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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第四章 女子トイレのすすり泣きの怪 20

2022年02月16日 | 霊感少女 さとみ 2 第四章 女子トイレのすすり泣きの怪
「ははは、怒るなよ、葉亜富」流人の笑い声がした。姿は見えない。「僕たちは力をもらっただろう? そんな傷なんか無いも同然だよ。忘れたのか?」
「分かっているわよう!」葉亜富は言うと腹から手を離す。傷が消えていた。「でもさ、腹が立つじゃないか。この腹を舐めるヤツは一杯いたけど、斬るヤツは初めてなんだ」
 突然、流人がみつの目の前に現われた。左の親指と人差し指とでみつの刀を摘まんだ。
「……そう言うわけだよ、女侍さん」
 流人は刀の峰を軽く摘まんでいるようにしか見えなかったが、みつが押そうが引こうがびくともしなかった。みつは刀から手を離し、腰に手挟んでいた脇差を抜き、流人を斬り付けた。しかし、これも右手で摘ままれてしまった。みつは素早く後方へと跳び下がった。流人は両手に刀を摘まんだまま、うっとりするような笑みをみつに向けた。
「ははは、刀を持たない侍は、裸同然だって言うよね? と言う事は、君は僕に全裸を晒しているって事だ。震えるほどにエロチックでセクシーだねぇ……」
 流人は言いながら、じっとみつの胸元を見つめる。みつは左右に腕を胸の前で交差させて少し前屈みになり、視線を避ける。
「みつさん、しっかりして!」さとみが声をかける。「流人のヤツ、あの影から分けてもらった呪の力を使っているのよ! 惑わされちゃダメ!」
 我に返ったみつは両拳を強く握りしめ、流人を睨みつける。流人は忌々しそうな表情でさとみを見つめた。
「お嬢ちゃん、もうネンネの時間だって言ったじゃないか」流人が言う。「言う事を聞かない悪い子はお仕置きだよ?」
「ふん!」さとみは鼻を鳴らす。「わたし、こう見えて高校生よ! 小さい子じゃないわ!」
「あら!」驚いた声を発したのは葉亜富だった。「嘘でしょ! どう見たって、小学生低学年……」
「そうだなぁ……」流人も驚いた顔をして見せる。「せいぜい小学生中学年ってところが限界だね」
 二人は笑う。さとみはぷっと頬を膨らませて抗議の態度を示す。
「馬鹿にしないでよね!」さとみが言う。「さあ、囚えている霊たちを解放してちょうだい。苦しんでいるにはここから見ても分かるんだから!」
「おお、怖い怖い」葉亜富がおどけた口調で言う。「流人、お嬢ちゃんが言っているけど、どうする?」
「……ふふふ、そりゃ無理だ」流人の目付きが冷たいものに変わる。「だって、彼らや彼女らは、自ら望んで僕たちの所に来たんだよ? 僕たちが無理やり連れて来たわけじゃない」
「どうせ、なんとかかんとか旨い事を言ってその気にさせたんでしょ?」
 そう言ったさとみの脳裏には、あんな事や、こんな事が浮かんでいる。……こう見えて、わたしだって思春期なんだから、色々と知っているのよ! さとみは思う。
「おや、お嬢ちゃん、旨い事って、どんな事だい?」流人が摘まんでいる刀を軽く振っておどけてみせる。みつが殺気の籠った視線を浴びせる。「僕には良く分かんないなぁ…… 具体的に言ってくれよ」
「そ、そんな事……」さとみは口籠る。「言えないわよう……」
 さとみは言う事は言ったものの、実際の事は知らない。
「言えないって? それなのに、そんなひどい事を言ったのかい?」流人は意地悪そうな笑みを浮かべ、困惑しているさとみに追い打ちをかける。「これは名誉棄損だね。罰として、僕の傍らに来るんだ」
「あら、良いわねぇ」葉亜富が可愛らしい笑みを浮かべて言う。「お嬢ちゃん、ちゃんと可愛がってもらうのよぉ……」
 二人の哄笑を浴びて、さとみは真っ赤になりながら、悔しそうに唇を噛んでいる。
「おい、好い加減にしやがれ!」
 野太い声が響き、流人と葉亜富の哄笑が止まった。と、もの凄い蹴りが流人の横面に炸裂した。流人は刀を取り落としながら転がった。間伐入れず、葉亜富には強烈な突きが鳩尾に埋まった。葉亜富は低くうめいて四つ這いになった。それを見下ろすように虎之助が立っている。
「全く、ふざけたヤツらだな!」虎之助が言う。「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさとみんなを放せって言ってんだ!」
「……な、何なのよ、あんたはぁ……」葉亜富が苦しそうな顔で虎之助を見上げる。「女のくせに馬鹿力ね…… レスリングでもやってたの?」
「……いや、そいつは……」流人は言いながら起き上がると床に座り込み、頭を振って正気を取り戻そうとしている。「そいつは、男だ」
「え?」葉亜富は驚いて飛び上がるように立ち上がると流人の傍まで駈けた。「男、だってぇ? 嘘だろ? どう見たって上玉の美女じゃないか!」
「いや、そうじゃない。あんな力は女には出せないよ」流人がため息をつく。「それに、蹴られる瞬間、チャイナ服の中が見えたんだ…… 男だったよ」
 蹴られ、突かれたダメージがもう無くなったのか、流人と葉亜富はすっと立ち上がった。
「え? じゃあ、オカマ?」葉亜富が眉間に皺を寄せる。「イヤだぁ……」
「いや、女装愛好家なのかもしれないよ」流人が言う。「困ったもんだ……」
「何よ! 何が困るって言うのよ!」虎之助が憤然として言う。「わたしは女よ! からだの事は瑣末な事だわ!」
「いや、そこが問題なのだよ」流人が厳粛な表情を浮かべる。「君たち三人が僕の元に来てくれたら、僕は葉亜富に一人差で勝てるんだけど、君は男性だから、葉亜富側になるんだよねぇ……」
「イヤよ!」葉亜富が口を尖らせ、隣の流人の胸倉をつかむ。「わたし、オカマは許容範囲じゃないの!」
「わたしは、オカマじゃないわ!」虎之助が割り込む。「わたしは女よ!」
「ほら、あいつ、自分で言っているじゃん」葉亜富が言う。「だから、あいつは流人のものだ」
「おい、人をあいつ呼ばわりするんじゃねぇぞ!」
 虎之助がドスを聞かせる。葉亜富が小さく悲鳴を上げて流人に縋り付いた。
「ほら、やっぱり男じゃないか」流人が笑う。「なので、彼は葉亜富側で受け持ってもらおうか」
「だから、わたしはオカマが嫌いなの!」
「オカマじゃないって言ってんだろうが!」虎之助が怒鳴る。「わたしは女なの!」
「ほらほらあ、自分で女って言ってんじゃない! 流人の受け持ちだよう!」
 三人は押し問答を繰り返している。


つづく


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