読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

堂場瞬一著「ポップ・フィクション」 

2025-01-05 | 堂場瞬一
「POP FICTION」とは「通俗」。大正時代1920から1930年、出版華やかなりし頃。徳川夢声、谷崎潤一郎、作家や文化人たちが侃々諤々の議論を交わしながら、面白いものを作ろうと奮闘し、100万部突破の上昇雑誌を作くろうとする様を描いた人間ドラマお仕事小説。主人公の「市民公論」編集部の松川は、担当した企画のせいで、筆者が帝大を追われることになり窮地に立たされていた。奔走する松川に、主幹は驚きの決断を下し対立し衝動的に退職する。同じころ、当代きっての人気作家・菊谷は、「書きたいものを書く」ための雑誌を立ち上げようとしていた。1年の浪人の後、菊谷が立ち上げた文芸誌「文學四季」のテコ入れに参加する。関東大震災を経験してそこでも菊谷と対立して退職。大衆雑誌「エース」創刊に誘われる。主人公、菊池寛、芥川龍之介や中央公論、文芸春秋、講談社・キングなどの雑誌は仮名になっているのを想像しながら一癖も二癖もある登場人物たちやり取りを読むのも楽しかった。
2024年10月文藝春秋社刊 

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堂場瞬一著「守護者の傷」

2024-12-04 | 堂場瞬一
主人公は水沼加穂留・神奈川県警の巡査部長。捜査一課への配属希望は通らぬまま三十歳までキャリアを重ね、春の異動で警察が訴えられた民事裁判の対応をする部署「訟務課」へ。「違法捜査は本当にあったのか?」ほどなくして外部からも弁護士資格を持つ新人の新崎大也(だいや)がやって来る。淡々として同僚と関わらない新崎。なぜ弁護士が警察職員に? そんな折、強盗犯グループへの違法捜査を問う裁判が発生し、加穂留と新崎が担当することに。威圧的な取り調べはなかったという捜査一課の言葉を信じ、彼らを守ろうと公判にのぞむ加穂留。しかし法廷で、関与した警察官の「嘘」が暴露され敗訴する。やがて検挙成績を上げるためには違法捜査を辞さず犯人を”造り出す”ことも厭わない神奈川県警の[R]という”伝説”刑事とその因襲を守り権益を維持しようとする県警内派閥の存在が明らかとなり、良識ある主人公たちが、この集団と対決することに・・・。読んでいて昭和30年代袴田裁判やたくさんの冤罪を生んだ静岡県の違法捜査容認体質を思い出した。以前読んだ安東能明著「蚕の王」
だ。


2024年2月KADOKAWA刊

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堂場瞬一著「ルーマーズ俗」

2024-10-04 | 堂場瞬一
「Rumors=うわさ・風説・流言・陰口・ゴシップ」。人気俳優、上杉彩奈(28)と馬場直斗(37)が心中か?――衝撃的なニュースが世間を駆け抜けた。白熱するマスコミのスクープ合戦、SNSに溢れる噂話。・・・警察発表が無い中、無法地帯のメディアを舞台に展開される真相究明。マスコミの新聞記事、雑誌、Web記事、TwitterらしきSNSの書き込み、掲示板の書き込み、TVのワイドショウやネット配信の書き起こし、ブログ記事を通じて話が進んでいきます。不自然な亡くなり方をしたそれぞれのファンの動揺などの描写も挿入され、友人、事務所、コメンテーターや医者、社会学者、ミステリー作家として本人(堂場)自身も出て来ます。やがて有名ユーチューバーが殺されたり、関連自殺者がでたりとかこんな羅列形式での事件の謎の解明が展開されますが深い描写がなく浅く薄い印象。後半真相が明らかにされても物語に起伏がないため驚きがない。また、あるブログが頻繁に出て来て注目を集めているのだが・・・。ネット社会の闇を描きたかったのか・・・。
2024年5月河出書房新社刊

