あれは私のが高校三年の夏休みのことだったと思います。
練習の合間に、二年生の部員S君が私のところに来て言いました。
「すみません。来週から練習を休みたいんですけど」
「どうして?」
「予備校の夏期講習があるんで」
私の100%バスケットで埋め尽くされている脳みそには、「夏期講習」という語彙は存在しなかったので、最初何を言っているのかわかりませんでしたが、S君の言葉を頭の中でもう一度繰り返し、ようやく理解し、即座に憤然として答えました。
「お前、何いってるんだよ。バスケと勉強と、どっちが大事だと思っているんだよ。ふざけるなっ!」
言ったあとで、「自分はなんてことを言っているんだ」と少しだけ思いましたが、振り上げたコブシの下ろしどころがわかりません。
すると、その様子を見ていた同期の安本氏だったと思います。こう言って、私と後輩のS君に助け船を出してくれました。
「エツ、それはないぜ。勉強はしないと。行かせてやれよ」
私は渋々安本氏の言うこと聞くフリをして、理不尽なコブシを下すことができほっとし、S君も予備校の夏期講習に出ることができました。
S君はその後国立大学に入り、日本有数の世界企業に就職することになります。方や私は、大学卒業後、就職もままならず、いわゆるフリーターとなり今に至ります。68になった今も、日夜仕事に明け暮れ、文字通りの貧乏暇なしで、高校時代、大学時代にちゃんと勉強しなかった罰を受け続けています。ツケを払い続けているのであります。
都立石神井高校の現役の皆さんに、もしこの文章が届くことがあれば、申し上げます。「バスケットと勉強では、勉強のが大切です」。勉強よりバスケットを大切にした私は、少しも後悔はしていませんが、私のやり方を勧めるわけにはまいりません。そんなことはいわずもがな、だとは思いますが。
さて、S君が誰かというと、26期の佐野くんです。と思い、数十年ぶりに再会し、その後年に数回、飲み会で出会うようになった佐野くんに、このエピソードを話すと、「いえ、それは僕じゃありませんよ」とのこと。背の高い勉強のできる後輩だったから、てっきり佐野くんだと思っていたのですが、誰だったのでしょう。本当に申し訳ないことを言ってしまいました。佐野くん以外のどなたかだとしたら、改めてお詫びを申し上げます。
★佐野くんや後輩たちとトレーニングに励んだ武蔵関公園の今 2022-11-26撮影
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