以前、森田邦久の『量子力学の哲学』で「時間対称化された解釈」というものを知り、それが治療に生かせないかとずっと考えていた。それから1年半くらいを経て、やっとその方法を思いついたので、今回はそれについて書くことにする。
といっても、それ自体は「コロンブスの卵」のようなもので、言われてしまえば「な~んだ」と思ってしまうようなものなのだが、私にとっては自分自身のパラダイム・シフトを伴う大きな気づきだった。
まず最初に、簡単に言葉の説明だけしておくと──。
量子は観測するまでどこにあって、どれだけの重さを持ち、どのような速さで、どこに向かって進んでいるか(これらを総称して物理量と呼ぶ)が確定しないことから、量子とは我々が観測していない時は存在していないのではないか、とする考え方がある。これを非実在性という。
また観測しないかぎり物理量が確定しないことから、互いに遠く離れた複数の量子が一瞬で影響を及ぼし合うことがあるのではないか、という考え方も生まれた。それを非局所相関(非局所性)という。この非局所性を認めると相対論に反することになるため、量子論と相対論をどのように整合させるかが物理学の大きな課題となっている。
そして、量子はそれが粒子であるとしても波であるとしても、実験するとその通りになる。このように、本来は同時に持つことができないはずの粒子としての性質と波としての性質の両方を持ち合わせていることを(粒子と波の)二重性といい、観測によってその二重性が破れ、どちらか一方の状態だけが検出されることを状態の収縮という。
量子の世界では、これまで実験的に確認された事実だけでも常識を越えた奇妙なことが起こることがわかっているので、量子論にはさまざまな「解釈」が存在する。『量子力学の哲学』によると、主なものだけでも「軌跡解釈」「多世界解釈」「裸の解釈」「多精神解釈」「単精神解釈」「一貫した歴史解釈(多歴史解釈)」「様相解釈」というものが提唱されているという。
しかし、これらはいずれも過去の実験結果やそこから導かれる量子力学の基本理論を満たしてはいるが、量子の非実在性、非局所性、二重性を十分に説明することができない。
そんな中、森田が大きな期待を寄せるのが「時間対称化された解釈」である。
「時間対称化~」には、それに先行する「交流解釈」というものがあるので、まずそれについて触れると──。
量子力学にはシュレーディンガー方程式という基本方程式がある。このシュレーディンガー方程式に相対論の効果を加味したものがクライン-ゴルドン方程式で、これを解くとψ(t)という波動関数が2つ得られる(ここでパラメタtは時間を意味する)。
クライン-ゴルドン方程式の解として得られる波動関数の一方はtがプラスのもので、これは過去から未来に向かって流れる時間に対する関数と見ることができる。すると、もう一方のtがマイナスの波動関数は未来から過去に向かって流れる時間に対する関数ということになり、通常の物理学ではtがマイナスになる方の解は「無意味なもの」として捨てられる。
だが「交流解釈」では、その両方を用いるのだ。
t0 < t1となるt0とt1という2つの時点で、それぞれ過去から未来に向かう波動(遅延波)と未来から過去に向かう波動(先行波)とが生じると、互いの遅延波と先行波が重なり合った部分は波が増幅され、遅延波同士、先行波同士が重なり合った部分は波が打ち消し合う。そして波が干渉しあって増幅した合成波ができたところに電子が実体化する(これを「交流が完成する」という)、というのが「交流解釈」である。
こうすると量子の非実在性、非局所性、二重性を説明することができるのだが、クライン-ゴルドン方程式はスピン0の粒子しか扱うことができない、という大きな難点がある。
ところでシュレーディンガー方程式もクライン-ゴルドン方程式も、時間に対しては対称である。時間に対して対称とは、時間の流れが過去から未来でも、未来から過去でも同じだということだ。
すぐにわかるように、マクロの世界では時間に対する対称性は成り立たない(覆水盆に返らず)。このマクロな世界の時間に対する非対称性は、マクロな物質がミクロな物質の集まりであることから、ミクロな物質の集団を統計的に扱うことによって説明できるという。
ではミクロの世界はどうかというと、重ね合わさった状態が観測によって1つの状態に収縮する過程は明らかに時間に対して非対称だし、多世界解釈的に見ても世界はどんどん分岐を繰り返していくわけだから、やはり非対称だ。だが、それはシュレーディンガー方程式やクライン-ゴルドン方程式が時間に対して対称であることと矛盾する。
そこで、量子力学を時間に対して対称化した「二状態ベクトル形式」または「時間対称化された量子力学」という新しい形式が提唱されているという。これについて森田は、『量子力学の哲学』の中で
従来の量子力学では、ある時刻tにおけるある物理量の確率は、それより過去の時刻における状態のみから決定される。ところが時間対称化された量子力学では、過去における状態のみでなく、未来の状態も用いて確率を求める。
と述べ、更に
この時間対称化された量子力学に多世界解釈を適用することで、状態の収縮、非局所相関、非実在性の問題は解けると考えられる。
と書いている。
さて、ここまでかけて量子論における「時間対称化された解釈」ついて述べてきたので、次に、それをどう治療に結びつけていくか、だが、それは最初に書いたように「コロンブスの卵」のようなもので、たった一文で書くことができてしまうので、それを最後に述べてこの文章を終える。それは──
因果律を逆転させ、未来から治療すればいい。
YouTubeにも氏の動画はありますが、驚愕。
そうですか。では、その動画を探してみます。
ところで、Nさんからも同じようなことを言われたので、誤解している人がいるのだろうと思い、追記します。
本文で「因果律を逆転させ、未来から治療すればいい。」と書いたのは、文字通りそのままの意味として読み取ってください。
現在の状態を元に未来の状態を予測するとか、時遡行の逆をやるということでは全くありません(そもそも、それでは因果律を逆転させていません)。
蛇足ながら、つけ加えさせていただきました。
いろいろな解釈や説明の仕方があるみたいですが、過去の結果は現在の評価によって決められていて、現在の結果も要因は未来にある。
つまり未来が過去を決定している、(その時はわかりやすい具体例がありましたが…) と目からうろこの概念でしたが、先生も同じことをおっしゃっていると感動した次第です(←私の解釈が勘違いでなければ)。
私もまた治療受けに行きたいなぁ。
>過去の結果は現在の評価によって決められていて、現在の結果も要因は未来にある。
面白いですね。そう考えれば、未来から過去へと流れる時間の因果律というものも、無理なく規定することができます。
ちなみにハイデガーの哲学では、時間とは一瞬刹那のそれであって、その刻一刻の存在こそが時間である、と見るようです。すると、もう因果律云々など無意味なものになってしまうのかもしれません。
結局、時間の姿は、それを捉える人それぞれのあり方を反映したものなので、正しいも間違っているもなく、ただ自分が今、リアルだと感じられる時間の姿が、自分にとって真実なのだと私は思うのです。
また機会があれば、治療を受けに来てください。