背寒日誌

2024年10月末より再開。日々感じたこと、観たこと、聴いたもの、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

川上史津子出演作『深夜裁判』を鑑賞(つづき)

2012年04月29日 05時24分09秒 | 日本映画
 映画館のホームページの作品データを参考に、観た感想を書いていく。

 まず、『ポール&マヨネーズ』(20分)。これは篠原哲雄監督ではなく、陣内天飛という人の監督の短篇。シュウマイなのか肉マンなのか分らなかったが、その製造工場で共に働く中年のおばさんと不良っぽい若い女の子との触れ合いを描いたもの。といっても内容は奇抜。おばさんはマヨネーズが大好きで、なんにでもマヨネーズをつけて食べるほど。しかも、若い女の子に弁当のおかずを無理やり食べさせようとするおせっかいなおばさん。一方、若い女の子は、昼は工場で働き、夜はライブハウスでショーに出演しているという二重生活者。おばさんが女の子が勧める切符を買ってライブハウスへ行くと、なんと女の子がヌードダンサーのような衣裳でポールに上って絡みつきスネークダンスを踊っているのでびっくり。このおばさん、若い頃はダンサーを目指していたという理由もあって、すっかり女の子のファンになってしまう。この短篇、映像的にも面白く、展開もなかなか奇想天外で良かった。ただ、見終わって考えると、なぜ、おばさんと女の子にしたのか分らず。せっかくなら男と女にすればもっと良かったのにと思う。マヨネーズの好きななよなよした若い男と、筋肉質のつっぱり女のダンサーとの関係の方がもっと説得力があったのではあるまいか。
 二作目『下校するにはまだ早い』(40分)。監督は篠原哲雄、脚本は日比野ひとし(舞台挨拶したプロデューサーの平埜敬太氏のペンネーム)。小学校のPTAと先生たちの男女の入り乱れた恋模様を描いたコメディねらいの作品。展開がわざとらしく、また無理やりあれとこれをひっつけて、話を面白くしようとした作為があざとく、途中で観るに耐えなくなる。笑えるところもなく、コメディにもなっていなし、また風刺にもなっていない中途半端な作品。最後は、それまで互いに浮気をしているのではないかと嫉妬していた主人公夫婦が、妻が夫に子供が出来たことを打ち明けことで、手をつないで仲良く焼肉を食べに行くという、取って付けたような結末。
 三作目『柔らかい土』(3分)。3分というこんな短い作品だとはつゆ知らず、あっと間に終って、唖然。仕事が嫌になってうつ病になった女の子が、送られてきた土に感動して、また仕事に復帰する話だったと、観終って納得。

 四作目『深夜裁判』(55分)。中原俊監督の『12人の優しい日本人』は佳作、大林宣彦監督の『理由』は力作だと思うが、『深夜裁判』は、この二つの作品を足して二で割ったような作品だと思ったが、どちらと比較しても、雲泥の差で劣ることはあっても、優るところはない。裁判所の会議室かなにか知らないが、審議の場面が面白くないのでは話にならない。川上史津子さんには悪いが、隣りにいたもう一人の女性とのキャラクターの対照が際立たたなかった。
 これはシナリオ上の問題だと思うが、登場人物が多すぎて、だれもかれも面白おかしく描こうとしたため、観ている方は途中でだれに関心を持って観ればよいか分らなくなって、とういうよりむしろ人物の個性を理解するのが面倒くさくなって、結局だれも面白く感じられなくなってしまったのだと思う。主役は漫画描きの男のはずだが、この男のドラマがきちっと描けていないので、軸がなくなってしまったのが最大の欠陥だろう。あと、これは技術的な問題だが、この作品、カラーで撮った画像を色抜きしてモノクロにしたのだろうが、ところどころ青みと赤みが抜けていない画面があって気になった。それと、ラストはカラーになって病院のシーンになるが、この話のオチは私にはまったく不可解だった。観ていて一番魅力的だったのは、主人公と漫画誌の編集者と若いホモみたいな漫画家の三人が登場するシーンで、その次は、主人公が風俗嬢とカーセックスをするシーンであった。
 私も現在シナリオを書いているので、自戒の念を込めて言うのだが、群像劇は難しいなあと思う。
 大林宣彦監督の『理由』は、原作が宮部みゆき女史で、脚本が石森史郎さんだが、石森さんから私はいろいろなことを教わっている。また、私の書いたシナリオを読んでいただき、手厳しい批判をいただいている。石森さんから絶対守れと口をすっぱくして言われていることは、次の三か条である。
①誰の(単数)の話なのか
②その人物(主人公)は、ドラマが展開する最初と、対立や葛藤の結果、あるいは様々なドラマに翻弄された結果とでは、大きく局面と状況(situation)が変っていなければならない。
③ひと口で語ることの出来る物語(主題)であること。


