「迷わず撃て。お前が警官ならば」。緊迫の40時間を描いた警察小説。7年前籠城事件で死の危険に遭った警官波多野、そして、それを間一髪で救った同期の松本。数年後、所轄の刑事、本庁捜査一課の若手刑事となった2人は同じ事件を捜査を担当する。東京湾岸で小橋組の幹部深沢が射殺体で発見された。蒲田署の波多野涼刑事と門司刑事は事件を追い、警視庁捜査一課の松本章吾刑事と綿貫刑事には伏島管理官から内偵の密命が下される。所轄署より先に犯人を突き止めよ。浮かび上がる幾つもの過去の不審死、ヤクザ同士の抗争か見え隠れする半グレグループの暗躍、そして公安警察の影。二組の捜査が交錯し、刑事の嗅覚が死角に潜む犯人をあぶり出していく。
二組の刑事の視点を入れ替えて緊迫の展開。そして衝撃のクライマックスは、警察の不祥事が連日をマスコミ、新聞、テレビなどで見たり聞いたりしていると、こんな事件も現実に起こりえるかもと諦めのような気分にさせられたが久々に濃厚なミステリーサスペンスを楽しめました。
2015年9月新潮社刊
『武揚伝』『くろふね』に続く、幕臣三部作。開国か戦争か。いち早く「黒船来航」を予見、未曽有の国難に立ち向かった伊豆韮山代官・江川太郎左衛門英龍(1801-1855)。領地の伊豆韮山では徹底して質素・倹約を貫き、有事には蜀江錦の野袴に陣羽織姿で銃士達を率い、英国船と交渉、それを退けた。
「黒船来航」をはるか前から予見。自ら蘭学、西洋砲術を学び、海防強化を訴え、反射炉造築、江戸湾の台場築城を指揮した。誰よりも早く、誰よりも遠くまで時代を見据え、近代日本の礎となった希有の名代官の一代記。黒船ショックをよく目にする維新のヒーロー達とはまた違った観点から丹念に描いている感動物語でした。
2018年1月毎日新聞出版刊
道警シリーズ。真夏の札幌の小さなホームセンターで発生した肥料窃盗事件と少年の万引き事件の捜査が、やがて交錯し大掛かりな爆破事件に繋がっていく警察小説。
盗まれた追肥は爆薬製造に繋がるものであり、警察署に一度は保護したあと逃げ出した万引き犯の少年を追う内にJR北海道の不祥事で解雇されたある人物の姿が浮上した。工事現場からなく無くなった信管。爆弾製造、何を爆破するのか。タイムリミット迫る命懸けの任務。佐伯が警官の覚悟を見せるなど懐かしい面々の活躍、現実に有ったJR北海道の不祥事事件やブームの鉄道マニア鉄ちゃん、アイドルイベントを絡めた展開で面白かった。いつでもどこでも起こるテロの可能性を秘めた格差社会の日本の現状に警鐘だ。
2017年7月角川春樹事務所刊
警察小説と法廷小説が融合。東京・赤羽で絞殺死体で発見されたひとり暮らしの初老の男性。親譲りの不動産を所有する被害者の周辺には、多くの捜査対象が存在した。地道な鑑取り捜査の過程で、家事代行業の女性が浮上した。しかし彼女の自宅に赴いた赤羽署の捜査員の前に、埼玉県警の警察車両が。彼女の仕事先では、他にも複数の不審死が発生していたのだ。ワイドショーは「またも婚活殺人か?」と騒ぐ。やがて舞台は敏腕弁護士と検察が鎬を削る裁判員裁判の場へ。一方、この事件を知った仙台市の工務店で働く弘志は、ある理由から会社も辞めてまでもこの裁判を傍聴する。やがて無罪を訴える彼女は証言台で突然、口を閉ざした。有罪に代えても守るべき何が、彼女にはあるのか。彼女は何を守ろうとしたのか。
有力な物証がなく、ほぼ状況証拠で展開される裁判員裁判、検察はこの法廷闘争を前提に事件を組み立てているのかのよう。裁判を通じて、一人の女性の人生を浮き彫りにする展開に、裁判もリアリティがあり事件の真実の謎解きと十分楽しめた。
2016年11月新潮社刊