彼と出会ったのは7年前の夏。わたしも彼も南信州を一人で旅していた。
南信州の夏を彩るリアトリスの花畑を背景に、わたし達は並んで写真に納まった。別れ際、お互いの連絡先を交換しあった。当時、わたしは東京に、彼は兵庫に住んでいた。
旅先での思い出を共有できる大切な仲間という意識が恋に変わったのは、旅が終わってそれぞれ日常に戻った数日後、彼からリアトリスの花籠とメッセージが届いたときだった。
「リアトリスはあなたにとても良く似合っていました。僕の正直な気持ちを花言葉にのせて贈ります。」
ネットで調べると、リアトリスの花言葉は「燃える思い」「向上心」「長すぎた恋愛」だという。穏やかで物静かな人という印象の彼と燃える思いとの結びつきが意外であり、同時に心が大きく揺さぶられる出来事であった。
それからわたし達はメール、電話、ヴィデオ通話など、さまざまな手段を駆使して恋を育んでいく。1~2か月に一度は週末を利用して会った。お互いの家を訪ねたり、時には旅先で落ち合ったりして。典型的な遠距離恋愛は、少し寂しくもあり、日常と非日常の切り替えが刺激的で楽しくもあった。
距離は隔たっていても、わたし達は相手への思いが薄れることなく、むしろ次第に熱が高まっていくような感じであった。かといって、燃えるような激しい恋ではなく、互いの気持ちを尊重し合い、信頼し合い、落ち着いた良い関係であった。
ところが交際4年目に、大きな変化が訪れる。彼の海外勤務が決まったのだ。赴任国はタイ。お互いの気持ちは決して軽々しいものではなく、真剣に愛情を確かめ合ってはいたものの、結婚という選択肢はまだ2人の間には存在していなかった。だから、彼からは「一緒に来てくれますか」という言葉もなく、わたしも「あなたについていきたい」と言わずに、空港で彼を見送った。
東京と兵庫でさえ遠いと感じていたのに、日本とタイは恨めしいほど離れている。わたしの友人はみな、「あなた達の関係って本当にドラマチックね。この恋が実るのか、消えてしまうのか、見守るわたし達のほうがはらはらしてしまうわ」と言う。
彼がタイで働いている間、わたしは職場の同僚に誘われるまま、一緒に食事をしたり飲みに行ったりするようになった。そして、同僚がわたしへの想いを打ち明けてくれたとき、わたしの心は揺れ動いた。会いたい時に会えない人より、わたしが辛い時や悲しい時、すぐに飛んできてそばで支えてくれる人のほうがいい。正直、そんなふうに感じてしまった。
彼にも赴任先で出会った女性と微妙な関係になった経験があるかもしれない。でも、わたしはあえて尋ねなかったし、知りたいとも思わなかった。たとえ彼がほかの女性に好意を寄せたとしても、わたしが知らない限り、それは問題ではない。だから、わたしが同僚の告白に心が揺れ動いたことも、彼には言わずにいた。
彼がタイに赴任したことにも良い事がある。毎年有給休暇を取ってタイへ彼に会いに行くうちに、わたしはこの国が大好きになったのだ。彼もわたしも旅が好きだから、非日常の時間はお互い気分の高揚を覚えて、それが2人の関係にもプラスの効果をもたらしてくれる。タイでは、彼のわたしへの「燃える思い」を再確認できて、わたし自身も彼のことが大好きな自分を再発見できるのだった。
そうやって時折波に揺られたり、消えかかった灯が再び燃え上がったりしながら、わたし達は関係をなんとか維持してきた。
今年も、わたしはタイへ行こうと思っている。でもその前に、どうしても確かめておきたいことがあり、彼にメールを送った。7年前の夏、リアトリスの花畑を背景に撮った2人の写真を添付して。
「7年前、あなたはわたしにリアトリスの花言葉、『燃える思い』を届けてくれました。今度はわたしが花言葉をあなたに贈ります。それを『燃える思い』と受け止めてくれるのか、あるいは『長すぎた恋愛』と解釈するのか。あなたの胸の内を知りたいのです。」
彼からの返信を読むのが怖い。でも、彼を信じたい。いずれにしても、今夜わたしは眠れない夜を過ごすのかもしれない。
(↑のリアトリスの画像の提供元は、「大森ガーデン 通販サイト」さんです。大森ガーデンさんのご好意により、使わせていただきました。)
後記:この物語は、「遥か彼方へ」の旅人さんからの返信コメントがきっかけとなって生まれました。旅人さんの粋なメッセージに感謝!
このお話続きがあるのですよね⁉️
もしかしてこれで終わり⁉️
それにしても作家のすごい想像力!
元になった旅人さんのお写真や花言葉を拝見しましたが、私なんて綺麗だなーっていうことぐらいしか思い浮かびません😆
花言葉の三つ、燃える思い、向上心、長すぎた恋愛 を上手く絡めましたね。彼の赴任先も、LDNとかNYとかのベタな先ではなくてタイ。その方がアジアで恋替わりの可能性も出てきますし、シーズン2に繫がるかも(笑)。
私が彼ならこう返答かな
こんなに遠く離れていても
夜毎心は空を駆けてゆく
熱い思いをこめて祈り捧げたい
Too far away
愛への道は far away
だから言葉をひとつくれれば
それでいい
どっかで聞いたような、あはは。
こんにちは。
残念?ながら、この物語はこれで終わりです。
たぶん、続きを書いたら「な~んだ」って展開になりそうで 苦笑。
遠距離恋愛で長すぎた春って、実際に結構ありそうですよね。
わたしの周囲にはいないけど。
わたしも無理だなあ。我慢強くないから、
遠距離恋愛はできないです。
想像しただけで辛いわ~。
コメントありがとうございました♪
シーズン2ですか!これで終わりにするつもりだったけど、
どうしようかな。迷っちゃいます 笑。
アジア、わたし大好きなんです。
そうだ、今度は別のカップルで舞台はアジアのラブストーリーを
書こうかな。
「どっかで聞いたような」がヒントになり、
検索したら、谷村新司の歌なんですね~。
知りませんでした。
far away。もしかして旅人さんのブログ名far awayはこの歌から来ているのかしら?
この歌はハッピーエンドのような印象を受けました。
この物語の2人もそうなるといいなあ。
コメントありがとうございました♪
こんにちは
な〜んだ、このストーリーはこれでend!なんだ。
私はこんな展開をイメージしました。
「実は、この彼には妻がいた! (衝撃的だわ!)
長く別居中で妻への愛情はもうないが子供がいる。
ある日、それを彼女に告白。
突然の出来事に悲しみに暮れる彼女だったが、愛情が憎しみに変わっていき、... 」
この先の展開はどうなるかイメージできません。
サスペンスにはなってほしくないしね。
作家さんは悩むだろうな〜
失礼しました〜
そうきたか!!
書いてみようかな、騙された女の復讐劇!
でも、不倫ですか。辛いな~。
愛人の立場は嫌だわ。日陰の存在は耐えられない!
と、主人公が叫んでいるので、止めておきますね 苦笑。
fairyさんも想像力豊かで素晴らしいですね~。
今度、ぜひリレー物語しましょう。
お互い、思いも寄らない展開になって、盛り上がるかもよ!笑。
コメントありがとうございました♪