近未来2022年、雪と氷に閉ざされた北方領土の歯舞群島・春勇留島(納沙布岬の東北東40キロ)という離島で発見された日本人の変死体。ロシアが実効支配するため捜査権もない、武器も持てない圧倒的に不利な状況で孤軍奮闘する警視庁組織犯罪対策課・国際犯罪捜査官石上が真相を追う。閉鎖空間での複雑な利権構造と人間関係の中に送り込まれてしまった主人公の孤軍奮闘が見物。日中露合弁のレアアース生産会社「オロテック」で働く日本人技術者が、死体となって発見された。凍てつく海岸に横たわる死体。何者かに抉りとられていた両目。送り込まれたのは、ロシア系クォーターで中国語とロシア語が堪能な石上(イシガミ)。元KGBの施設長、美貌の女医、国境警備隊の若き将校、ナイトクラブのボスたち。誰が敵で味方が分からない中、日中露三ヵ国の思惑が交錯し、人間たちの欲望が渦を巻く閉じられた空間でのアクションミステリー。90年前その島では島民38人が殺される大量殺人事件があり、そのときの死体も両眼が抉られていたという言い伝えが、ハバロフスクには残っていたという。ロシアの情報機関、中国の情報機関やマフィアも絡んで、展開も早く656ページを一気読み出来ました。今では簡単には行けない北方領土でさもありなんと思わせるのは流石。「パンドラ・アイランド」や「売春島」「軍艦島」など特殊空間・孤島シリーズは作者のお得意分野か。
2018年9月集英社刊
SF風パラレルワールド警察小説。「殺されたのか・・・」。目を開けると、そこは見た目や名前の似た人間が暮らす異次元の「光和26年のアジア連邦・日本共和国・東京市」という戦禍で経済発展が遅れ、犯罪者が跋扈するもう一つの荒廃した世界だった。警視庁捜査一課に抜擢され3年目の志麻由子は、連続殺人犯の囮捜査中に、何者かに首を絞められ気を失う。その世界のもう一人の自分は異例の出世をした“東京市警のエリート警視”だった。さらに、部下だと名乗る男性は、かつて付き合っていたボーイフレンド・里貴にそっくりだった。やがて部下から聞いたもう一人の自分は闇組織からは命を狙われ、警察内部でも汚職警官の摘発など、非情な捜査方法が非難を浴び、孤立無援の存在であることを知る。戸惑いながらも彼女は、“エリート警視・志麻由子”となって捜査を継続するしかその世界で生きる方法がないと悟り・・・。
タイムトリップしたのが戦後の東京を彷彿とさせる、ヒロインの由子は最初弱虫だったが並行世界で強い自分になりきることで情けあり勇敢で理知的でかっこいい人間に変わっていく。レトロでノスタルジーを感じさせる世界。二つの世界に類似点と異質を持たせつつ、しっかりと因果関係を設定し、現実には起こりえないシチュエーションの展開を楽しませてくれる。由子が自分の過去と向き合いつつ元の世界からなぜパラレルへ飛んだかいつもとに戻れるかと興味を持たる展開はハードボイルドながら生き様が描かれ深い絆の物語でもありました。
2019年1月朝日新聞出版刊
それは下町の居酒屋にかかってきた1本の電話からだった。23年ぶりにオメガ・エージェントの極秘ミッション「コベナント」が発動され、スパイ小説好きの俺村井は、元凄腕エージェントで40才以上も年の離れた白川老人と行動を共にするはめになる。ところがオメガの復活を阻止すべく、敵対するアルファ・エージェントの殺し屋たちが次々と俺たちに襲いかかる。だが、何かがおかしい。裏切り者は誰か?誰が味方で誰が敵なのか、黒幕は誰なのかわからない。そして、裏切られた裏切り者とは・・・?
登場人物が次々と現れ新たな事実も判明するのだがストーリーの展開が目まぐるしくオメガの復活の必然性と、殺し合いまでする意義が理解できず後半は読書が苦痛で折角面白いキャラたちが登場するのだがリアル感喪失気味で楽しめなかった。冷戦終結後の諜報機関の役割がテロとの戦いに移行して新たな緊張を作り出すべく世界を股に新たなスパイたちが動いているのは理解が出来るのだが・・・。
2016年12月小学館刊
前作「獣眼」の凄腕のボディガード・キリシリーズ。警護を依頼されたニュージーランド在住のフィッシングガイド・トマス・リーが目の前で爆死した。事前の打ち合わせ場所に指定されたホテルのレストランだった。リーにキリを紹介したという大物フィクサー・睦月から死の真相について調査を依頼されるキリ。リーの正体は増本貢介という日本人で、生前「自分は呪われている」と話していたという。増本は呪い殺されたのかさぐりはじめるが?