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堂場瞬一著「ロング・ロード 探偵・須賀大河」   

2024-02-11 | 堂場瞬一
190cmの高身長が目立つ、元弁護士の私立探偵・須賀大河の元に、ある日、学生時代の友人で現在は有名IT「ZQ」の社長の春山遼太郎から、社内に貼り出された会社を誹謗中傷する怪文書の調査依頼が舞い込む。中傷はやがて大金を要求する脅迫に発展。大河は春山の秘書伊佐美真梨やハッカーの友人真野由祐子の協力で犯人に罠を仕掛けるが・・・。脅迫者は一体誰なのか?その後春山を恨んでいた社員の国岡が死んだりして、事件は複雑さを増していくが、脅迫が落ち着き、春山に調査打ち切りを言われるも須賀は好奇心で続け、衝撃的な真実を知るのだが内容が大雑把で薄い。登場する女性たちの方が個性豊かで面白いのだが探偵自身の魅力に欠ける。「仕事はスピードが命だ。速くやっておけばミスを見つける時間ができる。同じ仕事を1時間かけてゆっくりやっても、30分で慌てても、結果的にミスの発生率は変わらないー米の大学の研究結果だ。」(P42)「好奇心がなくなったら、人間、終わりだから」P164)「代表者が定期的に交代しても、きちんと利益を出して存続する会社。会社という抽象的な存在が人格を持つようになる。・・・創業者が必死にならなくても存続するよ」(P367)「考えることをやめてはいけない。答えのない疑問を徹底して掘り下げることこそ、今の私に課せられた義務なのだ。」(P376)
2023年9月早川書房刊   
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堂場瞬一著「鷹の惑い」

2023-12-30 | 堂場瞬一
「日本の警察」シリーズ。公安一課と捜査一課。父の系譜をたどる息子たち。「鷹の系譜」の続編、平成ミレニアム編。「世の中は変わる。変わる世の中に対応するのが、警察の仕事だ。」21世紀に沸く平成日本。海外逃亡していたはずの極左の最高幹部が突然仙台に現れ、公安に衝撃が走った。身柄の移送を担当した公安一課の海老沢は、警察官人生最大の痛恨の失敗を犯す。一方、捜査一課の高峰は目黒の空き家で殺害された元代議士秘書の身辺を探るもの、被害者の経歴には6年間の不自然な空白があった。新聞記者からの思わぬ情報がもたらされ。死の床にある元刑事の父の言葉。そして海老沢に下った極秘の特命捜査。やがて事件の様相は一変する。舞台となった2000年12月から2001年の2月まで。60-70年代の学生運動や極左テロから、30~40年後。当時起きたオウム事件やスポーツイベントの結果、携帯電話やネットの普及、鉄道の磁気カード決済の利用など社会背景を交えながら進むのだが進展が遅くイラつく。結末も納得のいかない動機で公安と捜査一課の共同捜査が唯一の面白部分のようでした。
2023年7月講談社刊
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堂場瞬一著「デモクラシー」

2023-11-21 | 堂場瞬一
直接民主主義か議会制民主主義かをそれぞれのメリットとデメリットを示しながら描かれたこんなことも有り得るかもしれない「未来」の実験的政治小説。政治システムを扱った超近未来ポリティカリティーフィクション。202×年、日本の政治システムは一変していた。憲法は改正され、20歳以上の国民から合計1000人の「国民議員」がランダムに選出され、総理大臣は直接選挙で選ばれる。国会は解散し、「国民議会」(二院制)を新たに結成。議会は完全オンラインで行われ、議員の任期は4年、年間報酬500万円、基本再選はなし。専用のデバイスを支給され、議員としての活動は全てオープンに。さらに、国民は常にそれらを確認、監視できるようになっていた。ランダムに選ばれたという大学生の田村さくらは戸惑いながらも議員となることを決意する。その後、実在する政党・政治家を想い起させる人物が登場し、直接民主制を地方にまで広げようとする勢力と議会制民主主義を復活させようと目論む勢力の駆け引きが展開される。直接選挙で選ばれた新首相の苦悩、国民議員の不正を監視する機関「国民議員調査委員会」、一気に権限が大きくなった官僚、現首相と旧政治体制に固執する女性現都知事らとの政権争い、議員による組織窃盗や傷害致傷。演説者への生卵投げ事件。談合汚職。過重労働による官僚の自死。退任大臣の党員名簿の持ち出しと関与した職員の自死、等々。民意の反映や少数弱者の保護、中長期視点での国益実現などデモクラシー変革の本質を抉る視点とは言い難いトピックやエピソードが続く展開で混乱の様子は今と変わらず。大いなる問題提起で政治について考えさせられた小説でした。
2023年6月集英社刊

