎょうぶ)様、何かありまして?』
『何でだ?』
『何だか、とても悲しそう…』
佳奈は言うなり、恒彦の肩を抱き、頬を乗せた。
『何も無いさ。ただ…』
『ただ?』
『自分の弱さ、不甲斐なさ、情けなさを染み染み感じていただけさ…』
恒彦が自嘲気味に言うと…
『刑部(ぎょうぶ)様は、不甲斐なくも情けなくもありません…とても、お優しくて、お強くて、頼もしいお方です。』
『佳奈…』
恒彦が振り向くと、佳奈はハラハラと涙を零して、しゃくりあげていた。
『そうか…俺は、優しく、強く、頼もしいか…』
『はい。』
恒彦は、しゃくりあげながら頷く佳奈の頭をそっと撫で…
『おまえも、背中を流すか?』
話を変えるように言うと…
『はいっ!』
佳奈は打って変わったように、満面の笑みを零し、そそくさと着物を脱ぎ出した。
『どうだ、佳奈、気持ち良いか?』
『はい、とても。』
嬉しそうに頷く佳奈は、やはり来てみて良かったと思った。
焚き場で、壁越しに返事を返す恒彦の声は、何処か寂しそうに感じられた。
何より、来て欲しい、側にいて欲しいと言われているような気がした。
佳奈は、矢も盾もなく駆けつけてみたが…
やはり、寂しかったんだ…
恒彦の背中を流しながら、そう感じると、胸がいっぱいになり、思わず涙を溢れさせた。
しかし、無骨な手で、不器用に背中を流してくる恒彦は、もう寂しくはなく、とても嬉しそうであった。
『刑部(ぎょうぶ)様、佳奈は此処におります。』
佳奈が不意に呟くように言うと…
『佳奈…』
刑部(ぎょうぶ)の手が止まった。
『もう、大丈夫…もう、大丈夫…佳奈は、ずっと、ずっと、刑部(ぎょうぶ)様のお側におります。』
佳奈が更にそう言うと…
『佳奈、こっちを向いて…』
恒彦は言いながら、佳奈を正面に向かせた。
『前も、洗ってやろう。』
『はい。』
佳奈がまた、満面の笑みで頷くと、恒彦は早速湯をかけ、前も洗ってやり始めた。
無骨な手に握られた手拭いが、小さな首筋から肩、肩から両腕、指の先へと優しく擦られながら、ゆっくりと這ってゆく。
『佳奈、刑部(ぎょうぶ)もだ…刑部(ぎょうぶ)も、ずっと側にいるぞ。一生、佳奈を手離しはしないぞ。』
恒彦もそう言うと、佳奈の小さな指を一本一本口に含み、手の裏表を舐め回しながら、手拭いを真っ平らな胸に運び、乳首の当たりを撫で回すように洗い出した。
『アァァ…アァァ…アァァ…』
佳奈は、うっとりした顔を天井に向け、静かな喘ぎを漏らしだした。
『佳奈…佳奈…俺の佳奈…』
恒彦が、佳奈の手から腕に舌先を移しながら、それまで撫で回していた粒のような乳首をそっと摘んで洗い出すと…
『アンッ…アンッ…アンッ…』
それまで、伸びやかだった佳奈の喘ぎは、軽やかで短調になって行く。
そして…
『佳奈…』
『刑部(ぎょうぶ)様…』
存分に小さな両腕を味わい尽くした恒彦は、顔を上げて佳奈と見つめ合うと、濃厚に唇を重ねながら、手拭いを更に腹部、下腹部へと移してゆく。
やがて、無骨な手に握られた手拭いが、股間にただすると…
『アァァッ…アッ…アッ…アッ…アァァッ…アッ…アッ…アァァッ…』
佳奈は、恒彦に吸われる唇を離して、まあ、喘ぎ出した。
『佳奈、そこにお座り。』
『はい、刑部(ぎょうぶ)様…』
恒彦は、佳奈を湯船の縁に腰掛けさせると、大きく脚を開かせ、股間に顔を埋めた。
真っさらな丘の膨らみは、薄紅から紅色に変わり、神門(みと)の中央を走る縦一本線のワレメは、既にしっとりと濡れていた。
ワレメを開き、参道を覗き見れば…
あるかなしかの小さな内神門(うちみと)は、早く吸われたいと、ヒクヒクさせている。
不意に、恒彦の動きが止まった。