  

川上史津子出演作『深夜裁判』を鑑賞

2012年04月29日 02時24分32秒 | 日本映画
 下北沢のトリウッドという小さな映画館へ『深夜裁判』という映画を観に行った。
 知り合いの川上史津子さん(エロ短歌の歌人で、昔で言うアングラ女優)からメールをもらい、この映画に準主役級の女弁護人の役で出ているのでぜひ観に来てほしいというお誘いがあったからだ。齢不惑で映画出演だというし、多分ノーギャラで出て、憐れにも上映中は連日映画館で客引きみたいなことをやっているらしいので、観ずに済ますわけにはいかない。
 『深夜裁判』という映画の監督は、篠原哲雄氏。以前同監督の『月とキャベツ』(『月とスッポン』のようなタイトルとだけ記憶にあったが川上さんに教えてもらった)という作品のDVDを新宿のツタヤで借りたことがあるが、奇をてらった恋愛映画で途中でやめて返却した覚えがある。『深夜裁判』という映画もきっと退屈するだろうなと思いつつも、最近の映画もできるだけ観なければいけないという義務感もあって、自宅で夕食を済ませると、下北沢へと向かった。
 私は明大前に住んでいるので、下北沢は急行で一駅の近さなのだが、下北沢という街は、どうも居心地が悪く、用事がない限りほとんど行くことがない。あまりいい思い出もない。気取ったイタリアレストランでバカ高いイカ墨スパゲッティを食べて幻滅したこと、どこの小劇場だったか忘れたが中村獅童さんが出演している現代劇を観に行ったらこれが観念的なセリフばかりの芝居で、うんざりしながら2時間近く過ごしたこと、私が作った本を置いてもらっても売れない書店しかないこと(博文堂、三省堂、ヴレッジバンガード)などである。
 以前、下北沢のはずれに映画館があって、何度か行ったことがあるが、確か3年ほど前につぶれてしまった。トリウッドという映画館は初耳で、新しく出来たのだろうか。メールの案内に従い、駅を南口で降りて、商店街をまっすぐ行って、有名なパン屋を通り越し、五さ路を左へ直角に曲ってすぐのところ、古着屋の二階にトリウッド(Tollywood)はあった。意味不明の名称で、ハリウッド(Hollywood)のもじりなのか。
 受付で川上史津子の名を言うと、彼女が妊婦服のようなドレスを着て出て来て、目をまんまるくして喜ぶ。切符を予約せずに来たのに、割引にしてくれた。
 彼女と5分ほど立ち話。ビックニュースがあるというので聞くと、この映画に続いてまた映画出演したという。「あたし、映画女優づいて来ちゃった!」今度は主役で、深作欣二の息子さんが監督する映画で「脱いだのよ」だって。「おっぱいあるの?その年で脱がれてもなあ……」
 午後8時から入場。ほんとに小さなミニシアターだ。客席が40くらいか。
 お客さんは十数人で、若い人ばかり。「おれが一番年寄りかよ」といった感じ。いつも行く名画座(新文芸坐やラピュタ阿佐ヶ谷や浅草名画座ほか)は高齢者の方が多い。 だんだん様子が分ってくる。ここは主に自主製作映画を上映しているところらしい。そしてこの二週間は「篠原哲雄ショートムービーパーティ」と題して、短篇と中篇を計4本、一日二回ずつ上映。しかも連日出演者の舞台挨拶があり、その司会進行役が川上史津子なのだ。
 妊婦服の彼女が出て来て挨拶をすると、少ない観客から暖かい拍手があり、次にゾロゾロ十人くらい男女の出演者が登場してずらっとスクリーンの前に並ぶ。みんな普段着でシロウトみたいに地味。偉そうにプロデューサーも登場して、最初に彼の話だったが、長ったらしくて面白くない。彼は平埜さんと言って、映画が終ってから飲み屋でご一緒したので悪口は言えないが、これは正直な第一印象。上映作品3本の脚本も書いたそうだ。その後、順番に出演者の簡単な挨拶があり、一人一人に観客からパラパラと暖かい拍手。もちろん私も拍手。みんな自己紹介をして名前を言うが、多すぎて覚え切れず。有名な役者さんは誰もいなかったようだが、一応全員役者らしい。あるいは役者を目指してかんばっているらしい。一人、松葉杖をついて足を引きずっている女の子がいて、ちょっと可愛いかったので気になる。もう一人、長い髪をしてメガネをかけて映画の中に出て来ますから見逃さないでください、と言った女の子の話が印象に残る。
 30分ほどこうした舞台挨拶があって、いよいよ映画の上映開始。ハナから期待していないし、2時間を超える長篇はないので、気は楽。(つづく)