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堂場瞬一著「ピットフォール」

2023-07-15 | 堂場瞬一
ハードボイルド小説。『ラストトラップ』の前作(くしくも続編を先に読んでしまっていたため続編での人間関係を確かめることになってしまった)。舞台は華やかな成功の陰で、暗い落とし穴(ピットフォール)が口を開ける街、大都会ニューヨーク。黒人へ人種差別が残る1959年代。元刑事で探偵のジョー・スナイダーは、役者志望のシャーロット・コールという女性の行方不明を探してほしいと依頼を受ける。その矢先、黒人の探偵仲間ウィリーがイーストリバーで殺された。残忍な手口は、今まで白人女性ばかりを狙うイーストリバー・キラーと呼ばれる連続殺人事件の手口と同じだった。やがてシャーロットもイーストリバーで同じ手口で殺された状態で発見される。両方の犯人を捜すうちに驚愕の真相が浮かび上がる展開。当時のNYの状況は全く知識になかったが作者は当時のロックやブルース音楽や風俗を楽しみながら書いている様子が伺える。結末は当時ならそんなの有りかとも思われる解決法で胸が熱くなった。
2021年5月講談社文庫


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堂場瞬一著「ラストトラップ」

2023-06-22 | 堂場瞬一
ハードボイルド小説。『ピットフォール』に続く続編。時代は10年後の1969年。舞台は1969年、愛と平和の祭典、ウッドストック・フェスティバルの行われたアメリカ。若者たちが音楽に酔いしれる中、一人の少女が消えた。妹からの依頼により、私立探偵ジョー・スナイダーは、押し掛け無給探偵希望助手のリズ・ギブソンと調査を開始。コンサート会場で、少女が中年のヒッピー女性と一緒にいたとの証言を得て、現地へ向かうが・・・。携帯もネットもFAXもないレトロな米国を舞台に当時の風俗文化音楽ニュースを駆使してアメリカ人を主人公に著者が楽しんで書てる様子が伝わってくるノスタルジーチックな小説でしたが何となくストーリーは解ってしまうのが難点。
2023年5月講談社文庫

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堂場瞬一著「風の値段」

2023-03-04 | 堂場瞬一
再生エネルギーをテーマした社会派警察小説。転職してきた技術者が前の会社の技術データを会社のサーバにあるのを見つけた飲み友達の安川圭太から相談を受けた新橋署生活安全課の刑事・天木淳は洋上風力発電の最新技術データが、業界トップメーカー「Wエナジー」から、ライバル社に流出していることを知る。捜査を始めると、国内どころか海外への技術流出が目前であることが分かった。内偵捜査を始めると、鍵を握る人物が、大学時代の友人で井口祥平あることがわかる。卒業して二十年、まったく違う道を歩いていたふたりの運命が交錯する。会社間の争い。個人の事情。国家間の事情。日本の頭脳流出問題。研究者のおかれた日本の現状と日本の未来不正競争防止法及び背任罪。新鋭技術をめぐり実際あり得そうなリアルな展開で大変面白かった。
2022年12月小学館刊
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堂場瞬一著「オリンピックを殺す日」

2023-01-28 | 堂場瞬一
オリンピックの意義を問うサスペンス。五輪を潰せ!新たなスポーツ大会「ザ・ゲーム」の計画が浮上した。メディアを一切排除し、アスリートファーストの大会開催が秘密裏に進む。コロナ禍にもかかわらず、強引に開催された東京五輪の最中、大学教授が、「五輪は集金・分配システムに変化し、意義を失った」という言葉を残して、日本を去った。数年後、東日スポーツの新聞記者菅谷建人がある情報を手にする。世界的IT企業が、新たなスポーツ大会「ザ・ゲーム」を企画している、と。菅谷は、この大会を仕掛ける、謎の組織の正体を暴くため取材を続ける展開。「開催地アテネ固定」「選手は個人」「全参加費選手負担」「スポンサーなし」「TV中継なし」「メディア対応なし」「無観客」そして中継は「VR&ストリームONLY」。きわめて現代的で興味深い設定で斬新だ。既存秩序に対する破壊的な挑戦。オリンピックと同時開催。まさにオリンピックを殺す日。スポーツと新聞・マスコミの関係に興味が感じたが、ミステリーサスペンスとは思えなかった。
「スポーツは本来アスリートのためのものです。国を背負って欲しくない。国の代表でなく、個人で参加すれば・・・今のアスリートは、いろんなことに縛られて、自由を失ってしまった。」(P355)
2022年9月文藝春秋社刊
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堂場瞬一著「鷹の系譜」

