知床エクスペディション

これは知床の海をカヤックで漕ぐ「知床エクスペディション」の日程など詳細を載せるブログです。ガイドは新谷暁生です。

知床日誌⑪

2020-06-08 21:01:12 | 日記


知床日誌⑪

カヤックは壊れる。知床に砂浜はないので離岸着艇時にどうしても岩にぶつけてダメージを受ける。だから海が静かな時はできるだけ浮かべてから乗り込むようみんなに頼む。しかし砂浜に慣れている人たちは上陸時に浜に突進して乗り上げてくる。当然傷む。しかし痛むのはやむを得ない。荒天時の出艇ではスプレーカバーをつけパドルを握り波のタイミングをはかって海に押し出す。荷を積んだ重いカヤックは岩にぶつかりたわんで割れる。私は出艇時に無理に持ち上げて運ぶなという。足場の悪い浜でバランスを崩して落とせば船体は割れる。引きずってもゲルコートが削れるだけだ。致命傷にはならない。それにしても自分の艇でないとどうしてみんなフネの扱いが乱暴になるのだろうか。

昔、知床EXPのフネは北朝鮮船籍と言われていた。朝鮮の船乗りを馬鹿にするわけではないがフネは浮かべは仕事をする。古代から日本海を荒らしまわった朝鮮の海賊はすぐれた船乗りだった。そして今は将軍様のために必死で外貨を稼いでいる。浮かびさえすれば稼げる。船体の痛みを気にする余裕はない。だから荒れる日本海で危険な漁をする。そして難破して日本に漂着する。可哀そうだと思う。私の舟も似たようなものだ。

カヤックは大抵は陸が見えなくなるほど遠くには出ない。そしてパドルがあれば進む。私は知床で岸近くを海岸をなぞるように漕ぐ。穏やかなら岸から20mと離れない。水路があれば入ってみる。滝があればくぐってみる。洞窟にも入る。岸近くを行くのは沢登りをするように楽しい。浅い岩盤の上を走り回るカラフトマスの群れを見ることもあるし、たくさんのウニも見る。すぐ近くの浜をクマの親子が歩くのも見られる。陸波を理由に沖を漕ぐ人もいるが、沖のほうがやはり危険は大きい。私は必要がなければ沖は漕がない。本船にひかれる危険もある。海にいるのば自分だけではないのだ。

私は現場で艇を直す。傷を見つけゲルコートを焼いてはがしグラスクロスやマットを切って樹脂と触媒を混ぜて塗る。触媒を入れすぎるので硬化が早い。手早くやらなければならない。また薄いゴム手を履いて作業しないと硬化の発熱で火傷する。風の強い日は大変だ。雨も厄介だ。しかし直さなければならない。樹脂が多いと強度が落ちる。だからコンビニ袋をかけて圧着して空気を押し出す。30分もあれば硬化する。1時間で再び海に浮かべることが出来る。ラダーの破損を含むこれらの修理はあくまで応急修理だ。その時に使えれば良い。当然工具がなければ直せないのでペンチやドライバーだけでなくノコやパイプカッターまで積んでいる。カッターはテントポールの補修用だ。作業を見ていた人にほめられたことがある。これはフィールドメンテナンスと言うのだそうだ。「わが社でもそうです」と彼は言った。現場で直せるものは直す。部品はそのへんのもので加工して代用する。彼は戦車の整備をする自衛隊員だった。知床には色んな人が来る。

いきなり屋根をたたく雨音がし始めた。書くのをやめて外に飛び出した。ハイエースの屋根に積んだ2艇は表を向いている。屋根に登って裏向けにする。この2年で体重が10キロ減ったので身軽になった。ずぶ濡れになりながら作業を終えた。風をひかないように用心しよう。