早く佳奈の果実に口付けたい…
果汁を吸うように、むしゃぶりつきたい…
気持ちばかり急くのだが…
まるで、金縛りにあったように、目線が参道の奥へと釘付けられ、鼓動ばかりが高鳴り出す。
これは…
と、恒彦は思う。
あの夢と同じ光景…
早くこの金縛りを解かなければ…
佳奈の果実に口を運び、いつも通りに仕上げねば…
しかし、恒彦の焦りと反比例して、股間は疼き腫れ上がり、穂柱は痛い程に熱を帯びて膨張している。
その時…
『刑部(ぎょうぶ)様…』
頭の上から、佳奈がうっとりと笑いかけてきた。
『佳奈…』
一瞬、理性が飛んでしまうのでは…
夢のように…
思いかけたのとは裏腹に、恒彦は正気に帰ると笑い返し、そのまま佳奈の股間に顔を埋めて行った。
本当に幸せ…
恐ろしいくらいに…
佳奈はまた、今日と言う一日を振り返って、しみじみ思った。
刑部(ぎょうぶ)様と一緒に暮らせて…
刑部(ぎょうぶ)様の為に家事をして…
刑部(ぎょうぶ)様と一緒に遊んで…
刑部(ぎょうぶ)様と一緒に戯れて…
だけど…
刑部(ぎょうぶ)様は…
あれだけ愛撫されたと言うのに、まだ身体(からだ)は火照り続け、鼓動は高鳴り続けている。
あの後二人で湯に浸かると、それまで繰り広げていた男と女の戯れと一変して、共に子供帰りした。
恒彦が、手で水鉄砲をして見せると、佳奈は面白がり、自分もやってみたがった。
水鉄砲は、見た目と違って、いざやってみるとなかなかうまく行かず、恒彦が手本を見せる度に首を傾げてばかりいた。
恒彦も途方にくれた。
何しろ、手の水鉄砲は理屈ではなく、身体(からだ)で覚えた遊びなのだ。
言葉で教えようがなく、どうして良いかわからなかった。
しかし、何度も見よう見まねでやるうちに、佳奈は何気なくできるようになった。
『刑部(ぎょうぶ)様、できるようになりました。』
『おう、うまいじゃないか、佳奈…』
言いかける恒彦の顔に、佳奈が撃つ水鉄砲の飛沫が、恒彦の顔を直撃する。
『あっ!やったな、コラッ!』
クスクス笑う佳奈の顔に、今度は恒彦が飛沫を浴びせた。
『それっ!』
『そらっ!』
それから、二人は延々と飛沫のかけっこをした後、恒彦は水面に手を押し込むように潜らせ噴水を起こして見せた。
それも、手の押し込み方、力加減、手を潜らせる深さに応じて、実に様々な形の噴水を起こし、さながらそれは、水芸のようであった。
『わあっ!』
恒彦が一つ噴水を起こす度に、感嘆の声を上げる佳奈は、飽きる事なく何度も見たがり…
『刑部(ぎょうぶ)様、もっと見せて下さりませ、もっと見せて下さりませ。』
『よーし!それじゃあ、次はこうだ!』
恒彦も、得意になって、延々と様々な噴水を作り続けた。
やがて…
『何か、ぬるくなってきました。』
佳奈は、湯が冷めて始めた事に気付き始めた。
思えば、長いこと、焚き場の番人は不在になっていたのである。
薪木も次第に燃え尽きて、湯を炊く火は消えかけていたのである。
しかし…
『ぬるうなんか無いさ。』
恒彦は言って、出ようとしない。
『でも…』
佳奈は、恒彦に風邪をひかせては…と、思うと…
『こうすれば、温かろう。』
恒彦はそう言って、佳奈を抱きしめた。
『はい。』
確かに…
こうして肌を重ねて抱きあえば、とても暖かいなと、思った。
湯よりも、恒彦の温もりの方が、暖かいなと思い、もう少しこうしていたいと思った。
それに、何故か…
湯が冷めてくるのとは反比例して、恒彦の肌は熱を帯びているようにも思われたのだ。
このまま一晩、冷めた湯の中で抱き合うのも良いかも知れない…
と、その時…
佳奈は、尻に何かコツコツ当たるものがある事に気づいた。
えっ?