2023-01-25 | 堂場瞬一
「焦土の刑事」「動乱の刑事」「沃野の刑事」「日本の警察」シリーズ平成編。父の道を継ぎ鷹となった息子たちの物語。「刑事は地べたを這いずる仕事だ。だが、空から全体を見る鷹の目を持て。」(P329)「刑事は、対象に似てくるんだ」「マル暴担当の刑事なんか、その筋の人間にしか見えませんよね」「公安は常に同じ相手の仕事だ。だが捜査一課の仕事は毎回、違う相手なんだ」「捜査一課は目先の事件を追う。公安は、未来を見据えて仕事をしている」捜査一課と公安一課。同じ警察でありながら相容れない二つの組織に身を置き、昭和を駆け抜けた二人の刑事。その息子たち捜査一課の高峰卓男と公安一課の海老沢利光は、父と同じ道を歩んでいた。昭和天皇が崩御し、60年余にわたる昭和の時代が終わりを告げた日に起きた鉄パイプによる乱闘殺人事件。高級マンションに住みポルシェを乗り回す被害者に見え隠れする、極左の過去。バブル景気の拝金主義に浮かれる世で、思想活動は衰退の一途をたどる中、その交錯点で起きた事件を、二人の刑事が追う。残念ながら大喪の礼と絡めた極左勢力のテロ懸念と重ねた設定、崩御直前と崩御後の混乱や喪失感の様子は体験した自分には違和感があり伝わらなかったように思う。ポケベルや内ゲバ、バブル景気や不動産高騰、地上げなどの言葉とともにあの頃を懐かしく思い出しながら当時の自分の過去思い出し懐かしく読めた。
2022年6月講談社刊
 
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堂場瞬一著「小さき王たち 第三部激流」

2022-12-06 | 堂場瞬一
1971年からの現代日本の政治と報道をめぐる大河政治マスコミ小説三部作完結第3部。パンデミックに喘ぐ2021年の日本。政治家が不祥事を起こしても新聞は追及しきれない。政権党の民自党顧問・田岡が目指す政治によるマスコミ支配が進んだ結果であった。田岡に抵抗する東日新聞顧問・高樹は、この戦いに、孫の健介を東日新聞新潟支局記者として投じる。田岡王国と呼ばれる新潟の地盤を継いだ田岡の息子を スキャンダルで追い詰め、落選させるためなのだ。だが、田岡の孫愛海も地元テレビ局NBS報道記者として勤務していた。五十年にわたる高樹家田岡家の二家の因縁が決着しようとしていた。選挙での政治家の表には見えない部分と不正を許さない記者との戦いがリアルに描かれています。今回はその令和時代コロナ渦に揺れる孫世代の因縁対決と結末が描かれている。「問題を起こしても謝罪しない政治家が増えた。選挙で当選すればすべて許されると思っている。」(P314)「メディア側は政治に忖度して、書くことを書けない。・・・問題があったら是々非々で書くべきだ。癒着と忖度の関係は・・・」(P315)「政治もメディアも劣化して日本は沈没しつつある。」(P417)
2022年10月早川書房刊


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堂場瞬一著「小さき王たち 第2部泥流」

2022-10-10 | 堂場瞬一
政治と報道をめぐる三部作第2部。父親と同じ新聞の世界に飛び込んだ新潟支局の新米記者・高樹和希のもとに、鈴木と名乗る謎の男から投資詐欺、選挙資金不正疑惑のタレコミがあり、初めてのスクープの予感に和希は沸き立ち、和希の父で今は社会部長の治郎もとにも同様の情報が入り部下を動かして共に取材を進める。時は、バブル崩壊、阪神淡路大震災と米国での同時テロを経て、時代が激しく揺れ動いていた1996年12月。新聞がインターネットに負けるわけがないと思われていた頃。しかし、その背後には、25年前に贈収賄事件で治郎と敵対し、以来マスコミの支配を目論む今は民自党の国会議員となった・田岡総司とその秘書で息子の稔の影がチラついていた。田岡の高樹への恨みが四半世紀も胸に抱き続け、怨念の中で生きてきたことに驚き。高樹が息子の和希に「一人の人間が生涯を懸けて対決していかないといけない課題」といい。新聞社内部の社会部と政治部の立ち位置の違いや争いも面白い。新聞を軸としたマスメディアが政治に取り込まれて行く過程がリアルに描かれている。後半ネタ元の意図、鈴木とは誰だがあきらかになる。孫世代2021年代の第3部「激流」に期待。
2022年7月角川春樹事務所刊

