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映画「サラエボの花」

2007-12-14 14:54:10 | 映画
ユーゴスラビア紛争が落ち着いた1990年代後半、
もうそのことは過去のものとして、21世紀を迎えたはずでした。
情報が瞬時に伝わる時代であっても、
東洋の端、日本では遠い歴史の出来事、となっていたはずでした。
しかし、映画の映し出す今、は衝撃的です。
実感できないことでも、
訴えたいことは伝わってくる、それが映画のすばらしいところです。

ボスニア紛争は
1992から95年まで続いたセルビア人とボスニア人との民族紛争です。
そのとき、どんなことが起きたか、ニュースでは報道されていたのです。
それから十年余が経っています。
サラエボに住むボスニア人の母娘、
少女は12歳、という設定、
父親のことは戦争の殉教者(シャヒード)と聞いているだけ、で何も知らない。
修学旅行のお金を工面するために、ナイトクラブで働く母、
シャヒードは免除されるのに、その証明するものを娘にもたせることをしない。
こうした日常のささやかな生活をずーと映像で追っていく。

戦争犠牲者名簿にないと言われたサラは、
真実を知りたいと迫る…、
母が語る出生の秘密、
サラ役でデビューのこの子役はホントに頭髪を刈上げしていきます。
すごい根性してます。
そうすることで、
内戦から10年経て10代となった多感な年代の子たちの傷も癒される、
再生できるんだという救いを与えているのですね。

冒頭の
心的トラウマのセラピーを受けている女たちの無言の表情が印象深い。
その後、娘に真実を打ち明けて、やっと自分を語ることのできた母エスマ、
敵兵に犯されて身ごもった元医学生だったインテリ女性、
生まれてから見る
美しい赤子に、感動する、
そのことで生きてこられたのですね。

セルビア人が制圧したところでは、民族浄化というおぞましい名目で
組織的に公然と行なわれた殺戮と性暴力、
その戦争責任はどうなっているのでしょうね。
やっと落ち着いた政治的な平和を保ちながら、
内戦による心の傷を癒せるべく再生の道は、
10年経ってやっと歩み始めたばかりなのですね。

監督は内戦のときは10代だったというボスニアの女性、
主役のエスマを演じる名優はセルビアのベオグラード出身、
娘役の少女はサラエボの生まれ。
セルビアの首都ベオグラードでも上映されたそうです。
糸口が少しずつほぐれていくといいですね。

 2007/12/13 岩波ホール


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