佳奈は、何だろと思い手を伸ばして、ハッとなった。
『佳奈、どうした?』
『えっ?いいえ、何でもありませぬ。』
『そうか…』
そしてまた、恒彦の胸に顔を埋めながら、亀四郎の言葉を思い出す。
『要するに、佳奈ちゃんは女で、お頭は男。それだけのこったよ。
女なら好いた男を、男なら好いた女を、誰だってみんな、身体(からだ)が求めて恋しがる。』
刑部(ぎょうぶ)様が、私を求めてる…
刑部(ぎょうぶ)様の身体(からだ)が、私を…
そしてまた、亀四郎の言葉を思い出す。
『ちゃんと抱いて貰え。戯れるだけでなくてな。』
『抱かれるのが怖けりゃーな、せめてお頭の疼きを慰めてやるこって。佳奈ちゃんが、毎日して貰っている事を、お頭にもして差し上げれば良え。』
私も、刑部(ぎょうぶ)様を…
私って、どんな味なのかしら…
刑部(ぎょうぶ)様の味って、どんな…
しかし、此処でまた…
『さあ、しっかり咥えろよ。』
『噛むんじゃねえぞ、噛んだら…わかってるな。』
『オラオラッ!しっかり舌使って舐めろ!舌使ってよ!』
船の中で、野獣のような男達に、連日捻り込まれた穂柱の尿臭と、口腔内に放たれた生臭いものの記憶が、佳奈は思考を遮られて震えだす。
『どうした、佳奈?』
『刑部(ぎょうぶ)様、寒い…とても寒い…』
『そう言えば…』
恒彦は、薪木の燃える音が止まっている事に気づいた。
新しい薪木を継ぎ足す者がいなくなれば、やがて燃え尽き、火は消える。
抱きあえば暖かいと言っても、湯が水になれば、さすがに寒い。
『出ようか。』
『はい。』
恒彦は、静かに頷く佳奈を愛しげに抱き上げると、漸く湯船を上がった。
『良い。』
恒彦は、佳奈に身体(からだ)を拭われ、洗い立ての寝巻きを差し出されると、そっと押し退けた。
『今宵は、このまま寝る。』
『ならば、私も…』
佳奈も、そう言って自身の寝巻きを押し退け、恒彦の背中に頬を乗せると…
『行くか。』
恒彦は、佳奈の頬を撫で、互いに笑みを交わし合って立ち上がる。
二人とも、一糸纏わぬ裸のまま湯殿を出て、寝間に行き、寝床に入った。
どうして差し上げれば良いのだろう…
風呂を上がった後も、恒彦の穂柱は、ずっとそそり勃たたせていた。
おそらくは、今もきっと…
その原因は自分にある。
佳奈の身体(からだ)が恒彦を求めるように、恒彦の身体(からだ)も佳奈を求めているのだ。
どうして差し上げたら…
その思いはまた…
どんな味がするのかしら…
私の身体(からだ)は…
刑部(ぎょうぶ)様の身体(からだ)は…
『佳奈、眠れねぇのか?』
『はい。』
『また、痛むのか?怖え夢を見そうなのか?』
『いいえ…』
『じゃあ、どうして…』
恒彦が言い終えるより先に、佳奈は唐突に起き上がるや唇を重ねた。
『佳奈…』
『刑部(ぎょうぶ)様、私ってどのような味がするのですか?』
『味?』
『はい、私を可愛がってくださる時の味です。』
『そうだな。とても、甘え味だ。』
『どのような、甘さですの?』
『そうだな…その日、その時、佳奈の身体(からだ)の場所によって違う。瓜のようでもあれば、柿のようでもあり、蜜柑のようでもあれば、杏子のようでもある。』
『何処が一番甘うございますか?』
恒彦は、答える代わりに、佳奈の股間を弄り出した。
『アッ…アッ…アッ…アァァァァ…』
『此処が一番甘え、特にこのあたりがな…』
『アァァァァーーーーーーンッ!!!!』
佳奈は、股間を弄る指先が、神門(みと)先端の包皮を捲りあげ、粒のような神核(みかく)を直に摘まれると、腰を弓形に反らせて声を上げた。
『それと、此処だな…』
『アァァーンッ!アッ!アッ!アッ!アァァーンッ!』
恒彦は、更にもう片方の手の指先で佳奈の片方の乳首を摘んで言うと、更にもう片方の乳首を舐め出した。
『アンッ!アンッ!アンッ!アンッ!』
佳奈は、暫しの間、身体(からだ)を仰け反らせて声を上げ続けた後…
『刑部(ぎょうぶ)様…私も、知りとうごぞいます。』
『何をだ?』
『刑部(ぎょうぶ)様のお味を…』
『俺の味?』
首を傾げる恒彦にニコッと笑って見せると、その首筋に唇を当てた。
『佳奈…』
佳奈は、戸惑う恒彦をよそに、いつも自分がそうされるように、唇を首筋から胸へと這わせ、毛に覆われた乳首の辺りを舐め始める。
『ウッ…』
不意に、小さな手が、股間に回さらると、恒彦は声を漏らした。
熱い…
何て熱いのだろう…
佳奈は、極限までそそり勃つ穂柱を手に包み込むと思った。
『ウゥゥ…佳奈…佳奈…』
『刑部(ぎょうぶ)様は、塩辛うございます。』
