アマゾンで注文しておいた洋書が続々と届き、あれを読んだり、これを読んだりしている。
その中にパーカーの最新の研究書が2冊あり、どちらも2013年のほぼ同時期に出版された本である。
1冊目は、チャック・ハディックス Chuck Haddix の ”Bird: The Life and Music of Charlie Parker”「バード――チャーリー・パーカーの人生と音楽」(2013年8月13日初版)。私が入手したのはペーパーバック版で2015年発行。著者はカンザス出身のアメリカ音楽研究者。アーカイブで厖大な音源の調査、考証に従事。ラジオの音楽番組のディレクター兼パーソナリティを務め、音楽史の講師でもある。年齢は不詳。多分70歳前後だと思う。カンザス・シティで仕事をしているという地元の利を生かし、パーカーの調査を続けてきたようだ。
序と第一章だけざっと読んでみた。レベッカについての記述に目新しいことはない。ディギンスの既刊書「セレブレイティング・バード」(1987年)をほぼなぞったものにすぎない。しかし、パーカーの幼少年時代については、新しい事実や考察が書かれていた。転居先とその時期、また通学した小学校に関しては、これまでのパーカーの伝記本には書かれていなかったことだ。また、第四章を拾い読みすると、パーカーがカンザス・シティを出奔した後の母アディの動向について、新たに判明したことが書かれている。また、パーカーがニューヨークへたどり着くまでの足取りもかなり詳細に調査したらしく、新たな見解が記されているようだ。
この本は全部で180ページほどの薄い本で、英文も読みやすい。
2冊目は、スタンリー・クラウチ Stanley Crouch の近刊 ”Kansas City Lightning: The Rise and Times of Charlie Parker”「カンザス・シティの稲妻――チャーリー・パーカーの出現とその時代」(2013年9月14日初版)。ペイパーバック版は2014年発行。著者のスタンリー・クラウチは、1945年ロサンゼルス生まれの黒人。多彩な経歴を持つ人で、詩人でドラマーだった。作家、ジャズ評論家としても名を上げ、トランぺッターのウィントン・マルサリスの師匠でもあるようだ。
この本は、黒人が書いた最初の本格的なパーカーの研究書であるととともに、著者が1980年代から続けてきた黒人の音楽・文化史研究の成果も随所に盛り込んでいる。したがって、チャーリー・パーカーに焦点を当てながらも、文化史的な説明をあちこちに加えて書いているので、分量が増し、またやや読みにくい面もある。ただ、彼自身が行ってきたパーカー関係者へのインタビューをもとに書いている部分は、説得力があり、パーカーのイメージも浮き彫りにされて、読み応えがある。クラウチ自身が居場所を突き止め、初めてインタビューを試みた人では、何と言っても、レベッカ・ラフィンが重要である。クラウチは1981年に初めて彼女にインタビューし、それを録音したテープを持っているそうで、その後、レベッカとは1980年代に何度か話して、そのメモも取っておいたようだ。
実は、この本を手に取る前に私は、ゲイリー・ディギンスが1987年に出した「セレブレイティング・バード――チャーリー・パーカーの栄光」の日本語版を読んだのだが、この本に書かれたレベッカ・ラフィンの談話に基づいた記述は、まずスターリー・クラウチの協力があって、そのコネでディギンス自身もレベッカと会い、インタビューをして書いたものであった。ディギンスは冒頭の謝辞で、クラウチの好意について書いている。しかし、思うに、レベッカを見つけ出し、最初にインタビューしたクラウチの苦労は、ディギンスにすっかり利用されてしまったようだ。また、クラウチ自身はそれまでずっとあちこちの新聞雑誌にジャズの評論を書いていたようで、2006年にそれらを収録編集した著書”Considering Genius: Writings on Jazz”を発行している。ここに載っているエッセイ”Bird Land: Charlie Parker, Clint Eastwood, and America”(1989)に私は目を通したが、これは、クリント・イーストウッドが監督した映画『バード』の手厳しい批評で、レベッカのことはわずかしか書かれていない。
まあ、そういう経緯があって、クラウチが長年のうっ憤をぶちまけるようにして執筆した本が「カンザス・シティの稲妻」だと言えるようだ。レベッカの他にも彼女の妹のオフェリアやパーカーの幼友達へのインタビューもあり、もうみんな亡くなってしまったのだが、こうした資料をもとに、この本をようやく完成させたのだと思う。ただ、クラウチという人は、他のパーカー研究者の最新の調査(たとえばチャック・ハディックスの調査やリュー・ウォーカーのウェッブ・サイトの研究)を、知ってか知らずか、採り入れていないところがあり、4分の1ほど読んだ限りではあちこちに記述漏れが目立つ印象を受ける。
ところで、ゲイリー・ディギンスの「セレブレイティング・バード」は2013年に改訂版が出されているので、先日原書をアマゾンで注文したが、まだ手元に届いていない。