本名年齢不詳・キリ、ボディガードが本業のはずですが、調査・探偵のストーリー。依頼者になるはずの人物の謎の焼死をめぐり、現在と過去の登場人物たちが複雑に絡み合って展開。古武術修行や怪しい宗教儀式、オカルトめいた始まりですがが、前作よりは現実味を持った結末につながっているため、スッキリ感をもって読了。さらに続編がありそうで、次回作にも期待。
2018年5月徳間書店刊
性別や年齢など一切秘密という正体不明の作家。デビューしてまもなく文学賞の候補になる実力の持ち主の覆面作家が、「私」のファンだという・・・表題作他ある日、作家の「私」に接触してきた真野と名乗る正体不明の男。彼が語る内容を小説にして欲しいと言うが。・・・「幽霊」、学生時代の友人が語る、携帯が圏外になり思いもよらぬ人物が集う「村」の秘密・・・「村」、キャバクラの勤め終わりの女性を、家まで車で送り届けるドライバーは何を隠しているのか・・・「確認」妊娠できるか出来ないか・・・「カモ」甘酸っぱい思い出・・・「イパネマの娘」地中に埋められたい大金を見つけた土建業者が取った行動・・・「大金」CIAに殺された?・・・「不適切な排除」など8つの短編集。実話か虚構か静かで淡々と描かれた作家生活を垣間見られるサスペンス。8つのいろんな読後感が味わえる。
2017年10月講談社刊
やんちゃが少し過ぎた俺こと望月拓馬は、ヤクザの大親分の祖父の差し金でマンションの管理人見習いに押し込められる。だがそこ「リバーサイドシャトウ」は、極悪人しか住まない反社会的勢力による反社会的勢力に属する人のための専用高級住宅「なんでもアリ」の殺し屋専用住居だった。清掃、点検、管理、補修に、爆弾処理。このマンションなら、何でもアリ。規約さえ守れば、ヤクザでも刑事でも戦車でも、不測の訪問者は、すべてシャットアウト。まさにそこは悪人たちのオリンピック会場だ。俺はそんな最凶最悪マンションの管理人助手。ゴリラに似た管理人白旗との一年間の不思議な共同生活が始まった。だがこの仕事危険すぎるサボりは即廃棄処分つまり「死」を意味する。
命懸け試練をどう乗り越えるかの不良青年成長物語。
明らかになる白旗の過去や住人の経歴に謎の美女同士の暗殺ゲーム・・・連作短編風に描かれたコメディーコミック。
2015年6月文藝春秋刊
魔女シリーズ(「魔女の笑窪」「魔女の盟約」)第3弾。男の人間性を一目で見抜く特殊能力を活かし、裏のコンサルタントとして生きる水原。国家安全保障局(NSS)の湯浅より依頼され、堂上保という男について調査したところ、その正体は、一億人に一人しかいない新種の頂点捕食者(頂捕)であることが判る。頂捕は容易に人間の命を奪うことも可能で、中国ではすでに、頂捕を利用した要人暗殺事件が起きていた。やがて、この暗殺事件衣関与した頂捕グループが、日本に潜伏していることが判る。彼らは政府に身の安全を保証するように求めてくる。それを断れば日本の安全保障が脅威にさらされるとなるため水原は頂捕との捨身の戦いが始まる。
・・・読んでいて「人の過去を見抜き、未来を予知する特殊能力者を扱った著者の「獣眼」を思い出した。頂捕の孤独感は理解できるがSF風というかファンタジー・オカルト風というか、超常現象とも云える能力を持つ人間を中心に話が展開され、ストーリー展開がどうにでも出来る都合のよさが気になる。ただ承知でその世界に嵌れば572ページそれなりに楽しめる。2015年12月文藝春秋刊
主人公は「夜、寝ていると、隣に寝ていた同僚の首がカ切っきられる」怖い体験以来の不眠症。夜、闇の中では眠れない為夜番しかやらないタクシー運転手。元自衛隊→元フランスの傭兵の経験者の久我晋。彼はある夜、血の匂いのする男性客を乗せた。その男はかつてアフリカの小国アンビアで傭兵として戦っていた久我の同僚らしい。客は車内に携帯電話を残して姿を消した後日首なし死体で発見される。その携帯を奪おうとするヤクザが迫り、久我は縁を切ったはずの激しい戦いの中に再び呑まれていく。
キャラの設定が面白い。アフリカの首狩り族や事件の背景もリアル感あり展開も早く後半の息つく暇のない闇の中の闘いまで一気に読める程面白い。迷惑男のフィアンセの妹との絡みやヤクザとの駆け引きなど謎解きしながらのお駆けっこが貯まらなかった。
2016年12月双葉社刊