『塩…辛い…』
『はい。でも、とても優しい辛さです。』
そう…
塩辛いけど…
とても優しい味…
とても優しい匂い…
あの人達と違う…
あの人達と全然違う…
佳奈は、胸から腹部、腹部から下腹部へと唇を動かして、舌先を這わせて行く事に、船の上の事が一つ一つ消えて行くのを感じた。
代わりに、恒彦の事でいっぱいになって行く…
佳奈の手の中で、恒彦の穂柱は更に熱を帯びて行く…
何て愛しいのだろう…
もう怖くない…
もう痛くない…
『ウゥゥッ…佳奈…佳奈…ウゥゥ…』
『はい、佳奈は此処におります。』
『佳奈…佳奈…』
そうではない…
そうではない…
よせ…
やめるんだ…
それ以上されたら…
俺は…
しかし、恒彦の声は、喉から出てくる事はなかった。
熱く激る穂柱を包み込む小さな手の温もりと、身体(からだ)の上を這う柔らかな舌先の感触に、金縛りにかけられ…
意識も理性も遠のいて行くのを感じる。
このままでは…
このままでは…
あの夢のように…
『ウゥゥッ…佳奈…佳奈…佳奈…』
わあ…
可愛い…
佳奈の唇が、恒彦の下腹部を通過して、遂に穂柱近くまで到達した時…
佳奈は、思わず笑みを浮かべた。
船の上で突きつけられたモノのように臭くもなければ、醜くもない。
何故か、幼い坊やに遭遇したような愛しさが込み上げてくるのを感じた。
手を離せば、ヒクヒク揺れる穂柱は、早く早くと駄々をこねてるようにも見える。
もうすぐですよ。
佳奈は、穂柱を軽く小突き、その先端を指先で優しく撫で回しながら、また、同じ思いが過り出した。
どんな味がするのだろう…
私の味は、蜜柑や杏子だと仰られてたけど…
刑部(ぎょうぶ)様の味は…
この味は…
この匂いは…
まるで…
『ウゥゥッ…佳奈…佳奈…もう…もう…』
佳奈を押し退けなくえは…
そう思うのとは真逆に、恒彦の手は、佳奈の頭を押し付けるように撫で回し、神門(みと)のワレメを弄り続ける。
柔らかな髪と、しっとり濡れた参道の感触は、穂柱を揉み扱がれ、穂袋を舐められる心地良さを増長させる。
恒彦は、腰をくねらせ、全身を悶えさながら、何もかも飛んでゆくのを感じた。
意識も、理性も、良心も…
ただ、桃源に遊ぶにも似た快楽に、身を委ねる事しかできなくなっていった。
『佳奈…』
佳奈は、穂袋を丹念に舐め回すと、いよいよ休みなく扱き続けてきた、穂柱に舌先を向けた。
最初は、裏側の付け根から先端に向けて何度も舐め上げ…
次第に先端の裏側を集中して舐め回したゆき…
『ウゥゥッ…ウッ…ウッ…ウゥゥッ…』
恒彦の呻きとも喘ぎともつかぬ声は、穂柱を頬張る佳奈の小さな口と舌先の動きに合わせ、次第次第に大きくなって行く。
磯の味…
潮の味…
佳奈は、口腔内に広がる穂柱の味を舌先に噛み締めながら、思った。
川の世界を生きる人だけど…
刑部(ぎょうぶ)様から滲みでる味と香りは、海のもの…
広い広い…
果てしない海のもの…
『ウッ…ウッ…ウッ…ウッ…』
恒彦は、次第に下腹部の奥から、何やら暖かいものが込み上げてくるのを感じた。
近づいている…
この暖かいものが、外に向かって放たれようとする瞬間が…
そして…
『ウゥゥゥゥーッ!!!!』
恒彦が、獣の咆哮にも似た声を上げて、思い切り腰を突き上げると同時に…
広がる…
広がる…
磯の味…
潮の味…
佳奈は、口腔内いっぱいに、泉のように湧き出る生暖かなものを吸い上げ、呑み込みながら思った。
広い…
広い…
果てしない…
海のような味が…
刑部(ぎょうぶ)様が、私の中に入ってらした…
これで、夫婦(めおと)になれるんだ…
私は、刑部(ぎょうぶ)様のお嫁さんになれるんだ…
そう思うと…
『佳奈っ!』
白穂を放ち尽くすと、漸く我に帰った恒彦は蒼白になって状態を起こした。
佳奈は、尿道に残った白穂も飲み尽くそうと、未だ穂柱を吸い上げている。
とうとうやってしまった…
夢の通りになってしまった…
恒彦は、取り返しのつかない罪悪感に震え出すと…
『刑部(ぎょうぶ)様。』
と、漸く穂柱から口を離す佳奈が、満面の笑みを向けてきた。
『佳奈…』
『刑部(ぎょうぶ)様は、磯の味…広い広い果てしない、海の味が致しました。』
『そうか…』
『これで、私、刑部(ぎょうぶ)様に夫婦(めおと)にして頂けますね。私、刑部(ぎょうぶ)様の、お嫁さんにして頂けますね。』
そう言って、笑いかける佳奈の顔は、嬉しいと言うより、何か誇らしげなものを感じさせていた。
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