その中にパーカーの最新の研究書が2冊あり、どちらも2013年のほぼ同時期に出版された本である。
1冊目は、チャック・ハディックス Chuck Haddix の ”Bird: The Life and Music of Charlie Parker”「バード――チャーリー・パーカーの人生と音楽」(2013年8月13日初版)。私が入手したのはペーパーバック版で2015年発行。著者はカンザス出身のアメリカ音楽研究者。アーカイブで厖大な音源の調査、考証に従事。ラジオの音楽番組のディレクター兼パーソナリティを務め、音楽史の講師でもある。年齢は不詳。多分70歳前後だと思う。カンザス・シティで仕事をしているという地元の利を生かし、パーカーの調査を続けてきたようだ。
序と第一章だけざっと読んでみた。レベッカについての記述に目新しいことはない。ディギンスの既刊書「セレブレイティング・バード」(1987年)をほぼなぞったものにすぎない。しかし、パーカーの幼少年時代については、新しい事実や考察が書かれていた。転居先とその時期、また通学した小学校に関しては、これまでのパーカーの伝記本には書かれていなかったことだ。また、第四章を拾い読みすると、パーカーがカンザス・シティを出奔した後の母アディの動向について、新たに判明したことが書かれている。また、パーカーがニューヨークへたどり着くまでの足取りもかなり詳細に調査したらしく、新たな見解が記されているようだ。
この本は全部で180ページほどの薄い本で、英文も読みやすい。
2冊目は、スタンリー・クラウチ Stanley Crouch の近刊 ”Kansas City Lightning: The Rise and Times of Charlie Parker”「カンザス・シティの稲妻――チャーリー・パーカーの出現とその時代」(2013年9月14日初版)。ペイパーバック版は2014年発行。著者のスタンリー・クラウチは、1945年ロサンゼルス生まれの黒人。多彩な経歴を持つ人で、詩人でドラマーだった。作家、ジャズ評論家としても名を上げ、トランぺッターのウィントン・マルサリスの師匠でもあるようだ。
この本は、黒人が書いた最初の本格的なパーカーの研究書であるととともに、著者が1980年代から続けてきた黒人の音楽・文化史研究の成果も随所に盛り込んでいる。したがって、チャーリー・パーカーに焦点を当てながらも、文化史的な説明をあちこちに加えて書いているので、分量が増し、またやや読みにくい面もある。ただ、彼自身が行ってきたパーカー関係者へのインタビューをもとに書いている部分は、説得力があり、パーカーのイメージも浮き彫りにされて、読み応えがある。クラウチ自身が居場所を突き止め、初めてインタビューを試みた人では、何と言っても、レベッカ・ラフィンが重要である。クラウチは1981年に初めて彼女にインタビューし、それを録音したテープを持っているそうで、その後、レベッカとは1980年代に何度か話して、そのメモも取っておいたようだ。
実は、この本を手に取る前に私は、ゲイリー・ディギンスが1987年に出した「セレブレイティング・バード――チャーリー・パーカーの栄光」の日本語版を読んだのだが、この本に書かれたレベッカ・ラフィンの談話に基づいた記述は、まずスターリー・クラウチの協力があって、そのコネでディギンス自身もレベッカと会い、インタビューをして書いたものであった。ディギンスは冒頭の謝辞で、クラウチの好意について書いている。しかし、思うに、レベッカを見つけ出し、最初にインタビューしたクラウチの苦労は、ディギンスにすっかり利用されてしまったようだ。また、クラウチ自身はそれまでずっとあちこちの新聞雑誌にジャズの評論を書いていたようで、2006年にそれらを収録編集した著書”Considering Genius: Writings on Jazz”を発行している。ここに載っているエッセイ”Bird Land: Charlie Parker, Clint Eastwood, and America”(1989)に私は目を通したが、これは、クリント・イーストウッドが監督した映画『バード』の手厳しい批評で、レベッカのことはわずかしか書かれていない。
まあ、そういう経緯があって、クラウチが長年のうっ憤をぶちまけるようにして執筆した本が「カンザス・シティの稲妻」だと言えるようだ。レベッカの他にも彼女の妹のオフェリアやパーカーの幼友達へのインタビューもあり、もうみんな亡くなってしまったのだが、こうした資料をもとに、この本をようやく完成させたのだと思う。ただ、クラウチという人は、他のパーカー研究者の最新の調査(たとえばチャック・ハディックスの調査やリュー・ウォーカーのウェッブ・サイトの研究)を、知ってか知らずか、採り入れていないところがあり、4分の1ほど読んだ限りではあちこちに記述漏れが目立つ印象を受ける。
ところで、ゲイリー・ディギンスの「セレブレイティング・バード」は2013年に改訂版が出されているので、先日原書をアマゾンで注文したが、まだ手元に届いていない。