この地に越して来てから、ある趣味の活動に参加するようになった。週1回、1日2時間程度の集いで、参加者のほとんどが女性だ。
おしゃべり好きな人が多く、活動の後はほぼ毎回数人が誘い合ってランチに出かける。わたしは午後から仕事があることを理由に不参加を決めていたが、会の中心的な人物から、「新会員であるあなたの歓迎会も兼ねているから、是非参加して」と言われ、断り切れず参加することにした。
女性の集まりにありがちなことだが、ランチで一番盛り上がった話題は、その日欠席した人の噂話。普段は仲良くしているようにみえるが、その人に対する不愉快な思いが溜まっていたのだろうか。それにしても欠席裁判をしているようで嫌だな、と思っていたら、人々の注意がいつのまにかわたしに向けられていた。
中心的な人物がわたしに尋ねる。「Sさん(わたしのこと)がこちらに引っ越していらしたのは、ご主人の転勤で?」
ついに来たか。そこでわたしはこう答えた。
「いいえ、わたしの夫は行方不明なんです。」
わたしは結婚はしていないが、成人した子どもが一人いる。子どもの父親には家庭がある。つまり、そういうことなのだ。
彼に対しては愛憎の念が入り混じっている。きっといつかは奥さんと別れてわたしと一緒になってくれる、と願い、信じ続けているうちに25年が経ってしまった。何度も別れようとしたが、そのたびに彼は、「きみなしでは生きていけない」と言ってわたしを引き留めるのであった。その言葉を信じたわたしが愚かだった、と今では思う。
子どもが一人暮らしを始めたことをきっかけに、遠くへ引っ越すことにした。もちろん、彼には転居先を知らせずに。今度こそ道ならぬ恋を断ち切って自由になろう、と決心して。
わたしの返答に、みんなぎょっとした顔になって黙ってしまった。一人が「それって冗談でしょ?Sさんも人が悪いわ」と苦笑いしながら言う。
わたしは「いいえ、冗談ではありません」と真顔で返す。
「夫を捜すために、わたしはこうして日本各地を転々としているのです。今までに10回以上引っ越してきました。夫の居場所が分かるまでは、これからも転居をしながら探し続けるつもりです。」
その日を境に、誰もわたしに「夫」のことを聞かなくなったし、ランチに誘われることもなくなった。わたしがいないところでは、きっとわたしの噂話で盛り上がっているのだろう。
一度嘘をつくと、つじつまを合わせるために嘘をつき続けなければいけないのが厄介だ。でも、今更「嘘でした」とは言えない。そうしているうちに、わたしには本当に行方不明になっている夫がいるのではないか、という気がしてくるのだ。この地にはどうやら「夫」は隠れていないようだ。そろそろ、別のところに引っ越さなければならないかもしれない。
男性同士の集まりは そういうのあるのかな?
嘘は辻褄合わせ 億劫になるので〜気の合わない人たちと付き合わないのが健全でいられます(*^_^*)ね!
でも、、好奇心で もっと聞きたくなる私は笑😆
そんな事があって父親を探す旅をしていたのですね
(。ー`ωー)
私も早く見つかる様に貴女を応援します!
おはようございます。
女の人でも陰口が好きじゃない人はいると思うけど、
どうしても集まるとその場の雰囲気で、って感じになるのかなあ。
実はわたしが関わっている活動でうんざりすることがあったので
(あちこちで欠席裁判が!)
それがヒントになってこの物語が生まれました。
好奇心でもっと話を聞きたくなる 笑。
わかります~。それが本音ですよね。
コメントありがとうございました♪
おはようございます。
母を訪ねて三千里。の、父親版ですね~。
この物語の「わたし」は自分の嘘に翻弄される運命。
嘘も方便だけど、自分の首を絞めないように気を付けないと!
コメントありがとうございました♪
あ、嘘話だと思って無かったです✨
知的過ぎて信じてしまいましたよ〜
ダメだウケ過ぎてキミ無しではブログやってられなーい🤣🤣🤣
>キミ無しではブログやってられなーい
に座布団10枚!(古い?)
ははは。わたしの創作物語を読んで「これは実話?」と聞いてくる
ブロ友さん結構います。
事実は小説より奇なり、ですから~笑。
欠席裁判。ありますね、女性に限らず男社会でも。
小さな嘘をついたことで、辻褄を合わせながら結果的に大きな嘘に繋がる、というのはありそうですね。この物語の「わたし」は嘘をついたことで土地を離れることになったというよりも、嘘をついたことで自分もそんな気がしてきた、という感じでしょうか。自分の中で嘘が現実になってしまうこともありそう…。
ふと思い出したのですが、以前に年齢を詐称していた女性が職場におりまして、子供の頃の話になると辻褄が合わないどころか、トンチンカンなんです。彼女はかなり欠席裁判にかけられていたなぁ。(笑)
こんにちは。
やむを得ず小さな嘘をつくことは誰にでもあるだろうけど、
この「わたし」の場合はその代償が大きすぎました。
無理に辻褄を合わそうとするうちに、嘘が真実のように思えてきてしまう。
なんだかありそうな話ですよね。
年齢詐称といえば、大学時代の友達が40歳になって再就職するとき、
履歴書に年齢を5歳ほど若く書いたって言ってました。
40代の女性は再就職が大変!って聞いているから、って。
アメリカはその点、年齢を書かなくていいから助かりますね 笑。
コメントありがとうございました♪
怖いですね(;_;
あまり考えないようにしながら、会社でも習い事でも生きてきましたが、ストレス解消にそうして噂話をして生きている人も残念ながらいるんでしょうね…。
きっとその人が自分を変えようと思わない限り、変わらない。
何て言われようが私は私と、流されずに強く生きて行った方が賢明なのかもしれませんね。
こんばんは。ご訪問&コメントありがとうございます。
人の陰口がストレス解消になるというのは、
健全なことではないけれど分かるような気もします。
自分だけでなく他の人も同じようにその人のことを快く思っていない、
と気づいてほっとする、仲間がいる、という気持ちに
なるのでしょうか。
>何と言われようが私は私、
本当にそう思って生きていきたいです。
簡単ではないけれど、言いたい人には言わせておけ、ぐらいに
図太くなれたらいいなあ、と思います。