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堂場瞬一著「小さき王たち 第一部激流」

2022-09-27 | 堂場瞬一
現代日本の政治と報道をめぐる大河政治小説三部作。政治家と新聞記者が日本を変えられた時代―。高度経済成長下、日本の都市政策に転換期が訪れていた1971年12月。衆議院選挙目前に、新潟支局赴任中の若き新聞記者・高樹治郎は、幼馴染みの田岡総司と再会する。田岡は新潟選出の与党政調会長を父に持ち、今はその秘書として地元の選挙応援に来ていた。彼らはそれぞれの仕事で上を目指そうと誓い合う。だが、選挙に勝つために清濁併せ呑む覚悟の田岡と、不正を許さずスクープを狙う高樹、友人だった二人の道は大きく分かれようとしていた。金権選挙、選挙違反までしても当選してしまえば国民の代表としての国会議員。そんな国会議員は信用や信頼できない。ましてや不正に関与した者を罰することもできない裏事情などあり得ないと思う、だが選挙のたびに囁かれる噂話に焦燥感を持つのはいつもあること。さらに、取り締まる側の人間を買収したり、捜査に圧力をかけたりするそんな世界が描かれているのだ。続編に期待したい。
7月に『第二部:泥流』・・・予約中。10月に『第三部:激流』刊行予定。
2022年4月早川書房刊   

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堂場瞬一著「沈黙の終わり」(上・下)

2022-09-15 | 堂場瞬一
千葉県野田市の江戸川沿いで7歳の女児の遺体が発見された。東日新聞柏支局の定年控えたベテラン記者・松島慶太は早速取材に乗り出す。そのニュースを聞いた埼玉支局の古山孝弘は、埼玉でも4年前に8歳の女児の行方不明事件があったことを思い出す。調べてみると、その現場は吉川市で、今回の野田の事件と江戸川を挟んですぐ近くだった。古山と松島が協力して両県の類似の事件を洗うと、江戸川近くで33年間に7件の女児殺害もしくは行方不明事件が起きていたことが判明、しかもそのすべてが未解決。不審に思ったふたりは過去の事件を取材するが、両県警はなぜか妙に冷たい。さらには取材への圧力ともとれる言葉まで飛び出してくる。古山は本社へ転勤間近、松島は手術後の仕事に復帰したばかりで、思い通りには動けないなかで真相を探っていく。やがて兎に角記事にして投げかけて、古山は東京へ転勤。ここまでが上巻。下巻は自殺した野田警察署長の手紙と、圧力をかけられ辞めた、元警察官僚の女性覆面作家の証言、そして、ついに現れた巨大なる黒幕・・・・。新鋭とベテラン、ふたりの新聞記者の矜持は、最悪の殺人事件の真相を暴ける闇に葬られた迷宮入り事件を、記者魂溢れるふたりが掘り返していくサスペンス。なぜ捜査の矛先が鈍ったのか。なぜ取材に圧力がかかるのか。背後にあるものに忖度することなく突き進むベテランと新鋭のふたりが、血の通った人間としてリアルに描かれ、スリリングな事件の行方がミステリーとして展開される。が、話はそこにとどまらない。物語は今の新聞社に内在する問題にも深く切り込んでいく。
「新聞が斜陽産業と言われ久しい。90年代にインターネットが普及し始めてから、紙のメディアの需要減る一方だ。・・・部数の低下は広告収入の低下に繋がり財政的に追い込まれている。・・・ニュースなんかネットで読めばいいと多くの人が言うが、そのニュースのほとんどが新聞やテレビの提供なのだ。」(上P216)「新聞記者は、取材対象を追いかけ、ただネタをもらうだけの存在だと揶揄する人がいる。取材対象に完全にコントロールされ、正義感も何もないのだろう、と実際、権力がマスコミをコントロールするのは珍しくも難しくもない。」(下P159)「今更、新聞の信頼を取り戻すのは難しいかもしれない。俺は、一番の原因は、権力に対する真っ当な批判がなくなったことじゃないかと思うんです」(P///)
「惰性で新聞記者の仕事をするな。・・・シビアな取材をして、社会悪を抉り出す仕事を続けていかないと、本当に新聞は駄目になる。(下P281)
自らも新聞記者だった著者による、今の新聞メディアへの警鐘であり、批判であり、著者の思いである。物語が組織の中から協力者や内部告発者が現れる展開は、良心と矜持が残っている人を特に描きたかった著者の思いからだろう。
長編だが一気に面白く読めた。
2021年4月角川春樹事務所刊

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