形之医学・しんそう療方 小石川院長 エッセー

昭和の頃、自然と野遊び、健康と医療のことなど。

三重県桑名市・二本松

2012-06-07 16:19:17 | Weblog

小学校の夏休みには、母親の郷里、三重県桑名によく行った。
行くと一回り年上の従兄に、揖斐(イビ)川の河口に近い、二本松に
魚釣りによく連れていかれた。 自転車の後ろに、竹の一本竿を二本か
ついで乗せてもらい二本松に向かう。 二本松という地名が正式の名
なのかわからないが、大きな松の木が数本、堤防の草むらにポツンと立っ
ていた。 揖斐川の河口は広く、対岸が遠くに霞んで見えた。


釣れるのはほとんどハゼで、ダボハゼもときどき掛かった。
ダボハゼは黒っぽい色のハゼで、骨が硬くて食べにくいから釣ると逃がす。 
ヤツは岸近くの大きな石蔭を出たり入ったりしている。

この魚は餌をつけようと、糸を流して餌箱をいじっているうちに、餌のない
針にまでかかることがあった。 釣りに飽きると、餌をつけた糸を手に持って、
そばの石蔭でゆらゆらさせる。 やつはノコノコ出てきて食いつくから、
まるで縁日の金魚すくいをしているみたいだった。



ここで初めて釣りをしたとき驚いたのは、シジミがごっそりいたことだ。
浅い水辺のやわらかな砂の上で釣っていると、足裏に何かがゴツゴツと当たった。 
なんだろうと思い掘ると、シジミが敷きつめられたように砂の中にいて驚いた。 
小さなシジミだったが、従兄にシジミが沢山いるよ! と教えると、
放っとけと言われまたびっくりした。 誰一人獲っている人もいなかった。

一度竿に、ハゼとは比べものにならないほど引きの強い魚が掛かった。 
いったいなんだろうと釣り上げると、子どもの手のひらほどの小さな鯛だった。 
あの竿の感触は今も手に残る。

ある日の釣りの帰り道、私は行きと同じように自転車の荷台に乗っていた。 
そのとき、道沿いの幅10メートルほどの川の中に、丸太のような大きな雷魚が、
ボカッと浮いたのを見つけ、止めてくれと叫んだ。  
でも従兄は何ごともないように、自転車を走らせ続けた。 
自然はどこまでも豊かだった。

後に伊勢湾台風によって土手の堤防が決壊し、多くの被害を出してから、
堤防はコンクリートで新しくつくられた。 今はあの松も消えた。


形之医学・しんそう療方 東京小石川
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